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モノガリのユディ  作者: ササユリ ナツナ
第二章 ふたりめ
48/137

01調達屋のギュギュ

 あたしの名前はギュットギュッテ。

 通称、調達屋のギュギュよ。


 腕はいいと自負しているわ。

 順調な仕事ぶりがそれを物語っているもの。

 依頼人の感謝の言葉が、その証明ね。

 もうちょっと有名になったら、値段だって吊り上げるつもり。


 そう、今は貴重な下積み時代ってワケ。

 もうちょっと苦痛なものかと覚悟していたケド、体の中の力を全力で使えるこの生活は、正直楽しい。

 あたしが女だからって舐め腐ってくる情報屋のセクハラ発言だけが悩みの種ね。

 まあ、いいのよ、今だけだもの。

 それに、そういうアレコレも広い心で許すっていうのが、いい女の条件だと思うしね!


 人生ってものは、演劇のようなものだと、常々思う。

 どんなことでもへっちゃらだ、という姿勢で過ごしていれば、本当にそうなるし、そうあるような努力を、脳内で勝手にしてくれる。

 人によっては時々疲れて息切れしてしまうのかもしれないケド、あたしはこういう生き方が、たまたま性に合っていたらしい。

 だからこそ、あたしはサイドテールの美少女で、どんなことだって難なくこなす才媛で居られる。


 まあ、とにかく!

 いま肝に銘じなければならないのは、今回の依頼内容が、普段と違って特別なものだってコト。

 依頼主は、叡智の街の研究者だ。


 『巨獣の島に渡り、なんでもいいから生物の体の一部を調達して来ること』


 誰が聞いても、難易度は高い。

 だけど、やってみせるわ。

 逆に、これくらいこなせないと、夢だって叶えられない。

 あたしはその依頼を、二つ返事で引き受けた。


 もちろん、これを一人でやろうってほど猪突猛進じゃない。

 入念な下調べと、商人のツテを使って、信頼のおける護衛を雇った。

 大事な前金が削れていくのはチョット辛かったけど、これが成功したら調達屋としてのハクがつくと思えば、安いものだ。


 護衛との待ち合わせは、今日。

 新しくできた、希望の街という興味深い場所の観光を終え、余裕を持って出立をした。

 海峡大橋のある宿場町は、もちろん徒歩じゃ間に合わない距離にある。

 だけど、あたしには頼れる相棒が居る。


 騎乗鳥のペチュだ。

 フルネームは、ペチュニア。

 この子が居れば、どんな長旅だって怖くない。

 ……はずだった。


「ウソでしょおおおおおっ!!!?」


 手綱を握り、全力でペチュを走らせながら、愚痴とも抗議ともとれるような悲鳴を上げる。

 抗議の相手は、もちろん止まってはくれない。

 あたしたちを全力で追いかけてきているのは、通称でオオヤシガニと呼ばれる生き物なのだが、これはちょっと、異常成育過ぎない!?

 いや、巨獣に比べれば小さいのかもしれないケド…!

 それでも、大人の男の人より、ひとまわりは大きい生物が、腹のあたりの柔毛をも駆使することで万全の安定感をもって、シャカシャカと忙しない動きで追いかけてくる。

 ドドドと地面を叩きながら着実にこちらを追いかけてくるその雑食の生き物を見て、悲鳴を上げない人なんているのだろうか?


 海辺が近い森的な場所で一休みとしゃれこんでいた最中だったので、余計に精神的なショックが大きい。

 前もって「今から襲うね!」って感じで来てくれればいいのに!

 そしたら心の準備ができたのに!

 とにかく余裕のない状態なので、逃げる以外の選択肢が思いつかない!


 ペチュの健脚なら大丈夫と思いながらも、何度も何度も後ろを振り返る。

 振り切れるかと思えばスピードを上げてきて、なかなか引き離せない。

 逃げる時の、あの背中がざわざわする感じに耐えながらも、頭の中では何か攻略法が無いかと、必死で図鑑を読んだ記憶を探る。


 確か、学名はウルナートヤシガニ。

 賢者ウルナートって人が、晩年、うるうの大陸の生態調査を主なライフワークにしていたため、潤の大陸には彼の名を冠する生物が多く存在しているとか。

 子供のうちはヤシを喰い、大人になるにつれ、動物を好んで食べるようになる…だったっけ。

 獲物を動けなくしてから捕食する習性があるから、最初に狙ってくるのは、確か足だ。

 生きたまま頭蓋をそのハサミの横面で叩き割り、頭から脳・脊髄をすすり上げる。

 人が蟹みそを食べることに対する皮肉なのだと言う者もいるほど、多くの人間が被害にあっている……。


 って、絶望しかない情報じゃない!!?

