03創始者ディエル
「ユディくんが、タイジョウの創始者ディエル……?」
あまりの驚きで、言われたコトをそのまま繰り返す。
ユディくんは、静かに頷いた。
「そう。いや、正しく言うと、少しだけ違う。ディエルは、架空の人物なんだ。つまり、大陸情報倶楽部のトップは、常に存在しない。その方が、動きやすいと感じた。貴族がちょっかいをかけてくると予想されたからね、『創始者に意見を窺ってまいります』という返事で、ある程度の時間稼ぎができる、予防策だ。まあ幸いにも、今のところ好奇の目で見られているだけなんだけどね。それどころか、貴族も面白がってタイジョウに登録していたりするんだよ。ヒマをしていたんだろうね」
ユディくんは宣言通りに、本当に包み隠さず事情を説明してくれた。
ユディくんは二年ほど前、イザという時に権力と戦う力が必要だというコトを、痛感したらしい。
そうじゃないと守れないものがあると言っていた。
そのためなら、何だって利用する気で、この計画を始めたという。
彼には、貸しがある商人が三人、そして、樹上都市・水の都・希望の街・海峡大橋に強烈なコネがあった。
商人たちには、商売が順調に行った場合、三年後には組織ごと引き渡すという約束をして、協力をして貰ったとか。
特に、希望の街は新しくできつつあった街なので、『情報の館』という、大きな大きな施設を置くコトが簡単だったという。
希望の街には、絶望した人々が集う希望のキャラバンと、移住を希望する面々が集まっており、ユディくんはまず、その人たちに協力をお願いした。
希望のキャラバンには、人生に絶望した人が集まってるという話だったが、性質上、『その能力の高さゆえに他者から妬まれ、謀略を受けて人生に絶望した』という人が、なんと数名は居たらしい。
つまり、非常に能力の高い面々が集っていたコトになる。
彼らは今や、タイジョウの支店長として、各大陸でその腕を振るっているという。
ユディくんがまず始めたのは、希望の街に居る人たちだけで、商品になるような情報を持ち寄るコト。
元手はタダだが、まずは信ぴょう性が高い…というよりも、100%真実である情報を集めるコトに執心したらしい。
ユディくんは、楽しそうにこう言った。
「僕はギュギュと反対で、人間が好きなんだ。好きって、強いよ。いつまでだって眺めていられるし、ついつい真剣に観察をしてしまう。それなりに長い旅をしてきて、僕はいくつかのことに気がついた。人間には、知らないことを知っていくのに、快感を覚える人が多いって。もちろん、生活に困っていない人に限るけどね。だから、情報は商品になるという確信があった。そして、誰か、資金と責任を用意できる人間が一人、上に立って居れば、彼らは存分に実力を発揮してくれるってこともわかっていた。同時に、十人が、百人が集まると、彼らの人生の分、たくさんの情報が発生するというのにも気づいていた」
情報という商品がある程度集まり、タイジョウのシステムも、毎日顔を突き合わせて、あーでもないこーでもないと話し合い、わずか三ヵ月で、最初の店舗を出せたという。
ユディくんは、各地に置かれた騎士団というシステムに注目をした。
曰く、あれは中央のお偉いさんが、地方を支配するための監視の目として配置しているのではないかと、疑いを持つようになったという。
そのためユディくんは、顔が効く騎士団のある街にだけ、まずはタイジョウの支店を出し、上への報告は、ユディくんがOKを出すまで控えて貰うようにお願いしたらしい。
特に潤の大陸の騎士たちには、上への不信感が芽生えている時期だったため、店舗についても、領主の許可についても、ある程度の融通はして貰ったとか。
ただ、話し合いで誰もが太鼓判を押す、閃の大陸にだけは、根回し無しでいきなり支店を出しても大丈夫だというコトになった。
閃の大陸は、新しいものが大好きで、毎月と言っていいほど、新しい試みのある店が出てくるし、それをいちいち報告する人もいないだろうという話だった。
案の定、大人気だったという。
そして、支店を出してしまえば、あとは勝手に商品が増えていく。
なぜなら、情報を得るために、物々交換で情報を差し出すコトもできる、というシステムだったからだ。
商人たちは、特に社員教育に力を入れたらしい。
確かに、あたしも初めて利用してみた時、驚きのトーク力で、お試しのように情報を三個、無料で提供されて、それを面白いと感じたのを思い出した。
なにより、情報案内の係員の人自体が、情報を提供するコトを楽しんでいて、なんだかそれが新鮮だった。
あれも、希望の街から派遣された人だったりしたのかな?
