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モノガリのユディ  作者: ササユリ ナツナ
第一章 ひとりめ
34/137

34漆黒のトゥルーブラックシャドウ

 ユトナシャンテは、今年で15になったばかりの、誇り高き海賊の娘だ。


 母親の顔は知らないが、船長である父からは真っ当な愛を受け続け、蝶よ花よと、一国の姫であるかのように育てられた。

 そして、父は娘を溺愛するからこそ、戦果以上に自分たちの身の安全を第一とし、無理なお勤めはせず、必ず娘の元へと戻ってきていた。


 ところが今回の航海に限って、父は一向に帰ってこない。

 何かあったのかと心配を始めた頃に、数名を欠いた海賊団の一員たちが、次々と海を泳いで帰ってきた。

 父もその中に居たのだが、別人と見まごうばかりに衰弱をしていた。

 そして彼は一言、こう告げた。


「もう、海賊家業からは、足を洗う」


「父上!?」


 ユトナシャンテの、まだ15年しか送っていない生涯の内で、もっともショッキングな言葉だった。

 彼女はいたわりを忘れたかのような荒い言葉で、父の決意を問いただす。

 父はうわごとのように、「鬼が…。鬼が出たんだ」と呟くばかりだ。


 心の折れてしまった海賊たちを介護しながら、ユトナシャンテは決意と共に立ち上がる。


「ならば、わらわが継ぐのじゃ! 未だ操船の技術も受け継いではおらぬわらわじゃが、それはジョブチェンジのチャンスでもあるのじゃ! 野郎ども、盗賊じゃ! 盗賊団に、鞍替えじゃ!」


「ユトナ様!?」

「お嬢!」


 ざわめく野郎衆を、ユトナシャンテは一喝する。


「たわけ! ここは盛り上がるところじゃ! 今日から盗賊団『漆黒のトゥルーブラックシャドウ』の結成じゃ! お前たちは父上が拾い集めた精鋭よ、何を臆することがあるのじゃ! 鬼など何匹来ようと、なんするものぞ! ものども、これを受け取れい!」


 ユトナシャンテは、いつか自分が海賊デビューする日のために作り置いておいた黒の眼帯を、ここぞとばかりに大量に取り出した。


「今回、海賊船に乗らず留守役を果たした5名の野郎ども、わらわの手足となり働けることを喜ぶがよいのじゃ! 呼ばれた者からこの眼帯を取りに来い、まずはわらわの腹心、オズルマズル!」


