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モノガリのユディ  作者: ササユリ ナツナ
第一章 ひとりめ
29/137

29海賊狩り

「まったく、信じられません~~、絶対必要のなかったロスタイムですから~~っ!」


 三日後。

 リルハープはすっかり元気になって、キイキイと怒りながら、元気に前を飛んで行く。

 ユディは嬉しくて嬉しくて、どんなに悪態をつかれても、にこにこしていた。


「まあまあ。前向きに考えようよ、リルハープ。そのおかげで見える景色とか、あるかもしれないじゃない?」


「そうです、リルハープ殿。それに私には、次の宿場町で欲しいものができました。すぐに出航、という流れでしたら、買い逃してしまうでしょう」


 リコリネも意気揚々として言葉を続ける。

 リルハープは驚いたように瞬きをして、興味深げにパタパタとリコリネの方に戻ってくる。


「珍しいですね~~、リコリネに欲しいものができるなんて、どんなモーニングスターですか~~?」


「む……。リルハープ殿は、私を戦闘狂か何かと勘違いしていらっしゃるようだ。日記帳です。とても分厚いものを買います。多少荷物になるかもしれませんが、私も記憶の整理をしてみようかと思ったのです」


「へええ、ライサスさんに筆不精とまで言われてたのに、三日坊主にならない?」


 ユディの問いに、リコリネは思い出したようにハッとする。


「そうでした、宿場町では手紙も書きましょう…!! ひょっとして滞在期間が長ければ、返事も期待できるかもしれませんね。そういった意味では、やはりロスタイムではないのです、リルハープ殿」


「リコリネ、今ライサスの存在を忘れていませんでしたか~~…?」


「これは異な事をおっしゃる。恩師の存在を忘れようはずがありません……よ」


「リコリネ、視線をそらしているけど…?」


 街道を歩きながら、3人で笑い合う。


「…リルハープ、本当に元気になってよかった…!!」


 ユディは数分歩くごとに、リルハープを捕まえてはぎゅっと抱きしめる。


「むぐ!? や、やめてください~~!?」


 リルハープは死ぬほど鬱陶しい、というふうにふるまうように努めたが、顔はくすぐったくて仕方がない表情になってしまう。

 一時はどうなることかと思ったが、ようやく日常が戻ってきたという感じで、ユディは幸せだった。



-------------------------------------------



 数日かけて、小さな港に併設された宿場町にたどり着くと、やはり船は一週間ほど前に出たばかりだという話だった。

 「三日前に出たと聞かされなかったので、かえってよかったです~~」と、リルハープは胸をなでおろしている。


 リコリネは宣言通り日記帳を買いに行き、ユディは船のチケットを押さえに行った。

 樹上都市でしこたま溜め込んだのが功を奏して、路銀が足りなくなるということもなく、待ち時間の3週間も余裕で過ごせそうだ。

 リコリネと合流すると、ついでのように情報収集にも手を付ける。

 ちょうど、大陸を渡る商人と話す機会があった。


「海賊…ですか?」


「ああ、そうなんだ。最近、この海域を騒がせているらしくって…船のチケット代、結構しただろう? 船便も月に2本あったものが1本になってしまって、そのうえ割高になってね…。こっちも困っているんだ」


「なるほど、盗賊に出会わずに、まず海賊と出会う可能性が出てくるとは。人生どうなるかわからないものですね」


 リコリネが、ちょっとうきうきしているように見える。


「リコリネ、嬉しそうだね?」


「はいっ、退治しましょうね、退治」


「買い物の時よりも嬉しそうで、僕はちょっと戸惑っているよ…」


 そんなことを話していると、商人が食いつくように身を寄せてきた。


「おお、これは頼もしい! 確かに見た目からして強そうだ! では、船主に護衛の名乗りをするといい、きっとチケット代の痛手も解消される! 実は船主にコネがあるんだ、紹介をしよう!」


