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モノガリのユディ  作者: ササユリ ナツナ
第一章 ひとりめ
44/137

44皆殺しのキルゼム

「……祝…を…………を………福を……」


 ぶつぶつと呟きながら、皆殺しのキルゼムと名付けられた男は、幽鬼のように歩き続ける。

 もはや、男の本当の名を知る者は居ない。

 ただの現象のような、災害のような存在として、街を徘徊するだけだ。


 キルゼムは、機械的に同じ道を行ったり来たりしていた。

 東に行き、行き止まりが来たら西へ。

 西へ行き、行き止まりが来たら東へ。


 幸か不幸か、騎士団が追い詰めたそこは、そのように動くにはうってつけの一本道だったため、ある意味でキルゼムはそのゾーンに閉じ込められているとさえ言える。

 表通りからは離れた、荷車も通れるようなやや広めの運搬路には、労働者を癒す為に植木や草花が咲いていた。

 しかし、キルゼムを中心に出続ける瘴気の中で、そこら一帯の植木は枯れ、土は黒ずみ、周辺の家が劣化による倒壊をするのも時間の問題と思われた。

 甘ったるい匂いが立ち込める。

 甘い甘い……腐臭が。


「祝……福を……」


 その足取りが、ふと止まる。


   ザッ。


 目の前に立ち塞がる、線の細い青年を認めたからだ。

 思考能力があるわけではない。

 しかし本能のようなもので、その青年の敵意を認識した。


 対峙しているのは、ユディだ。

 もはや先陣をきることに恐れはない。

 決意に満ちた目で、ぱらりと精霊道具の本をめくった。


「<命の中には、死という名の種がある。君の種は、そらそこに。失った左腕がうずいてきただろう。世界に一つしかない、君の命、君の腕。それが今、形を変えて咲き始める>」


   しゅる、しゅるるるっ!


 緑色の燐光が舞うと同時。

 キルゼムの左腕があった場所に、根を張るように植物が絡まり始める。

 そして、穢れなど知らないかのような、白く美しい花が、瞬く間に開いた。

 しかしキルゼムは、動揺する能力がないかのように、少し唸るだけだ。

 ユディは言葉を―――音の精霊の奇跡を与え続ける。


「<いつかは何もかも消えて無くなるということが、時に救いになる日もあるだろう。その花は、君に救いをもたらす花だ。赤子のように穢れを知らない。その証拠に、ほらごらん。人に害をなすような不調和を、その白き身に吸い込み始めた。それは、君が生きている限り続けられるだろう。そこには約束が咲いている>」


 サア、と、最初は小さなそよぎ。

 次の瞬間、くるりと風が巻いて、遊ぶような軌道をとった。

 それだけで、周囲を漂っていた歪な瘴気が嘘のように霧散し、キルゼムの左に咲いた花弁の一枚が、それらを吸い取ったように黒く染まった。

 ユディの祝福の力は、ほとんど根こそぎ、その現象の維持に持って行かれる。

 キルゼムは苛立つように、咲いた花を、右手で掻きむしろうとした。


   タンッ!


 その時、ユディの背後から両側を抜け、二つの人影が駆け出す。


 片方はウェイスノーだ。

 彼は、ユディを守るように、剣を構えて前に留まる。


 もう片方は、リコリネだ。


「ハアアアアッ!!」


 リコリネは、会話もなく、即座に攻撃を仕掛けた。


   ズバンッッ!!


 空気が切れる音がした。

 わざと外したわけではなかった。

 リコリネは、持てる力のすべてを振り絞り、全速力での突進を利用しての、有無を言わせぬ横薙ぎの一撃を放っていた。

 花に気を取られていたキルゼムが普通の人間であれば、直撃を食らい、胴体が上下に分かたれていただろう。

 だが、かわされた。


 キルゼムは、動物的な唸り声を上げながら、人間には決して出せない反射神経で、大きく後ろに跳び下がった。

 四つ足の動物のようなやり方で、低く着地を決めている。


「……なるほど。私の相手は人間ではなく、獣だと思った方がよさそうだ。なりそこないなのか、なれのはてなのか、意見は分かれるところだろうが。…これも、祝福の暴走で、リミッターとやらが外れた結果かもしれない…と推測できるか」


