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モノガリのユディ  作者: ササユリ ナツナ
第一章 ひとりめ
41/137

41またあした


   ジリ……


 リコリネとユディは、お互いに間合いを取り合っていた。

 ユディは冷静に思索を巡らせる。


 リコリネは、誰よりもこちらの能力を熟知している。

 前に言っていた通り、喉を掻っ捌きに来るだろうか。

 相手の一撃は大振りだ。

 かわせば隙が生まれるだろう。

 その時に、精霊道具の本を使って音の奇跡を起こせたなら、リコリネを眠らせることができるはずだ。


 腰元に下げた精霊道具の本の背表紙に、ぴくりと指先を当てる。

 油断なくこちらを見据えているリコリネも、ぴくりと動いた。



 その時、肩に乗ったリルハープが、無言でぎゅっと、ユディの首にしがみついてきた。

 ハっとして妖精の方を見る。

 リルハープは、震えながら、何も言えずに、思い切りぎゅっと目をつむっている。


「………」


 リコリネとユディのぶつかり合いを、リルハープは見たくないのだ…と気づいた時。

 ユディの指先から力が抜けた。


「……ふ、ふふふ…!」


 唐突に笑いが込み上がってくる。

 対峙するリコリネは、訝しげにこちらを窺ってきた。


「主、何がおかしいのでしょう。我らが故郷のシンボルに害をなすことを、思いとどまっていただけたのでしょうか?」


「我らが故郷? 面白いことを言うね。僕の故郷は、ライサスさんのあの家だよ。君の故郷は、掘削の街じゃないのかい?」


「…それは、そうでしたが。しかし、主とともにこの楽園で一生を過ごすのも、悪くない未来です。抵抗をやめてはいただけませんか?」


 ユディは言われるがまま、構えていた姿勢から力を抜いた。


「…面白いよね。リルハープは、こういう緊迫した状況になると、萎縮しちゃうのかな、すごく口数が減るんだ。逆にリコリネは、とても口数が増える」


「……?」


「リコリネが、戦うことを好んでいるのは間違いないと思う。だけど、それは持て余した力の振るいどころを求めているからで、それ以上でも以下でもない。それと同時に…リコリネ、君は怖がっているね」


「…何を、おっしゃっているのか」


「リコリネ。君の優しさは、僕が一番知っている。君は、人を傷つけることを、とても怖がっているね。だから口数が増えるんだ。誤魔化すために」


「……それが、なんだというのですか。今この場において、それはどうでもよいことです」


 リコリネは、言葉でのやり取りを拒絶するように、ガシャリとマサカリを構えた。

 ユディは、何も持っていないと示すように、手の平を広げる。


「リコリネ。僕は、君が戦う理由を、あげない。抵抗は一切しないよ。好きにすればいい」


「……何を、バカな。私がそれしきで、武を振るうことをためらうとでも?」


「好きにすればいい。それは戦いじゃなくて、ただの殺戮だ。君がそれを選ぶのなら、僕はそれでいい。罰だと受け止めよう」


「罰? 何の罰だというのですか」


「…リコリネ。僕はさっき、こう言った。『僕からリコリネを奪うというのなら、例え君でも許さない』…と」


「………」


「僕は本気でそう言った。だけど、冷静に考えたら、おかしな話だ。僕は、僕の意のままにできない君は許さないと、そう言ってしまったことになる。バカな話だ。どちらも、君なのに。うそつきの君も、小さなトカゲの君も、すべて受け入れると言っておきながら。罰を受けても文句は言えない、幼稚な怒りからきた言葉だった。でも、この怒りの出所は、わかっている」


 リコリネは、フルフェイスの奥で、戸惑いの呼吸を深めた。


「リコリネ…。僕は、嫉妬をしたんだ。君を、この街にとられるのが嫌で嫌で仕方がない。だから僕は、竜の夢を還すよ。それが嫌なら、その武力を振るって、遠慮なく僕の命の鼓動を止めてくれればいい。君が選んだ道だ、受け入れよう」


 ユディは、首から下げたオカリナを、再び手に取った。

 リコリネは、マサカリを握る手に力を込める。


「主! おやめください!」


「リコリネ、僕はもう揺るがない。さあ、選ぶんだ。この街の騎士になるのか、それとも僕の騎士になるのか。お互いに譲れない部分がある以上、君は必ず選ばなければならない。リルハープ、僕から離れていて?」