「応よ!」


 オズルマズルは、ユトナシャンテの父、フォルレガートの幼馴染だ。

 ユトナシャンテの母を取り合うなどの馬鹿をやっていたが、あるとき街の権力者にぬれぎぬを着せられ、街を出ることとなる。

 共に街を去る時、フォルレガートはのたまった。

 「だったら、街を、いいや、それよりでっかいあの海を、もっとスリリングな場所にしてやろうぜ! 高みでタカをくくっている鼻高々どもに、目にものを言わせてやろう!」

 その一言が、オズルマズルをこの道に引きずり込んだ。

 なお、この「黒き始まりの夜」、フォルレガートは目にものを言わせたが為に片目を失ってしまったが、今では二人の良い思い出となっている。




「次、サンサーティス!」


「ああ!」


 サンサーティスは、街の名士の三男だ。

 貧富の差が酷い街を何とかしようと努力をしたが、結局何もできなかった。

 貧民街を何度も訪れる彼は、家の恥と罵られ、親に勘当されてしまう。

 貧民街で路頭に迷っているとき、フォルレガートに出会った。

 「俺は、街にいられねぇヤツコレクターなのさ」

 月と宝箱を背負いながら笑うフォルレガートに惚れ込み、一員となる。




「次、ブッケファウザー!」


「はい」


 ブッケファウザーは、元はコンサティーナの奏者だったが、街の権力者に音楽をけなされ、指を折られてしまった。

 絶望の最中、身投げをした海で、海賊のお頭フォルレガートに拾われる。

 「死ぬくらいなら、俺のためにその命を使いな!」

 団の武闘派である三黒士が揃った瞬間だった。




「次、ドッパーラウ!」


「ひひひ…」


 連続殺人鬼アーガラウ。分解が趣味。それが彼の正体である。

 脱獄後にさっそく街の名士の子を分解していたときに、押し込みをして逃げる際中のオズルマズルに出会う。

 ばらされた子を前に、「誰がこんなことを…」とドッパーラウが誤魔化して見せると、「このままでは、お前もぬれぎぬをかけられるぞ!」と、オズルマズルに連れていかれた。

 今では海賊団を隠れ蓑に、裏で享楽殺人を続けている。




「最後に、スリーアンダー!」


「は、はい!」


 通称:サンシタのスリーアンダー。

 道に迷って、海賊団の暮らす隠れ家の洞窟に迷い込んだ。

 あまりのことに怯えながら「道迷ってここへ」と渇いた声を出した所、「血迷ってここへ」と勘違いされる。

 「ようこそあぶれ者たちの巣窟へ!」とフォルレガードに迎え入れられ、特に目的もなかったので今に至る。




 ユトナシャンテは、5人それぞれに黒の眼帯を渡す。


「オズルマズル、お前は腹心ゆえ、眼帯も二つじゃ!」


「ははーっ、ありがたき幸せ!」


 オズルマズルは、両の目に眼帯をつける。

 この眼帯には細かい穴が開いているので全く問題はなかった。


 ユトナシャンテは、扇を畳んで、ビシっと部下の一人であるサンサーティスに突き付ける。


「サンサーティス、お前の教養で、まずは貝の村を襲う段取りを考えよ! 盗賊団・漆黒のトゥルーブラックシャドウのデビュー戦じゃ!」


「かしこまりました!」



 かくしてサンサ―ティスの作戦は、つつがなく進められた。

 ブッケファウザー、ドッパーラウ、スリーアンダーの3名で、貝の村から子供を数人誘拐してきたのだ。


「子供たちを返してほしくば、一週間後までに金貨100枚を、指定の場所へ持ってこい。運び人は1名のみだ」


 そう、言い残して。


 そして一週間後。

 盗賊団・漆黒のトゥルーブラックシャドウの元に、運命のその日が訪れた―――。



-------------------------------------------



 取引場所は、見通しのいい原っぱだ。


   ガシャン、ガシャン―――


 疑いようもなく、一人の人間のシルエットが、遠くからゆらりと歩いてくる。

 妙に金属質な音を引き連れて。


 海賊フォルレガードは、一人娘ユトナシャンテのいじらしさを受けて、漂流時の疲労が回復したと同時に、この作戦に加担した。

 今やユトナシャンテの周囲には、元海賊の盗賊たちが配置され、その守りは鉄壁に思われた。


「!!!!?」


 しかし、近づいてくるシルエットの形が鮮明になるにつれて、喉にひきつれを起こしたような悲鳴を、数名が上げた。

 そして、海賊フォルレガードもその例外ではなかった。


「お、鬼だ!! ヤツが…ヤツが来た!! うわあああああ!!!」


 あの日、命からがらに泳ぎ着いた全員が、一目散にその場を逃げ出した。


「なっ!? お前達、父上!?」


 残ったのは、ユトナシャンテと5名の部下のみだ。

 困惑とともに、ユトナシャンテは目の前に立ちはだかるものに目を向ける。


 それは、マサカリを肩に担いだ、全身鎧の人間だ。

