23賞金首を探せ
その日は結局何の収穫もないまま、次の日は別のペアで聞き込みをやってみようという話になった。
そしてユディアールがハーレムをやりたいと駄々をこねて、リルハープは今、ユディアールのポケットに居る。
「あの光クラゲは、他の街で言うところの鳥の扱いになるらしくてな。街全体で世話をしているから、餌やりスポットまであるらしい。餌は夜纏い草の実だそうだ」
「へええ! 餌やりとか、してみたいですね、光クラゲって図鑑でしか見たことが無いから、可愛く感じてしまって。ただ、図鑑にはウィルオウィスプって名前で書かれていたんですけどね」
「ああ、クラゲという単語は近年でつけられた名らしい。どこから来た名前なんだろうな」
ユディは、ちょこちょこと観光案内を入れてくれるシグナディルの隣を歩きながら、樹上都市を行く。
昨日と別の区画は、また微妙に街の様子が違っていて、まだまだ物珍しい。
「うわあ、木の枝にブランコがぶら下がっていますよ、ちゃんと子供の遊び場もあるんだなあ…! 樹上都市っていう話なのに、思ったよりすごく広くて楽しいですね」
ユディはにこやかに、隣を歩くシグナディルを見上げた。
「ユディエルさん、あまり余所見をしてはダメだ。ほら…」
「うわっ!?」
いきなりつま先が空気を踏み抜いて、ユディは転びそうになった。
しかしシグナディルは焦るでもなく、それを見越していたかのようにユディの腕を掴み、ふわりと持ち上げる。
ユディは、軽々と持ち上げられていた。
「ここは他の街と違って、床に均一な木材が使われているわけじゃないし、街の土台となる樹自体も成長をし続けている。だから気を付けていないと、予期せぬ隙間が開いていたりするんだ。落とし物なんてした日には、遠くの地面まで取りに行かないといけなくなるから、そのつもりでいないと」
シグナディルの冷静な指摘に、ユディは先程まではしゃいでいた自分を振り返り、かーっと耳まで赤くなった。
「う…すみません、気を付けます……」
ユディの様子を見て、シグナディルはふっと微笑んだ。
ゆっくりとユディを地面へと下す。
「いや、転ばずに済んで何よりだ。こちらこそ、乱暴な持ち方をしてすまない。歩けるか?」
「はい、もちろんです…!」
「ならよかった。俺は仏頂面だから、ユディエルさんみたいに柔らかい雰囲気の人が隣に居ると、きっと聞き込みもはかどるだろうからな、頼りにしているんだ」
「…えっ、じゃあ昨日は大変じゃなかったですか? リコリネは仏頂面どころじゃないですよ」
リコリネのフルフェイスを思い浮かべながら言うと、シグナディルは思わず、と言ったように噴き出した。
「ハハハ! ユディエルさんは顔に似合わず、結構辛辣なことを言うんだな。リコリネさんは逆に、人々が珍しがって話を聞いてくれる感じだったよ。声を聞くと女性だったというギャップもよかったんだろう。結果としては振るわなかったが、聞き込み自体は今までになく、すんなりと行ったな」
「そうだったんですか…まあ、普段組んでいるのがディアールだったら、例えば僕と組んでいたとしても、はかどったように感じたでしょうね」
「ああ、アイツはそっちでもいつも通りだったのか…。迷惑をかけたな」
申し訳なさそうに言うシグナディルに、ユディは思わず微笑んだ。
「…シグさんの方が年上なんだし、ユディでいいですよ…って言いたいところなんですけどね、普段なら。ディアールと紛らわしくなるのは、なんだか申し訳ないです。二人とも、すごくいい相棒って感じだから」
そう言いながらも、同じ轍を踏まないように、ユディはきちんと足元を見て歩いている。
「相棒なあ…。組んで数年になるが、アイツはいまだに掴めないよ」
「そうなんですか? ディアール、昨日凄くシグさんを褒めていたのに」
「褒める? アイツが俺を…? まったく、何を企んでいるのやら。リコリネさんの方は、ユディエルさんを放っておけないと言っていたな。俺としては、どっちもどっちという感じでしかないから、笑ってしまったよ」
「本人の目の前でそういうことを言わないでくださいよ…! 確かに僕は、シグさんと違って頼りにはならないとは思いますが…。…リコリネ、いい子だったでしょう」
「ああ。力の精霊の祝福を受けた者は、粗野で野蛮だという印象があったのだが、リコリネさんはまるで違うな。話していると教養も感じられる。貴族の令嬢だったと聞いた時には、ひどく納得をしてしまったよ」
「そんなことまで話していたんですね? 粗野で野蛮というのは、ひょっとして精霊占い性格診断とかいうヤツですか?」
