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モノガリのユディ  作者: ササユリ ナツナ
第一章 ひとりめ
22/137

22もう一人のユディ

「え……?」


 樹上都市にたどり着いたのは、夕方近くだった。

 しかし、ユディの目の前にあったのは、夜だった。


 本当に鬱蒼と生い茂った樹、というものを、ユディは見たことがなかったのだなと理解した。

 葉っぱは重なりに重なって、外の光を全く通さない。

 門番のチェックを通りすぎ、木製の階段を上がって辿り着いたその都市は、何十、何百の樹が寄り添ってできた場所で、常に夜だった。


 ほとんど真っ暗な中を、蛍光花が淡い光で優しく照らし、そして辺りをふわふわと光クラゲが漂っているので、危なすぎる暗闇というわけではない。

 むしろ、幻想的だ。


「これは…すごいですね。想像していたものと全く違います」


 ヨルムンガゼルを担いだままのリコリネも立ち止まり、ポカンとしている。


「わかるわかる、オレたちも最初はびっくりしたんだよね~」


 ユディアールが嬉し気に、ちょっとした先輩風を吹かせている。


「ゆっくりと観光から…といきたいところだが、さすがに女性に重たい荷物を持たせたままというのも気が引ける。まずは騎士団の詰め所に直行をしたいのだが、いいだろうか?」


「あ、はい、もちろんです」


 シグナディルは、基本的にきっちりと話を通す人らしく、ユディにまず意見を窺ってくれる。

 真面目ないい人だな、とユディは思った。


「ねーねー、せっかく詰め所まで行くんだし、ついでに手配書もチェックして、次の賞金首も4人で狙ってみない?」


 ユディアールが、案内をするように先頭を行きながら、八重歯を見せて笑う。


「それは、御迷惑でなければご一緒したいですね。路銀を稼がねばなりません。おそらくこの先は船旅が待ち受けている可能性が高いので」


 リコリネが賛成した。


「こら、まだ下調べも済んでいないのに、無責任に誘うんじゃない。そもそも、この街の賞金首はまだ謎が多いだろう」


 シグナディルがユディアールを注意をする。

 ユディは首をかしいだ。


「賞金首に謎なんてあるんですか?」


 シグナディルは、難しい顔をする。


「ああ。いつもなら、潜伏場所などの下調べを地道に重ねていくのだが…。俺たちがこの街に着いて一週間、どんなに調査をしても、目撃証言が一つも出ないんだ。それも、すべての賞金首に関して、どれも被害者の証言しかない。それで仕方なく、人間の賞金首は一旦諦めて、獣の方に移行してみた、というわけだ」


「獣は獣で大変だったな~。もうちょっと楽勝なら、ずっと虫や獣だけ相手にするってのもありだったのにさ~」


 ユディアールが、頭の後ろで手を組みながら、独りごちる。


「それは確かに不自然ですね。変装にも限度があるでしょうし、この街が常に夜で見えづらいから…という理由だけでは不十分に感じます」


 リコリネの言葉に、ユディアールが頷く。


「だろだろ? そもそも、オレたちも一週間ここに滞在してみてわかったんだけど、結構目が慣れてくるんだよね、この暗闇に。だから一個くらい目撃証言があってもいいはずなんだ。いくらなんでも全員見かけたことが無い、っていうのはおかしいんだよな~」


「…なんだか不気味ですね、せっかく綺麗な街なのに」


 ユディが、空中を漂う光クラゲを目で追いながらそう言った。


「だから、2人が4人になるわけじゃん? それならちょっと進展があるんじゃないかな~って、オレは期待してるわけ」


「なるほど、そういうことなら、僕も協力します…! 聞き込みくらいなら、僕でもできそうですし」


 ユディがやる気を見せると、リコリネも頷いた。


「主が乗り気であるならば、私に異議はありません。ひとまずは情報収集ですね」


「そうか、すまない、助かる。宿も同じになるわけだし、連携も取りやすそうだからな。これからは、気軽にシグと呼んでくれればいい。何かあれば好きに使ってくれ、ちょっとしたことでも協力しよう。…と、見えたぞ、あれだ」