 リコリネが呟くうちに、キルゼムの背後をぐるっと取り囲むように、騎士たちが囲いを作る。

 最初は住民を避難させようかという話だったが、家から出たところを狙われる方が危険と判断し、包囲網を作る作戦で行く流れとなった。

 失敗はできない、ほとんど一か八かの作戦だ。

 だが、キルゼムの瘴気を無効化できるのはユディの能力だけであるため、共に行動できるこの時を、最大の好機と全員が理解していた。




 作戦前に、リコリネはユディにきつく言い含める。


「主、いいですか。あなたの役割は、他の誰にも代わりができない。ですから、たとえ何があったとしても、瘴気を無効化する以外にその力を使わないでください。そして、御身の無事を一番に行動してください。いいですね。何があっても、ですよ」


「……わかった。ただ、力を維持するために、キルゼムからはつかず離れずの距離を保たなくちゃダメなんだ。なんていうのかな…感覚的なものなんだけど、『音の届く範囲』が大事というか…。うろちょろする僕が邪魔だからって、あんまり邪険にしないでおくれよ?」


「…ふふ、面白いことをおっしゃいますね。私があなたをそんなふうに扱えないと、百も承知でしょうに」


 お互いに笑い合う二人からは、もう緊張は抜けていた。



 作戦はこうだ。

 まず、ジャンティオールとリルハープは、開け放たれた潤の大陸側の門を、留守番として守ることとなった。

 そして、街に突入した騎士の一人が、仁の大陸側、つまり閉じられた海峡大橋を守る副隊長に、作戦のあらましを報告に行く。

 うまく行けば、副隊長は少し遅れての援軍になってくれるだろうという目論見だ。

 あとは、今居るメンバーでキルゼムを取り囲み、100%一撃を入れられるというタイミングが来るまでは、リコリネとキルゼムの一騎打ちを見守るという、シンプルな作戦で行く流れとなった。



 キルゼムと対峙するリコリネの背に、冷や汗が伝う。

 向き合ってみてわかった。

 相手は片腕を失った手負いであるにもかかわらず、とても太刀打ちできないかのような重圧を発している。

 まるで、相手が上位存在である精霊自身であるかのような錯覚すら覚える。


 なにより恐ろしいのは、何をしでかすかわからない所だ。

 理知の及ばない、剝き出しの狂気というものを、リコリネは初めて見た。


「祝…福…を……祝福……を……」


 キルゼムは、茫洋とした目をどこかへ向けながら、ブツブツと呟いている。


「!」


 その時、リコリネは気づいた。

 キルゼムの左腕に咲く花弁の一枚が、少しずつ…少しずつ、黒く染まって行っていることに。

 彼は常に、瘴気を吐き出し続けているのだ。

 花がすべてを吸収しきって黒く染まってしまえば、また周囲に瘴気が漏れ出てしまうのだろう。


「なるほど、長期戦はこちらの不利か。焦りは禁物というが、仕方がない!」


   ダンッ!


 リコリネは、また力強く石畳を踏みしめ、キルゼムに向けて突進をする。


 その時に、気づいた。


 キルゼムは、何もない空間を見つめているわけではなかったということに。

 キルゼムが見ていたのは、リコリネの、後方。


   ズガアアンッッ!!


 振り下ろしたマサカリの刃が、石畳に埋まり、クレーターを作った。

 それと同時に、振り向きもせずにリコリネが悲鳴のように叫ぶ。


「主、狙いはそちらです!!」


 キルゼムは人外の跳躍を見せ、近くの民家の壁に、荒々しく、垂直に着地をした。

 そこからの三角蹴りの軌道が、ユディの元へと降りかかる。


「祝福ををおおおおおおおっっ!!」


「!!」


 ユディは咄嗟に精霊道具の本を構える。

 が、迎撃に力を使えない約束を思い出し、硬直した。


「マジかよクッソ!! こっちかよ!!」


   バサアッ!!


