17青い鳥の世界
「みなさま、こちらへお集まりいただけたということは、さぞや世の中に絶望しているものと思われます…。どうぞ、こちらへ上がってきてください」
ネーヤラーナがそう言うと、背後の建物から、数人の人々がわらわらと出てきて、ナワバシゴを下ろしてきた。
メガネの男は、我先にとナワバシゴを上っていく。
そして、その勢いのまま青い鳥の背に登りきると、人々は感極まったようにメガネの男を抱きしめた。
「大変だったでしょう…!」「でももう大丈夫ですからね!」「一緒に幸せになれますよ…!」「私たちも、同じです…!」
老若男女入り交じり、涙ながらに歓迎をしている。
メガネの男にとっては、その歓迎は本当に予想外だったのだろう、「ありがとうございます…っ!」と言って、一緒に泣き始めた。
ユディは、ショックだった。
あんなにキレイな景色を有した世界なのに。
素敵な人だって、たくさんいるのに。
こんなに、辛い気持ちを持っている人がたくさんいるなんて。
自分が世界を知らないからわからなかっただけで、本当はこんなに辛い面があるんだと、初めて知った。
しかし同時に、そんなはずはない、とも思ってしまう。
ひょっとしたら、すべてモノオモイの仕業なのかもしれない。
あの人たちには、後で聞き込みをしてみよう…とユディは決意した。
「さあ、あなたがたも、お早くどうぞ」
ネーヤラーナが、心配そうにこちらを見下ろしている。
「主、モノオモイは、あの女性ですか?」
リコリネが、今のうちにと言わんばかりに、小声で聞いてきた。
ユディは、首を振る。
「わからないんだ。たぶん、モノオモイの気配が近すぎて、細かい判別ができない感じなんだと思う。それとも、もともと僕には細かい判別ができる能力が備わっていないのか…。どちらにしても、これだっていう対象を把握しないと、竜の夢には還せない。僕の音は、大音量で無差別に届けられるようなものじゃないから、対象を絞らないといけなくって…」
「わかりました。では、ここから探って行けばいいだけですね。主、お先にどうぞ」
「ありがとう。リコリネ、気を付けてね」
ユディはナワバシゴに手をかけて、上がっていく。
上では、ネーヤラーナが優しい笑顔で迎えてくれた。
「お疲れ様です。ご安心ください、もう、あなたがたを悩ませるような俗世の煩わしさからはサヨナラできますからね…! 最初は未練のようなものを感じるかもしれませんが、わたし、そういったことを忘れられる一助になれるように、精いっぱい努力しますから…!」
そう言って、むんっと両手の拳を握りしめ、気合を入れる姿は、ごく普通の娘さんだった。
近くで見ると、うっすらとそばかすが見える、化粧っ気のない人だ。
初めに抱いた印象と少し違っていたので、ユディはきょとんとしてしまう。
ネーヤラーナは、それを察したのか、すぐに口元を押さえた。
「あ…いっけない。あはは! ダメですね、もっとこう、最初は聖女様みたいな、神秘的な雰囲気を心掛けて動こうとしているんですけど、すぐにボロがでちゃうんです。これじゃ安心できませんよね…!」
その様子が微笑ましくて、ユディは思わず笑った。
「いえ、逆に安心できます。ネーヤラーナさんは、とても人間味のある方なんですね」
「ありがとうございます、そう言っていただけると、励みになります…! あ、ネーヤと呼んでいただいて結構ですから!」
「じゃあ、ネーヤさん。僕は、ユディです。それでこっちは、リコリネ」
ユディは、登ってきたばかりの全身鎧を紹介する。
「ユディさんと、…リコリネさん? まあっ、可愛らしいお名前ですね。女性の名と間違われることが多いのではないですか?」
「いえ、そのままズバリ女ですから、何の問題もありませんね」
「!!! ご、ごめんなさい、わたし…!」