 その人間の周囲には、陽炎を思わせるような、赤いオーラがしんしんと立ち昇っている。


「くっ…!? おい、お前、そこで立ち止まるのじゃ! こちらには人質が居るのを忘れてはおらんじゃろうな!?」


 ユトナシャンテは、手にした扇で、背後の檻を示した。

 檻の中では、数人の子供たちが、与えられたお菓子に舌鼓を打っている。


 檻の傍にはブッケファウザー、ドッパーラウ、スリーアンダーが控えているが、船長たちが逃げ出したことに、内心では戸惑いを隠せず、全身鎧の人物からとても目が離せない。


 全身鎧は、ガシャンと足を止めた。


 ユトナシャンテ、両目眼帯のオズルマズル、作戦参謀のサンサーティスは、油断なく対峙しながらも、自分たちの優位を再確認して、胸を撫でおろした。

 ユトナシャンテは、ビシっと扇を全身鎧に突き付けた。


「お前、金貨100枚は持ってきたんじゃろうな!?」


「もちろんだ。取引に応じる姿勢でいる」


 思ったよりも凛と澄んだ声が返ってきたが、それどころではない。


「うそつけ!? 何じゃその今にも攻撃しそうな体勢は! オーラが出ておるではないか、オーラが! まずは武器を下ろすのじゃ!」


 焦ったようにまくし立てるユトナシャンテに、作戦参謀のサンサーティスはにやりと笑った。


「ユトナ様、あの色は、力の精霊ゴルドヴァの祝福でございますよ」


 ユトナシャンテはぱちくりと瞬きすると、サンサーティスの意図をすぐに理解し、にやりと笑い返した。

 ぱさりと扇を広げ、口元を隠す。


「おほほほ、ゴルドヴァ、ゴルドヴァ…ね。気が変わったのじゃ。おいお前、随分と自信ありげな立ち居振る舞いじゃが、試しにわらわに攻撃を仕掛けてみるがよいのじゃ」


「……?」


 その全身鎧の人間は、素直に首を傾げている。


「おほほほ、格の違いを見せてやろうというのじゃ! 精霊にも相性があるということを、目にもの見せてやろうぞ!」


 全身鎧は、思案気に武器を構える。


「…ふむ。ならば、20%程度の力で様子見と行こうか」


(なんかラスボスみたいなこと言い出した!?)


 愛読書のフェンネル英雄譚がちらつき、内心でユトナシャンテは焦ったが、おくびにも出さない。


「力の精霊、ゴルドヴァの祝福を―――!」


   ゴゴ、ゴゴゴゴゴゴ!!


 大気が震えはじめる。

 盗賊団員たちは、慌ててユトナシャンテの背後に移動した。


 てっきり襲い掛かってくるものと思っていたその全身鎧は、その場からピクリとも動かず、マサカリを掲げた。

 咄嗟に動物的な勘が働き、ユトナシャンテは、それが攻撃の前兆であると理解し、掛け声を発する。


「堅牢の精霊、ギグナアドよ―――!」


 ユトナシャンテの周囲を、暖かなオレンジ色の光が舞う。

 目の前に、バリアのような膜が張られたと同時に、カッと斬撃が飛んできた。


   ドオオオオオンッ!!!!


 爆発音に似た振動が腹の底に響き、ぶつかり合った力と力がはじけ、霧散し、乱暴な衝撃波を辺りに撒き散らした。


 ユトナシャンテが張り巡らせたバリアは、跡形もなく消えていた。


「ば、バカな!?」


 ユトナシャンテが受けた精霊の祝福の量は、かなり潤沢な方だった。

 大人が数人がかりで斬り付けてきても、このバリアが破れたりはしなかった。


 なのに、今、自分は無防備に、目の前の全身鎧と対峙している。

 いや、先程あの者はなんといった?

 20%…?

 では、全力を出されたら、どうなる…?


「うわああああん、うわーーん!!」


 檻に入っている子供たちが、恐怖で泣き始めた。

 全身鎧は、感心したように言葉を発する。


「なるほど、あれを防ぐか。これは面白い。では次は、80%の力でやらせてもらう」


「な…!?」


 ユトナシャンテは、目の前の全身鎧の心を折るために、先程の提案をしたはずだ。

 だが今、折られているのは、ユトナシャンテの心の方だった。

 がくがくと足が震え、驚愕で何も発せないでいる。

 そんなユトナシャンテの様子を見て、盗賊団の部下たちも、今何が起こっているかを悟った。


 ガシャリと無慈悲に、全身鎧はマサカリを掲げなおす。

 ユトナシャンテは、声を裏返した。


「ま、まて! 遊びは終わりじゃ! そこから少しでも動けば、人質を痛めつけるぞ!」


 「ぐわっ!?」「がはっ!」

 檻の方から、男たちのうめき声が聞こえた。

 何事かと振り向くと、軽薄な印象の若い騎士が、今しがた、鞘に納めたままの剣を振り切ったところだった。

 ブッケファウザー、ドッパーラウ、スリーアンダーの3人が既に倒れており、今まさにサンサーティスが打撃を受けて倒された。


「ほいほいっと。いやー、さっすが圧殺鎧鬼、注意を引き付けてくれて助かったぜ!」


「お嬢!」


   ガチィン!


