38大河の街
随分と歩いた。
潤の大陸に来てからは、数十日もかけての移動が当たり前になっている。
ユディたちは、他愛ないおしゃべりができる程度には、日常を取り戻していた。
「えっ、リコリネ、貝が嫌いだったの? でも、貝の村では食べてたよね?」
驚いた様に隣を見るユディに、リコリネは神妙に答えた。
「逆です、主。殻の中から、あのびろっとしたものが出てきて砂に潜るのを見た瞬間に、私はあの生き物が苦手になりました。味は平気なのですが…。どうやら私は、軟体を感じさせる生き物を、総じて不得手とするようです。爪の形を思わせるような貝はまだマシなのですが、特にあの細長い貝がダメです。あれはこの世の生き物ではありません」
「塩をまぶしたらぴゃっと出てくるって教えて貰ったアレですよね~~? リルちゃんは面白かったのですが~~」
リルハープは面白そうに、パタパタと飛んでいる。
「リルハープ殿はお心が広い。私も見習わねばなりませんね。そういう主の苦手なものは何でしょう?」
「僕は、推理系の物語が苦手ってわかったかなあ…。なんていうか、理由があって人を殺す話じゃなくって、人を殺す理由が欲しくて話を作っている感じが、ちょっと嫌だなって。あ、でも、物語本でも同じかな。理由があって戦いがあるんじゃなくって、戦いをしたいから理由を作ってるみたいなのは、苦手かも」
「なんとなくわかりますが、難しい問題ですね。私などは、戦闘の参考になるので、戦いのある本ばかりを読みたいとすら思っています」
「物語で言うと、リルちゃんは暑苦しい系が嫌ですね~~。涼やかなキラキラ系の話がいいです~~」
「前から思ってたけど、リルハープって結構本を読んでるよね?」
「ふふーん、リルちゃんは博識なんです~~!」
「…あっ、橋だ、吊り橋があるよ!」
初めて見るものに、ユディが歓声を上げた。
リコリネも目を向ける。
「本当ですね、さすが潤の大陸、川を渡る手段がこのように用意されているとは。しかし、ようやく人の手が入っているものを見られましたね。これは、街が近いと判断してよさそうです」
「それでは、街道を通る道を探しましょうか~~」
「そうだね。近くにあるといいんだけど…」
リルハープに頷くと、ユディは吊り橋を迂回するように歩き出す。
リコリネは戸惑った。
「お待ちください、なぜこの吊り橋を渡らないのですか?」
ユディとリルハープも、驚いたように振り返る。
「なぜって…」
「リコリネが渡ったら、重みで壊れてしまいますからね~~」
「!!!!」
全身鎧の中で、リコリネが並々ならぬ衝撃を受けたのが伝わってきた。
リコリネは、わなわなと震える手で、ぎゅっと拳をつくる。
「……れます」
「リコリネ?」
「渡れます!」
「待ってリコリネ!!?」
勢い任せに走ろうとしたリコリネを、ユディは羽交い絞めにして止める。
「いけませんリコリネ~~っ、それで吊り橋が落ちたときの方が精神的なショックになりますよ~~!?」
リルハープは、わたわたと心配しながらリコリネの心にトドメをさしている。
「お二人とも、なぜ落ちるという前提で話を進めているのですか! ご安心ください、私に案があります、右足が沈む前に左足を上げるのです!」
「リコリネが安心できても吊り橋が安心できないやつだよそれ! ちょっと吊り橋の気持ちを考えてあげて!?」
ユディとリルハープは、必死でリコリネを止める。
その日は、随分とそのことに時間を費やした。
ようやく大河の街が見えてきたのは、次の日の昼過ぎだった。
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「うわあ、やっとたどり着けたね…!」
街が見えた頃に、ユディは感無量といった声を出す。
「長かったですね~~、途中でユルブランテの小屋が無ければと思うと、ぞっとします~~…」
リルハープはそう言いながら、ちゃっちゃとユディの胸ポケットに潜り込んでいく。
「はい。かつて鳥車は懲り懲りと言いましたが、なかなかどうして再考を考えてしまう程度の距離でしたね」
