46誰かのおかげと、誰かのせい
しばらくして、何事もなかったかのようにウェイスノーが戻ってくる。
ぐしゃぐしゃに泣いたユディの目元を見ても、何の追及もしてこなかった。
「…リコリネのネーサンだが。リルハープちゃんと同じように、まだ懇々と眠りについてる感じだな。今は、あれから丸一日経ってる」
ユディが聞く前に、ウェイスノーは当たり前のように説明を始める。
「幸いというかなんというか、目立った被害者は、この海峡大橋の隊長と数名の騎士だけだ。んで、どうやらユディのニーサンの知り合いの商人って人が、キルゼムの思考能力の無さに気づいたらしくってさ。彼が泊まってた宿屋から、周辺の家々に食料を配り歩いて日々を凌いでたとか。絶対にニーサンとネーサンの助けが来るって確信してたらしいぜ」
ユディは、知らないうちにそんなに頼られていたことに驚いていた。
ウェイスノーは言葉を続ける。
「リコリネのネーサンたちは、完全に恩人扱いだからな。有志を募らずとも、なんかすげー感動したとかで、踊り子のネーサンが甲斐甲斐しく世話をしてくれてる感じだ。で、鎧ももう、完全に劣化してたらしくって、脱がせたらヒビが入っちまったよ。しっかしリコリネのネーサン、あんなに美人だったとはなー。もっとムキムキのゴリラを想像してた部分もあったから、余計驚いたっつーかなんつーか。ああ、見た目は傷一つなかったから安心してくれよ。ニーサンのおかげだな!」
「…え!? ウェイスノーさん、リコリネの素顔を見たんですか!?」
ユディは声を裏返して、思わず身を乗り出した。
ウェイスノーは、その驚きように驚いた…という感じで身を引く。
「な、なんだよ、その反応は。まさか、一緒に旅してて一度も顔を見たことがねーってワケでもないよな?」
「………」
「うそだろ!!? 同じパーティーだろ!!? どうやったらそんなことになるんだよ!!?」
「僕はウェイスノーさんみたいにズルをしてないだけですー。ちゃんと本人の確認を取りますからね!」
ユディは不貞腐れたようにそっぽを向いた。
ウェイスノーは、何かを耐えるように頭を押さえる。
「ズルって…。いやまあ、あんたらが変わった人達だってのは、身に染みてわかっていたハズだが、いやー、こりゃ驚いた。ま、まあいいや、何の話だったか……。って、そうだ、ニーサンの方は体調は大丈夫なのか? 悪い、一番に聞くべきだったのに!」
「あ……はい。今は大丈夫みたいです。ウェイスノーさんのおかげですね。本当にありがとうございました、ウェイスノーさんが居なかったら、リコリネを治すこともできなかった…」
「いや、マジで役に立ててよかったよ。本当に……。一安心だな、とりあえず……。……。ニーサン、しばらく俺がニーサンの傍につくからさ、欲しいもんとかあれば気軽に言ってくれよな。しばらくは安静にしててくれ。ニーサンが起きたら面会を求めてるのは、ここの副隊長と、さっき言った商人だな。明日か明後日ぐらいには会えそうか?」
「あ、はい。どのみち、リコリネたちが起きるまでは、何もすることがありませんから」
「そう……だよな。じゃあ、ちょっと待っててくれ、軽い食事を持って来るから」
そう言って席を立つウェイスノーは、意図的にジャンティオールの話題を避けていたようだった。
ウェイスノーにとっては、可愛い後輩だっただろう。
彼にとっても、まだ整理がつかないのかもしれない。
ユディは枕に凭れると、ぼんやりと天井を見上げる。
どうしてこんなことになってしまったのだろうか、と、油断をすると詮無いことを考えてしまう。
ユディアール…。
あの夢には、どういう意味があったのだろうか。
いや、夢に意味を求めるのはナンセンスだろうか。
まだ、頭の中がぐるぐるするようだった。
その日は一日、ウェイスノーとぽつぽつ話をしながら、安静に過ごすことに専心した。
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次の日。
早速商人が面会に来て、ユディはベッドの上でそれに応じる。
なんでも、出立の直前に街に閉じ込められてしまったという流れだったらしい。
お互いに礼を言い合い、商人は、この街と太いパイプができたと、タフな笑顔で笑っていた。
希望の街の面々を待たせるのは心苦しいということで、「リコリネさんによろしくお願いします」と言って、商人は海峡大橋を去って行った。
午後には、ウェイスノーの立会いのもと、副隊長が会いに来る。