 あそこまで大きくなったってコトは、結構順調に人を食ってるってコトだし!?



 いや、大丈夫だ、はるか向こうに海峡大橋を有する宿場町が見えてきた。

 あそこまでいけば、なんとか……


「って、ダメに決まってるじゃない!? こんなの街に連れてけないって!」


 華麗に手綱を操って、咄嗟にカーブを描いて方向転換する。

 泣く泣く東に逸れた軌道を行きながら、待ち合わせ時間に遅れちゃうな……と、諦めに近い感情をいだいた。




 ああ、どうしよう…。

 いっそ一か八かで、攻撃しちゃう!?

 でも、あたしの精霊の祝福の使い方って、両手を使うんだよね。

 手綱を持った状態じゃ無理だ…!


 となると、もう相手の体力が切れるまで逃げ続けるしかないのかな。

 必死で走るペチュを見る。

 すごくすごく、頑張ってる。

 これ以上スピードを上げてなんて、絶対言えない。


「―――え?」


 もう一度振り向こうとしたとき、気が付けばあたしは、宙を浮かんでいた。

 なにがなんだかわからず、理解が追い付かないままに、ザザーっと地面を滑るように体が放り出される。


「い、痛…!!」


 今、土まみれになっている、ということはわかる。

 なぜだろう、と顔を上げた時、ペチュが足を怪我して倒れ込んでいるのが目に入った。


「! ペチュ!」


 がばっと跳ね起きる。

 わかった。

 ギリギリで追いつかれたペチュが、足を攻撃されて倒れたんだ。

 それで、あたしが放り出された。


 ペチュの背後を見てみると、オオヤシガニも体勢を崩して倒れ込んでいる。

 どうやら、無理やり一撃を入れた反動を受けているらしい。


「や、やだ、ペチュ…!」


 必死に騎乗鳥に駆け寄って、体を掴んで引きずる。

 少しでも、オオヤシガニから引き離したかった。


「ん…っ!!」


 しかし、思ったよりもずっとペチュは重たくて、なかなかうまく行かない。

 ペチュは申し訳なさそうに「キュウ…」と鳴いて、つぶらな瞳でこちらを見てくる。


「絶対、置いて逃げたりしないんだから…!」


 自分に言い聞かせるような言葉を吐きながら、しかし視界の端に動くものを認める。

 オオヤシガニが、体勢を立て直したのだ。


 あたしは咄嗟に腰元に下げた、石ころ大の四角い木を取り出した。

 ララ木材を削って作られた、あたし専用の楽器だ。

 もう片手で、指揮棒を取り出す。


   コン・コ・コ・コン!


 指揮棒でララ木材を、リズミカルに叩いた。

 周囲に、音の精霊の祝福の色である、緑の燐光が漂う。

 すぐに指揮棒の先を、オオヤシガニが居る草地へと突き付けた。


「―――木々育つ、木琴の音!」


   しゅる、しゅるるるるっ!


 オオヤシガニの足元から、瞬く間に瑠璃色の植物が息吹き、オオヤシガニを巻き付けるように絡めとる。


 これで少しは時間が稼げるハズよ!


 オオヤシガニが早速モソモソとやっているうちに、今度は別の楽器を、入れ替えるように取り出した。

 同じように指揮棒で打つと、今度は違う音がする。


   チリン、リン、リンリンリン!


「風走る、ウインドチャイムの音!」


 指揮棒をペチュに向けると、ふわりと優しい風が、騎乗鳥を包み込む。

 ペチュは少し体が軽くなったかのように、自力で立ち上がった。


 あたしは即座にペチュの手綱を握り、今度は乗らずに一緒に走り出す。


「ペチュ、頑張って!」


 走り出してはみたものの。

 これは、頑張って、どうにかなるのかしら。

 オオヤシガニ自身がこちらを諦めてくれないと、手負いのペチュを連れている以上、正直打つ手がない。

 かといって、街を避けてしまったため、援軍は望めない。


 ジリ貧という単語が浮かぶ。

 すぐに頭を振って、それを振り払った。


 あたしは、諦めが悪いのよ!