声を聞いてあわあわするネーヤラーナに、リコリネもフルフェイスの中で微笑んでしまう。
「…ふふ。女同士、仲良くしていただけると嬉しいです」
「そ、それはもちろんです! ようこそ、青い鳥の世界へ! お二人を、歓迎いたします!」
ネーヤラーナはユディたちを、建物の中へと案内した。
-------------------------------------------
その建物は、陶器でできているような、つるつるとした壁をしていた。
中はキチンとスペースごとに区分けがされていて、集団生活をするための広場や食堂、風呂やトイレなどが揃っていた。
ものすごく広いわけではなかったが、中で暮らす人の数もそこまで多くないため、これで十分な生活スペースに思えた。
「…すごいですね、鳥の背中なのに、ちゃんと暮らしていける施設が…」
ユディが驚いたように言うと、ネーヤラーナは嬉しそうに手の平を合わせて頷いた。
「そうでしょう! あの青い鳥は、大精霊様が遣わしてくださった救いなんですよ…! ここで暮らしていけば、嫌なことはみんな忘れられるんです」
「ネーヤ殿は、何故そう言い切れるのでしょうか?」
リコリネが率直に質問すると、ネーヤラーナは自分を示した。
「わたしの受けた祝福は、命の精霊コリネイリの奇跡だったのです」
「! それは素晴らしい。命の精霊の祝福など、時の精霊と並ぶほど珍しいと聞きます。しかも、女性にしか宿らないとか。100年に一度の割合でしか受けられないと噂されるほどに貴重だそうですね」
「あはは! そう言われると照れ臭いのですが、実際は大した力は持てなかったのですよ。わたしの場合は、いろいろな、命ある生き物の声を聞き取れる程度の能力しかありませんでした。ですから、あの青い鳥の気持ちが、頭の中に聞こえるのです。わたしはそれを、みなさんに伝えているだけです」
「あの青い鳥が、自分を幸せの鳥だと言っている、ということですか?」
ユディの質問に、ネーヤラーナは慌てて首を振った。
「いえいえ、それはわたしが勝手に呼んでいるだけです! 知りませんか? 幸せの青い鳥、の絵本。…いえ、普通は知りませんよね、わたしが居た大陸で、ほんの10年ほど前に書かれたばかりの絵本ですし…。おかあさんが、街に行ったお土産に買って帰ってくれた絵本なんです」
「…なるほど。その思い出を、この巨獣と出会った時に、重ねてしまったと?」
「はいっ。それで、普段はキャラバンを装って、たくさんの人が救われますようにって、色々な街で噂を流して……」
「ネーヤちゃん、ちょっといいかね?」
「あ、はーい! すみません、呼ばれてしまいました、ユディさんたちは、心の傷を癒すことに専念してくださいね。行ってきますっ」
中年の男性の招きに、ネーヤラーナはすぐに駆け寄った。
どうやら、メガネの男性に施設案内をしていいかの質問だったらしい。
ネーヤラーナはおそらくリーダー格で、ここの住人からは頼られているということなのだろう。
「……あの子、少しだけ、嘘のにおいがしました~~」
「え…?」
胸ポケットのリルハープが、こそっとユディとリコリネ向けて喋った。
「とはいえ、リルちゃんにわかったのは、『後ろ暗い』という感情がちょこっと見えたというだけですからね~~。どれが嘘かはわかりませんし、あまり大きなものでもなかったため、気に留めるような内容でもないのかもしれませんが~~」
「すごいですね、リルハープ殿にはそのような能力がおありだったのですか」
「あまりいいものではないのですけどね~~、負の感情だけに敏感だなんて~~」
リルハープにしては、珍しく調子に乗っていない。
知りたくもないことを知ってしまうというのは、つらいのだろうな、とユディは慮った。
「ありがとう、リルハープ。参考になるよ。…どちらにしろ、ここでしばらく過ごしてみるしか道はなさそうだね」
バサッ!!
