32ツトムくんとサチコちゃん
「あたしは、ツトムくんが好き……」
夢見るようにそうのたまう少女に、ユディたちは首を傾いだ。
「ツトム…? 聞き慣れない音の名ですね」
リコリネが、攻撃を仕掛けるタイミングを計りながら、あまりにもこちらを歯牙にかけない相手に困惑している。
「どのくらい好きかっていうと、もうツトムくん以外要らないって思ってるくらい。ツトムくんがやることならなんだって許せるの。あたしの生活の中心はツトムくんで、頭の中もツトムくんでいっぱい、ううん、こうして言語化すると全然伝わらない、でもあたしの好きが一番なのよぅ、どうしたら伝わるかしら…」
ブツブツと言い始めたピンク色の少女に、ユディは妙なざわめきを感じ、焦ったように精霊道具の本のページを開く。
リコリネは時間稼ぎのために、再度マサカリを掲げて、少女へと襲い掛かった。
ピンクの少女は、クレヨンでぐるぐる描かれただけの瞳を上げて、狂気じみた叫び声を出した。
「―――そうよ、この世界がすべて、ツトムくんになっちゃえばいいのに!!!」
ぶわっ!!!
少女を中心に、ピンク色のフィールドが広がる。
それは辺り一帯を包み、リコリネたちを強烈な違和感が包み込む。
「くっ、この程度で騎士の足を止められると思うな!」
そう叫ぶリコリネの足から、がくんと力が抜け、握りしめていたはずのツトムくんが、砂地に落ちる。
「……!?」
ぞわぞわと、めまいに似た感覚がリコリネを襲い、リコリネはたまらずツトムくんをついた。
「リコリネ!?」
切羽詰まったようなツトムくんの声が耳に届く。
何かがおかしいと思いながらも、リコリネは段々とツトムくんが苦しくなり、ツトムくんをおさえる。
「や、いや…っ」
「リルハープも、どうしたの、しっかりして!!?」
ツトムくんが駆け寄ってくるツトムくんがするが、もうツトムくんも発せず、ツトムくん。
ツトムくんにツトムくんられているツトムくんがするのだが、もうツトムくんではツトムくんできず、ただツトムくん。
「ご主人サマ、リルちゃんは耐えられますから、リコリネを…っ! このままじゃ、あの子は…!!」
「あ、ああああああああっ!!!」
リコリネはツトムくんきれずに、ツトムくんていたツトムくんを拾い、自分のツトムくんにツトムくんを当て、そのままツトムくんに―――!
ブシュッ!!
赤いツトムくんが舞い上がる。
一瞬、ツトムくんを取り戻した。
くらくらする目の前に、ユディの必死な顔が覗き込んでいる。
ユディは、リコリネが自分で首に当てたマサカリの刃を掴んでおり、手から血がしぶいている。
ユディはすぐに、優しい笑顔を向けてきた。
「<リコリネが向かうのは、眠りのほとり。ガラス瓶のコルクを初めて開けた時の、あの胸躍る感覚を思い出してごらん。そこから滴る水音が、耳の濁りを透明にするだろう。少しの間、眠っておいで>」
ユディは、トンとフルフェイスの額を指で押す。
「…ある……じ……」
ユディはそのまま、倒れ込むリコリネを受け止めると、そっと砂浜の上に寝かせる。
それから、胸ポケットの中で苦しそうな唸り声をあげるリルハープを包むように、手の平を当てた。
「リルハープ、あと少し我慢して」
「うふふふふ! ほらね、あたしの好きの方が、勝ったでしょ! やっぱりツトムくんは最高なのよぅ!」
ユディはそのピンクの少女には取り合わず、ハンカチを取り出し、怪我をした手の平に巻き付けて、口を使ってぎゅっとしばる。
雑な処置ですぐに血が滲んだが、ぴくりとも痛がらない。
「待っててねツトムくん、ツトムくんのステキなところ、あたし、もっともっと広めていくからね!」
「いい加減黙れよ」