 そう思い込んで、精神状態をそちらへシフトする。


 やるだけのことはやってるんだから、絶対に何とかなるハズ!


 確認のために振り向いて、一瞬で現実を思い知った。


 そっかそっか。

 ヤシガニ、鳴き声なんて発さないわよね。

 もう無音で全てをこなしてるわよね。

 そりゃそうだ。


 巻きついていた植物は、とっくの昔に引きちぎられていて、結構走って距離を取ったなという感想は、油断にしか過ぎなかった。


 振り向けば、思ったよりも近くにヤシガニが居た。

 ハサミを振り上げて、一気に飛び掛かってきている。


「―――ペチュ!」


 騎乗鳥を庇うように覆いかぶさって押し倒し、ぎゅっと目をつむる。


「<その時、草原を渡る風たちが、互いの隙間を埋めるように逆巻いた。それは丁寧に削り上げられた水晶にも似た輝きを得ると同時に、ハサミを振り上げた生物へ向け、鋭利な斬撃となって飛んで行く>」


   ズバンッ!!!


 ……んん!?

 いきなり知らない人の凛々しい声が響いて、しかも本を読んでいるような語りを始めた。

 そのすぐ後に、斬撃音が続いたような気がする。


 あまりにも意味がわからなかったので、つい目を開けた。


 目の前に、噴水がある。

 体液の噴水が。

 オオヤシガニだったものは、甲殻の中身を空に散らして、ドシャッと崩れ落ちていた。


「………え???」


「よかった、間に合った!」


 急いでこちらに駆け付けてくるのは、なぜか本を持った青年だ。


「え!!?」


 つい、二度目の驚愕をしてしまう。


 青年が駆けるに合わせ、陽に透けるような、薄茶色のサラサラ髪が肩口を滑っている。

 翡翠色の空の下で、息せき切らしてこちらに来るその人は、まるで絵本に出てくる王子様のような、爽やかな人だった。


 あたしは、ぽかんとしながら、その人を見上げる。


「大丈夫でしたか? 調達屋のギュギュさん…ですよね?」


 そう言って、その王子様は、こちらをいたわるように微笑んだ。


 えええええっ。

 うわーー、うわーー。

 びっくりした。

 何にびっくりしたって、自分の反応にびっくりしている。


 あたし、ずっと、男らしい人が好みなんだと思ってた。

 一回だけ、告白されて付き合ってみたことがある人も、力強くて男らしい人だった。

 でも、初めてのデートで海水浴にしゃれ込んだ時の衝撃と言ったらなかった。


 別に、相手の胸毛が凄かったとかいうわけではない。

 たぶん、男の人としては、普通くらいの毛の濃さだと思う。

 つまり、男の人には、ヘソ毛があるということだ。

 おへその、下の方に、もじゃもじゃーっと。

 あと、首の裏。

 首の裏に、ちょっと、なんていうのかな、…ああ、将来この人は固太りするのかなーっていう感じの毛が。


 自分でもわかってる、夢見過ぎてた。

 そんなことにショックを受けるとか、ちょっと初心者過ぎるだろうと思いつつも、ショックだった。

 すね毛は許せるし、むしろ好きよ。

 すね毛でアリンコとか作って、ひき千切って遊びたいくらい。

 でも、ヘソ毛はなんだか…ダメだった。

 あたしにはまだ早かった。

 デート一回でお断りするくらいダメだった。

 まあ、初デートで水着デートを要求してくる男なんて、今考えたらロクなもんじゃなかっただろうから、罪悪感はゼロだ。

 あれから何年も経つが、いまだに微妙なトラウマとして引きずっている。


 でも今、目の前にいるこの王子様を見て、ほっぺたがカーっと熱くなっていくのがわかる。

 心臓がどきどきする。

 あたし、初恋ってきっとまだだったんだわ。

 初恋ってこんな感じなんだという確信が来る。


 だってこの人には、ヘソ毛が無さそう!!

 NOヘソ毛、NO首裏毛王子!!


 そんな感動に浸っていて、返事をすることをすっかり失念していた。

 その人は、心配そうに身をかがめて、こちらを覗き込む。


「放心するくらい怖かったのかな…。遅くなってしまいましたが、もう大丈夫ですよ。門のところで迎えようと思って待機していたんです。もうおわかりでしょうが、僕が護衛のユディです」


 そう言って、また優しげな顔で微笑んだ。

 どこか浮世離れした感じの、中性的な顔立ちの人だ。

 落ち着いた感じの人だなあ、あたしよりは背が高いから、もうオールオッケーだ。


 って、ダメダメ、早く返事しないと…!