リコリネはいつもの調子なので、言うほど疲れていないようにも見える。
「今回は、休憩の方も長くとっておきたいよね…あれっ、なんだろう?」
街の門番の二人がこっちを見ていた。
その片方が、とても嬉しそうに、こちらに手を振っている。
ユディは不思議そうに背後を振り返るが、自分たち以外の誰が居るわけでもない。
「リコリネの知り合いでもないよね?」
「はい。しかし、確かに私を見ていますね」
「なんでしょう~~、一目惚れでしょうか~~?」
「リルハープ殿、からかうのはおやめください」
そんな会話をしているうちに、大河の街へとたどり着いた。
門番の片方は、キラキラと目を輝かせて、リコリネにずいっと近づいてくる。
「圧殺鎧鬼のリコリネさんと、ユディさんですよね!」
「あっなるほど…」
その言葉で、ユディは大体の流れを理解した。
リコリネは戸惑っている。
「……こんなところにまで伝わってきているのですか?」
リコリネの問いに、門番は慌てて手を振った。
「い、いえ、違うっス! ジブン、ウェイスノー先輩から伝書を受けてて…!! 申し遅れました、騎士のジャンティオールと申しますっス! 新人なもので、普段は門番やってるっス!」
「そういえば、ウェイスノーさんがそういう話をしていましたね。ジャンティオールさんですか、よろしくおねがいします」
ユディがにこやかに笑いかけると、ジャンティオールは顔を赤らめて、背筋を伸ばした。
「い、いえ、ジブンに敬語など不要っス! どうぞ、ジャンとお呼びください! 話は聞いているので、街の案内はジブンがやることになってるっス!」
言いながら、ジャンティオールはもう一人の門番と視線を合わせる。
門番は、了解というように頷いた。
その様子に、リコリネは首を傾ぐ。
「案内を必要とするような、特殊な街ということでしょうか?」
ジャンティオールは、胸を張って満面の笑みを浮かべた。
「いえ、そういうわけではなく! 西側に渡るんスよね? リコリネさんの重量で街の吊り橋が破壊されるだろうから、ちゃんと荷物扱いで渡し船に乗せろと、あらかじめ先輩に命を受けているんス!」
「……………」
リコリネが黙り込んで、ユディは内心でかなり焦った。
ジャンティオールは気づかずに、にこにこしながら話を続ける。
「実物を見るまでそんなに重たい人なんているかどうかと半信半疑でしたが、これはジブンの予想以上の迫力でしたね! 一目見てわかったっス! やっぱりウェイ先輩は気が利く人っス!」
「いや僕からすると気が利かなすぎるけどね!?」
ユディは思わずそう言った。
「それにしても、お二人とも本当に徒歩でここまで来たんスね? 伝書が来たのはもう何ヵ月も前なので、先輩のイタズラか何かだったんじゃないかと思い始めていたところっス!」
「…えっ、もうそんなに経っていたの? うわあ、もう時間感覚とか全然なくなってるなあ…リコリネ、ひょっとしてもう何歳か年を取っていたりする?」
ユディは必死に話を逸らそうと、リコリネに話しかける。
リコリネは、プイっとそっぽを向いた。
「私は荷物ですので、話しかけられても喋れません」
「リコリネが拗ねてる…!」
珍しすぎて、ユディは大いにウケた。
「リコリネ、ほらほら怒らないで、渡し船に乗れるなんて特別な経験だよ、僕は楽しみだなあ…!」
「……だいたい主、年を取る、とはあまりにもひどい言い方ではないでしょうか。デリカシーが無さすぎます」
リコリネがムスっとしながら言葉を続ける。
ジャンティオールはにこにこしている。
「お二人とも、仲がいいんスね♪」
「結構自分の都合のいいように見るよね!?」
すべての元凶であるジャンティオールを、ユディは恨みがましく見てしまう。
リコリネはまだちょっと不満げだ。
「そもそも、私の鎧は特注品ですので、必ずしも吊り橋の板が抜けるとは限りません。みなさんはなぜ、試しもせずに決めつけるのでしょうか。納得がいきません」
「マサカリは絶対重たいよね!?」
「…そのぶん、私自身の体重は軽いのです」