滑り出しは順調だと、誰もが確信した。
最初は採算度外視で、あちこちに作っていた借金も、一年も経たずに返せるようになっていったという。
今や希望の街にある『情報の館』には、各地の街から毎日のように、朝昼夜の三回、書類の束が届いていた。
伝書を運ぶのは、通常は伝書鳥という小型の鳥なのだが、何でも最近、誓約の精霊ウィブネラの祝福で、中型の鳥類も使役できるという事実が判明し、袋鳥という運び鳥が、肩掛けカバンに書類の束を詰めて、大陸中をパタパタと飛び回っているとか。
袋鳥のことは、最近ペリカンと呼ぶ人が増えてきている。
各地から集まった情報は、毎日のようにきちんと情報の館の方で整理されていく。
被った情報には、○○人の人がこの情報を提供しました、と信ぴょう性を上げるための情報にされ、商品として発送されていく。
遊びのように、その日の天気を添えて。
「すごいんだよ、情報って生き物なんだね。一ヵ月経つと、もう別のフェイズに移行しているというか…とにかく、世界情勢は常に動いていて、飽きがこない。商品は増え続けるし、みんながやっているからって理由でタイジョウを始める人も居て、新規無料キャンペーンが終了しても、新規登録者が後を絶たない。ちなみに、好きな言葉やモットーを書類で聞いているのは、僕の趣味なんだ。その人の人生が知れて、面白いんだよ」
そう言って、ユディくんは悪戯っぽく笑った。
「あとは資金が溜まった頃に、一斉に残った大陸に支店を出して、騎士隊長に控えて貰っていた報告も、その時に提出してもらうことにした。…ふふふ! 例えば、下から上がってきた情報を止めているような、後ろ暗いことをしていた誰かさんは、さぞ驚いただろうなあ! 民間で情報を扱う組織が、いきなり邪魔もできない完璧な形で出来上がっていたんだからね。これ以後、騎士団の方で意図的に情報を操作しようとしても、下手をすれば民間と食い違いが出てきてしまう。今後は細心の注意を払って指示しなければならないだろうなあ…」
「…ユディくん、何か怒ってる?」
「まあね。怒ってるどころか、少し乱暴な言葉を使うと、『ムカついてる』かな。さっき言った、僕の旅仲間がね、リコリネって言うんだけど。もしキルゼム討伐の時に海峡大橋が封鎖されず、順当に騎士団の増援が来ていたら、負傷の結果も違っていたんじゃないかって、今でも思うんだ」
「封鎖!? なにそれ、仁の大陸だけ安全を確保しようとしたってコト? 汚いわ…。キルゼムって、あの一等級よね? アレ倒したのって、ユディくんたちだったのね…」
「やっぱり、別大陸には結果だけが届いている感じなんだね」
「まあ、フツーに考えて、そりゃそうよね。騎士団の株が爆下がりよ」
「騎士団自体に悪感情はないんだよ。僕もお世話になっているわけだし。気に入らないのは、上層部のなにがしだ。タイジョウを立ち上げる理由の一つに、その上層部に対しての牽制の意図もあったんだけどね。まさか、様子見で登録までしてくるとは思ってもみなかったよ」
「あら、いいじゃない、甘く見られてるってコトよ」
「まさにそうだ。新しい組織だからって、みんな情報を晒すことに無頓着すぎるんだよ。情報を探るのに気を取られて、探られているとは思いもしない。僕がその気になれば、その対象にだけ、偽の情報を渡すことだってできるのに。そのための、登録識別番号だしね。他にも、その対象が検索した単語が筒抜けになるから、簡単に行動を手の平の内に収められる」
