35貝の村
貝の村は、村にしては珍しく、宿屋があった。
なんでも干潟に潮干狩りに来る観光客が結構いるらしく、そのために需要があるという。
ユディたちは盗賊退治の功労者なので、無料で宿泊できることになった。
「ぷわ~~っ、やっと喋れます~~!」
リルハープは変な声を上げて、嬉しそうにパタパタと部屋の中を飛び回っている。
リコリネは、微笑ましげにその様子を目で追った。
「お疲れ様です、リルハープ殿。道中はずっとウェイスノー殿と一緒でしたからね。数日間も大っぴらに喋れなかったのは、初めてではありませんか?」
「そうですね~~、リコリネの水浴び休憩が無ければ、リルちゃん死んでました~~っ」
ユディは悩まし気に腕を組んだ。
「そうなると、やっぱりここからはずっと歩きの移動の方がよさそうだなあ。鳥車移動も、最初の方は楽しかったんだけどね。気になった景色があっても自分の意志で立ち止まれるわけじゃないし、僕もちょっとモヤっとしたよ…」
「ふふ、そうですね。やはり主は気に入った景色をぼんやりと眺めている姿が似合います。この貝の村にも、気に入るような景色があるといいですね」
「僕は貝掘りをしてみたいんだよ、明日やろうね!」
「はい、もちろんです。私もそれを楽しみにしています」
その日の夜は、夕食に大きな貝の焼き物が出てきたので、ユディは余った殻の方を貰う。
きれいに磨き上げて、リルハープの寝床を作ってあげようと、そう思った。
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次の日は朝から、攫われた子供たちの親がひっきりなしにお礼を言いに来て、なかなか外に出られなかった。
そして困ったことに、父親や母親たちは、常にその当時者たる子供を連れてきて、その子に直接礼を言わせようとしてくる。
しかしまだ幼い子供たちは、リコリネの全身鎧姿を見るたびにトラウマが刺激されるらしく、常に次のようになる。
「あ、あり、ありが…う、うああああ、うわあぁああああん!! うわあーーーーん!!!」
宿に子供たちの泣き声が響き渡る回数が増えるにつれ、リコリネが憔悴していく。
「私は……私は、あの子たちの心を、あんなにも傷つけてしまったのですね……」
「リコリネ、リコリネ大丈夫だよ、途中まではちゃんとお礼を言いたかったから、あの子たちもここまで来たわけだし…!! 悪いのは盗賊団だよ!」
「そうですよリコリネ~~、あと数年もすれば良い思い出として思い起こされるに違いありません~~! あの子たちが泣くのは今だけですよ~~!」
ユディとリルハープは、必死にリコリネを慰める。
午前中はそれで手いっぱいだった。
午後を過ぎると、しゅんとして元気をなくしたリコリネの手を引き、ユディは干潟にやってきた。
翡翠色の水面よりも、砂の方に目を向けるのは、なかなかない経験だった。
「ほらリコリネ、見てて、僕が大きいのを採るからね! リルハープ、君が言う場所を掘るから、どどんと言ってみて!」
リルハープは、ちょっと張り切った顔で、ひょこりとユディの胸ポケットから顔を出した。
「そうですね~~、リルちゃん、あのプツプツと穴が開いている砂の表面が気になります~~! きっと空気穴ですよ~~っ」
「よし、ここだね」
ユディは、クマデを恐る恐る土の中に埋めていく。
最初はそうしていたが、だんだんと慣れてきて、すぐにザクザクと乱暴に手を動かした。
「結構掘った気が…あ! 手応え!」
カツンとした手ごたえを感じると、乱雑に動かしていたクマデを止める。
「ご主人サマ、あれです~~!」
リルハープが目ざとく、土にまみれた貝の端っこを見つける。
ユディはそこから、慎重に手を使って掘り、一個の貝を取り出した。
「うわあ、やった! ちゃんと中身が詰まってる重さだ…! ほら、リコリネ」
リコリネは、ガントレットをつけたままの手で、貝を受け取った。
リコリネはじっとそれを見ているだけだが、ユディには、リコリネの感動が伝わってくるようだった。
「思ったよりも大きいのですね? しかし、不思議です。主は先程、そこそこ掘り進められました。つまり、この貝という生き物は、動くのですよね? 今は微動だにしていないようにしか見えませんが、自力で潜るということですか…」