ユディは、低く声を発した。
喉元まで、マグマのような怒りが込み上がっているのに、しかし頭の方は冷酷なまでに、冴え冴えと冷えていた。
「あら、見せつけちゃったかしら?」
ピンクの少女は頬を染め、ユディが無事であることに疑問符すら抱いてはいない。
自分以外はどうでもいいのだろう。
ユディは、立ち上がりながら、精霊道具の本をパタリと閉じた。
「お前は竜の夢に還れると思うなよ。この場でただ壊れるといい。だけど、残念だ。この手で狩ってやりたいのに。何の力も使う必要もなく、たった一言ですべてが終わるのだから」
ユディは、ゴミでも見るかのような視線で、目の前の少女を見据える。
「ああ…まだ足りないのよぅ。あたしの愛を証明したい。一日も早く、世界をツトム君でいっぱいにしたいのに!」
「ねえ」
ユディは言葉を遮るように、きつく言葉をさしはさんだ。
少女は初めてユディに気づいたように顔を向ける。
「なあに?」
「―――君の名前は、なんていうの?」
「……あたし?」
少女が人であったなら、ぱちくりと瞬きをするような間が空く。
「あたしはね、サっちゃん。本当は、サチコっていうの。……。……あ、……」
少女は口元に手を当て、きょとんとした。
「ダメよぅ。せかいのすべてを、ツトムくんにしなきゃダメなのに」
少女はくるりと、畳んだままの傘を回し、首元に当てた。
「サチコなんて、いらなかったわ」
少女は幸せそうな顔で、ブツリと自分の首を落とした。
血の一滴も出ずに、ゴロリと首が転がる。
次に手が、足が、結合力を失ったかのように、どんどんと千切れて落ちていく。
やがて、少女のすべてがほのかに発光し、ズタズタに引き裂かれた、ただの紙切れがその場に残った。
それだけで、すべてが終わった。
ユディはイライラを抑えきれずに、チっと舌打ちをする。
「勝手に暴れて勝手に苦しめて勝手に満足してサヨナラだって? ふざけるなよ! 呼ばれても居ないくせに!」
ユディは片足を上げ、その紙きれを踏みつけるために、勢い良く足を下ろした。
「ご主人サマ、いけません~~っ!」
リルハープが、とんでもない勢いで胸ポケットから飛び出して、その紙きれを庇うように両手を広げた。
「……っっ!!?」
ユディは、すんでのところで足を止める。
あと少しで、踏みつぶすところだった。
ユディは青褪めながらも、混乱した頭は怒りを助長するばかりだった。
「リルハープ、どうして!!」
足を退けると、リルハープの顔が見えた。
一歩も引かない、決意に満ちた顔だった。
「よく見てください、これはもう、ただのラブレターなんです~~…! リルちゃんは、すべての恋する女の子の味方なんですから~~!」
ユディは、ハっとしたように、今踏みつけようとしたものに目をやる。
『アルトクレハより』と、可愛い丸文字でそう書かれた、封筒の裏面だった。
「あ……」
「手紙に罪はありません~~…。きっとたくさんの気持ちを込めて、精一杯の勇気とともに、渡した手紙なんです~~…! どんな理由があろうと、部外者が踏みにじってはなりません~~!」
「……っ、……、こんな、…理不尽な未来が、待ってるとも、知らずに……」
ユディは、ぼろりと涙をこぼした。
リルハープは安心したのか、力が抜けたように、ポテっとその手紙の上に落ちた。
「! リルハープ!」
リルハープは、ハアハアと荒い息を上げている。
「だ、大丈夫です~~…すこし、やすめば……」
ユディは、手紙ごとリルハープを掬い上げる。
リルハープはそのまま、ぐったりと気絶した。
「……っ、くっ、宿に、急がなきゃ…!!」
ユディは胸ポケットにリルハープを手紙ごと大事にしまうと、精霊道具の本のページを開く。