言い張るリコリネを、ジャンティオールはまあまあと宥めた。
「まあまあ、吊り橋は叩いて渡れという言葉もあるっス、用心に越したことはありませんよ!」
「では、私が全力で叩いても大丈夫でしたら、渡ってもいいことになりますよね?」
「リコリネ早まらないで!」
ごねるリコリネを説得するのに、かなりの時間を要した。
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「いやあ、それにしても、賊退治の英雄とこうしてお話しできるなんて、光栄っス!」
ジャンティオールは、ざっと街の案内をしながら、憧れの視線をリコリネに向けている。
「ジャンは英雄に憧れているの?」
ユディの問いに、ジャンティオールは頬を赤らめて、頭を掻いた。
「はい。ジブン、失敗してばっかりなんで、かなり遠い話にはなるんスけど、憧れるだけならタダっスからね!」
「失敗って、騎士団に居て失敗することなんてある?」
「はい、お恥ずかしい限りっスが…。前に、川岸にドラゴンが上陸してきたことがあって。ジブンは住民に物凄い注意喚起をして、立ち向かったんス」
「ドラゴンが!?」
「いえ、正確には違ったんス。ただの、トカゲ型の巨獣でした…」
「ええ!? それもすごい大事件な気がするけど…」
「ところが、潮の流れか何かが影響して、たまに巨獣の島から生物が流れつくことはあるようで…ジブンは新人だったので、それを知らずに大騒ぎしてしまったってことになったんス。過去の事件簿に目を通しておけばそれも避けられたのに、ジブンはそこを怠ってしまって…。まだまだ精進が足りないと思ってるっス!」
「…いえ、そうともいえないでしょう」
しばらくだんまりを決め込んでいたリコリネが、ようやく口を開いた。
「逆に、本当にドラゴンだった時の場合の方が、惨事になっていたでしょうからね。ジャン殿の対応は、前例があるからと油断しない、良い判断だったと思います」
「! リコリネさん…!!」
ジャンティオールは、じーんとしながらリコリネを見ている。
「ジャン殿、自信をお持ちください。守り手にとって大事なのは、恥を恐れず、守るべきものを守ることにあります。多少大袈裟なくらいが何だというのでしょう。現にこの街は守られている。あなたの努力の賜物です。誰がどう言おうと、私はこれからのあなたを応援します」
ジャンティオールは涙ぐんで、目元をグイとぬぐった。
「そ、そんな風に優しい言葉をかけて貰ったのは、初めてっス。…あの、この街に居る間は、これからもリコリネさんにご指導いただいてもよろしいっスか…?」
「指導などと偉そうなことができるとは思えませんが、あなたの期待に応えられるように、精一杯の努力はいたしましょう」
リコリネは力強く頷いて、ジャンティオールはパっと顔を輝かせた。
「あ、あの、宿に着きました! この街は、東西の両方に宿があるんス。今日はこの東の宿にご滞在ください。明日、渡し船の手配ができましたら、迎えに行くっス。午後過ぎくらいになると思われますので、どうぞそれまではのんびりとお過ごしくださいっス!」
「………」
渡し船のくだりになると、とたんにリコリネが黙り込んだので、ユディが慌てて言葉を引き継ぐ。
「わ、わかったよ、ありがとう! ところでジャン、この街には今、賞金首はいるの?」
話を逸らすユディに、ジャンティオールは首を振る。
「いやあ、『殲滅のシグナディル』が通った後なんで、今は平和なものっスね」
不意打ちのような二つ名に、ユディは噴いてしまった。
「なんと…シグ殿にも二つ名があったのですね」
リコリネは素直に感銘を受けている。
ジャンティオールは、その反応に驚いた。
「お二人とも、あのシグナディルさんと知り合いなんスか!? やっぱ有名人は惹かれ合うんスね! すごいっスよねシグナディルさん、賞金首の活動を丁寧に潰していってくれたんで、たぶん当分の間、潤の大陸には賞金首は近寄らないと思うっス。あ、ただ、まだ皆殺しのキルゼムが捕まっていないので、相変わらず余所の街の欄に貼られた賞金首は減ってないっスね…。いや、そうだ、脱獄犯である、連続殺人鬼アーガラウはこの間減ったっス! リコリネさんが捕まえたそうっスね!」