 シグナディルの示す先に、木を組んで作った簡易的な事務所のような、騎士団の詰め所が見えた。

 詰め所には石造りのガッシリした建物の印象があったため、ユディは危うく見過ごすところだった。


 シグナディルはリコリネから獣の遺体を受け取ると、ユディアールと一緒に詰め所の中に入って行った。

 ユディとリコリネは、外の掲示板に張られている手配書に目を通す。


「ご主人サマ、この街の感じはいかがですか~~?」


 その隙に、とばかりに、リルハープがひょこりと胸ポケットから顔を出した。


「うん、モノオモイはいないみたいだ。まあ、そんなに頻繁に会ったら困るよね、下手したら人間滅びちゃうよ…」


「それはよかったです。リルハープ殿、彼らと行動する流れになりそうなのですが、…主、彼らにリルハープ殿の紹介はした方がいいような気もしています。正確な戦力の把握は、やるに越したことはありません」


 リコリネの提案に、ユディは唸った。


「そうなんだよね、リルハープってなんだかんだでいざって時は頼りになりそうだし、君が嫌じゃなければ宿屋で顔合わせしたいんだけど、どうかな?」


「まあ~~、そこまで言われたら悪い気はしませんね~~っ、いいですよ~~、リルちゃんがまとめて面倒を見てあげます~~!」


 もうちょっと抵抗があると思ったのに、思ったよりもあっさりと決まった。

 リルハープって、本当は人間のことが好きなんじゃないだろうか…と、ユディはちらっと思う。


「それにしても、ディアール殿が主と同じ名前だったと知った時には驚きましたが、性格は正反対でしたね」


「そうですね~~、人間って無駄に多いから、そりゃ名前が被ることくらいはありえるのでしょうけど~~。よりによってご主人サマと~~? という意外性はありましたね~~!」


「でもディアールは、すごく話しやすいよね。僕的には、同じ名前なのもいいキッカケになったって意味では、よかったかなあ。本名も思い出せたし」


「ああ、ユディエル…というのですね。とてもいい名前だと思います。といっても、私にとっては、呼ぶ機会がなさそうな名なのですけどね、ふふ」


「そういえばリルちゃんも、ご主人サマはご主人サマですね~~」


「あははっ! そういえばそうだったね、だったらこれからもユディって名乗り続けるかも」


「私としては、その方が耳慣れた名なので、ありがたいです。さて、彼らが出てくる前に、暗記をしなければなりませんね」


「そうだったね! ええと、赤眼のアレイア、必中のシラ、残虐王子ル・フリクス…。すごいすごい、リコリネ、二つ名がついてるよ!」


 掲示板は左右に二つあり、片方は他所の街から送られてきた共通の手配書で、脱獄犯や一等級の賞金首が多い。

 片方は、この街で現在指名手配されている、現役の賞金首たちの似姿ばかりが張られている。


「ええ、名のある賞金首になると、勝手に二つ名がつくようです。顕示欲から、自分で名乗る者もいるそうですが。私もいつか、鎧のリコリネという名を轟かせてみたいですね」


「リコリネったら、賞金首になる気満々なのですね~~っ」


「いえ、賞金首を狩る側にも二つ名がほしいという意味合いです。…しかし、妙ですね、最大でも3等級の賞金首ばかりで、2等級以上が居ない…?」


 リコリネの呟きに、ユディは首を傾げた。


「それって変なことなの? ええと、5等級が食い逃げや詐欺や窃盗、恐喝とかのゴロツキで…?」


「4等級は、その被害届けの数がある一定以上になった常習犯につけられます。3等級は、被害の範囲が広い、怪盗などの愉快犯や放火犯、ちょっとした切り裂き魔などですね。ただし、その中で意図的な殺人をするものが居れば、2等級。連続殺人犯など、殺害数が多いと1等級ですね」