「え…いいんですか?」


「もちろんだとも! こちらとしても頼もしい腕利きを紹介するのだからな、船主から気持ちばかりの紹介料は貰えるわけだ」


 そう言って、片目をつむってくる。

 商人とは、ちゃっかりした生き物らしい。


「それじゃ早速、連絡用の伝書鳥を飛ばして来よう。相手は船の上だからな。名前を窺ってもいいかな?」


「ユディです、こちらは、リコリネ」


「あなたの面子を潰さないように、尽力する所存です」


 リコリネは、胸に手を当てて、きっちりと一礼を向けた。


「ふむ、旅人さんにしてはしっかりとしている方々だ。船旅は初めてかい?」


「「はい」」


 二人で同時に答えた。


「ははは、仲がいいな。では基本的な流れを説明しよう。出航は3週間後になってはいるが、船自体が帰ってくるのは2週間後になる。間の1週間で、船員の休息や荷運びなどをやる必要があるからな。君たちをキチンと紹介できるのは、2週間後ということになる。宿はもう決まっているか?」


「…あ、そういえばまだでした。船のチケットが売り切れたら困ると思って、急いでしまって」


「ではこちらの部屋番号を伝えておく方が早そうだ。203だ。わからないことがあれば、またいつでも来てくれ。そして2週間後には必ず顔を出してくれると助かる」


「わかりました、ありがとうございます」


「いやいや、こちらこそ。それじゃあな」


 去って行く商人を見来ると、ユディとリコリネは、胸ポケットのリルハープを窺う。


「大丈夫です~~、嘘のにおいはしませんでした~~っ」


「さすがです。リルハープ殿のその能力は、旅の中では一番心強いですね」


「もっと褒めてください~~!」


 そこから2週間は、思い思いに過ごすことにした。

 意外にもリコリネは、宿の部屋に籠りきり、しきりに日記や手紙を書き続けた。

 ついでにガッディーロの家の方にも手紙を送ることにしたようだ。

 夕食のときは顔を合わせるのだが、ユディはつい質問をする。


「リコリネ、飽きない?」


「こういうものは書ける時に書くに限ります、書き貯めているのです」


「日記とか手紙って、そういうものじゃないよね!?」


 リコリネのマイペースさは、健在なようだった。


「そういえば、主の方は、先生に手紙を書いたりはしないのですか?」


「それはちょっと考えたけど、でもモノノリュウを倒したら帰ってきます、って宣言して出て行ったんだよ? のほほんと手紙を書いたら、ちょっとカッコ悪くない?」


「……ちょっとよくわからない感覚ですね。しかし、主もかっこよさにこだわることがあるのですね、その辺りはやはり男の方という感じがします」


「海賊退治に目を輝かせるリコリネに比べたら、霞むくらいのかっこよさだろうけどね?」


「ふふ、バンバン退治しますよ。実は色々あったことで、ストレスが溜まっているのです」


「うわあ、そのストレスの半分は僕のせいだろうと思うと、止めにくいな…怪我は無しだよ?」


「お任せください。主と私が揃えば百戦無双だということを証明して見せます。イメージトレーニングで100人は切り捨てましたよ!」


 リコリネが、かつてなく生き生きとしている。




 ユディの方は、毎日のように、船着き場の傍にある砂浜から海を見て過ごしていた。


「ご主人サマ、毎日毎日よく飽きませんね~~」


「だってほら、波、勝手に寄せては返してきてるんだよ? 面白くない?」


「リルちゃんは、もっとアグレッシブな絡み方の方が好きですね~~、波打ち際ギリギリまで行って逃げるとか~~」


「欠けてない貝殻探しの方が楽しいと思うけどなあ。さ、リルハープ、そろそろ欲しいものは思いついた? 熱に打ち勝ったお祝いなんだから、なんだって買ってあげるからね!」


「ご、ご主人サマは大袈裟です~~っ、最近ではリルちゃんが喋るだけで嬉しそうで、その安上がりさに戸惑います~~…!」


 なんだかんだで、リルハープと毎日楽しく過ごしていく。

 リコリネの方も、ちゃんと手紙の返事が速達で返ってきて、満足げだ。

 こうした静かな時間を過ごすのも悪くないな…と、ユディは日々を噛み締めた。



-------------------------------------------



「すごいすごい、足元がふわふわするね!」


 出航初日。

 ユディは初めての定期船の乗り心地に興奮していたが、リコリネは「足の踏ん張り方を助言して貰ってきます」と言って、船長室の方に行ってしまった。


「リコリネ、戦う気満々すぎます~~…」


 リルハープが、胸ポケットからひょこりと顔を出して、ちょっと心配そうだ。


「うん…でも、あの様子なら大丈夫なんじゃないかな? よっぽどのことが無い限り、負けそうにないし」


「ご主人サマはぼんやりさんなんですから~~っ、リルちゃんが心配しているのは、そっちじゃありません~~! 海賊に必ず遭遇するとは限らないのを、あの子はすっかり失念しています~~!」