「なんだ、ユディエルさんも知っていたのか、一時期流行ったよな。ちなみに増進の精霊の祝福を受けた者は、『鋭い観察・思考力の持ち主』だそうだ。あのバカも俺と同じ精霊の祝福を受けている時点で、ほとんど話半分のような占いになってしまったよ」
「あはは! でも、お揃いってちょっといいですよね。…音の精霊の祝福を受けている人は、なんて性格って書かれていたんですか?」
「音は繊細、色は大胆…だったな。そもそも絶対数が少ない祝福の精霊診断という時点で、怪しい話なんだが。まあ、占いというものはそういうものなのかもしれんな。他にも、智は几帳面、制約は神経質、天秤は…何だったかな、忘れてしまったが。知り合いの顔を浮かべると、なかなか面白いよ」
「へええ、僕はまだ知り合い自体が少ないのでそうやって照らし合わせる楽しさはまだわかりませんが…どこから来た発想なんでしょうね? …あ、あの二人は地元民っぽいですよ、行きましょうか」
話の合間に、ちょこちょこと聞き込みを重ねていく。
しかし結果は、昨日とあまり変わらなかった。
「この街、手強いですね…」
思わずそう零してしまう。
しかし相槌もなく、不思議に思ってシグナディルを見上げると、じっとこちらを観察していた。
「シグさん?」
「ん? ああ、いや、すまない。ユディエルさんは、本当に嬉しそうに人と話すんだなと思って。…人間が好きなのか?」
「ええ? それって、そんな風に質問をされるくらい、珍しいことなんですか?」
シグナディルは、少し面食らったようだった。
「いや…そう…だな。考えてみれば、俺も世のため人のためと銘打って賞金稼ぎを選んだわけだし、ありきたりな話なのかもしれないが…。ただ、ユディエルさんの場合、賞金首と戦闘になったらどうなるのだろうと心配になってな」
「心配……ですか?」
「ああ。俺はとっくの昔に覚悟を決めているからいいんだが。ユディエルさんは、今のうちに少し考えておいた方がいいのかもしれないな。命のやり取りをせざるを得ない状況になった時のことを。もちろんユディエルさんに荒事をやらせる気はないが、四六時中俺が守れるというわけでもないのでな」
「……殺す…? 僕が、人間を……?」
あまりにも想像できない状況で、ユディはきょとんとしてしまった。
その様子に、シグナディルは困ったように笑う。
「ユディエルさんは、なんというか…リコリネさんとはまた別の方向に、無垢な人なんだな。いや、悪かった。今のは忘れてくれ。似合う似合わないの話ではないのかもしれないが、やはりそういったことは似合わないように感じる」
シグナディルはそのまま、ポンポンとユディの頭を撫でた。
人から頭を撫でられたのが初めてだったので、ユディはびっくりしてシグナディルを見上げる。
「…ん? ああ、すまない、なんだか弟のようで……」
「弟…ですか?」
「…いや。行こうか、早めに切り上げて、アイツの駄々に付き合わせられているリコリネさんたちを助けないとな」
すぐに歩き出すシグナディルの背を、ユディは不思議そうに見つめた。
それからなんとなく、自分の頭に手を置く。
やたらと世話を焼きたがる、と言っていたユディアールの言葉の意味が、ようやくわかった気がした。
ワンテンポ置いて、慌ててユディはシグナディルを追いかける。
「ディアール、意外に紳士的にふるまってる可能性があるかもしれませんよ!」
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「また収穫なしかよ~、もうお手上げだね」
その日の夜。
男子部屋で今日も会議だ。
ベッドに腰かけたユディアールは、ぱっと両手を上げて、本当にお手上げのポーズをしている。
リコリネが、フルフェイスの中で唸り声をあげる。
「…しかし、ここまで情報が無いというのは、あまりにも不自然です」
「いや、それが、ユディエルさんに思うところがあるようなんだ。まさか住民ではなく、騎士団の方に聞き込みをするなんてな。俺が今までにやったことのない考え方だ」
立ったまま壁に凭れたシグナディルが、ずっと考えこんでいるユディに目を向ける。
パタパタと飛び回っていたリルハープが、ユディの肩に座り込むと同時に、ユディは口を開いた。