ユディの言葉と同時に、鳥の大きな羽ばたき音。
どうやら、浮上を始めたようだ。
それなのに、この居住区はまったく揺れず、体への負担を感じなかった。
やはりどこか、世界の法則を無視したような、いびつな力が使われているようだ。
「驚きました、しばらくこの岬に滞在するというわけではないのですね。…空の旅ですか。申し訳ありません、主。私は少しだけ、楽しみです」
そう言いながら、リコリネは嬉しそうに、はめ込み式の窓の方へと向かう。
その窓は、なぜか花びらの形をしている。
リコリネの後姿に、ユディは少しだけ緊張が飛んで、救われたような気持ちになった。
-------------------------------------------
ネーヤラーナがキャラバンと称したように、この青い鳥は、5大陸を飛び交う旅を繰り返していた。
コースはいつも決まっているようで、一つの大陸で、幸せの国を待っている人を拾うと、必ず同じ無人島に寄るという流れだと、説明をしてくれた。
そこで、手つかずに咲き乱れた果物などの食料の補給をすると、また青い鳥は5大陸の方へと向かうのだそうだ。
大きな大陸の方に寄ると、ネーヤラーナは数人で荷車を引いて、果物と肉類などの食料と物資を、商人と交換してくる。
スムーズに進むところを見ると、もうかなりルーティンワーク化されたやり取りのようだ。
しかし、どんなにこの鳥が巨大でも、やはり大陸移動となると、数日から数十日はかかる。
ネーヤラーナは、心を落ち着けられる生活環境に執心しており、商人と交換した本や、花を咲かせた植木など、広場にはそういったものがたくさん置いてあった。
瞬く間に数週間ほどが経過した。
なのに、一体モノオモイはどこにいるのか、未だにわからない。
最初は物珍しかった生活環境もすぐに慣れてしまい、ユディたちは集まった人々との交流くらいしかやることがなかった。
彼らは、どんなことを聞いても、隠さずに話をしてくれる。
騙されて借金を背負ってしまった人も居れば、恋人を失って生きていく意味を見出せなくなった人もいた。
ある女性は、奴隷商から逃げて来たと言いながら、背中の焼き印を見せてくれたりもした。
ユディが驚いて謝罪しても、女性はむしろユディの心が傷ついていないかと気遣った。
どれも、モノオモイの入り込む余地がないくらい、人間同士の軋轢だったことに、ユディは少なからずショックを受けていた。
いつも傍に控えていたリコリネが、唐突にその場から離れ、すみっこの窓際に行く。
「リコリネ、どうしたの?」
慌てて追ってきたユディを見て、リコリネは少し驚いたようだった。
「……いえ。いろいろと、考え事をしておりました」
ユディはリコリネの隣に立ち、彼女を窺う。
リコリネは、窓の外にある空を眺めながら、ポツポツと語り始めた。
「…私が幼い頃読んで感銘を受けた本の話をしましたね。地上最強の騎士、という本です。その騎士のセリフに、こういったものがありました。『傷をなめ合う趣味はない』と。私はそのセリフに痺れたものでした。ですから、かつての私なら、この場に居る面々を眺めながら、唾棄すべき弱者だと、あざけっていたのかもしれないなあ…と、思っていました」
「……今は、違うの?」
「…はい。彼らはどちらかと言うと、傷をいたわりあっているように感じます。それも、一緒に、幸せな未来に進むために。…私は、変わったのだと思います。それも、主のおかげです。本当に幸せの国があるのなら、彼らには、幸せになってもらいたい。……ですが」
リコリネは、困ったように息を吐いた。
「…そろそろ、私が不審に思っている点を話すべきだろうと、そう思っております。主、答え合わせをしましょう」
「そう……だね」
ユディたちは、気持ち声を潜めた。
「おそらく主も気づいていらっしゃると思われますが。この青い鳥が地上から拾ってくる困窮者は、平均して、半年に2、3人ほどだそうです。確かに、我々がたどり着いたあの岬の道への困難を思うと、この人数は妥当と思われます。しかし問題は、この居住区の人数です」