「……、……本当だ!!?」


 ユディは思わずリコリネを見た。

 ちょうど、船室へと入っていくところだった。

 もしストレスを発散できる相手が現れなかったとき、彼女の意気消沈ぶりはどれほどだろうか。


「……リルハープ。僕は生まれて初めて、船が海賊に襲われますようにって願うよ…」


「リルちゃんもです~~…」


 こんな複雑な気分もなかなかなかった。




 しかし、航海は順調に半分以上の行程を進んでしまった。

 船長はすっかり上機嫌で、葉巻を咥えながら、リコリネの肩を叩く。


「いやあ、リコリネ嬢ちゃんのおかげで力仕事がはかどったと、船員からも好評だ! あと数日の船旅だが、今回も何事もなく終わりそうだ。やはり護衛が居ると居ないとでは安心感が違うな! このご時世、なかなか護衛がつかまらんのだよ。次もお願いしたいくらいだ、がっはっは!」


「そう……ですか……」


 案の定、リコリネはしょんもりと俯いている。


「リコリネ、誰も怪我しないで済むなら、その方がいいよ…!」

「そうです~~、リルちゃんも、荒事は苦手ですし~~っ」


 ユディとリルハープは、必死でリコリネを慰める。

 だからこそ、次の日の昼食後すぐにマストの上から見張りの叫び声がしたとき、リコリネは見たことが無いくらい俊敏に駆け出した。

 とても全身鎧を着ている動きとは思えない。


「大変だ、海賊だ、海賊が出たぞーー!!」


 伝声管からも声が伝わって来た時には、もはやリコリネは甲板の上だ。

 ユディは慌ててリコリネを追いかけた。


「り、リコリネ…!」


 ユディが甲板にたどり着いた時には、リコリネは船の舳先の方に行き、堂々と眼前を見据えている。

 ちょうど、遠くの方から歌が響いてきたところだった。



   ヨー、ホー、ヨー、ホー

   俺たちゃ海賊、奪い取れ

   お宝求めて、西東

   酒より赤い、血がたぎる



 どうやらこの定期船の見張りは優秀なようで、まだまだ海賊船とは距離がある。

 ドクロのマークをはためかせながら、我が物顔で海を進む姿に、船客たちは悲鳴を上げて船室へと引きこもり、定期船の船員たちはバタバタと忙しく甲板を駆け回っている。

 そのうちの一名を、リコリネが呼び止めた。


「船員殿、我が一撃と同時に、大きく舵を切るようにと、船長殿にお伝えください。崩落に巻き込まれるといけませんからね」


「ほ、崩落…? よくわからんが、了解した!」


 それと同時に、はるか向こうの海賊船から、朗々たる男の声が響き渡った。



「そこの船、ひれ伏せひれ伏せ、大人しく! そうすりゃ命は奪わねえ! ここらは俺らの管轄だ、通行料を、置いてきなーっ!」



「さて、では主、我らの必殺技を撃ちましょう、コンビネーションですよ、コンビネーション」


 リコリネは海賊の言葉には見向きもせず、マイペースに背負っているマサカリを抜き放ち、ガシャンと硬質な音を立てて身構える。

 姿勢は低く、足は開いて踏ん張り、マサカリは大きく振りかぶっている。


「こらリコリネ、そんなに嬉しそうにして、不謹慎だよ」


 ユディは軽くメッと叱りながら、リコリネの背後で、ぱらりと精霊道具の本をめくる。

 それから静かに呼吸を整え、集中力を高めた表情で顔を上げた。


「<それはまるで、新緑を飾る青あらし。リコリネが掲げる冷たい刃の元へ、世界が力を貸すようだった。この場にあるあらゆる力がそこへと集い、リコリネの力となる。リコリネが呼吸を重ねるたびに、その体には命が満ち、まるでこの広い海原が、一人分の世界のように感じるほどだ。今、彼女は何だってできる。望むなら、海を割ることですら!>」