リコリネは、ちょんちょんと貝をつついている。
ユディは、リコリネが元気を取り戻したようで、ほっとした。
「主、少し観察をしてみたいのですが、よろしいでしょうか?」
「あ、そうだね、僕もちょっと気になるし、やってみようよ!」
ユディはそう言いながら、掘った砂を撫でて平らにしていく。
リルハープも興味津々なようで、胸ポケットからググっと身を乗り出して、砂の上にチョンと置かれた貝に釘付けだ。
3人で、しばらくじっと貝を眺める。
「時に主、昨日はあまりの名案にすっかり失念しておりましたが、よくよく考えてみると、賞金の金貨100枚を、私が丸々貰ってしまったことになっていますよね?」
「…あれっ、そういえばそうなるね? でもほとんどリコリネの活躍みたいなものだし、いいんじゃないかな? 僕は旅が続けられる程度の資金があればそれで十分だし」
「というか、リコリネはあのお金を何に使うつもりなのですか~~?」
リコリネの言葉をきっかけに、ユディとリルハープの興味がそっちに移る。
「はい、色々と不測の事態に対する備えをしておいた方がいいかと思いまして。まず主の目的地が、惑乱の大陸と判明した場合ですね。あんな恐ろしい大陸に船を出す人が見つかるとは限りません。そのため、船を用意する手立てという選択肢の一つに、ガッディーロの方で、小型の船を建造、または買い取り整備、を行って貰う手はずを整えておく必要性を感じました」
「…え!?」
「いえいえ主、驚くのは早いです、まだ構想段階ですからね。もう一つは、私の鎧のことです。これは完全なオーダーメイドで、軽く、錆びない上に、熱や冷気にも強い金属でできております。念のため、予備の鎧を作ってもらう準備をしておこうかと。船の話は二の次で、どちらかと言うと、こちらの方が本題ですね」
「あ、ああ、だったら、自分のために使ってるってことだよね、ちょっと安心したような…?」
「すごいですね~~、金貨100枚の鎧ですか~~!」
「ふふ、100枚全部使いきるかはわかりませんが、余ったら船の方に回していただきましょう」
リコリネは、ちょっと自慢気だ。
「でもそうなると、これからもちょこちょこ仕送りした方がよさそうだね。ごめんリコリネ、そこまで頭が回っていなかったよ」
「いえ、私の方が主よりも、世の中に詳しいですからね! この役回りは当然と言えましょう。万事私にお任せください」
リコリネは、いつものようにドンと胸を叩く。
同時にリルハープが悲鳴を上げた。
「あ~~~!? い、いつの間にか、貝が潜ってます~~!?」
「ええ!? そんなに長く目を離したわけでもないのに…!?」
「これは…やはり興味深い。主、もっと掘りましょう。今度は数個の貝を置いて観察です」
その日は一日中、3人でじっと貝を眺めて過ごした。
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次の日は、村長さんの依頼で、海賊や盗賊の残党が居ないかを見回りすることになった。
「うわあ、海岸沿いに洞窟があるんだね…!」
ユディが、面白そうにその空洞を覗き込む。
確かに船が入りそうなくらい大きい。
「貝の村の住民も驚いたでしょうね。まさか世間を騒がせた海賊が、ここまで近くに居たというのですから。主、ここの足場の岩はゴツゴツしているので、転ばないようにお気を付けください」
「うん、わかって……」
返事の途中で、ユディはびっくりしたように洞窟の中に目を向ける。
「声が響いた!」
「ホントです~~、ちょっと面白いですね~~!」
リルハープが、洞窟の入り口近くの場所をパタパタと飛び回りながら、いつもよりも声を大きくして楽しんでいる。
リコリネは、思案気にそれを眺めた。
「…ふむ。奥に溜め込まれていた財宝などは回収されたという話ですし、私がさっと見に行くだけで事足りるでしょう。主とリルハープ殿は、そこで遊んでいてください」
リコリネはそう言うと、さっさと洞窟の中に入っていく。
ユディとリルハープは、顔を見合わせた。
「リコリネって、たまに気遣いの仕方がぶっきらぼうになるよね?」
「そうですね~~、飾り立てるのがあまり好きではないのでしょうね~~。リルちゃん的には、もうちょっと着飾ってもいい年頃ではあるのですが~~」