「うん…。ずっと増えていくのだと仮定すると、あまりにも、少なすぎる。どこかの段階で、減っているタイミングがあるはずだ。だけどネーヤさんの話では、この鳥が行くのはずっと同じコースなんだってね。まだ僕らが乗り込んでから全部を巡ったわけではないのだとしても、幸せの国、という存在が、抽象化され過ぎていて、具体的な話を聞けたことが無い」
「はい。それとなく、ここにきて何年目なのかをそれぞれの方に聞いて回りましたが、一年近くだと答えた3名の方々が、最長でした」
「一年以上、ここで暮らした人がいないってことか……」
「いえ、一人だけ。ネーヤ殿は、もうここでの暮らしが随分と長いそうです。やはり裸の付き合いというものはいいですね、湯浴みでは色々な情報が聞けました」
「………いきなり裸とか、言わないでよ……びっくりするじゃないか…」
ユディは、なんとなく気まずそうに、赤くなった。
「…驚きました。主はそういったことに興味はないのだと思い込んでおりました」
「ほら、話を戻して…!」
「は。その一年を過ごしたという古株の方々に、前に居た人はどうなったのかと聞きました。『そういえば、いつの間にかいなくなっていた』という答えと、『ネーヤさんがある日、古株に声をかけて集めていた』という情報が聞けました」
「…やっぱり、鍵はネーヤさんみたいだね。いつも人の役に立つことを嬉しそうにしているところしか、見たことないんだけどなあ…」
ユディは、少しうつむいた。
リコリネも、同意する。
「はい。いつもにこにこして、日向のような方だと感じておりました。正直、疑いたくはありません」
「……まずは、現時点での古株さんのところへ案内してもらってもいい?」
「かしこまりました。こちらへどうぞ」
リコリネについていったユディは、「あ、この人かあ」と思った。
流石に同じ空間で過ごしていれば、交流は無くても、見たことくらいはある。
いつも、ほがらかな笑顔で、のんびりと優しい時間を過ごしているおばさんだ。
この青い鳥のところへ来たのが、何かの間違いなのではないかというくらい、幸せに日々を暮らしているように感じる。
今も、のんびりとティータイムを送っているところだった。
「こんにちは」
「あらあら、この間の騎士さんねえ。そちらが、前に言っていた主さんだったのね。仲いいのねって思いながら見ていたのだけど」
「こんにちは、ユディと言います。最近、みなさんの境遇を聞いて回っているんです。実は僕にはハッキリと思い出せる記憶が無くて、何かを思い出せる手掛かりにならないかなって、その一心で…」
これほど自然に聞き出せる理由もないな、と、ユディは自分の記憶がはっきりしない境遇を幸運に思った。
「境遇…?」
おばさんは、ゆっくりと思いを馳せるように視線を巡らせたが、やがてティーカップを置いた。
「ごめんねえ、ユディ君。そういうの、極力思い出さないようにしていたから、渡せる情報が無いみたい…。でも、その方が幸せよ? あなたも、思い出せない過去の隙間に、これからの幸せな未来をねじ込んでいくつもりでいた方がいいんじゃないかしら? なんて、そんな不躾なことを思ってしまうくらい、過去のない今が、幸せなの」
「そう……ですか。こちらこそ、不躾なことを聞いてしまいました。失礼します」
ユディは一礼して、その場から去った。
残りの2人にも同じように聞いてみたが、同じような返事が返ってきた。
確かに、ここに来るような人は、みんな過去を忘れ去りたいと思っているのだろうし、不自然すぎる話でもないように思えるが…。
そんな風に、ユディが思索を巡らせていた時。
最後に聞き込みをしたおじさんが、逆にリコリネの方を見て、質問をしてきた。
「そういうお嬢さんは、見たところすごく強そうだし、おじさんみたいに絶望するようなこともなさそうだけどねえ…」
「いえ、そんなことは。私にも、かつて、騎乗鳥の…、………」
いきなり、リコリネが凍り付いたように動かなくなった。
「…リコリネ…?」
あまりにも長い静止に、ユディは彼女のフルフェイスを覗きこむ。
バッ!!
突然の出来事だった。
リコリネは、ものすごいスピードで振り返ると、ガシャガシャと鎧の音を立てて、全力疾走をした。
ドッ! ガチャ、ガチャガチャガチャ!