「えっと…! ユディくんね。あたしはギュギュ。助かったわ、ありがとう。でも、あたしの護衛をやる気なら、敬語はナシにしてね? 仕事のパートナーとは、対等な関係で居たいのよ」


 あああああっ!!

 つい、いつもみたいに!!

 ど、どうしよう、嫌な女って思われたかな!?


 でも、いつもの癖で、内心の焦りはおくびにも出さない。

 そろりとユディくんの反応を窺うと、一瞬きょとんとしたような顔をして、すぐに面白そうに、ふっと笑った。


「―――わかった。じゃあ、ギュギュ。怪我は?」


「あ…! あたしは大丈夫なんだけど、ペチュが…! ああこの子、ペチュっていうの!」


 ユディくんは、すぐに真剣な顔をペチュに向けて、眉をひそめた。


「足を…。痛そうだ、少し待ってて」


 そう言ってユディくんは、手にした本を持ち直し、もう片方の手をペチュの足に翳した。


「<乾かないインクが無いように。醒めない夢が無いように。ペチュが負った怪我は、まるで飴玉のように甘やかに、熱くうるんで溶け消える。発熱に似た痛みがかき消える、それは確かな現実だ>」


 ふわりと、ユディ君の周囲を、緑の燐光が漂った。

 その光が集い、ペチュの傷が癒えていく。


「! ユディくん、ひょっとして、音の精霊の祝福を受けてるの? あたしもなの!」


 思わず声を弾ませてしまう。

 おそろいって、もう運命じゃない!?


 ユディくんは、ちょっと驚いたようにこちらを見てくる。


「すごい偶然だ、音の祝福持ちとは初めて会ったよ。案外、嬉しいものだね、同志に会えたみたいで。よく珍しいって言われないかい?」


「そう! そうなのよね、しかも一発で辺境出身ってバレる感じで。でも、ユディくんみたいな音の使い方は初めて見るわ」


「ああ、これは…先生に精霊道具の本を貰ってから、こういう使い方をしているんだ。たぶん、増進の精霊の力が込められた本だと思うんだけど」


「えっ、すごいじゃない、精霊道具って高いのに!」


「そうなんだ? 前に、色の精霊の力が込められた羽根ペンとかも見たことがあるし、最近では結構精霊道具が流通しているから、てっきり一般的なのかと思っていたよ…」


「そんじょそこらの武器よりもよっぽど高価よ? その先生には、大事に想われているのね」


 ユディくんはきょとんとした後、何か特別な感情を持って、精霊道具の本の表紙を撫でている。

 なんていうか…素直な反応をする人だな、と思った。


「ダメダメ、ユディくん、そんなにわかりやすくちゃ、それが大事なものだって、すぐに泥棒にバレちゃうわよ?」


 つい苦言めいたことを言ってしまう。

 くそー、大人しくて可愛い女の子のほうが好感を持たれるって、わかってるのに…。

 舐められないように生意気な感じを貫いてきた弊害が、ここにきてガンガン出てきている。

 やっぱり性格ってなかなかすぐに変えられないよね…。


 誤魔化すように、慌てて別の言葉を被せた。


「でも、ペチュのコト治してくれてありがとう! ごめんね、すぐに巨獣の島に出立したかったんだケド…」


 言いづらそうにしていると、ユディくんは当然のように首を振る。


「何言ってるんだ、女の子を土まみれで歩き回らせないよ。君が嫌じゃなければ、僕がお世話になっている人の家で、一晩ゆっくりと休息をとって行かないかい? 出立は明日にしよう。色々と、お互いに話し合うことだってあるだろうし」


 や、優しいいい…!