「<ユディの体に、煮えるような熱が宿る。体の奥に仕舞い込まれていた力が溶けだしたかのように、どこまでも駆け抜けられるほどの力が湧いて出てきた>」
ユディの体を、淡い緑の燐光が包む。
グーパーと手を開いて力のみなぎりを確認すると、ユディはリコリネを軽々と抱き上げて、思い切り駆けだした。
瞬く間に階段を駆け上がり、宿に向けて一直線に走っていると、途中で見回りをしているウェイスノーと出会った。
「! やったのか!?」
ウェイスノーは慌てて駆け寄ってきて、眠り込んだリコリネとユディを見比べる。
ユディは、こわばった顔のまま、頷いた。
「はい、終わりました。どのみちこの子を休ませるために、しばらくこの街に滞在をする予定ですから、今後どうなるかの経過は観察できると思います。詳しい話はまた明日報告に行きますので、今は失礼します」
「わかった。…おい、怪我してるじゃないか!」
「この程度、どうということはありません。そうだ、リコリネの武器を、砂浜に残したままなんです。回収をお願いします。それじゃ」
ユディは、騎士を振り切るようにまた走り出す。
宿の女部屋に駆け込むと、そっとリコリネをベッドに横たえた。
鎧を脱がせようかどうしようかと悩んでいるところで、リコリネが小さな唸り声を上げた。
「う……」
「リコリネ! 目が覚めた? 調子はどう…?」
「あるじ…? …私は、どうして…。…そうだ、戦いはどうなりましたか!?」
リコリネはバッと起き上がり、ユディはぶつかりそうになった頭を慌てて引っ込めた。
怪我をしている手を背に隠し、優しく微笑みかける。
「大丈夫、終わったよ」
「そう…ですか。申し訳ありません、途中から、記憶があいまいで…。耐えきれないような何かがあったような、どんな手を使っても、そこから逃れたかったような…」
「リコリネ。いいんだよ、そんなことは思い出さなくて。それより、痛い所とかはない?」
「…はい。むしろひと眠りしたからでしょうか、快調です」
「よかった…! じゃあ、リルハープの世話を頼めるかな?」
ユディは、そっとリルハープを、リコリネの枕元に置く。
「! リルハープ殿まで! 主は、本当に何ともないのですか?」
おろおろしながらリルハープと見比べてくるリコリネに、ユディは頷いた。
「うん、どうやら精神的な攻撃は、僕には効かないみたいだね。モノガリだからなのか、僕の体質なのか何なのかは、よくわからないけど…まあどうでもいいよね。終わった話なんだから」
「……そうですか……」
リコリネは、しばらくじっと黙り込んだ。
「…では、まずは着替えから行いますので、主も部屋でゆっくりと休んでください」
「…わかった。それじゃあね。ちゃんと良い夢を見るんだよ?」
ユディはすぐに部屋を出ると、自分の部屋の鍵を開けて入り込む。
扉に背をもたれるようにして、長く息を吐いた。
どっと汗が噴きあがる。
心臓を押さえてみると、早鐘を打っていた。
「失いそうになるのが、こんなにもグチャグチャした気持ちになるだなんて……。使命よりも怒りを優先してしまうほどに…僕は、あの子たちを…」
怪我をした方の手の平を見る。
雑にまかれたハンカチからは、まだ血が滲んでいる。
「止血……して、それから……」
のろのろと、肩掛けカバンから治療道具を取り出すと、機械的な動きでそれらを行った。
そして、ベッドにうつぶせに倒れ込む。
頭の中がグルグルしていて、パンクしてしまいそうだった。
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コンココン、コンコンコン!