ユディは念のため、まだベッドの上だ。
「この度は、騎士団の尻ぬぐいのようなことをさせてしまい、本当にすまなかった」
副隊長の印象は、物腰の優雅な人、という感じだ。
頭の下げ方まで、角度を研究しているのではないかと思ってしまうくらい、気品を感じる。
同じ騎士服でも、ウェイスノーがラフな着方をしているので、余計にピシっとしているように見える。
ユディは、慌てて手を振った。
「いえ、そんな、騎士団だからってそこまで責任を負わなくても…!」
「…いや。名乗りから先にするべきだろうな。我が名はテリオターク。テリオでいい。知っての通り、騎士団にはある程度の権限を与えられている。しかし、その権限に見合った働きができないのであれば、それはやはり怠慢なのだ。人間は自由だが、その自由には常に責任がついてくる。それと同じくだ」
顔を上げたテリオタークに、ちょっと神経質な印象も加わった。
「おいおい、ユディのニーサンが困ってるだろー、その辺でやめとけって」
ウェイスノーが助け舟を出してくれて、ユディはほっとする。
テリオタークは、ジトっとした目でウェイスノーを睨んだ。
「お前は相変わらずだな。そのように適当に生きていける程、世の中は単純じゃないんだぞ」
「うわあ、もうお前のお小言はいいって…!」
「…二人とも、お知り合いなんですか?」
その様子に、思わずユディは問いかけた。
ウェイスノーが、困ったように笑う。
「まあなー。同期なんだよ、コイツとは。つっても、片や副隊長だからなー、出来が違うってわけだ」
「馬鹿にするな、お前もその程度の実力はあるだろう。天秤の精霊の祝福をあそこまで扱える人間など見たことが無いぞ」
「そういうのは興味ねーんだよ、女の子にモテるために騎士になっただけだしなー。ああ、あと俺があそこまで天秤を使いこなせるってのは、秘密でヨロシク! 無能な給料ドロボウってな生き方が好きなんで」
「まったく……。私の周りには変わり者が多いらしいな」
「お前だって変わってるだろ、貴族の三男坊のクセに騎士になりたがるなんざ、なかなか居ねーって」
呆れたようなウェイスノーの言葉で、ユディはテリオタークに気品を感じた理由をひっそりと理解した。
「とにかく、ユディ殿。ウェイスノーからは大体の話を聞いている。モノガリということは伏せて、此度のことは圧殺鎧鬼の活躍一本で報告させてもらおう。こんな時にこのような話をするのは無粋だが、キルゼムの賞金についても話をさせてほしい」
「あ、はい、お願いします…!」
「キルゼムは、賞金がかけられた時点では、あのような暴走状態になるなどが想定外だったため、当初の通り、金貨100枚ということになる。命を張り続けた貴殿らの働きに全く見合う額ではないが、どうかそこは容赦をしてほしい」
「ええと、大丈夫です、そこに不満はありません…!」
「そして、もう一点。貴殿らがこの街に居る間、不自由を感じさせないように手配はするが、それを私自らが行うわけではないことも謝罪しておきたい。報告を上げるにも、今回の事件を隠し通そうとした誰かに揉み消される可能性があるからな。私は仁の大陸に直接行って、多少の政治をしてこなければならない。数日後には姿を消してしまう不義を、許してほしい」
「わかりました、僕のことは気にしないでください。…それに、テリオさんだって、隊長さんを失って、心の中が苦しいはずです。どうか無理はしないでくださいね」
ピクリと、テリオタークが揺らいだ。
「……隊長は、私などと違い、向かうところ敵なしといった、豪放磊落な方だった。私はどこかで、今回のことを甘く見ていたのだ。隊長なら…。あの人なら、キルゼムごとき、万難を排して蹴散らしてくれるだろうと。…だが、無情な現実を突き付けられ、喪失感に身を任せてしまった。言い逃れはできない失態だ」
「それは、違うと思います。テリオさんは、それだけ隊長さんのことが大好きだったんですよね? それを失態だなんて、誰にも言えないと思います。そういった人の心があるからこそ、騎士を目指したんじゃないんですか? だからこそ、人々も騎士さんたちを慕う。ジャンだって……騎士に憧れてて……」
「…ジャンティオールは、此度のことで、隊長格に昇進を果たした。ご家族にも、不自由のない額の援助が渡るだろう。……いや、すまない。何の助けにもならない言葉だろうが……」
テリオタークの言葉に、ユディは何も言えなくなって、うつむいた。
バン!