 ふわりと、緑の燐光が漂った。

 それと同時に、ユディの力が吸われていくかのような感覚。

 しかし、その淡い光を瞬く間にかき消すように、リコリネに強く、まぶしい光が集い始める。


 リコリネは、確かめるようにマサカリの柄を握りなおし、待ちわびたように、フルフェイスの奥で笑った。


「―――力の精霊ゴルドヴァの祝福を!!!」


   ドンッ!!!


 上書きされるように、リコリネに集った光の色が、赤く染まっていく。

 大気が乱れた。

 ユディは目を開けていられないほどの風の中、片腕で顔を覆う。

 ギチギチ、ギチギチと、溜めに溜め込まれた力の音が、伝わってくるようだった。


 海賊の棟梁らしき男が、何かを叫んでいるようだが、もはや聞き取れない。


「ハアアアアアアアアアアッッッ!!!!」


 リコリネは、溜めに溜めた力を、一気に振りぬいた。

 まだ、海賊船までは距離がある。

 しかし、リコリネの一撃から生まれた衝撃波は、距離などものともしなかった。


 一拍の間が空く。

 次の瞬間。


   ガアアアアアアンッ!!!


 海賊船が、真っ二つに割れた。

 海賊たちも、まさか攻撃が飛んでくるとは思わなかったのだろう。

 いや、そもそも船自体を攻撃されることを想像した者など、一人もいないだろう。


 本能的に危機を察して衝撃波の直撃は避けたようだが、彼らは困惑の後に、絶望を浮かべた。


   ドゴオオオンッ!!!


 海賊船の倉庫辺りから、爆発が起きたのだ。


「火薬も積んでいたのですか~~、同情の余地はありませんね~~…」


 暴風の中でリルハープは、目の前で起きたマサカリ両断事件を、遠い目で見つめている。

 海賊たちは、沈みゆく船の板に引っかかったり、帆が水に落ちた衝撃の余波を受けたりと、泳ぐのも一苦労のようだ。


 リコリネは、力を出し切った余韻を味わいつくすと、マサカリを肩に担ぎなおした。


「ああ……スッキリしました……」


 そのままふらりと後ろに倒れそうになったのを、ユディが慌てて支える。


「リコリネ…! 待ってて、今回復を…!」


「いえ、大丈夫です、心地よい疲れです。主もお疲れでしょうし、余力は残しておいてください。万が一を考えると、海賊がこちらの船に上がってくるとも限りませんからね」


 リコリネは、疲労は濃いようだが、声音はとても上機嫌だ。


 しばらく経って、定期船の船体が、破壊の脇を逸れるように進み始める。

 リコリネの言う通りに舵を切ったようだが、このタイムラグを考えると、しばらく船長は唖然としていたんだろうな、とユディは彼の心境を案じた。


 海賊船の残骸が、遠のいていく。

 幸いにも、彼らは自分の命をつなぐので精いっぱいらしく、こちらに向かって泳いでくる気配は無い。

 リコリネも、ユディに支えて貰いながら、それを確認していた。


「……一安心ですね。生まれて初めて、10割全ての力を出し切りました。条件がそろっていましたからね。反撃をされる可能性は低く、全力を出し切っても主に被害が及ばない…などという条件は、海の上にしかありませんでした」