 腹心のオズルマズルが、さらにユトナシャンテに向けて振るわれた一撃を、体を張って止める。

 男騎士と、オズルマズルの鍔迫り合いが始まる。


「お嬢、逃げてくだせえ!」


「し、しかし、オズルマズル!」


「船長のところへ! そんでいつか逆転の目を携えて、戻ってきて下せえ! 今は我慢の時だ!」


「くっ、わかった!」


 ユトナシャンテは駆け出そうとした、その足が数歩で止まる。

 父たちが逃げ出した方向から、線の細い青年が、なぜか本のページをめくりながら、ゆったりと歩いてきた。

 青年は、にっこりと微笑む。


「ウェイスノーさん、逃げ出した人たちには、みんな眠ってもらいました。しばらくは動けないでしょうから、今のうちに縛らないと」


「うわああああん、うわーーん!!」


 人質の子供たちはまだ泣いている。

 ユトナシャンテは、その泣き声に背を押されるように絶望し、ぺたんと座り込んだ。


   ガシャン、ガシャン―――


 背後に、あの鬼の足音が迫ってきている。

 コオオオ、と、鬼気迫る呼吸音すら聞こえる。


 ユトナシャンテは、大人しく項垂れた。


「降参じゃ……。投降する……」


「お嬢……」


 こうして、盗賊団・漆黒のトゥルーブラックシャドウの初陣は、敗北で幕を下ろしたのだった―――。



-------------------------------------------



「いやー、助かったぜお二人さん! まさかこんな簡単に片が付くなんてな!」


 ぐるぐる巻きにふん縛った盗賊団、そして海賊団の面々を、貝の村の若衆たちが、次々に鳥車の荷に乗せていく。

 それを背景にして、ウェイスノーはユディたちに、にこにこしながら話しかけている。


「リコリネって、妙に存在感と言うか、迫力があるから、注目を集めるにはもってこいだよね」


 ユディも、リコリネの活躍を我が事のように喜んでいる。


「いえ、ハッタリが効いたのが良かったのでしょう。実際には60%の力で相手をしていましたからね。相手がまだ経験の浅い、若い女性だからこそ効いたのでしょう。賭けでしたが」


 リコリネの言葉に、ウェイスノーが首を傾げた。


「…なあネーサン、もしあれで、あの子の力の使い方が未熟だったら…とかは考えなかったのか? 位置的に、人質ごとぶった切れる一撃だったと思うんだが…」


「……、……。賭けでしたが」


「うそだろ!!!?」


「いえいえ、しかしあのお頭の女性は、自分の力に自信があるようでしたからね。あの案を持ちかけてくる時点で堅牢の精霊だとわかっていましたし、今回は主のブーストの補助があったわけではありませんでしたし、もちろん上手く行くと信じていましたよ、もちろん」


「あぶねー、下手すりゃ俺の首が飛んでたってわけか…物理的な意味じゃなく」


 知らないうちに騎士団をやめさせられるピンチが訪れていた事実に、ウェイスノーは頭痛を抑えるように頭を押さえた。

 すぐに、気を取り直すように首を振る。


「ま、まあいいや! そんじゃこれ、身代金の金貨100枚な」


 それがそのまま盗賊団退治の報奨金となり、ジャラリとリコリネの手に手渡された。

 ユディは、まぶしそうにその袋を覗き込む。


「うわあ、やっぱり団ともなるとすごい額の賞金がかかるんですね?」


「そりゃなー。何故か余所の街の脱獄犯、連続殺人鬼アーガラウまで紛れてたしな。ちょっと意味がわからな過ぎて笑っちまったよ。本来ならこういった大事件には、きちっとした騎士団が派遣されて対処するんだが、俺一人で済んだからな、こっちとしてもいい具合の経費の節約になったんで、遠慮なく受け取ってくれよ!」


「ふむ…。しかしこのような大金を持ち歩くのは、いささか気が引けますね」


 悩むリコリネに、ユディが名案とばかりに笑いかけた。


「そうだリコリネ、家の方に仕送りしたいって話をしていたじゃない? この貝の村には郵送のシステムはないみたいだから、水の都に戻るウェイスノーさんに頼んで、そのまま仕送りして貰ったら?」