いきなり、乱暴に扉を開けて、すらりと背の高い、褐色肌の女性が飛び込んできた。
確か、ウェイスノーが街の人の援護を求めた時に、一番に飛び出してきた女性だ。
ウェイスノーとテリオタークは、突然のことに、反射的に剣の柄に手をやったが、相手は顔見知りの女性だったのか、すぐに息を吐いた。
「大変だよ、この子、いきなり熱が!」
「……リルハープ!!?」
女性の手の中に目をやって、ユディはさっと青褪めた。
上質な布を敷くようにして、女性の手の中で妖精が真っ赤な顔をし、荒く息を吐いていた。
ユディは転がり出るようにベッドから降りて、駆け寄る。
「アンタ、ユディさんだね、アタシはファウラサ。この子とリコリネさんの世話係をやらせてもらっているよ。さっきうなされ始めたばかりだから、手遅れじゃないはずなんだが…!!」
「あ、ありがとうございます、その、大丈夫なはずです、前にもこんなことがあって…!!」
ユディは、そっと差し出されたリルハープを、布ごと受け取る。
リルハープは、ハアハアと息を吐きながら、ぽろぽろと涙をこぼしている。
ウェイスノーとテリオタークは、焦ったようにリルハープを取り囲んだ。
「…? 何か言ってる…?」
ユディは呟いて、妖精に耳を近づけた。
リルハープは、うわごとのように言葉をこぼしている。
「ジャン…ジャン、ごめんなさい……っ」
「…!!」
ユディは、青褪めたまま顔を上げる。
ウェイスノーが、小声で「どうした?」と聞いてきた。
ユディは慎重に思考していて、返事ができない。
「……ダメだ、どう考えても…。出口を作ってあげないと…」
ユディは独り言のようにそう呟くと、意を決して、リルハープに声をかける。
「リルハープ、リルハープ、起きて! リルハープ!」
ウェイスノーもテリオタークもファウラサも、おろおろとそれを見守るしかない。
やがて、何度目かの声かけで、妖精は瞼をそっと開いた。
「う……。ご主人サマ……?」
「リルハープ…! 何を悩んでいるのか、ぜんぶ言ってごらん? 整ってなくてもいい、僕に共有させてほしい。お願いだ……」
ユディは優しく声をかける。
妖精は、まだ熱に浮かされた顔で、ぼんやりとどこかを見ている。
「リルハープ、大丈夫だよ、何を聞いても僕は君を嫌いになんてならないから。……ね?」
「う……っ」
リルハープは、またぽろぽろと涙をこぼした。
「ジャンが…、ジャン…! リルちゃんのせいで…!! うああああ…っ!!」
「リルハープ、どうしてリルハープのせいだと思ってるの? ゆっくり考えてみてごらん……」
「う…っ、ひっく、だ、だって…。か、海峡大橋の方から、こ、交代の、騎士が来て…! リルちゃんは、ご主人サマと、リコリネが、すごく気になって、ずっと、そわそわ…してて…! そうしたら、ジャンが、一緒に見に行きましょうって…! 遠くから、見るだけなら、怒られないからって…!! そ、そうしたら、そうしたら…!!」
「……っ」
何か言葉を続けようとしたが、ユディの喉はぐっと締まったように詰まってしまう。
ジャンティオールの最期の笑顔が浮かんだ。
まだ、色合いすらハッキリと思い出せるくらいに、鮮やかな記憶でしかない。
沈黙の隙間を埋めるように、ウェイスノーが喋り出した。
「リルハープちゃん、それからユディのニーサンも、ちょっと考えてみてくれ」
二人は、ウェイスノーに目を向ける。
「例えば、ユディのニーサンが世界の救世主で、毒矢で狙われたとする。ジャンの奴は、身を挺してニーサンを庇い、華麗にそれを叩き落とした。するとジャンは、きっと英雄として祭り上げられるだろう。その時、ユディのニーサンは、『ジャンが英雄になったのは、僕のおかげだ』なんて言うか?」
「……?」
ユディはウェイスノーの意図がわからず、何も言えずにいた。
「きっと言わないだろう。なのに、今回。ジャンが身を挺してユディのニーサンを庇ったところまでは同じなのに、あんたらは『ジャンが死んだのは、自分たちのせいだ』と思っている。おかしいだろ? 全部、アイツの決意と、アイツの行動、アイツの覚悟なのに」