「…そっか。力を抑えて生きていくっていうのも、なかなかストレスが溜まるんだろうなあ」


 この旅でわかったのだが、普通の人が得られる力の精霊の祝福は、荷物を持つのが楽になるくらいの力しか発揮できない。

 ましてや、長時間使用していられる類のものではないようで、それだけでリコリネの祝福の大きさがわかる。


 バタバタと、船室に引っ込んでいた船員たちが甲板に出てきた。


「姐さん!」

「リコリネの姐さん!」

「ご無事ですか、姐さん!」


 いきなり呼び方が変わっている。

 全員、憧れと尊敬の目でリコリネを見つめていて、リコリネは相当戸惑っていた。


「強大な力は恐れられるのではと心配したリルちゃんがバカみたいです~~…!?」


 リルハープが胸ポケットの中で小さく呟いて、ユディは笑ってしまった。


「きっと、海の男は細かいことにはこだわらないんだよ」


 遅れてバタバタと、船員に舵を託した船長が走ってきた。

 その後ろには、話を通してくれた商人もいる。


「いやいやリコリネ嬢ちゃん、どうなることかと思ったが、まさか一撃でケリがつくとは! 本当に助かった、ありがとう!」


 感極まったように言う船長の隣で、商人も誇らしげだ。


「まさかここまで強いとは、俺も鼻が高い! 実はあの海賊には、潤の大陸で賞金がかけられていてな、死亡を確認したわけではないが、あの海のど真ん中だ、まず助からんだろう。生き延びたとしても、もう海賊行為には懲りるだろうな、あれは。まあ、ともかく。俺と船長で騎士団の方に証言をして、なんとか君たちに賞金が入るように計らおう!」


 戸惑いから覚めたリコリネが、ぎこちなく頷いた。


「そうですか、助かります。ちなみに、私一人の力ではなく、主の助力があったからこその威力で…」


「がっはっは、謙遜すんない!」


 大きくリコリネの背を叩く船長に、リコリネはまたよろけてしまった。


「おっと、こりゃいかんな、おいテメエら、英雄を船室にお連れしろ!」


「「「応!!」」」


 リコリネは胴上げよろしく、わっしょいわっしょいと取り囲んだ船員に連れていかれてしまった。


 ユディは一人甲板に残って、ウケている。


「あははっ、英雄だってさ! ここから数日、リコリネがおろおろしてそうで、ちょっと楽しみだよ」


「ご主人サマって、結構サドですよね~~」


「戸惑うリコリネって、可愛いんだよね」


「あんまりからかうと、ご主人サマもマサカリ両断されますよ~~!」


「マサカリ両断……」


 リコリネの必殺技名が決まった。



-------------------------------------------



「やっと陸地が見えてきましたね…!!」


 数日後の甲板にて。

 ここ数日、船員に崇められて過ごしにくそうにしていたリコリネが、感極まったように遠くを見ている。

 船室に居るとひっきりなしに人がやってくるので、日中は甲板で過ごすほどだ。

 ユディは困っているリコリネを観察していたいので、常に引っ付いて回っている。


「リコリネ、潤の大陸でやりたいこととかある?」


「そうですね、観光と言いたいところですが、シグ殿が隅々まで巡るのに数年かかったというくらい広い大陸なので、効率よく進めれば、何も言うことはありません」


 そんなことを話していると、船員たちを引き連れて、船長が甲板に出てきた。

 きっと接岸の準備なんだろうな、と思っていたのだが、なぜか一直線にリコリネの傍にやってきて、船員はきちっと整列を始めた。


「船長殿…?」


「リコリネの嬢ちゃん、実は船客からも、嬢ちゃんへの感謝がひっきりなしでな。護衛として雇ったからには、規定量以上の金は渡せねえが、全員で話し合った結果、せめてみんなで考えた称号をプレゼントしようという話になったんだ」


「称号…ですか?」


「ああ、受け取ってくれ! 『圧殺鎧姫あっさつがいきリコリネ』の名を!」


「!!!!!!」


 驚天動地のリコリネ。


「そ、そんな、いけません、姫などと、似合いません…!」


「そこ!? 圧殺はいいの!?」


 ユディが思わず突っ込んだが、リコリネは普通に返してくる。


「そこは問題ありません。特にサツガイ、という音が間に入っているのが気に入りました。人の命をすりつぶすことは、美しく装飾されるべきではありません。しかし、姫というのはどうにも……そうだ、鬼はいかがでしょう?」


「圧殺鎧鬼か、嬢ちゃんにふさわしいハクがついたな、がっはっは!」


 船長は豪快に笑うと、マイペースに話を進めていく。


「そらオマエら、いくぞ! 圧殺コールだ!!」


   「あーっさつ!」

   「圧ー殺っ!」

   「圧ー殺っ!」



 海の男たちの唱和は、澄み渡った空の下で、陸地に着くまで続いた。

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