リコリネは、出入り口の大扉を掴むと、必死にドアノブを回しはじめる。
ユディは慌てて追いかけた。
「リコリネ!?」
「リコリネさん!? どうされたんですか!?」
ネーヤラーナも焦ったように駆け寄ってくる。
「降りる!! 出せ!! ここから出せ!!!」
リコリネのこんな大声は、聞いたことがなかった。
ネーヤラーナは、必死でリコリネの腕にしがみつく。
「ダメですリコリネさん! 落ち着いてください、今は空を飛んでいますから、この扉は開かない仕組みになっているんです!」
何事かと、住民のみんなが集まってくる。
ネーヤラーナは、不安がる全員に聞こえるように、声を張り上げた。
「大丈夫です…! 突然、トラウマを思い出して、暴れてしまう方がいらっしゃるのです、よくあることですから…!」
「どの口が!!」
「リコリネ!!」
怒気をあらわにネーヤラーナを振り向いたリコリネを、ユディが抱きしめた。
「!?」
リコリネの動きが止まる。
ユディは、必死だった。
硬い!!
もはや痛いレベルだ!
ついでに言うと冷たい!
だが、今目の前に居るのは、全身鎧を着ている騎士などではなかった。
ただの、泣いている女の子だ。
そう感じた。
「リコリネ、落ち着いて…!! 大丈夫だから。世の中の7割くらいの出来事は、大きな声を上げなくっても、ちゃんと相手は聞き入れてくれるし、怒る必要はないことだって、ライサスさんも言ってたよね。ね…?」
ユディは、落ち着かせるように、抱きしめた鎧の背を撫でる。
たぶん、リコリネ本人には伝わりもしない所作だろうが、なぜかそうした。
しばらくしてから、フルフェイスの中から、大きく深呼吸する音が聞こえた。
「……。……申し訳、ございません。ネーヤ殿がおっしゃる通り、少し、思い出してしまって…。錯乱してしまいました、お恥ずかしい。お騒がせしてしまったことを、謝罪いたします」
リコリネは、面々に向けて、深く頭を下げた。
しかし、誰一人嫌な顔はせず、「よかったよかった」「元気出してね?」と、優しく言葉をかけて、元の生活に戻っていった。
「リコリネさん、今は寝室を誰も使っていませんし、少し休んできてはいかがでしょうか?」
ネーヤラーナも、心配そうにリコリネを覗き込んでいる。
その表情は本当に心配そうで、演技などではないようにしか見えない。
「はい…。ネーヤ殿に何もなくて、よかったです…。もし、あなたを傷つけてしまっていたら、悔いるどころの話では、無かったでしょう」
「そんな…! わたしのことは気にしなくても大丈夫です! むしろリコリネさんが抱えているものを分かち合えず、すみませんでした。いつも凛としていらっしゃいますから、そんなに傷ついていたなんて、気づけなくて…。ユディさん、どうか傍に居てあげてください。数時間は寝室に誰も近づかないように言ってまいりますね。大丈夫です、少し休めば、悲しいことも忘れられますよ…! それでは…」
ネーヤラーナは、一度頭を下げると、住民の方へと歩き出す。
「リコリネ、歩ける…?」
ユディは、リコリネに肩を貸すように寄り添った。
実際は重量的に、肩を貸せているか微妙な感じではあったが、リコリネは大人しくユディに従っている。
寝室にたどり着いて、扉を閉める。
女子部屋には初めて入ったが、男子部屋とそう変わらない造りだった。
寝室とは言っても、全身鎧をユディが脱がせて横にさせるわけにもいかないので、ユディは椅子を二人分持ってきて、向かい合うように配置する。
リコリネは大人しくそこに座り、ユディもその前に座った。
しばらく、お互いに黙り込む。
悩んだ末、ユディは、リコリネが話し始めるのを待つことにした。
「主、…リルハープ殿は、どうしていらっしゃいますか?」
リコリネの静かな問いかけは、予想外のものだった。
「え…?」
ユディは驚きながら、胸ポケットを覗き込む。
「…!? リルハープ、どうしたの!?」
驚きに声を上げる。
リルハープは、泣いていた。