 即座に、ユディの護衛であるウェイスノーが動いた。

 キルゼムの眼前を覆い隠すように、マントを投げつける。


   ボシュウウウッ!!


 しかし、マントはキルゼムに当たると同時に、枯れ葉のような色合いになり、ボロボロに腐り落ちて行った。

 キルゼムの視界が晴れた頃には、ユディとウェイスノーの姿は目の前に無い。


 ウェイスノーは、即座にユディを抱えて、一目散に逃げていた。


「卑怯な、私と戦え!!」


 リコリネは、即座に反転して、今は誰も居ない石畳の地に着地したキルゼムの背に斬りかかる。

 キルゼムは、着地してすぐだったため、動けないと判断したのだろう。


   ガッ!!


 キルゼムは、堂々と振り返り、振り下ろされたリコリネのマサカリの刃を、掴んだ。

 ボコリと、伝わった威力で足が石畳にめり込んでいる。

 だが、それだけだ。


「な…!?」


「祝…福…を…。祝福ををををををおおおおおお!!!」


 キルゼムを中心に、空気が煮え立つような熱を持った。


   じゅわあああああっ!!


 マサカリが、飴細工のように、ぐすぐすに溶けて、ドロドロと存在を形作ることをやめた。

 それと同時に、肺腑の奥まで焦げ付くかのような空気が辺りに満ち、周囲を死の空間へと変える。


「……っっ」


 リコリネは、一瞬意識が飛びかけた。

 ほとんど本能めいた動きで地を蹴り、背後へと飛ぶ。

 着地と同時に、がくりと片膝をついてしまった。


 リコリネは、死を覚悟した。

 この隙を狙われては、避けられない。

 やはり武器にも、特殊な金属を使うべきだった、と、他人事のように反省をする。


 だが、死は訪れなかった。


「……しゅ…福………祝ふ…を……」


 キルゼムは、ぼんやりと視線を巡らせながら、リコリネを追撃することはなかった。


「……?」


 場の全員が、その様子に首を傾げる。

 やはりどう見ても、キルゼムに思考能力が残っているとは思えない。

 なのに、どうしてユディを狙ったのか。


 ウェイスノーは、ユディをつかず離れずの場所に下ろしながら、必死に思考を巡らせる。

 キルゼムが、何度目かの祝福を口にして、ようやくユディの存在を見つけたその時。


「祝福……。わかった!! そういうことか!!」


 ウェイスノーは、いきなりユディの護衛を放棄するかのように、逆位置へと駆け出した。


「ウェイスノー殿!?」


 リコリネはよろりと立ち上がりながら、咎めるような声を出す。


「ウェイスノーさん、何をしているんですか!?」


 ユディの驚いたような声が続いた。

 ウェイスノーが、走りながら軽鎧を脱ぎ始めたからだ。

 いや、鎧どころではない。

 服まで。


 瞬く間に上半身を裸にしたウェイスノーが、意気揚々とキルゼムを振り返る。


「へい、こっちを見ろよ! 御馳走だぜ!! あんた、祝福を与えたいんだろ!!」


「あ…!!」


 その言葉に、ユディはすべてを理解した。

 キルゼムは、一番装甲が浅く、腐らせやすい獲物として、ユディを狙っていたことを。


 案の定キルゼムは、ユディからウェイスノーへと獲物を定め直した。


 ウェイスノーは、やけっぱちのような顔で笑いながら、上半身が裸のまま剣を構えた。


「っつっても、参ったなこりゃ! まさか鉄が溶ける程の威力とはなー、これ俺、太刀打ちできるのか!?」


「祝福を……。祝福をーーーーーーっっ!!」


 ダン、とキルゼムは、再度の跳躍を見せた。

 建物と同じくらいの高さを跳んでいる。

 ウェイスノーに向けて飛び掛かる軌道に、迷いはない。


「まあ…やるしかねーか!!」


 ウェイスノーが覚悟を決めた、その時、第三者の声が響き渡った。


「束縛の型ーーーー!!」


「「「ハッ!!」」」」


   ジャラララララッ!!