「………それは……」
「全然違う話に聞こえるか? 俺からすりゃ同じ話だぜ。頼むよ、自分を責めるんじゃなくて、アイツを褒めてやってくれ。俺はアイツが自慢だよ。土壇場で動けなかった俺の方が100倍ダセーし、責められるべきだとも思う。けど、俺が俺を責めたところで、あのジャンは救われるか? アイツは、困った顔をするだろうよ」
ウェイスノーは、声が震えそうになって、一度言葉を切って、振り払うように首を振る。
「泣くなら泣くでいいと思う。けど、純粋にアイツのために泣いてやってくれよ。誰かのせいとか、ああすればよかったとか、そんなこと関係無く、ただひたすらに、居なくなって寂しいって…また会いたいのにってさ。…なんて、俺も必死で考え抜いて、ようやく今朝になってこの結論になったばっかりなんだが」
ウェイスノーは、困ったような顔で笑って、くしゃりと髪を掻き上げた。
リルハープは、まだハアハアと荒い息を吐きながら、茫洋とした表情でウェイスノーを見ている。
「……リルハープ。気持ちの切り替えって、難しいよね。僕もそうだ。でも、一緒にやっていこう。僕も一緒だよ。君は一人じゃないんだよ。それに、僕はジャンのおかげで生き延びることができた。それは、君のおかげでもあるってことだろう?」
ユディは、優しくリルハープを撫でた。
「う……っ、うあぁああ……っ!!」
リルハープは、すがるように、ユディの手の平にぎゅっと抱きつく。
ユディはそのまま、リルハープをそっと抱きしめた。
リルハープは、何度か深い呼吸を繰り返した後、くたりと眠りにつく。
ファウラサは、ほー…と安堵のため息を吐いた。
「よかった……こればっかりは、部外者のアタシにはどうにもできないからね……」
「ファウラサさん、ありがとうございました」
「ファウラでいいよ。悪いけど、その子の面倒はユディさんが見てておくれ。アタシは戻るよ、リコリネさんが心配だ」
ユディがリコリネの容態を聞こうとしたときには、ファウラサは扉の向こうに出て行っていた。
テリオタークも、安心したように眉間を揉んでいる。
「本当に、人一人が居なくなるというのは、あってはならない害悪だな。騎士の仕事の大切さを、改めて思い知る。ユディ殿、貴殿に助けてもらっておいて何だが、貴殿は…というか、貴殿らは、もう少し自分を大切にしなければならない。3人とも、ただ引き返せばいい立場なのにもかかわらず、満身創痍ではないか。おそらく、誰もが今回、貴殿らの所業を褒め称えるだろうし、それだけのことをやっている。だが、私は大人としてお小言を言わなければならない」
ユディは、びっくりしてテリオタークを見ている。
お小言なんて言われるのは、初めてな気がする。
「いいか、今回はたまたま、次が訪れる機会ができた。だからこそ、私は言おう。次は、もうちょっと気をつけねばならないぞ。もうちょっと、色々なことを利用して、賢く立ち回ってもいいんだ。もちろん、貴殿たちが賢くない…という意味で言っているのではない。無茶はいけない。誰が褒めても、私が怒る。怪我が多ければ多いほど怒る。命を張る=偉い、ではないんだ。いいね?」
「は、はい……」
なんだか、ものすごく心配されている…というのが伝わってきて、そのお小言は不快ではなかった。
「当たり前の話だが、もちろん貴殿らに頼らざるを得なかった我々こそ、猛省の必要がある。その上で言っているということは、承知しておいてほしい」
ユディは、こくこくと頷くしかない。
唐突にテリオタークは、「ふむ…」と言いながら、いきなり窓際に行き、窓の桟をスーっと指でなぞった。
あまりにも突然のことに、ユディはついていけてない。
リコリネもアレだが、貴族は変わった人が多いのだろうか。
「やはり安宿か。英雄を泊めるには、埃っぽい部屋だ。私が仁の大陸に出向している間は、貴殿らに我が家を貸し出すのも手かもしれないな。まあ、おいおい考えようか」
「ええ…!?」