「……!」


 リルハープは、いやいやをするように、ひしっとユディの首元にしがみつく。

 ユディは、優しく声をかけ続けた。


「リルハープ、お願いだ。僕に君を守らせてほしい。これは命令だよ、離れておいて?」


 リルハープは、何度もユディとリコリネを見比べた後。

 もたもたとした動きで、ふわりと飛び上がった。

 目には涙が溜まっており、一言も発せない。


 リコリネは、低く言葉を落とす。


「バカげています……本気で命を投げ出すおつもりですか? 今の私がどちらを選ぶかなど、わかりきったことでしょう」


「本気だよ。そして、同意の上だから、僕がどうなろうと、君の罪にはならない。君が本当にそれを望むというのなら、僕の居ない世界で、リルハープと一緒に平和に生きるといい」


「…脅しているつもりですか?」


「なぜ? 脅しになるのだとしたら、光栄だけどね。悔いのないように、遺言でも残す気で居るのは、確かだよ。青い鳥事件の時に、君は言ったね。次はケンカでもしましょうねって。これはケンカになるのかな、…ならないかもね、ふふふっ」


   ズガアンッ!!!


 リコリネは、苛立ったように、マサカリの刃を広場の石畳に埋めた。

 美しい白亜の足場に、ビシリと乱暴な亀裂が走る。

 ユディは、酷く冷酷な視線を向けて、微笑んだ。


「脅しは無駄だよリコリネ。君の純粋な力なんて、覚悟さえ決めてしまえば、そう怖くはないんだ。…あの日、ライサスさんの家で、君は言ったね。君の振るう力のことを、僕が怖がるかもしれないとは思ったって。…だけどね、リコリネ」


 一転してユディは、慈しみすら感じるような笑顔を向けた。


「僕にとっての、君は。ちょっと突っ走り癖があって、普通よりも少し力が強いだけの、ただの、可愛い女の子でしかないんだよ」


「……っ、侮るな!!」


 ドン、とリコリネが地を蹴っただけで、めくれあがった石畳が舞い上がる。

 瞬く間に距離が詰まり、ユディの眼前に、マサカリの大きな刃が迫った。

 ユディは、言葉を途切れさせない。


「侮っているのは、君の方だ。どうなろうと、なにをされようと、僕は君を怖がらない。僕が怖いのは……君を失うことだけだ。それ以外なら、なんだって受け入れる。さあリコリネ、選んでごらん。この街か、それとも、僕か」


 ユディは、手を差し伸べる。


   ボッ!!