「そうらしいですね、あまり記憶に残ってはいませんが」
「! か、かっこいいっス、ジブンもそういうセリフを言ってみたいっス…!!」
一層興奮度合いを深めるジャンティオールを見て、ユディは話に割り込んだ。
「ほらもー、話が進まないでしょ。ジャン、僕たち観光もしていきたいんだけど、この街って、西と東でそう大した違いはないってこと?」
「あー…そうっスね。どちらかというと、水門とかの機能的なものしかありませんから。旅人さんたちも、完全に通り道として認識してると思うっス」
「そっか…」
ちょっとがっかりしたユディを見て、ジャンティオールは少し慌てたようだった。
「あの、明日までに何かないか調べておくっス! それじゃ、今日はごゆっくりお休みください!」
さっと踵を返して駆け出すジャンティオールに、ユディは急いで手を振った。
「あ、うん、またねー!」
彼の背が見えなくなった頃に、リコリネがポツンと呟く。
「…無邪気な方でしたね」
「あははっ、そうだね。リコリネと同じくらい」
「とんでもありません。私は嘘にまみれております。では主、行きましょう」
「ええ…?」
問答の間も許さず、リコリネはすぐに宿屋に入って行った。
ユディは急いで追いかける。
背後には、夕暮れの明かり雪が降り始めていた。
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次の日。
宿で過ごすとき、リコリネは瞑想や日記や手紙の書き貯めという習慣がついているので、ユディは大体リルハープと遊んでいる。
「リルハープ、食べたい物とか、行きたい場所とかあるんだったら、今のうちに言うんだよ? お金とかは遠慮しなくていいんだからね?」
「ご主人サマ、日を追うごとにだんだんリルちゃんに甘くなっていませんか~~??」
リルハープは、しょうがないなあという顔で笑うだけだ。
コンコン、
唐突に、宿の扉がノックされて、リルハープはぴゃっとユディの胸ポケットに隠れた。
ユディは、「はーい」と言いながら、扉を開く。
「あれっ、ジャン、早いね? まだ午後になったばかりだよ」
「はい、早めに来て、街を案内しようと思い立ったっス! やっぱり騎士をやっていると、お客さんの泊まった部屋を聞いても怪しまれないからいいっスね!」
ジャンティオールは嬉しそうに笑う。
ユディも、釣られるようにふっと微笑んだ。
「ありがとう、じゃあリコリネを呼んで宿を引き払ってくるから、下で待っていてもらっていい?」
「もちろんっス!」
ジャンティオールは、いそいそと階段を降りて行った。
リコリネを呼びに行くと、既に全身鎧姿で、書きかけの日記をぱたんと閉じている。
本当に休息をとれているのだろうかと、ユディは心配になった。
「もういらっしゃったのですか…」
事情を聞いたリコリネは、嫌そうな反応をしている。
よっぽど荷物扱いが嫌なんだろうなあ、と思いつつ、ユディは嫌がるリコリネが可愛く見えて仕方がない。
自分はサディスティックなのかなあ、とちょっと思ったりもした。
「お待たせしました」
リコリネはそう言って、宿の前に居るジャンティオールと合流する。
ジャンティオールは、気を引き締めるように背筋を伸ばした。
「いえ、では、案内するっス!」
ジャンティオールは堂々と先陣を切り、前を歩き始める。
なぜか、川のある方向とは反対方向へと進んで行った。
「ここが、公園っス! 街の人の憩いの場っス!」
ジャンティオールはにこにこしながら、遊具のある小さな広場を示した。
ユディは興味津々だ。
「うわあ、こういうちゃんとした広場っぽい公園は初めて見るなあ…! ジャン、あの長い板切れみたいなのはどうやって遊ぶの?」
「あれはギッコンバッタンって遊具っス。ちょうど二人で遊ぶヤツっスから、お二人でやってみてはいかがっスか? 両側に座ればいいだけなんで!」