「思うところ、というか、『現時点』では詰んじゃっているなあと感じたから、『過去』の方を探ってみたんだ。そうしたら、やっぱりおかしなことがわかったよ。今貼られている賞金首って、全員3年くらい前からずっと捕まっていないらしいんだよね。じゃあ2等級とかは出たことが無いのかって聞いたら、たまに2等級の犯罪者が出ても、ほとんど一ヵ月以内に死体で見つかるんだって。かといって、誰も賞金を取りに来ない」
「……? それは確かに、妙ですね」
「妙だってのはわかるけど、だからなにって感じじゃない?」
リコリネの相槌に続いて、ユディアールが首を傾げた。
しかし、シグナディルが首を振る。
「いや、よく考えろ。その妙なことを可能にする状況が、一つだけある」
「うん…。たぶんだけど、ここの賞金首たちは、裏でつながってるんだと思う。間違いなく独自の情報網を持っているように感じるんだ。それで、かなり身を隠しやすい土壌ができてるんじゃないかって。で、その土壌を乱しそうな余所者を共謀して殺害している」
ユディの言葉に、リコリネが「ああ、」と納得したような声を上げた。
「確かに、それなら筋が通ります。しかしそうなると、ここの賞金首を追うのはかなり難しいのでは?」
「うーんと…。僕にはある意味、チャンスのように感じるんだ。ちょっと危ない橋を渡る流れになるんだけどね」
ユディはこめかみに指を当てながら、考え考え言葉を続ける。
「つまり、シグさんや僕らが彼らを探っている…と、すでに彼らに筒抜けである可能性が高い。特にシグさんたちは、一週間以上前から調査しているらしいしね」
「あ~なるほどね! じゃあオレたちがひと気のない、超絶襲いやすい場所に行ったとしたら、向こうから来てくれるわけね~、そりゃ楽でいいや」
「というわけなんだけど、どうかな?」
全員で、年長者であるシグナディルを窺う。
シグナディルはまだ難しい顔をしている。
「正直、ユディエルさんを宿に置いていきたいところだが、…逆に一人のところを襲われてはかなわないからな。全員で行くしかないだろう。幸い、この街の地理にはそこそこ詳しくなった。うってつけの場所もすでに浮かんでいる。足早な話になるが、決行は明日でいいだろうか?」
全員が頷いて賛成した。
ユディアールが、うーんと伸びをする。
「っっあ~~、一時はどうなるかと思ったけど、やあっと進展しそうな展開になった~! ユディ、お手柄じゃ~ん!」
「まだ仮定の話…」
「そうなんです~~! ご主人サマはぼんやりしているように見えて、やる時はやるのですよ~~!」
いきなりユディの言葉に被せるように、リルハープが嬉しそうにユディアールの顔の前へと飛んで行き、さんざっぱら自慢話を始めた。
ユディアールは今日一日で慣れてしまったようで、「はいはい、リルハープちゃんは本当にユディが好きね~」と受け流している。
ユディは、物凄く驚いていた。
なんだか、青い鳥事件が終わって3人パーティーを組み直してから、リルハープの態度が変わった気がする。
少なくとも、あんな風に自分を褒めてくるようなことはなかったのに。
ユディは、なんだかむずむずして、そっぽを向く。
リコリネとシグナディルは、そんなユディの様子を見て、微笑んでいた。
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「そういえばリコリネ、最初に感じていた賞金首への違和感の正体はわかったの?」
次の日。
全員でひと気のない、街の材木置き場へと向かう途中で。
ユディは思ったよりも緊張はしておらず、雑談交じりに歩いていた。
「ええ、大したことではないのかもしれませんが…。手配書の中に、むくつけき大男が居ない、というのが、若干気になったのです」
「なになに、リコリネちゃん、大男みたいなタイプが好きなの?」
ユディアールが話に食いついた。
「いえいえ、戦い甲斐があるという意味では、確かにそうなのですが。そうではなく、…類は友を呼ぶとでもいうのでしょうか、賞金首の体型に、妙にパターン化を感じていました。まあ、似姿なので、実際に見るとまた違って見えるのかもしれませんが」
「ああ、それは俺も感じていたな。骨格が…」
「出た~、シグの骨格フェチ!」
「おい、真面目な話をしているんだ、茶化すのはやめろ」
シグナディルとユディアールが、いつものようにわちゃわちゃし始めた。
それを横目に、ユディは考え込む。
「体型が似ているって、ひょっとして兄弟とか? それなら共謀してる理由にもなるよね」
「まあ~~、そうなると犯罪者一家ということになりますね~~、お茶の間で犯行に関しての鳩首凝議ですか~~……。嫌な団らん過ぎます~~っ」
リルハープもいつものように、胸ポケットからこそっと顔を出している。