 ユディを切り裂く直前で、マサカリの動きがとまった。

 遅れて風圧が大気を揺らす。

 はらりと一房、斬れたユディの前髪が舞い散った。


 一拍の沈黙の後、リコリネはガランと武器を落とす。

 フルフェイスの奥から、泣きそうな声が漏れた。


「……主は、やっぱり……意地悪……ですね」


 心の折れたリコリネは、静かにその場にへたり込む。

 ユディは、静かにそれを見下ろした。


「…本当だよね。君といると、知らない僕がたくさん出てくるみたいだ。僕は自分で思っているよりも数倍、意地が悪くって、…それから、独占欲が強いらしい」


「~~~っ!!」


 リルハープは、声にならない叫び声をあげ、すぐにリコリネに飛びついた。

 必死に鎧にしがみつく小さな妖精を、リコリネはぎこちなく撫でる。


「リルハープ殿……申し訳ありません……」


 自分でも何に謝っているのか、今のリコリネにはまるでわからなかったが、それでも、他にやることもない。

 ユディはじっと、二人を見守るような目を向ける。


「二人とも、少しだけ待っていて」


 水脈の鐘に向き直ると、息を吸い込み、オカリナに口をつけた。



 鋭さとは無縁の、優し気な子守歌の音色。

 グラデーションを帯びていくかのように、彩りを纏った音が辺りに満ち始める。

 音の精霊の、緑色の燐光がたゆたう。

 風が泡立ち、ゆらぎの中で夢の奥を探る。

 眠りのほとりのような、ふわふわとした感覚の中で。

 また、ユディの閉じた瞼の裏に、誰かの、いや、何かの記憶が流れ込んでくる。



-------------------------------------------



   リーンゴーン、リーンゴーン―――



 今日も、この大滝の街では、水脈の鐘の音が鳴り響く。

 この鐘は、街の成立と同時に飾られた。

 街の人々はこの鐘の音を誇りに思っていたし、水脈の鐘自身も、うつろう人々の中で不変を謳うかのように、毎日毎日、誇らしげに澄んだ音色を鳴らし続けた。


 人々の幸せを糧に、街は栄え続けた。


 水脈の鐘は、様々な人を見守ってきた。

 ここをよく待ち合わせにしている恋人たち。

 彼らはいつしか婚姻を結び、子を連れて歩いたかと思うと、老齢となり、この広場で散歩をする。


 若い吟遊詩人も居た。

 詩人は鐘に負けじと声を張り上げたかと思うと、盛んに話しかけてきて、鐘の音を合いの手のように活用するなどの、新しい試みをしたりする。

 投げ銭目当てに歌う日もあった。

 しかしある程度年を取ってくると、彼は歌うことだけが幸せであるかのように、この広場で歌い続けた。


 いつも、同じ時間に花売りをする少女もいた。

 休日にはキャンディ屋の屋台が出る。

 パン屋でパンを買ってきては、わざわざここで食べていく者も居た。


 年に一度の祭りともなると、鐘の音はいつもよりも張り切って聞こえる。

 大道芸人の男は、どんなに頑張ってもお前にはかなわねーなと笑っていた。

 旅行に行ってきた男は、この鐘を見上げると帰ってきた気がするんだと、礼を述べてくる。


 水脈の鐘は、街を音で飾り続ける。

 永遠に続くかと思えた。

 あの日までは。



 ある時、本当に唐突に、大滝の街は阿鼻叫喚の渦に飲まれた。

 別に、特別でも何でもない日だ。

 地鳴りのような音が遠くから響いてきたなと思った時には、上流から水が溢れ落ちてきた。

 街は、瞬く間に、氾濫した川に呑み込まれてしまった。

 あっという間の出来事だった。


 水脈の鐘だけは、奇跡的に流されずに残っていた。

 しかし、多くが流され、かろうじて生き残った人々は街から去ってしまった。


   リーンゴーン、リーンゴーン―――


 少したわんだ音が、誰も居ない街を彩り続ける。

 今日を祝う、街の誇りの音色だ。


「かわいそうに」


 ある日、調査に来ていた騎士たちが、手入れする者の居なくなった鐘を、憐憫を込めて見上げる。


「連日の雨で水位が上がっていたところに、巨獣の島でのボス争いの影響で川が氾濫するなんてな」


「この鐘も、いつかは壊れていくのか…まだ、こんなに綺麗なのにな」


「ああ、良い街だったよ。遠くに新しく村を作るそうだが、もうこの鐘は見たくもないとか」


「そうか…。いい思い出ばかりが詰まったものを見るのは、気持ちが耐えられない時もあるからな…」



   ヴィーン・ゴオーン、グイーン・ゴウーン―――



 誰も居ない廃墟で、今日も鐘は歪んだ音を鳴らし続ける。

 ほとんど断末魔のような音は、狂ったように数日続いた。

 そして、ある日を境に、唐突に動かなくなった。




 それから、どれほどの時間が流れただろう。


 ある日、行き場を失った出っ歯の盗人が、この廃墟を根城にし始めた。


 鐘だったものの残骸は、本当に久しぶりに、人間の気配を感じる。

 なんて懐かしいのだろう。


 その時だった。