「それは名案ですね! ウェイスノー殿、お願いできますか?」


「おいおいおい!? 俺が途中で持ち逃げするって発想はないのか!?」


 驚愕するウェイスノーに、ユディはハっとした。


「そういえば、そうでしたね?」


「しかしウェイスノー殿なら、なんの問題もないのではないでしょうか? ではお願いします。送り先の住所はこちらになります。こんなこともあろうかと、あらかじめ手紙も書いておきました、これです」


 リコリネは淡々と、金貨袋と手紙をウェイスノーに渡す。

 ウェイスノーは、また頭を押さえた。


「あんたら、本当に危なっかしいな…!! いいか、俺は圧殺鎧鬼を敵に回したくねーから素直に言うことを聞くんであって、本当ならそんなに信用を置けるような間柄でもないからな!? 二度と他のヤツには頼むなよ!?」


「え…っ。僕はウェイスノーさんのことが結構好きですし、信用してますよ?」


「私もです」


 ウェイスノーは何かを言いたそうにしていたが、どう言えばいいかわからないように、もどかし気に口を動かすだけだった。


「騎士さーん、積み込みが終わりましたー! 何時でも出発できますよー!」


 貝の村の若衆が、ウェイスノーに手を振って、彼はハッと我に返る。


「あ、ああ、ちょっと待っててくれーー!」


 すぐにユディとリコリネに向き直った。


「そんじゃまあ、確かに預かるよ。お二人さんは、しばらく貝の村に滞在を?」


「ええと、ちょっと観光を終えたら、出発するつもりです。次は歩きで行くつもりなので、長くても一週間くらいの滞在かと」


 ユディの答えに、ウェイスノーは驚いた。


「歩き!? いや、まあ、やってやれねーことはないだろうが…!」


「鳥車は懲り懲りですからね、まさか数日じっとしながら運んでもらうのがあのように苦痛だとは…。アレに比べたら、まだ長距離を歩く方がマシです」


 リコリネが、しみじみと言っている。


「長距離って、そういや他の大陸から来たんだっけ、どこに行く予定なんだ?」


「海峡大橋に行きたいので、次は大滝の村だと思います」


 ユディの答えに、ウェイスノーは慌てて手を振った。


「いやいや!? 地理がわかってなさすぎだろ! あぶねー、聞いておいてよかった…! 確かに地図上ではそこが最短距離になるが、この潤の大陸は、途中を縦に横断する川で真っ二つに区切られちまってるんだよ。だから、大河の街は絶対に通らないとダメだ。西と東の両岸に分かれた街で、旅人はそこを渡って川を通るんだよ」


 ユディは慌てて、腰元に丸めた地図を取り出した。


「え…!? ということは、ここから西にまっすぐ行く…という感じであっていますか?」


「ああ、そんな感じだなー。ったく、盗賊団がどうのって話が無きゃ、俺が付いて行ってやりたいくらいだ…」


 ウェイスノーは、まだ心配そうにユディたちを見ている。


「いえいえ、これ以上ウェイスノー殿のお手を煩わせるわけにはいきません。どうかご心配なく、主は私がきちんと守ってみせますゆえ」


 ドンと鎧の上から胸を叩くリコリネを、ウェイスノーだけでなく、ユディも心配そうに見ている。


「ま、まあいいや、大河の街にも騎士団が居るから、ちゃんと困った時はそこを頼るんだぞ? 一応、一筆書いて、伝書鳥を詰め所に送っておくからさ。ああそれから、繁の大陸ほどじゃねーが、そこそこ樹が生い茂った地形があるから、マサカリで自然破壊しながら真っすぐ進むのはやめておいてくれよな?」


「ウェイスノーは私を破壊魔か何かと勘違いしていらっしゃいませんか…?」


 リコリネが、ちょっとムスっとしながら言った。

 ウェイスノーは、いつものように軽く笑いながら、鳥車の方へと向かい始める。


「まあまあ! 第一印象って大事だよなーってこった! そんじゃお二人さん、道中気をつけてなー! っと、そうだ」


 数歩進んでから、ウェイスノーはユディたちを振り返る。


「…俺も、あんたたちのこと、実はすげー気に入ってんだぜ。また近くに来たら立ち寄ってくれよ、歓迎するぜ! そんじゃな!」


 照れたような顔をして、ウェイスノーは鳥車に飛び乗った。


 ユディとリコリネは、顔を見合わせる。

 それから、二人で少しの間、笑い合った。

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