「へええ、面白そうだね、やろう、リコリネ!」
二人で向かい合わせになり、いそいそと座る。
ギッコンバッタンは、フル装備のリコリネ側に傾いたまま、ピクリとも動かない。
「…………」
「ジャン、ごめん他の場所に案内してもらっていいかな!!?」
ユディはさっとギッコンバッタンから降りた。
「はいっス! では次は、こちらにどうぞ!」
ジャンティオールは何事もなかったかのように、元気いっぱいに歩き出す。
そんなに歩かないうちに、道端にちょこんとした小さな石碑がある場所に案内された。
「これは、はじまりの石っス! 大河の街は、この石を中心に発展してきたっス!」
そこから、記念樹とか、有名人がかつて住んでいた家の跡とか、コメントに困る地味な場所ばかりを案内される。
確かにこの街は通り道という感じで、活況さには程遠いことから、観光名所があまりないんだろうなという感じはしていた。
それでも、ジャンティオールが一生懸命考えて案内してくれているんだなあというのが伝わってきて、ユディは微笑みながら相槌を打っていく。
「あそこは、中洲っス! 前はあそこにも建物が立っていたらしいんスが、一度大きな激流が来たことがあって、全部流されたとか。それ以来、中州に何かを建てる文化は廃れたらしいっス」
「なるほど、歴史を感じますね。…ジャン殿、あれは何の屋台ですか?」
なんだかんだで、研究者肌のリコリネは、ジャンティオールの案内を純粋に楽しんでいるようだ。
「あれは、焼きネモモの屋台っス! 結構おいしいんスよ、みんなで食べましょう!」
「ネモモ? うわあ、果物を焼くなんて面白いね…!」
ユディは興奮して、屋台に並ぶ。
屋台料理は作っていく行程が見られるのが楽しいので、ユディはそれだけでも屋台に並ぶ行為が気に入っている。
半分に割ったネモモの、真ん中にある大きな種をくりぬき、そこに砂糖と乳油を入れて焼いていく…という食べ物らしい。
「ネモモはこの街の名産だったんスけど、最初は全然甘くないし、味気のないハズレフルーツって思われてたそうっス。でも、焼くと甘みが増すっていうのが発見されてから、こういう料理の仕方が広まっていったとかいう話っス!」
「へええ、いつも思うんだけど、食べ物って、最初にこれを食べようと思った人は凄いなあって思うものが多々あるよね。これだって、ただの不味い食べ物で終わらせるんじゃなくって、美味しく食べられるように工夫していって…。やっぱり人間ってすごいなあ…あちち…!」
受け取った焼きネモモをお手玉しながら、ユディはその熱さも面白がるように笑った。
ジャンティオールは、屋台から離れながら、ちょっと涙ぐむようにしてユディを見る。
「あの…ユディさん、嬉しかったっス。自分でも、こんな場所を案内して喜ぶ人なんていないだろうなって、ちょっと思ってたっスから…。でも、お二人ともすごく楽しそうで、…リコリネさんに言われたからじゃなく、ちょっと自信がつきそうっス!」
そう言いながら、満面の笑みで、焼きネモモにかぶりついた。
「そうですね、ギッコンバッタンをやらせる必要性は全く感じませんでしたが、ジャン殿のおかげで楽しい時間を過ごせました。ありがとうございます」
リコリネはどさくさに紛れてさりげない抗議をしながらも、声音はとても柔らかかった。
ジャンティオールは、破顔する。
「はい…! それじゃ、船つき場に行きましょうか! 案内するっス!」
「…………」
「ほらリコリネ、不機嫌にならないの。ここの川って、基本的に濁流なんだね?」
ユディはリコリネの背を押しながら、ジャンティオールにせっせと話しかける。
「はい、流れが速いから、あまり澄んだ水面にはならないんスよね。ユディさん、足元に気を付けてくださいっス!」
「……水面が近いですね。ちょっと新鮮です」
対岸までの短い船旅に、リコリネはすぐに興味津々になった。
「リコリネさん、落ちないでくださいね、沈んでしまうっス!」
「………」
ジャンティオールが余計なことを言う癖は、直りそうもないようだ。