「ちょっとした切り裂き魔とは一体~~!?」


「そういえば切り裂き魔はちょっとしようがしまいが、切り裂き魔だね?」


「流石はリルハープ殿と主です。その言葉の妙には、まったく気がつきませんでした」


 リコリネが感銘を受けている隣で、ユディは思案気に言葉を選ぶ。


「じゃあ、この街では殺人は起きてないってことになるんだね」


「まあ…そういうまとめられ方をされてしまうと、なぜか平和に感じますね。…ふむ」


 そんな雑談をしながら、しばらく真剣に手配書の似姿に目を向けていると、シグナディルたちが賞金を持って出てきた。


「おっまたせ~! 山分けにしても、当面の滞在費くらいにはなりそうだぜ~!」


 ユディアールはほくほくとしている。


「まあ、やはり人間の賞金額に比べると、やや見劣りはするな。っと…リコリネさん、どうした?」


 シグナディルは、微動だにせずに手配書に集中しているリコリネを、不思議そうに見た。


「いえ…。なんでしょうね。ざっと目を通した時に、一瞬だけ、何か気になったことがあったような気がしたのですが…」


 リコリネはそう答えながらも、まだじっと手配書に目を向けている。

 ユディも真似するようにじっと見てみるが、結局首を傾げた。


「…なんだろうね? リコリネ、そういうのってさ、一旦別のことをして、気持ちを切り替えた時にいきなりわかったりする時もあるよ。ひとまずは宿に行ってみない?」


「ユディ、名案~! ヨルムンガゼルとの追いかけっこで、オレもうクタクタだよ~。腹も減ったし…」


 ユディアールの言葉に、リコリネはハっと振り向いた。


「そうですね、休息も大事なことでした。お待たせしました、行きましょう」


「ハハハ、リコリネさんはなんというか、素直な人なんだな」


 シグナディルは、微笑ましいものを見るかのように微笑む。

 その時の彼の瞳がとてもあたたかなものに感じて、ユディはちょっとだけ、それが気になった。



-------------------------------------------



「じゃじゃーん、というわけで、リルちゃん参上です~~!」


 宿の一階で晩御飯を食べた後、シグナディルたちは部屋を取り直した。

 男部屋と女部屋の2部屋にした方が効率がいいという、ユディアールの提案によるものだった。

 商人の紹介状も功を奏して、普通の半額ほどの値段で泊まれることになり、シグナディルは「大助かりだ」と感謝をしてきた。

 そして今、男部屋にみんなで集まって、リルハープを紹介している。


「んな…!? ず、ずっり~! ユディお前、ハーレム旅だったの!? ずり~ぞ! オレなんて野郎と二人旅だってのに~!」


「お前、妖精を見て一番に出る言葉がそれか……」


 シグナディルが、あきれたようにユディアールへと言った。


「だってこんなにかわいい子と一緒なんて、オレもそんな旅したい~! リルハープちゃん、オレのとこに来ない? 大事にするよ?」


「つーーんっ、おとといきやがれです~~!」


 リルハープは、空中でパタパタしながら、腕を組んでプイっとそっぽを向いている。

 シグナディルは、まだ驚きの方が勝っているようだ。


「いや驚いた。もちろん妖精自体にも驚いたが、俺たちをこんなにも早く信用して貰えたことにも驚いている。そうでもないと、こんな珍しい生き物を紹介なんてしないだろうからな」


「……あっ、そうでした、そういえば迂闊に他人を信じるなとか、用心しろって言われていたんでした!」

「すっかり忘れていましたね」


 思わずユディとリコリネは顔を見合わせた。

 見合わせると言っても、リコリネはいつものごとく全身鎧だが。


「心配せずとも、リルちゃんは易々とつかまったりしませんから~~っ」


 そう主張するリルハープに、シグナディルは苦悩するように眉間を揉む。


「……3人とも、今までよく無事で旅をしてこられたな。なんというか、危なっかしいパーティーという印象になってきた。出会ったのが俺たちでよかったというべきか……。リコリネさんは落ち着いているから大人の女性なのかと思っていたが、ひょっとして二人とも、同い年くらいなのか?」


「はい、そうですね、私は先日18になったところです」


「えっ、リコリネ、そうだったの?」


「リコリネ、水臭いです~~、言ってくれたらお祝いしましたのに~~!」


 ほのぼのとした会話を始めた3人に、シグナディルは「そうじゃない…」と言いたげに、眉間のしわを深めた。


「……まあ、俺もまだ25だしな、そこまで年上ぶるわけにもいかないか。ただ、…明日から別行動を頼むつもりだったが、とりあえず様子見として、2:2で行動をしてみよう。それで問題がなければ、ここでの聞き込みを単独で頼む流れにする」