「家族って仮定するなら、一人捕らえれば後は芋づる式になりそうでいいね? オレそういう手っ取り早い話、大好き~!」
そう言いながら、ユディアールは、おもむろに背負っていた大鎌を抜き放つ。
振り向き様にそれを振りぬくと、畳まれていた刃がカシャリと組み上がる。
手慣れた所作だった。
「わっ!?」
ユディはびっくりして一歩下がる。
それと同時に、カチィンと複数の金属音が走った。
ぱらぱらと、地面にナイフが落ちる。
どうやら飛んできていた投げナイフを、ユディアールがすべて叩き落した…ということらしい。
リコリネとシグナディルが、ユディを庇うように前に出る。
ユディアールは、トンと身軽に足場を蹴ると、ナイフが飛んできた方角へ向けて走り出す。
「オマエ、『必中のシラ』だな!」
「あはははは! よく気付いたネ!」
サーカスのピエロのような恰好をした男が、さらにユディアールにナイフを投げる。
ユディアールは、ぺろりと舌なめずりをすると、楽しそうにそのナイフを叩き落とした。
「シグたちは先に倉庫のほうに行っておけよ! 待ち合わせ場所にしようぜ~! コイツはオレがやるね!」
「おっと、接近戦は不得手なんだヨ!」
続けざまに振り下ろされたユディアールの一撃を、必中のシラはひらりと避ける。
「あはははは! キミの一撃はどうやら必中には程遠いらしいネ!」
「オマエのだって、まだ一回も当たってないじゃん!」
そのままシラは逃げ出し、ユディアールはそれを追いかけて行った。
「ディアール!」
「平気平気、オレ、追いかけっこは得意なんだよね~!」
ユディアールは明るくユディへ返すと、そのまま茂みの奥へと消えて行った。
「…まあ、大丈夫だろう。ああ見えて、アイツは弱くない。それよりも、動きがあったのが問題だ。次弾が来る。ユディエルさん、リコリネさん、少し駆け足で行こう。ここは見通しが良すぎる」
「は。承知しました」
即座にリコリネが頷く。
ユディたちは急いで駆け出すのだが、樹上都市のデコボコした足場を走るのは、かなり難しかった。
ユディは、先日転びかけたのを思い出し、転倒しないようにするだけで精いっぱいだ。
そのため、倉庫が見えた時には、既に新手に追い付かれていたようだ。
―――ヒュルン! ガッ!!
シグナディルが、咄嗟に槍を頭上に掲げ、上空からの一撃を十字に受け止めた。
レイピアを持った一人の男が、枝から飛び降り、奇襲をかけてきたようだ。
シグナディルが叫ぶ。
「ル・フリクス!」
「フフフ! 『残虐王子』が抜けているよ!!」
ガヂイインッ!!
シグナディルは、力任せにその一撃をはじき返した。
ル・フリクスは、難なく着地を決め、トントンと数歩下がる。
「手配書を見た時から思っていたが、自ら王子を名乗るなど、恥ずかしくないのか?」
「仕方がないだろう、ぼくには王子が似合うんだから。さて、やはり地元民であるぼくのほうが、足運びでは利があるようだ。こちらへおいで?」
ル・フリクスは、逃げ去るように走り出す。
シグナディルは、チっと舌打ちをして追いかけた。
「ユディエルさん、リコリネさん、ヤツは俺が引き受けよう、倉庫で待っていてくれ!」
「シグさん、気を付けてくださいね!!」
「主、お早く…」
リコリネに引っ張られるようにして、ユディは倉庫へ辿り着く。
倉庫と言っても材木置き場なので、窓にはガラスもなく、扉もなく、屋根と壁だけがあるだけの、通気性を重視した小屋といった感じだった。
材木はある程度はけており、小屋の隅に数本残るのみで、小屋自体は幸い狭くはなかった。
ユディとリコリネは、小屋の中央で呼吸を整える。
「思ったよりも籠城に適した場所ではありませんね。主、くれぐれも油断をされませんように」
「う、うん…」
そう返事をしながら、ユディは何かが頭の隅に引っかかっていた。
何か…奇妙な違和感があったような。
ひょっとして…、と、忙しく思索にふけり始めた。
リコリネはそれを察したのかそうでないのか、とにかく余計な口をきかずに、入り口の方を見つめている。
それから、どのくらいの時間が経ったのだろうか。
コトン―――
ともすれば聞き逃していただろう小さな音が、入り口とは違う窓の方から聞こえた。
「!?」
神経を研ぎ澄ませていた二人は、すぐにその音に気付き、目をやって…そして驚きに一瞬硬直してしまった。
窓から投げ込まれたのは、爆弾だった。
「花火師ユルリア!」
リコリネはそう叫びながら、一直線に窓に向けて走り出す。
ガンッ!!