「それでは、足早になってすまないが、事後処理がまだ残っているものでな、本日は失礼させてもらおう。重ね重ね、貴殿らには感謝をしている。それでは」
テリオタークは、胸に手を当て、キッチリと騎士の礼を向けてくると、足早に部屋を出て行く。
ほとんど独り言のような案を置いて行かれて、ユディは戸惑うしかない。
善意は、伝わってくるのだが…。
「ウェイスノー、お前も来い。とにかく人手が足りないからな」
テリオタークは、乱暴にそう言い置いて、ウェイスノーはめんどくさそうに、「へいへい」とついていく。
「あの、ウェイスノーさん! さっきの言葉、救われました、ありがとうございました…!」
ウェイスノーは、扉を閉める前に、ちょっと振り向いてユディを見る。
「おいおい、俺ばっかりイイコトしたみたいに言ってるんじゃねーって。俺だってニーサンたちに感謝してるってことを忘れちゃいやよ? ま、いい関係かもな。そんじゃなー」
パタンと扉が閉まる。
一拍の余韻を味わった後。
ユディは、ベッドサイドに置かれた肩掛けカバンから、貝殻のベッドを取り出して、リルハープを大事にそこへ置いた。
そして、自分もすぐに横になる。
リコリネに何かあった時のために、いつでも精霊の祝福の力をかけられるように、全快しておく必要があるからだ。
目を閉じる。
なぜか、名残のように涙が流れた。
慌ててぬぐい取る。
今後、ジャンのことで悲しんではダメだ、と強く思う。
それは、リルハープを追い詰めることになる。
……強くなろう。
そう、固く決意した。
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次の日。
リルハープの熱は順調に下がってきて、ユディは一安心だ。
だが、いつも様子を見に来るウェイスノーが、今日は来ない。
きっと忙しいのだろう、と自分を納得させる。
午後になると、久しぶりにオカリナを吹いてみた。
そこまで長い間吹いていなかったわけではないはずだが、すっかり指がぎこちなくなっている。
オカリナを吹いていると、リルハープの表情が安らいだので、練習がてら、続けてみようかなと思った。
しばらくして、ようやくウェイスノーが顔を出す。
「ウェイスノーさん。あの、そろそろ、リコリネの状態を聞かせて貰ってもいいでしょうか?」
開口一番、ユディはずっと聞きたかったことを聞く。
すると、ウェイスノーが、一瞬固まったように見えた。
「ああいや…実は、今朝、目を覚ましたらしい」
ウェイスノーにしては歯切れの悪い返事だったので、ユディは焦って身を乗り出す。
「何かあったんですか!?」
「いや、違うって!!? ただ、すぐに会える状態じゃねーから、言おうかどうしようかと悩んだだけで!」
「そんな…! せめて一瞬だけでも様子を見させてください!」
「ほらな!? そうなるだろ!?」
ウェイスノーは、ユディを押しとどめた。
「マジで外傷はねーし、すぐに会わせてやりてーんだが、リコリネのネーサン本人が、全快するまで会わないようにしたいってさ」
「……!!」
「頼むよニーサン、せめてあと数日は我慢してくれねーか」
「数日……」
ユディは、うつむいた。
「本当は、ネーサンが目を覚ましたことも黙っていてくれと言われてたんだ。けど、やっぱ心配だよな。さすがにそこは言うしかなかった。悪い、余計に気になっちまうよな」
申し訳なさそうに言うウェイスノーに、ユディは慌てて首を振る。
「いえ、ありがとうございます、半分くらいは安心できました…! じゃあ、リコリネに伝えてください、僕の音の精霊の祝福で、いつでも癒せるって」
「……まあ、伝えるっちゃ伝えるが…。ネーサンは、断ると思うぜ。自力で治してサプライズって言ってたからな」
「…相変わらずなんだから…」
ユディは、困ったように笑う。
ウェイスノーは、少しだけひきつった笑顔を向けてくると、「そんじゃ、俺はまたテリオタークを手伝ってくるよ」と言って、部屋を出る。
扉を閉めたウェイスノーは、沈痛な面持ちで、くしゃりと前髪をかき混ぜた。
「くそ……、マジで俺には何もできねーのかよ……!」