「はいはい~! だったらオレ、リルハープちゃんと行動する~! バッチリいいところ見せたいもんね、にゃはは~!」


「じゃあ、リルちゃんとご主人サマと一緒ですね~~」


「えーー、ユディ空気読めよ、二人っきりにさせてよ!」


 ユディアールが勝手に話を進めて、勝手に文句を言ってくる。


「となると、俺はリコリネさんと一緒に聞き込みだな」


「そうなりますね。シグ殿の手腕、参考にさせていただきます」


 シグナディルとリコリネは、淡々と話を進めている。


「……、……とりあえず、明日はよろしくね。頼りにしてるよ、ディアール」


 ユディは社交辞令を覚えた。



-------------------------------------------



 昼なお暗い街の中で、ユディとユディアールは歩いて行く。

 ほとんどが木を組まれて造られた民家の中で、たまに大きな樹のウロを利用した住居があったりと、面白い。


「日光が届かない場所でも、あの光クラゲの明かりで光合成してるんだよな~、結構よくできた街だろ?」


 ユディアールは、胸ポケットの中のリルハープにばかり話しかけるのかと思っていたが、意外にもちゃんとユディに観光案内をしてくれる。

 ひょっとして、頼りにしていると言ったのを真に受けたのだろうか。


「ディアールったら、別に自分がこの街を作ったわけでもないのに、偉そうなんだから。…それより、聞き込みって、僕はやったことが無いんだよね。どうやればいいの?」


「ええ? ユディは変わったこと言うね、そんなもん、適当に話しかければいいだけだろ~? 見てなよ、ねーねーおねえさ~ん!」


 ユディアールは、八重歯を見せて人懐っこい笑顔を浮かべながら、通りすがりの女性へと、にこやかに声をかけていく。

 ユディは参考にするために、それをじっと見つめる。

 …のだが、会話がいっこうに終わらない。

 ユディアールは、湯水のごとく湧いて出る言葉を駆使して、ようやくその女性のナンパに成功したようで、二人で近くの軽食店へと順調に足を運んで行った。


「って、ディアール!! 聞き込みは!?」


 思わずユディは後を追いかけて、ユディアールの首根っこを掴んで引き寄せた。


「ぐえ!? 何だよユディ、この持ち方やめろよ、変なこと覚えちゃってさ…!」


「バカ! すみません、僕たち、賞金首を探していて、何か情報を知らないかって聞き込みをしているんですが…」


 女性は、きょとんとした顔で、「あら」と頬に手を当てた。


「お茶でも飲んでの話って、そういうことだったのね、ごめんなさい、知らないわ…。確かにこの街、賞金首が妙に多いんですってね? この間、野花の村から遊びに来た親戚のおばさんがそう言ってたわ」


「ええと、言われるまで、そのことに気づかなかった、という感じなんですか?」


 ユディが質問を重ねると、女の人はじっと悩んでから答えた。


「……そうね。いえ、何か事件があったっていうのは、たまに聞くのよ。でも、本当にそれはたまに…って感じで、物凄い被害が出たことってあるのかしら?」


「ああ、そういや一番高くて3等級ばっかりだったもんね~、賞金首。な~んか、引っかかるんだよな~…」


 考え込むユディアールを見て、ユディは仕方なく話を引き継いだ。


「すみません、参考になりました、ありがとうございます!」


「そう? じゃあ、行くわね。若いのに賞金稼ぎなんて大変ね、頑張ってね?」


 どうやら、ユディアールとの会話自体は楽しめていたらしく、ティータイムをキャンセルされた女性は文句ひとつ言わず、にこやかに去って行った。


 ユディは腰に手を当てて、ユディアールを軽くにらみつける。


「もうっ、ディアール、時間をかけ過ぎだよ! 全然参考にならない!」


「ええ~? そう言うなよ、出会いは一期一会って言うじゃんね? オレはその出会いを大事にしてるだけだよ~」


「あれではあっという間に一日経ってしまいますよ~~!」


 リルハープも、胸ポケットからこそっと意見を出した。

 ユディアールは、残念そうに頭の後ろで腕を組む。


「まったく、二人とも真面目だよね~。そんな風だと、シグみたいに眉間にしわが寄っちゃうぜ? 人生は長いんだから、適当に息抜きして行かないと」


 そう言って、ユディアールはぶらぶらと歩き出した。

 ユディは仕方なくその隣を行く。


「ディアールはそんなに自由を愛してるのに、何でシグさんと一緒に居るの? 今までも結構怒られてきたんじゃない?」


「あ~、まあ、そうね。…ユディ、明日はシグと一緒に行動してみなよ。そしたら、たぶんわかるから。オレも一回だけ組むつもりで話しかけただけだったんだけどさ。アイツ、放っておけないんだよね~。騎士とは違う方向から人の役に立ちたい、なんて理由で賞金稼ぎになっちゃってさ。こんな生活、いつか体を壊すに決まってるのに」


 ユディは驚いたように、真面目な横顔を見る。

 ユディアールは前を見たまま、ポツポツと話を続けた。


「オレは別に目標があって旅してるわけじゃないし、面倒を避けてなんとなく楽に生きてりゃいいやって思ってるんだけどね。死に方だけは、少しだけ望みがあるんだ。オレ、シグを守って死にたい。アイツは、世の中に必要な奴だよ。ちょっとしたことでもすぐ親身になるし、貧乏クジばっかり引いちゃってさ。自分をからかってばっかりのオレにも、やたら世話を焼きたがる。アイツには、1分1秒でも長生きして貰いたいよ。それだけがオレの望み」