拾っている時間も惜しいと判断し、リコリネは思い切りその爆弾を蹴とばした。
爆弾は窓からとんでもない勢いで蹴り出され、遠くの空に『ドオン!』と美しい花火を浮かべた。
「アハッ、正解~!」
すぐに、女が入り口の方から顔を出す。
「主はここに居てください! 狭い場所だと爆弾相手は分が悪い、私はあの女を開けた場所へ連れて行きます!」
リコリネは瞬時に判断し、マサカリを抜き放つと、入り口に向けて横薙ぎに振るった。
「えっ、ちょ、キャア!!?」
咄嗟にユルリアはしゃがみ込む。
ズバンッ!!!
次の瞬間、衝撃波で小屋の壁の上半分は粉々に砕け、ものすごく開けた入り口が誕生した。
ユルリアは、ぞっとした顔をすると、一目散に逃げだす。
「こ、こんなの相手にするのは無理だわ!!! くうっ、いけると思ったのにーっ!」
「逃がすと思うか? 主を傷つける芽は摘み取るのみ―――!」
「あ……」
リコリネの勢いはすさまじく、ユディが口を挟むヒマがないほどの高速展開だった。
気が付けば、遠くに向けて走る全身鎧の背が見えていた…という感じだ。
「リコリネ、街を破壊しなければいいのですが~~…」
リルハープが、ちょこっと胸ポケットから顔を出して、事後処理を心配している。
「そうだね、こうなると一撃の威力が大きいって、デメリットにもなるんだなあ…」
ついつい、のんびりとした会話をしてしまう。
なんにしても、待ち合わせと称されたこの場でみんなを待つしか道はなく、ユディとリルハープは緊張しながら時を待った。
「ユディ~!」
そう時間も経たないうちに、ユディアールが手を振りながら小屋へと入ってくる。
「うわ、これなに?」と、驚いたように破砕の跡を眺めながら。
「ディアール、大丈夫だった?」
ユディが駆け寄ると、ユディアールは、鼻の下を擦りながら笑った。
「ああ、無事にやっつけてやったぜ~! 花火の音が聞こえたから慌てて来たけど、シグとリコリネちゃんは?」
「二人とも、賞金首を追いかけて行ってて…」
「マジか~、敵さんの全員集結って熱い展開は物語の中だけにしてほしいよな~。っと、それより、リルハープちゃんは無事なんだろうね?」
ユディアールは心配そうに、赤い瞳をユディの胸ポケットに向けた。
ユディが答えるよりも先に、リルハープがひらりと胸ポケットから飛び上がり、ユディアールの鼻先で胸を張る。
「当然です~~っ、リルちゃんは人間に掴まるようなおマヌケではないのですから~~!」
「お~、よかった、リルハープちゃん!」
バシンッ!!
ユディアールが伸ばした手を、ユディは手にした精霊道具の本で払った。
衝撃で、ユディアールは後ろへとふらつく。
「イッテ…!? な、なに…?」
「―――なるほど、狙いはリルハープだったんですね」
ユディは、ぞっとするほど冷たい表情で、目の前の青年を見据える。
ユディアールは、戸惑ったように、愛想笑いを浮かべた。
「ユディ…?」
「ディアールの瞳の色は、澄んだ琥珀色なんですよ」
ユディはゆっくりと、目の前の青年に向き直る。
「ようやく違和感の正体がわかりました。先程襲ってきた3人の共通点は、瞳の色が赤いこと。手配書の特徴欄を読んだ時、僕はこの街の特性かと思っていたんです。『瞳の色が赤い』、という部分が。だって、特徴が判明している賞金首のほとんどに、その一言が書かれていたのですから。ですが聞き込みをしていても、街の人の中に赤い色の瞳を持った人は、2人だけでした。一日に、一人ずつ。思い起こせば、あの時、あなたは既にこちらを探ろうとして近づいてきていたんですね」
バッ、とその瞳が赤いユディアールは、大きくユディから距離を取る。
ユディアールの姿が、水ににじんだ水彩画のように、どろりと溶けていく。
リルハープは驚いたように、ぴゃっとユディの胸ポケットに潜り込んだ。
ユディの前に居るのは、白髪、赤い目の女性だった。
「―――はじめまして。『赤眼のアレイア』さん?」
ユディは静かに言葉を落とした。