「あははっ、そういうリルハープだって、アクセサリとかに興味を示したことってないじゃない?」
「それは当然です~~、リルちゃんはこのままでも美しいのですから~~!」
腰に手を当てて胸を張るリルハープに、ユディは懐かしむような目を向けた。
「そういえば、僕の姉さんもそうだったな。男勝りっていうか、オシャレとかに全然興味が無くてさ。紅をさした大人を見たら、パンを食べると絶対口紅の味が移ってそうとか言ってたよ」
ユディがくすくすと笑っていると、リルハープは心配そうにユディを見上げた。
「す、すみません~~、思い出させてしまいましたか~~…?」
「…? どうして謝るの?」
「どうしてって…ご主人サマが言ってらしたのですよ~~? モノガリの里が、モノノリュウに滅ぼされたって~~…」
「………あ」
ユディは、口元を押さえて青褪めた。
「そうだった…。あんまりよく覚えてないから…いつの間にか、他人事みたいに……。そうだ、姉さんは、もう……」
リルハープは、戸惑うように羽を揺らした。
「……ご主人サマ~~。リルちゃん、どうしてもわからないことがあるのです~~…」
ユディはまだ青褪めたまま、リルハープに目を向ける。
「それを忘れていたということは、モノノリュウがカタキのように憎くて憎くて仕方がないから倒しに行く…というわけでは無いということになりますよね~~…?」
「……それは…」
「ですが、使命というだけで、ここまで旅をしてこられるものなのでしょうか~~? 決してやさしい道のりではありませんでしたのに~~…」
「…でも、…だって、僕にはそれしかないし、もうモノガリは、僕しかいないから。それに、モノオモイたちを放っておくわけにはいかない…」
「…ご主人サマが、ご自分の意志でそうされるのであれば、リルちゃんは文句もありませんし、反対する気もありません~~。旅をする行為自体に、悪感情はありませんからね~~っ。ですが、もし…。もし、何か、悪いものに、『誘われて』いるのであれば…リルちゃんは、ご主人サマを守るために、旅に反対しようと思います~~…」
「……、……わからないよ、リルハープ。わからない…何を言っているのか…。モノノリュウが目覚めてしまう前に、僕は、あれを倒さないとダメなんだ、そうしないと、世界がめちゃくちゃになってしまう」
「…そうですか~~、差し出口をしてしまいました~~。モノオモイをどうにかしなければならないという部分は、もちろんわかっているのですが~~…。それでもリルちゃんは、ご主人サマが他に幸せな道を見つけられるのなら、それが一番いいなと、そう思ってしまうのです~~。ご主人サマはぼんやりさんですからね~~、荒事には向いていませんので~~…」
「……? リルハープ、ひょっとして、心配してくれたの?」
「なっ、何を言っているのですか~~っ、調子に乗るような話ではありませんでしたよ~~!?」
「お待たせしました」
ガシャン、ガシャンと硬質な足音を立てて、リコリネが洞窟の奥から戻ってきた。
リルハープはホっとしたように、パタパタと飛んでリコリネの肩に乗りに行く。
「リコリネ~~っ、いかがでしたか~~?」
「はい、異常はありませんでした。残党はいないと判断して問題はないでしょう。…主、どうかされましたか?」
「…ううん、なんでもない。それじゃ、村まで帰ろうか。昨日はずっと観察して終わっちゃったけど、明日こそ、貝を採ろうね」
ユディは、気を取り直すように微笑んだ。
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そこから数日間、のんびりと過ごした。
ユディは宿屋のおかみさんから布の端切れを貰い、綺麗に磨き上げた二枚貝に布を取り付けて、リルハープのベッドを作り上げる。
サプライズで「じゃーん」と言って見せた時のリルハープの喜びようといったらなかった。
よくよく考えてみれば、リルハープにもリコリネにも、今まで贈り物をしたことがなかったので、当然の結果だったかもしれない。
しかし、リルハープはともかく、リコリネには何を贈ればいいだろうかと悩む。
やはりどうあっても、旅の邪魔になるものしか思いつかない。