どのくらい倒れてしまっていたのだろうか。
小刻みなノックの音で、ユディは目を覚ました。
窓からは、日差しが差し込んでいる。
夜明けを見損ねてしまったな…と、どこか他人事のように思った。
すぐに、焦ったようなリコリネの声が続く。
「主、主! ウェイスノー殿がお見えになっております、いえ、それより、怪我をされていたと聞きました! 主、入りますよ? …! 鍵がかかってない…!」
ガチャリと音がして、全身鎧のリコリネが部屋に駆け込んでくる。
「……ん…リコリネ…おはよ……」
ユディは、もったりとした動きで、ベッドから起き上がる。
髪の毛もぐしゃぐしゃのまま、眠り足りない目をこすった。
リコリネはそのまま、つかつかと大股で歩み寄ってきて、乱暴にユディの手を掴んで引き寄せた。
包帯が乱雑に巻いてあることを確認すると、びくりと鎧が動く。
「……主は、刃物を持っていません。となると、まさか、これは、私…が…」
「うわっ、悪い悪い、まさか圧殺鎧鬼が怪我のことを知らないなんて思わなかったんだよ!! マジでメンゴ!」
もはや顔なじみになったウェイスノーが、両手を合わせながら部屋に入ってきた。
「……ん-ー……」
ユディはまだ目が開かない。
「リコリネのせいじゃない……平気だから……もうちょっと、寝るね……」
ユディは、だらりとリコリネに寄り掛かる。
「あ、主…!」
リコリネはかなり狼狽している。
ユディは、薄目を開けた。
「…じゃなくて…ちがった……リコリネ、胸ポケットに、手紙……あるから、渡して……」
「……、…は。かしこまりました。失礼します」
リコリネはすぐにユディの胸ポケットを探り、パズルのような状態になった手紙の残骸を取り出す。
今、この場に居るのはあと一人だけなので、リコリネはウェイスノーへとそれを渡した。
ウェイスノーは、ハテナを浮かべて受け取る。
「これは……? ……! アルトちゃん……」
ちょうど、差出人の名が見えて、ウェイスノーは言葉を詰まらせた。
「形見…になりますよね、どうか、ご両親に……」
言葉の途中で、ユディはすうと眠りについた。
ウェイスノーは、今更失ったものの実感が沸いてきたのか、少しだけ涙ぐんだ。
「そう…か。本当に、カタキをとってくれたんだな…。いや、すまなかった、今日の所の聴取はこれで十分だ。事件は終わったと、上に知らせてこよう」
「…かしこまりました。何かあれば、また後日ということで」
リコリネは、ユディを優しくベッドに横たえると、ウェイスノーに向けて礼をした。
「ああ、ありがとう。あんたたちのおかげだ。この街を守ってくれて、本当に感謝している。それでは、失礼する」
ウェイスノーからはいつもの軽い感じが失せ、真剣な顔で胸に手を当てた礼を向けると、部屋を出て行く。
リコリネも一度部屋を出ると、まだぐったりしているリルハープを大事に連れてきて、そっとユディの枕元に置いた。
「…落ち着け。できることを、やるしかない。看病を、しよう」
リコリネは自分に言い聞かせるように、後ろ向きな考えになりそうになるたびに、そう呟いた。
ぎゅっと、ユディの手を握りしめる。
それだけで、少し心が落ち着いた。
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ユディはいきなり、パチっと目が覚めた。
むくりと起き上がる。
手の平に視線を落とすと、適当に巻いたはずの包帯が、きちんと巻き直されている。
窓の外の月の傾きを見る限り、今は夜中だ。
窓に目を向けて、どうして目が覚めたのかがわかった。
リルハープが窓辺をふわりと飛んでいて、その影が自分の顔に当たったらしい。
リルハープはユディに気づくと、しー、と口元に指を当てて、ベッドの反対側を示した。
目を向けると、全身鎧のリコリネが、うつらうつらと舟を漕いでいる。
ユディは頷いてから、リルハープにそっと手を差し伸べる。
リルハープは、ゆっくりと羽を揺らし、ユディの手の平に降りてきた。
ユディは、小声で話しかける。
「調子はどう?」
「すっかり元気です~~、ご主人サマは?」
「僕も。リコリネには、心配かけちゃったみたいだね」
「そうですね~~、このまま放ってはおけませんが、起こすにも忍びなくて困っておりました~~。こうして話していれば、自然に目を覚ましてくれるかもしれませんね~~」
「いいアイデアだ。君の声は鈴のような音色だから、目覚ましにはぴったりだろうしね」
リルハープは、ちょっとくすぐったそうに笑った。
しかし、すぐに視線をうつむかせる。