ユディくんは、なんだか楽しそうに目を細めた。
「伝言板を使い、二年前の真実を、大々的に暴露したっていいなとも思う。それどころか、騎士大国を壊滅させることができるくらいに決定的なガセネタを流せば、あの国が滅びることすらあり得るだろうね」
「……ああ、なるほど。それで、真実ばかりを流布させるのに執心してたワケね。信頼の種を育ててたってコトね」
「そういうわけなんだ。よかったよ、三年でトップの座を引き渡す契約をしておいて。情報は力だ。このままいけば、天下を取ることにすら手を出せる。こんなことを考えるなんて、僕もれっきとした男の子だったわけだ」
ユディくんは、面白そうにくすくすと笑っている。
「でも、いいの? 逆に言えば、トップを譲った後に、それを悪用されるかもしれないじゃない」
「うーーん。それならそれでいいよ。今まで付き合ってきた彼らがそういうことを目論むなんて、よっぽどの事情があるとしか思えない。そのためにタイジョウを利用されるんだったら、それはこちらの狙い通りなんだ。もともと、力のない、弱い立場の人たちが、強い権力に立ち向かえるための手段として、一本の道筋を用意する意味で立ち上げたからね。窮地に陥った人が、なりふり構わずにタイジョウを利用しようとしたら、さりげなくその人の手助けをしてあげて欲しいっていう意思を、実はすべての従業員に伝えてあるんだ」
「はーー、欲が無いわね」
「いいや、欲はあるよ。平和になってほしいって欲がね。実は、検索する単語にレッドラインを設けているんだ。そのレッドラインに抵触する単語を一定数以上調べてきた利用者は、こっそりと騎士団に通報して、マークしてもらったりしている。間違いなく犯罪者予備軍だからね」
「…なるほどねー。ようやくタイジョウに対する不信感が失せたわ。明確な善意しかないって感じて怪しかったケド、やってるコトはほとんど世界征服ね。いっそ好感が持てるわ。ひょっとして、あたしが希望の街を見てきたのも、筒抜け?」
「うん、ギュギュがあそこの情報の館を利用した時点でね。どうだった、希望の街は」
「忌憚なく言わせてもらうと。何十年後かそこらで、希望の街にさして思い入れのない人たちによって『情報の街』って名前に変えられるわね。それくらい、特色がハッキリしてたわ」
「あははっ! ギュギュってやっぱり面白いな。まあ、そういうわけで、僕はこの二年間、ずっとデスクワークだったんだ。情報と人の流れを見るのが面白すぎて…」
「ご主人サマは昼夜を徹して紙束と向き合っていましたからね~~っ、リルちゃん、付き合っていられませんでした~~」
妖精ちゃんがヒマそうにつけたす。
「普通だよ、普通。料理好きな人が、ずっと料理のことを考えているのと一緒だ。それに、リコリネの治療の役に立ちそうな情報を探していたっていうのもあるしね。残念ながら、そこはうまく行かなかったけど。リルハープだって、懐かしい名前が登録者の中に居て、嬉しそうだったじゃないか」
「そ、それは~~……でも、ライサスがこういうものに飛びつくのはわかりきっていましたから~~!」
「まったく、素直じゃないんだから…」
ユディくんはそう言いながらも、温かな視線を妖精ちゃんに向けている。
この二人も、絵になるなあ。
いや、あばたもえくぼっていうし、あたしひょっとして、ユディくんがヨルムンガゼルの糞と話していても、絵になるって思ったりするのかしら?