アクセサリならどうだろうかとも思うのだが、リコリネはいつも全身鎧なので、それも邪魔かもしれない。
ならばもう直接お金でも渡すかとも思うのだが、彼女は嬉々として実家への仕送りにするだろう。
ある意味でリコリネは鉄壁だった。
「それじゃ、お世話になりました」
いつもよりもたっぷりと保存食を持って、宿屋を出る。
貝の村を後にしながら、リコリネが気合を入れた。
「いよいよ、長旅ですね。十二分に英気を養いましたので、どんとこいです。主、疲れたらいつでも言ってくださいね? 私が背負って差し上げますからね」
「ええ? そんなにハイペースな移動をする気なの? ゆっくり行こうよ…」
「リコリネ、ひょっとして退屈だったのですか~~?」
リルハープが、ユディの胸ポケットから顔を出しながらリコリネを窺う。
「いえいえ、そういうわけではないのですが、この、出発するときのテンションが上がる感じが好きなだけです」
「あははっ! それはちょっとわかるなあ」
ユディは思わず笑ってしまった。
それから、思い出したように付け足す。
「そうだリコリネ、今日からずっと、夜の見張りの前半は僕がやるって流れにしない?」
「…? 別にコダワリはありませんし、それはもちろん構わないのですが、なぜでしょう?」
「リコリネに贈り物がしたいなって思っていたんだけど、形がある物だと全然思いつかなくってさ。だから、毎日君が寝る前に、オカリナで曲を贈りたいなって思って。ほら、前に眠れなかったときに、おねだりしてきたことがあったじゃない?」
「……なぜわざわざ、おねだりという、恥ずかしい言い方を選ぶのですか……」
フルフェイスの中で、リコリネが何とも言えない感じの気配を発している。
「ええ? ごめん、別に恥ずかしいとは思わなかったよ。恥ずかしかったの?」
「聞き返さないでください。…そうですね、あなたはそういう人です」
「いいじゃありませんかリコリネ~~。リルちゃんもご主人サマのオカリナの音、好きですよ~~っ」
「それは…。もちろん、好きか嫌いかで言うと、私も好きですが」
「だったらいいじゃないか。毎日君に曲を贈るよ。どうかな?」
リコリネは、困ったように前を見て歩く。
しばらくして、はー、と大きなため息をついた。
「…ありがたく、受け取らせていただきます」
「あんまり嬉しくなさそうにしか見えないんだけど…!?」
「いえいえ、もちろん幸せを噛みしめておりますよ、もちろん」
「なにそれ!」
「主。曲の部分を、花に変えてみてください。あなたは無自覚すぎる」
リコリネはそっけなくそう言い終えると、スタスタと早足で先に進んでいった。
リルハープはユディの胸ポケットからパタパタ飛び出して、「リコリネったら~~!」と嬉しそうに追いかけて行った。
ユディは、きょとんとその後姿を見ている。
「毎日、花を…?」
しばらく、茫然と立ち尽くす。
「―――!」
ユディはパっと赤面した。
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確かに、潤の大陸は広かった。
普通ならようやく村か何かが見えてくるくらいには歩いたが、目の前に広がるのは、無慈悲なほどに人の手が入った様子が無い自然ばかりだ。
しかし、ユディたちは楽しく旅をしていた。
潤の大陸と言うだけあって、水源には困らなかったし、リルハープはすぐに果物や寝床を見つけてくれる。
ユディの音の精霊の力で、川の中で爆発音を鳴らせば、気絶した魚が浮いてくる。
食べ物にも体を洗う場所にも特に困らなかったが、リコリネの対応には若干困った。
「これが魚…ですか? 主、私を世間知らずと思ってからかうのはおやめください」
「え??」
「ライサス先生の家で買い出し係だった私は、よく知っているのです。魚とは、もっとこう…平べったい、こういう感じのものでした」
「……リコリネ、ひょっとして切り身がそのまま泳いでると思ってる…?」
リコリネのジェスチャーを見て、ユディもリルハープも、リコリネの世間知らずの重症度を思い知った。
しかしユディたちには、他の旅人よりも大きく有利な点が一点だけある。
体力の回復方法があるという点だ。