「…ご主人サマ~~、先程…ではなく、昨日…? 昨日は咄嗟にご主人サマの行動を止めてしまいましたが、あれは、一度だけですからね~~…」
「…?」
ユディは首を傾げた。
リルハープは、気まずそうに言葉を続ける。
「次から同じことが起こっても、止めません~~。ご主人サマが、怒りのはけ口を、どこかにぶつけることで晴らすのを選択されるというのなら、リルちゃんは、それに従います~~。ご主人サマがどんな選択肢をお選びになっても、リルちゃんは、ご主人サマを嫌いになったりしないからです~~…。ですから、あれが、あの行動が悪であると、そう言いたかったわけでは無いのです~~…。どうか、気になさらないでくださいね…」
「…リルハープ…。…ありがとう。僕こそ怒鳴ってしまってごめんね。それから、止めてくれてよかったと、今では思うんだ」
リルハープは、顔を上げてユディを見る。
「ほら、樹上都市で、みんなでワイワイやってた頃。一度だけ、酔っぱらった人がお店の人に怒鳴ってる場面に出くわしちゃったじゃない? あれを思い出したんだ。僕が怒鳴られたわけでもないし、お店の人の方がよっぽど嫌な思いをしたはずなのに、見ている僕の方も、すごく嫌な気持ちになったんだ。あの時はシグさんが一喝して治まったけど…。怒りとか、そういう感情って、たぶん、どこかに一個だけ転がっていても、周りはなんだか嫌な気分になるものなんだなって…そう思って…」
ユディは、一度言葉を千切ってから、また話し始める。
「でも、自分ではやっぱり制御できない部分もあって、だから、リルハープが止めてくれてよかった。僕はあのまま、あのピンクの女の子だった残骸を踏みつけていたとしても、きっとスッキリしなかったと思う。それどころか、後悔していたかもしれない。ただ、君が、体を張って止めに来るのだけは、…勘弁してほしい。僕はもう、君やリコリネに何かがあったら、平静を保っていられなくなっているみたいなんだ」
「ご主人サマ……」
「なぜだろう。かつては君たちを犠牲にしてでも、使命を達成する方を選べていたはずなのに。僕は変わってしまった。なのにそれが全然怖くない。幸せだとすら感じる。君たちが大事だ。でも、モノノリュウを打ち倒す旅だけは、…どうしてもやめられない。矛盾だらけだ……」
「ご主人サマ、いいのですよ~~…。それはある意味、正常な人間だから起こりえる心の動きです~~。二律背反、なんて言葉があるくらいなのですから~~。現象があるから、それを表す言葉が生まれるのです~~」
「…そっか。じゃあ、自然なこと…?」
「ふっふーん、リルちゃんを何だと思っているのですか~~、大自然から発生した妖精ですよ~~! そのリルちゃんがおすみをつけて差し上げます、ご主人サマは、とても人間らしい悩みを抱えているだけなのですよ~~っ。譲れない部分は誰にだってあるのですから、折り合いをつければいいだけです~~!」
「…同意します」
いきなり、別の声が割り込んできた。
リコリネが、いつの間にか目を覚ましていた。
「申し訳ありません、このようなところで寝てしまうとは、お恥ずかしい限りです」
「あ、リコリネ、おはよう」
「リコリネ~~!」
リルハープがリコリネの方に飛んで行き、甲冑の肩に乗った。
リコリネからは、ほのかに笑う気配がする。
「お二人とも、お元気そうで何よりです」
ユディも、微笑み返した。
「…折り合いのつけかたになるかはわからないけどね。実はもう、決めていることがあるんだ」
リコリネとリルハープが、ユディの方に目を向ける。
「あのさ。モノノリュウのところへ行く旅は、やめない。でも、急がずゆっくりと旅をしてみようかなって。リルハープが熱を出した頃から、うっすらと決めていたんだ。一気にバーッと頭の中に詰め込むみたいな旅はやめようって」
「…それは、ステキな考え方ですね」
「まあ~~、のんびり屋さんのご主人サマが、いまさら何を言うのですか~~っ。わざわざそう言わずとも、そうなることは容易に予想できていましたから~~!」
「む……。リルハープはちょっと元気がないくらいが可愛いな」
ユディは、拗ねたようにそう言った。
「…ふふ。主、差し当たって、何かアイデアはあるのですか?」
リコリネの言葉に、ユディは自慢げに胸を張る。
「それはもちろん、観光とか! 明日、ウェイスノーさんに聞きに行こうよ、観光名所!」
「思った以上に普通のアイデアですね~~、リコリネくらい奇抜なところを入れてこないと、マンネリになりますよ~~っ」
「お待ちくださいリルハープ殿。私はいたって普通人です。異常者は主です」
「言い方!?」
そう言って、3人で笑い合う。
なんだかそれが、久しぶりに感じた。