ヤだなー、そこまで行くと流石に終わってると思うわ。
そんな馬鹿なコトを考えていると、ユディくんは話を戻すようにこちらを見てくる。
「それで、もうじきリコリネと合流ができる時期だと考えると、肩慣らしにフィールドワークをしておきたい。これも、ギュギュの依頼を受けた理由の一つなんだ」
「肩慣らしが巨獣の島って、イカレてるわよ!」
「人となりは、伝わっただろう?」
ユディくんは、また悪戯っぽく笑った。
「…そうね。パートナーとしては、最高よ」
あたしは脱力するように、ソファに凭れた。
ユディくんは、まだ何かを企んでいる顔をしている。
「それで、ギュギュ。タイジョウは、君を全面的にサポートしようと思う。お互いの利害が完全に一致しているからね」
「…というと?」
「つまり、巨獣の島の攻略者である君を、当面の間の目玉商品にしたい。そのためには、生物の体の一部を採取する以外に、もうひとつ、君の名を轟かせるためにやっておかなければならないことがある」
あたしは視線で先を促した。
ユディ君は、妖艶に微笑む。
「巨獣の島の、地図を作る。そしてその地図に、君の名を冠することを約束しよう。星三つの情報として、今後も世界中にとどろくだろうね。様々な探検家や冒険家、研究者が、その地図を頼りに、君の後を続くだろう」
沈黙が流れた。
ユディくんは、こちらの反応をじっとうかがっている。
妖精ちゃんは、ヒマそうに足をぷらぷらさせている。
あたしは、ニっと笑う。
「乗った」
「よし、商談成立だ」
こうしてあたしたちは、少しの間、お互いに頼れるパートナーとなった。
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「ねえユディくん、リコリネさんって、どんな人なの?」
次の日。
船で島に渡る途中で、あたしはついに、聞こうかどうしようかと悩んでたコトを聞く。
ユディくんが、傷つけられたコトに本気で怒り狂うくらい大事にしてる人だ。
本当は聞きたくなかった。
でも、もやもやするので、結局聞いてしまった。
きっと、可愛い人だという返事が返ってくるに決まってるのに。
「リコリネは、すごく可愛い女の子だよ」
案の定、ユディくんは、思いを馳せるように翡翠色の海原を見ながら、そう語る。
聞くんじゃなかった…と、胸がチクリと痛んだ。
ユディくんは、そんなあたしに気づかずに、嬉しそうに言葉を続ける。
「海賊船を一撃のもとに屠ったり、いつも全身鎧を着て、大きなマサカリを元気に振り回していたなあ」
「あたし今すごく可愛い女の子の話を聞いてるのよね!!?」
「あれ…。確かに、ここだけ聞くとちょっとヤンチャな印象になるのか」
「軽やかにヤンチャを越えて行ったケドね!? えっと…。じゃあ、美人系? キュート系?」
「ええと、ごめん、実は素顔を見たことが無いんだ」
「ずっと一緒に旅してたのよね!!?」
全然驚愕する部分じゃない所で、驚きの連続だ。
ダメだ、ユディくん、規格外すぎる。
「ご主人サマの周辺は、変な人が多いのです~~っ。もちろん、ギュギュを含めてですが~~。もはや、まともなのはリルちゃんだけな気がしています~~…」
妖精ちゃんが、ユディくんの肩に乗ったまま、遠い目をしている。
「ええっ、妖精ちゃん、あたしのどこが変だっていうのよ。割とまともな部類だと自負があるわよ」
「ギュギュは変だと思うよ、僕も。ほら、昨日報酬の話をしたとき……」
ユディくんは、なぜか言いにくそうにしている。
あたしはハテナを浮かべながら、昨日のコトを思い出す。
なんでも、地図が完成した暁には、ユディくんの方からも報酬を出せるとかいう話で、何か希望はないかと聞かれたのよね。
「ホント!? なにをお願いしてもいいの!?」
「もちろんだよ。それくらいの危険が待っている可能性が高いからね」
ユディ君が快諾したので、あたしはわくわくと胸を弾ませた。
うわーー。
これ、ヘソ毛チャンスじゃない!?
もうもう、どーしてもユディくんにヘソ毛があるかどうかが気になって仕方がないのよ!
でも、「おへそ見せて」なんて、流石にはしたないかしら?
ここから一緒に行動するワケだし、引かれたくはないのよね。
もちろん、へそ毛が無いとは思ってるのよ!
だって王子だし!
けど、やっぱり確認したい!
恋って、こんなにも気持ちに制御が効かなくなるのね。
きっと恋する女の子は、みんな相手のへそを気にしてる。
そんな確信がある。
うーーん。
でも、やっぱり言えないよね…。
あたし、良識がある方だし。
そうだ、じゃあ、首裏毛はどうかしら!?
これなら全然不自然じゃないし、絶対引かれないし、我ながらナイスアイデアだわ!