「<さあ、瞳を閉じてごらん。瞼の裏に虹がある。水晶の塔に迷路のバラ園。発光する歌だってあるだろう。意識をそちらに傾けると、体にまつわりついた日常は、ぱらぱらと音を立ててはがれていく。はがれたそれは、疲労という名を持つ邪魔者だ。次に目を開ける頃には、僕らのすべてが一新されているだろう>」
夜になると、精霊道具の本を開いて、ユディはいつものように音の精霊の奇跡を使う。
戯れのように散りばめる言葉の群れが、緑の燐光を伴って、ユディたちを包み込む。
「…ありがとうございます。やはり、素晴らしい力ですね。力の精霊の祝福は、あまり日常生活では役に立ちませんので、とても助かります。これならもう、あと10年くらい街に着かずとも平気です」
「リコリネは野生に還る気が満々ですね~~っ」
「リコリネはいちいち極端だよね?」
そう言って、笑い合った。
一体何十日、いや、何週間歩いただろうか。
「びっくりです~~っ、森の中なのに、ぽつんと小屋があります~~!」
先の方を見てきたリルハープが、ぴゅーんと戻ってきた。
「ええ? 街もないのに、小屋…?」
「俗にいう、世捨て人という者でしょうか…?」
ユディとリコリネが顔を見合わせる。
すぐにリコリネが、青い木々の隙間から覗く、翡翠色の空を見上げた。
「しかし、もうしばらくすれば夕暮れですからね、訪れるタイミング的にはちょうどいいように思います」
「そうだね。とりあえず、泊めて貰えるかどうかを聞いてみようか。人が居るんだよね?」
「はい~~、煙突から煙がもくもくでした~~っ」
リルハープは、ユディの胸ポケットに入る。
旅の間は隠れずに済む生活をしていたので、久しぶりの感触だ。
ユディはくすぐったそうに笑って、胸ポケットを優しく撫でた。
しばらく進むと、確かに森の中に小屋がある。
「なるほど、木こり用の小屋のようですね」
リコリネの言葉に、ユディが首を傾げた。
「その割には、周辺に切られてる木が一本もないよね?」
そんな雑談をしている最中だった。
カッ!!
小屋の中から、銀色の眩しい光が溢れ、そこらじゅうを包み込んだ。
「うわ!?」
「何事…!」
「びっくりしました~~!?」
リコリネが、ユディを守るように一歩前に出たまま、身構えている。
しかし、そこから何かが起こる気配がない。
「…なんだったんだろうね?」
「普通に考えれば、精霊の祝福の奇跡を使いでもしないと、あのような現象は起こらないと思われますが…」
リコリネの言葉に、ユディは首を傾げる。
「音は緑、力は赤、智は黄色、増進は青で……銀色の光を発する精霊なんていたっけ?」
「あまり見ない色ですよね~~。ですが今のところ、光っただけで、何かが起こったようには見えませんでしたね~~。リルちゃんたちが小屋の外に居るからでしょうけど~~…」
「うーーん…。とにかく、行ってみようか」
「そうですね、気になってしまったからには素通りなど不可能です。主はお下がりください」
研究者肌のリコリネが、小屋へと進んで行く。
ユディとリルハープは、少し後ろをついていきながら、リコリネの背を見守った。
コンコン、
リコリネが、小屋の扉をノックする。
「たのもう! 旅の者ですが、雨露をしのぐ屋根を提供して貰えるか否か、ご意見をお聞かせ願いたく参った次第です!」
リコリネの凛と澄んだ声が響き渡る。
しばらくして、「はいはーい」という男の声が、小屋の中から聞こえ、ガチャリと扉が開いた。
出てきたのは、優し気な印象をした、中年のメガネの男性だ。
「!?」
どうやら扉をたたいた人物の姿が、彼の想像していたものと大きく違っていたらしく、リコリネの全身鎧姿を見て、ぎょっとしている。
ユディにとってはすっかり見慣れた光景だったが、そういえば今までの旅で、全身鎧を着た人間なんて見たことが無い気がする。
シグナディルでさえ胸部を覆うプレートメイルをつけているくらいだったし、騎士団の人も軽鎧にマント姿だ。
ひょっとして、リコリネの格好は異常なのではないだろうか…と、ユディは今更気づいた。
その男性は、リコリネの後ろに控えたユディの姿を見て、ようやくほっと息をついた。
「あ、ああ、旅人さん、どうぞどうぞ、とりあえず中へ…」
意外なことに、ユディたちは優しく迎え入れられた。