 そう言って、困ったような顔で笑いかけてきた。

 ユディも、同じような顔で笑い返す。


「それのどこが楽な生き方なの? って聞くのは、禁句なのかな」


「にゃはは~、それならオレも禁句言っちゃうぜ? ユディ、あっちの方角に何しに行くのさ。それってユディがやらなきゃダメ? ユディがやらなくても、他の誰かがやってくれることだったら、もっと楽に生きればいいじゃん。なあ、せっかくなんだから、オレたちともうずっとパーティー組まない? なんでかな、オレ、お前と初めて会った気がしないの。きっと気が合うって確信があるんだよね~」


「…残念だけど。たぶん、僕しか気づけないし、僕しかやれないことだから」


「……あーあ、まあそう来るよね。フラレちゃった。そもそもリコリネちゃんはバリバリ戦闘系だから安心だけど、ユディは何の精霊の祝福を受けてるわけ?」


「僕は、音精霊かな」


「音ォ!? なにそれうらやま、レアじゃん! オレもそのくらい特別な精霊の祝福受けたかったな~」


「レアって言うけど、僕の村では結構多かったよ、音精霊の祝福を受けた人。それに、増進の精霊の方が使い勝手がいいなって印象なんだけど、違うの?」


 増進の精霊ソッティノイは、かつては成育の精霊と呼ばれていたが、植物などの生き物の成育を増幅させるにはかなりのコツが必要で、ごく少数の者しか使いこなせなかったという話だ。

 今では攻撃や切れ味の威力を増す、という瞬間的な成育を促す使い方が主流になっており、呼び名は変わってしまったのだという。

 呼び名が変わっても、本質が変わるわけではない。

 結局、その本質を、人間側がどのように引き出せるかで、精霊の奇跡の使い方が変わるだけだ。

 そのため、人によってどうしても上手下手は出てしまう。


「あれって、他者の攻撃の威力を強化出来たらもうちょっと捻れるんだけど、基本的に精霊の祝福って、自分が生まれた時に受けたものだし、自分に使うようにできてる感じじゃん? ま~でも、連携ってかっこいいから、地味に練習はしてるよ。シグを強化してオレだけ楽できそうだしね、にゃはは~」


「…あれっ、そうなんだ? 僕が使うのは音だから、基本的に他へと影響を与えやすいみたい」


「え~、ますますうらやま! いいなーいいなー、オレと交換してよ~。シグとリコリネちゃんの交換でもいいけどね、にゃはは~!」


「……ディアールって、あまり自分が好きじゃないの?」


 ふと質問した。

 ユディアールは、琥珀色の目を細めて、じっとユディを眺めた。


「…なんで?」


「ううん、大した理由はないんだけどね。ただ、僕にはそういう、『交換』って考え方はなかったから。交換したいくらい、変わりたいのかなって思って」


 ユディアールは、視線を逸らすように前を向いた。


「…さあ、どうなのかな。ただ、オレはオレじゃないほうが、もっと楽な人生を送れたんじゃないかって…。そんな考え方が抜けないだけ」


「まるで今は厳しい人生を送っているみたいな言い方ですね~~?」


 リルハープが、ひょこりと顔を出して会話に加わる。

 ユディアールは、すぐにいつもの調子で笑った。


「そりゃそうだろ~、女っ気がないってだけで、結構厳しい人生なんだよ、オレにとってはさ、にゃはは~!」


「…でも、少なくとも僕は、ディアールのその瞳の色、なんだかすごく好きだなあ。キラキラした宝石みたいで、眩しい感じが、ディアールにすごく似合っている。自分のことを嫌いで居るのが勿体ないくらいキレイだよ」


 ユディアールは、きょとんとユディを見返した。

 それから、少し照れたように笑う。


「なんだよ、それ。慰めにもなってないよ。…けど、サンキューな。あ~あ、シグもたまにはオレのことを褒めてくれればいいのに、そういうとこはユディを見習ってほしいよな~。 さ、聞き込み聞き込み! シグに怒られちゃう~」


 そう言って、タッタと前を走り始めるユディアールの背を見ながら、ユディは不思議な気持ちに包まれた。


「…僕も、君とは初めて会った気がしないんだよね。なんでだろう」


 誰にも聞こえないような小声で、ユディはそう呟いた。

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