 四方八方から、号令と同時に、長い鎖がキルゼムに巻き付いた。


「ぎい…っ!?」


 キルゼムは、動物的な声を上げながら、ジャラリと空中に固定される。


「…副隊長!」


 周囲を取り囲んでいた騎士の一人が、増援の到着に歓喜の声を上げた。

 副隊長は、息を荒げて輪に参加する。


「待たせてすまない! だが、これもいつまで持つかどうか!」


「おっしゃ、ナーイス!!」


 即座に動いたのは、ウェイスノーだった。


   ヒュ―――ドスンッ!!


 彼はキルゼムに向けて、剣を投擲した。

 キルゼムの肩に突き刺さる、騎士の剣。


「くそっ、喉を狙ったのにな…! こんなことなら投擲の練習でもしときゃよかったぜ…!!」


「奇数番号のみ、続けーー!!」


 流石の反応速度で、副隊長が号令をかけた。


「「「応!!!」」」


 騎士たちが、次々に剣を投げつける。

 キルゼムの足に、腕に、ドスドスと剣が刺さっていく。


「偶数番号は構え! 剣を失った他を守れ!」


 副隊長の号令通り、規則正しく騎士が動く。

 ユディはその隙に、リコリネと合流を果たそうとして、辺りを見渡した。


「リコリネ…?」


 しかし、リコリネの姿が無い。

 一瞬焦ったが、リコリネの行動パターンを考えると、おそらく、代わりの武器を探しに行ったんだと思い直す。

 となると、リコリネが戻ってくるまでに、キルゼムとカタがつくことを願うしかなかった。

 そうでもないと、リコリネは我が身を顧みず突っ込んでいくだろう。

 先程の、武器が溶ける程の瘴気の中にリコリネは居た。

 傍目からはわからないが、無傷とは思えない。


 ユディがキルゼムに視線を戻すと、…本能の部分が、ぞくりとざわめいた。

 キルゼムは、どう見ても満身創痍であるはずなのに。

 彼は相変わらず、胡乱な視線をたゆたわせて、ぶつぶつと呟いているだけだ。


「…まさか、効いていないのか…!?」


 副隊長の戸惑いの呟きが聞こえた、その瞬間。


「しゅ・く・ふ・く・をーーーーーーっっ!!」


   ぶわっっ!!


 キルゼムを中心として、円形状に現象が起こる。

 それが目にみえてわかるほど、綺麗にくっきりと、鎖が途中でボロボロになって崩れ落ちていく。

 キルゼムに突き刺さっていた剣も、瞬く間に形を失っていくが、先程のように溶けるほどのものではなかった。

 ひょっとしたら、それなりに弱っているのかもしれない。


 だが、たったそれだけの希望でしかない。

 それがどれほど心もとなく感じるか。

 それほどに、この場に居たすべての人々が、この戦いを途方もないものに感じていた。


   ズダン!


 戒めの解かれたキルゼムが、不格好に着地する。


「……うそだろ!?」


 ウェイスノーが、焦った声を出した。

 それは偶然にしか過ぎないのだろうが、あろうことかキルゼムは、ユディの側を向いて着地をしていた。


「おい、こっちだ!!」


 反対側に居るウェイスノーが、必死に声を出す。

 しかしキルゼムはやはり思考力を失っているようで、言葉の意味を理解してはいなかった。

 ただ、目の前の獲物を見据える。


「……っ!!」


 ユディは、じりと後退する。

 キルゼムと目が合った。

 背を向けて逃げ去ろうかとも思う。

 が、キルゼムの左腕を見て、すぐにその考えは捨てた。

 キルゼムに咲く白い花は、もはやその半身を黒く染め上げていた。


 まだそう長い時間が経ったわけでもないのに、この速度で花が染まるということは…。

 この花が無ければ、間違いなく、瞬時に全滅する。

 音の奇跡のかけ手であるユディは、この花から距離を取るわけにはいかなかった。

 ユディは、開いたままの精霊道具の本を、持ち直す。


「くっ!」


 ウェイスノーが、駆け寄ろうとした。


 あんな無防備な格好で!