 あたしはすぐに頷いた。


「助かるわ、渡りに船よ! ペチュ、立てる?」


 ペチュの羽毛を撫でてやると、クルルと喉の奥を鳴らして、ゆっくりと立ち上がった。

 ユディくんはその様子を見て安堵の息をつきながら、これまた当然のように、続いて立ち上がろうとしたあたしに手を差し伸べる。

 あたしはビックリしてしまいながら、「ありがと…」と小声で告げて、引っ張り上げて貰う。

 なんとか、顔が赤くならないように我慢した。

 ユディくんは、ちょっと笑ってから、ペチュの方を見る。


「よかった、なんともなさそうだ。ギュギュ、ペチュのことなんだけど、ひょっとして巨獣の島に連れて行くつもりだった?」


「ん。小回りが利くから、そのつもりだったんだケド…やめたほうがよさそうね」


「そう…だね。大事な子なら、なおさらそうした方がいい。引き離すようで申し訳ないけど、うちは厩舎もあるんだ、預けて行こう」


 引き離す、と言ったところで、ユディくんはとても辛そうな顔をする。

 優しいっていう理由だけで、普通そんな表情はしない。

 きっと、何か辛い思い出でもあるのだろう。


「…わかった、こうなったらとことんお世話になることにするわ! 後悔しても遅いんだからね?」


 指を一本立てて、ウインクする。

 ユディくんは、やっぱり最初にきょとんとした顔をして、すぐに面白そうにする。


「…調達屋って、どんな人かなと思っていたんだけど。上手くやっていけそうな気がするよ」


「くふふ! 光栄よ」


 そう言って、図太く笑ってみせた。



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 海峡大橋のある宿場町は、橋に併設された街…という一言でくくれないくらい、大きい。

 そして、ユディくんに案内された家も、思ったより大きかった。


「はえー、そこそこ大きな家ね。これなら、あたしがあと5人居ても、遠慮なくお世話になれるわ」


「あははっ! ギュギュってちょっと、発想が独特だよね。話していて面白いな」


「そう? 人と会話するだけでお金が溜まる人生だったら、今頃大金持ちだったわね!」


 そんな会話をしながら、いの一番に、ペチュを厩舎に入れさせてもらう。

 ユディくんは、「あとでご飯を持って来るからね」と言って、ペチュの背中を優しく撫でている。

 ペチュは頭がいいので、ユディくんのことを恩人だとわかっていて、クルルと甘えた泣き声を上げながら、愛情を示すように擦り寄っている。

 ユディくんは、くすぐったそうにしながらも、ちょっと嬉しそうだ。


 はーー、絵になるわ……。

 さすがあたしの王子様。

 もちろんペチュも美鳥で可愛いからこそ絵になる。

 ああ、ずっと眺めていたい…。


 すぐにユディくんは、真剣な顔でこちらを見てきた。


「ギュギュ。一応、前もって話しておく方が混乱が少ないだろうから、言っておくよ。この家は、海峡大橋の騎士団をまとめあげる、隊長の人の家なんだ。僕は諸事情あって、そこの世話になっている」


「なるほどねー、納得したわ。庶民の家だって聞くよりは、驚きは少ないわね」


 そういうこともあるだろうと、普通に返すと、ユディくんはちょっとびっくりした顔をした後、いつものように微笑んだ。


「君がそういう人で良かった。もっと詮索されるかと覚悟していたよ」


「ジョーダンでしょ、事情なんて人それぞれだし、そんなはしたない真似なんてしないわよ」


「そういうものなのか…。それでその隊長は貴族の三男の人らしくって、かなり変わってるというか、話しててズレる感じがあると思うから、覚悟をしておいてほしい」


「貴族は流石に驚いたわね! でも、ズレがあるのは納得よ、貴族ってそーゆーものだし」


「あははっ、ギュギュは頼もしいな。で、今は執事のジイヤさんが家に居ると思うから、そのつもりで居て欲しい」


「ジイヤ! そんな単語、生涯口にすることはないと思ってたわ」


「僕も。この家だって、貴族にとっては狭いらしいよ」


「あーゆー人種は、無駄な部屋がたくさんあるのが家だって思ってるのよ」


「言い得て妙だね」


 お互いに笑い合う。


 そうして二人で玄関の方まで移動して、ユディくんは肩掛けカバンから鍵を取り出す。

 その時、背後から声がかかった。


「ユディ!」


「…あれ、兄さん、仕事は…?」


 振り返ったユディくんは、不思議そうに声をかけた男の人を見ている。


 …んんん!?


 その人は騎士装束に、隊長マークの勲章を胸に着けているから、この人が例の人だ、というのはわかった。

 でも、兄さんというのはどういうコト?

 そんな説明はなかったハズだ。


 あたしの頭の中は、ハテナマークでいっぱいになった。

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