あたしはパっと顔を輝かせた。
「じゃあ、うなじを見せて!」
「なんで!!!?」
なぜか戸惑われた。
変な話よね。
「あれは、まさか金銭の話をしてるとは思ってなかったのよ!」
あたしは慌てて主張した。
ユディくんは、変な顔をする。
「普通あれで金銭を思い浮かべないなんてことはないと思うけど…!? 『依頼達成おめでとう、ほら、うなじだよ!』って絶対変だよ」
「そうかしら…?」
おへそよりは自然だと思うんだケドなー…。
「まったくです~~っ、どんな展開になるかと期待したリルちゃんの気持ちを返してほしいです~~!」
妖精ちゃんは、なぜかぷんぷんと怒っている。
結局、今回、あたしから払う予定だったユディくんの護衛代をチャラにして貰うコトで、決着がついた。
お金に困ってないって話だったけど、なんだか大金をせびる気にもなれないのよね。
だって、タイジョウは年中無休だったから。
つまり従業員は、日々の交代が容易なくらいの、かなりの数を確保してるってコトだ。
そこで発生する数々の人件費・建物の維持費・備品代・領主への税金はいかほどだろうか。
袋鳥だって数十羽いるだろうし、その飼育代・世話代・小屋代となると…。
…というコトを、庶民のあたしはついつい考えてしまう。
そのため、どーしてもユディくんが大金持ちに見えないのよね。
欲が無さそうだし。
どうせ自分の給料よりも、従業員を好待遇してるに違いない。
いや、会ったばかりなのに知った風な印象を抱くのもどうかと思うケド!
ダメだなー、ついついユディくんのコトばっかり考えちゃう。
あたしは急いで別の話題を探した。
「それにしても、直接巨獣の島に渡れるとは思ってもみなかったわ。あたしが確保しようとした船だと、近くの小島に降ろされる感じだったのに」
「うん、兄さんが気を利かせて、騎士団の所有船を貸してくれたからね。あの人、二年前のことで、よっぽど僕に負い目があるんだろうなあ…。タイジョウのときも、必要以上に手を回してくれたりしていたよ。きっと、僕にバレてないと思っているんだろうけど」
「…くふふ! ユディくんってテリオさんの行動に関してだけは、素直に好意を受け取らないのね。裏があってほしいの?」
「……うるさいなあ。そこはつつかないでよ…。とりあえず、迎えの船は三週間後に来てもらう予定にしたけど、本当に一週間後じゃなくて大丈夫? 今ならまだ変更が効くよ?」
「もちろん。一か月後でもいいって気持ちでいるくらいよ! なんてったって、ユディくんがいるしね!」
「こら。あんまり過剰な期待はしない!」
「やーね、そこは『僕に任せておいて』ぐらい言わないと、不安になるじゃない?」
「よく言うよ、ぴくりとも震えてないクセに」
緊張感のない顔で、お互いに笑い合う。
妖精ちゃんは、何やら含みのある顔で、温かくあたしたちのやり取りを見守っている。
やっぱり、バレてるんだろうなあ、あたしの気持ち。
気恥ずかしすぎて、あたしは必死に、そんな妖精ちゃんに気づいてないフリをする。
「でもね、別にあたし、図太いわけじゃないのよ。ただ、今回は本当に、うまく行く予感がしてるの。ユディくんとならどこにだって行けて、気持ちが無敵になる。そんな感じ」
「あははっ! 頼もしいな。ギュギュって、思っていることを結構口にするんだね?」
「リコリネさんは違ったの?」
「うん、大体黙っていて、ある日突然爆発させる感じだった」
「あら。あたし、ガンガン喋っても、爆発させる時はさせるわよ?」
「うわあ、怖いな。巨獣と一緒に居る方がマシだ、なんて結論にさせないでおくれよ?」
「くふふ! 優しくしてくれたら、ちゃーんと優しさを返すわよ」
「おかしいな、そうやって念を押されない程度には、優しくしていたつもりなんだけど?」
「そーゆーコトにしといてあげる。さ、いい具合にあったまって来たわね。…あれかしら?」
「そうだね。タイミングとしては、バッチリかもしれない」
波間にポツポツと散在する小島の隣を過ぎ、かなり大きな陸地が見えてきた。
ここからだと、ほとんど大陸と言っていいほど大きく見える。
この船が小型船だからそう感じるのだろうか。
いや、巨獣の島というからには、実際に大陸級の広さなのかもしれない。
誰もが避けてきた、謎多き島。
土地によっては、聖地と崇める人もいるという。
しかし、人の手が入っていないというコトは、立ち入り禁止という決まりを作る者も居ないというコトだ。
あえてそんな決まりを作らずとも、誰も近寄らないという理由が一番大きい。
そこに今、あたしたちがメスを入れる。
ユディくんと、妖精ちゃんと、あたし。
たった三人で。
「わくわくって、通り越したらゾクゾクするのね」
あたしの独り言に、ユディくんは無言で頷いた。