 水脈の鐘をキラキラと光が包み始める。

 竜の夢の始まりだ。


 鐘の願いは、ただひとつ。


 あの日を。

 あの街を。

 あの思い出を。

 もう一度。

 もう一度―――



-------------------------------------------



   ぽ、ぽ、ぽつん、ぽつん、


 ユディがオカリナを吹き終わると同時に、街中から、あぶくのような光の泡が立ち昇り始める。

 夢が、醒め始めた。


 ぱちん、とあぶくがひとつ、はじけた。


『明日は晴れるかなあ?』


 同時に、ここにはいないはずの、誰かの声が響く。

 はじけたあとの空間には、白亜の街は見る影もなく、ゴツゴツとした瓦礫が横たわっていた。


   ぱちん。


『あの子にさ、告白するつもりなんだー』


   ぱちん。


『ねえねえお母さん、今日の晩ご飯ってなぁに?』



 その夢のような光景に、ユディもリコリネもリルハープも、茫然としていた。



   ぱちん。


『昼になったら秘密基地に集合な!』


   ぱちん。


『生まれたって? 男の子? 女の子?』



 ユディの頬を、すっと涙が伝う。

 さっきまで、あんなに憎んだ街だったはずなのに。

 胸が締め付けられるような光景だった。

 リルハープも、そしておそらくリコリネも、泣いているように見える。


 夢がはがれていく。

 無数の夢が、はじけて、はじけて。

 そして、最後の一個が、ぱちんと弾けた。


『また明日ね!』



   リーンゴーン、リーンゴーン―――



 応えるように鐘が鳴り…そして、ゴトンと廃墟の中に落ちる。

 見るとそれは、ただの汚い金属の塊でしかなかった。


 後に残ったのは瓦礫の山と、そしてユディたちを含めた幾人もの旅人たちが、茫洋とした表情で立ちすくんでいる。

 彼らの頬には、例外なく涙の跡があった。


 こうして大滝の街は、二度目の終焉を迎えた。



-------------------------------------------



 なにがなんだかわからない、といった様子の人々は、自然と水脈の鐘があった広場へと集まってきた。

 ユディは、この廃墟に居る全ての人が集まってきたのを確認すると、最初から丁寧に説明を始める。

 モノガリのこと、モノオモイのこと、そして彼らはそれに巻き込まれてしまったこと。

 半信半疑といった様子の旅人たちも、まだ夢の跡が胸の中に残っているようで、彼らなりの納得をしていく。


「つまり、もう数ヵ月は経っていて、私は行方不明者、そして届けるはずだった荷物は届かず、商売はダメになった…ということですか」


 荷車を引いてきた商人は、そう言って俯いた。

 ユディが、どう声をかけていいものかと悩んでいた時。

 宿屋役をやらされていた出っ歯のおじさんが、おずおずと声を出した。


「あの…。あっしらでこの街を復興することって…できねえんでやしょうか…?」


 場の全員が、驚いたようにおじさんを見る。

 おじさんは、萎縮するように頭を掻いた。


「へえ、お恥ずかしい事情にはなりますが…。あっしはデギーデジー。実は、日々の食べ物を盗むなどのケチな盗っ人をやっていて、この廃墟に辿り着いた身でさあ。根無し草のしょうもねー人生を細々と送っていたんでやすが…。この数ヵ月は、本当に心の落ち着いた日々を送ることができやした。上手く言えやせんが、『ふるさと』ってのは、こんなもんなのかと…生まれて初めての、感情で…」


 おじさんは、何かを思い出したのか、涙を抑えるように瞼を押さえる。

 黙って聞いていた、まだ若い旅人が、言葉を継いだ。


「俺もだ。自分探しの旅ってのかな、必死に打ち込めるような何かを探してさすらうだけの日々だったんだが、しばらく足を止めてみて、これだと感じた。この街は、人生をかけるに値する場所だと。もし復興をするんだったら、俺も力を貸そう」


 「オレも」「私も」と、人々はどんどんと名乗りを上げていく。

 人々は口々に、鍛冶の経験があるとか、実家が農家だとか、次々に役割分担をしていった。

 十人十色というが、人が集まるだけで、こんなにもやれることの幅が広がるものなのかと、ユディはひっそりと驚いていた。


 うつむいていた商人は、意気揚々と顔を上げた。


「これはいい! 新しい商売の気配がします、私も力を貸しましょう! みなさんは、『希望のキャラバン』というのをご存じでしょうか?」


 全員が、ハテナを浮かべて商人を見やる。


「我々商人には、独自の情報網がありましてね。聖女ネーヤラーナが、絶望に暮れた人々を集めて、キャラバンを率いているという話があるんです。その補佐をしているのが、私の知り合いの商人なのですが、これからの大所帯を見越して、どこか腰を落ち着けられるような土地の候補の情報を欲しておりました。新しくできる街となれば、何のシガラミもないでしょうし、うってつけかもしれません」