 ユディは慌てて声を張り上げた。


「ウェイスノーさん、近寄らないで! そこに居てください! 大丈夫です、僕だって、かわすくらいなら…やってみせる…!!」


 ユディは覚悟を決めた顔で、キルゼムを睨みつける。

 ウェイスノーは、ユディのただならぬ気迫に、足を止めた。

 経験から、自分の行動が、ユディの集中力の妨げになるとわかったのだろう。


「くそ…頼むぜ、ニーサン…!!」


 ウェイスノーは祈るように、悔しげに小声を出すしかできない。

 周りの騎士たちも、自分たちが動けば、この場の奇妙なバランスを崩してしまうことを、長年の経験から悟っていた。

 キルゼムを含め、全員がユディに注視している。



(大丈夫だ……音を聞け……!)


 ユディは、かつてなく集中していた。

 キルゼムは、飛び掛かる直前の獣のように、姿勢を低くする。

 落ち着いて見てみると、その体のあちこちには、剣が刺さった跡が、痛々しいほどにある。

 そして、最初に感じた、息がつまるような存在感による圧も、薄らいできている。


 大丈夫だ、キルゼムも、確実に弱っている。

 ここを…ここさえ凌げば、キルゼムは倒せる…!


 次第にユディの耳には、ハッキリとキルゼムの呼吸音が届き始めた。

 その気になれば、心音ですら聞き取れそうだ。

 そして、ユディは聞き取った。

 飛び掛かる前の、前動作を意味する呼吸音を。


「……祝・福・を!!!」


   バッ!!


 キルゼムとユディは、ほぼ同時に動いた。

 キルゼムが、右腕を突き出して飛び掛かった時には、もうユディはその場にいない。

 ユディは振り返る。

 キルゼムが体勢を崩している確信があった。


「!?」


 その瞬間、ユディの足が、がくんと何かを踏みつけた。

 ジャラリと音がして、気が付けばユディは尻もちをつくように転倒している。

 先程、キルゼムを戒めていた援護の鎖の一本が、石畳の上に落ちていたのだ。


 目の前ばかり見て、足元を見ていなかった!


 そう思った時には、キルゼムは体勢を崩すどころか、いびつに歪んだ人ならざる姿勢で地を蹴り、ユディに飛びかかってきていた。

 右腕が、貫手ぬきての形で振るわれる。


「―――!!!」


 ユディを含め、その場の誰もが、息を呑んだ。

 ウェイスノーは反射的に一歩を踏み出したが、とても届く距離じゃない。


「ユディのニーサン!!」


 手を伸ばしても届かない。

 ウェイスノーは後悔した。

 どうしてあの時、空気を読んでしまったんだ!

 もっと早くから、後先なんて考えずに駆け出していたら、絶対に間に合ったのに!


 ユディは、ぎゅっと目をつむり、衝撃を覚悟した。


   ドズッ!!


 鈍く、肉を貫く音。


「………っ!!」


 ………。


「………?」


 そろりと、目を開ける。


 目の前には、なぜか、この場に居るはずのない、ジャンティオールの顔があった。


 そして、ユディを守るように両手を広げたジャンティオールの腹からは、キルゼムの右腕が生えている。


 目を見開いたユディに、ジャンティオールは、必死に痛くないような顔を作り、にこっと笑った。


「だっ…て、当たり前…っス……友達……なんだか……ら……」


「しゅくふくをおおおおおおおっ!!!」


   じゅわっ!!!!


 キルゼムの声と呼応するように、ジャンティオールは瞬く間に白い煙を上げて溶け消えた。


「うわあああああああああぁああああああ!!?!!!?!?」

「いやーーーーーーー!!!!!?」


 なぜか、この場に居ないはずのリルハープの悲鳴が、背後からユディの声と重なった。

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