「え!!!?」


 突然湧いて出たネーヤラーナの近況を聞いて、ユディは思わず、小さく驚きの声を上げてしまった。


「なるほど、聖女に祭り上げる話を作ったのですね、実に商人らしいやり口です。ネーヤ殿本人が了承しているかどうかは怪しいですが」


 リコリネは小声でつぶやいた。

 そんな二人に気づかずに、商人は説明を続ける。


「うまく行けば、労働力を増やす部分については、クリアできるかもしれませんね。ひとまず連絡を取ってみましょう。ああ、それと大河の街の騎士団にも連絡を取らねばなりませんね、我々の無事を知らせておかねば。そうなると、二羽…でしょうかな」


 商人はおもむろに荷車を探ると、鳥籠を二つほどとり出して、籠を開ける。

 白い伝書鳥たちは、慣れた調子で商人の肩に止まった。

 商人は片手間に、サラサラと書簡を書き始める。


「すごい、懐いていますね!」


 ユディが鳥を見て思わず言うと、商人は手を止めずにワハハと笑った。


「幸い、私の受けた精霊の祝福は、誓約の精霊ウィブネラでしたからね。活用させてもらっております」


「えっ、誓約の精霊って、扱いが難しいって話じゃ?」


「ワッハッハ、坊ちゃんそりゃ若干古い情報ですな。最近になって、懐いている鳥などの動物を、自由に使役するような使い方が見つかったんですよ。おかげで訓練要らずです。言ったでしょう、我々商人には独自の情報網があると。まあ、これは買った情報ですがね。元は取った気分ですよ。ひょっとしたら将来的に、使役の精霊ウィブネラと呼ばれる日も来るかもしれませんな」


「なるほど、上位存在である精霊の力の借り方は、まだ謎が多いですからね。日々研究されているわけですか…」


 リコリネが、感心したような声を出した。

 同時に、商人は鳥を飛ばす。


 そして、出っ歯のおじさんを振り向いた。


「さて、デギーデジーさん。今日からあなたがこの街の代表者です。街の名前を付けてください」


「へえ!!?」


 デギーデジーは、あまりのことに、飛び上がるほど驚いた。

 しかし人々は、「当たり前だろう」とか、「アンタが居たから復興が始まるんだ」と添えて、背を押している。


 デギーデジーは、生まれて初めてのことに、顔を真っ赤にして、小さく呟いた。


「そ、そんじゃ…『希望の街』で…」


   わーー、ぱちぱちぱちぱち!


 全員が拍手をして、快諾した。

 デギーデジーは、急にやる気を出したのか、急いで言葉を付け足した。


「あ、あの、実はこの街、意外に自生している野菜があったりしたんで、案内しやしょうか!」


 商人は、にこやかに頷く。


「ああ、それはありがたいですね、なるほど、川の氾濫後には、種が運ばれてくるということでしょうか。私もこれからは物資の補給でしばらく他の街を行き来しましょう。その間、復興のための陣頭指揮を任せられる人がいるとありがたいのですが、デギーデジーさん、できますか?」


「も、もちろんでさあ! 胸を借りるつもりで、指揮させて貰いまさあ!」


   わーー、ぱちぱちぱちぱち!


 全員、快く祝福をした。

 リコリネが、スっと挙手をする。


「では、私がまず瓦礫を排除して、更地にすることから始めましょう。その他力仕事があれば、いくらでもお使いください。…主、十日程度はこの街へ滞在することになりますが、許していただけますか?」


 形式めいた質問に、ユディは笑ってしまった。


「もちろんだよって言うって、わかりきっているくせに!」


 復興への最初の一歩は、中央広場に火を焚いて、みんなで食事を作ることから始まった。

 空腹を忘れた日々が続いての、久しぶりの食事だ。

 みんな、笑顔だった。



 その日は作業はほどほどにして、一日のペースをなんとなく掴もうという話をしてから、各自で思い思いの寝床へと向かう。

 焚いた火はそのままに、その周囲で話し込む人の方が多い。


 ユディはリコリネに呼び出されて、川の傍へと向かった。

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