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モノガリのユディ  作者: ササユリ ナツナ
第一章 ひとりめ
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11初めての日常

 待ち合わせ場所に行くと、既にリコリネとライサスライガが居た。

 なにやらリコリネが、興奮したように話をしているようだ。


「ごめんね、待たせちゃった?」


「ああ、主。聞いてください、おかげでとてもいい買い物ができました」


 珍しく自己主張してくるリコリネに、ユディはほんのりと胸を温かくして見守りながら、彼女の手元を見る。


「うわあ、可愛い表紙。良かったねえ、リコリネ」


 レースのあしらわれた表紙に、小さな布製の花花が散らされた、とても可愛いらしいデザインの本だった。


「いえ、表紙などどうでもいいのです。重要なのは内容です」


「リコリネ、頑張って表紙を作った人の気持ちをちょっと考えてあげて!?」


「どういう内容なのですか~~? リコリネ、ちょっと一行だけ読んでみてください~~、気になります~~!」


 リルハープは、興味津々に、小声で顔を出す。

 リコリネは、背筋を伸ばした。


「は。では、僭越ながら。タイトルは、『ハイドリーフ』とあります。『騎士道は、死ぬことと見つけたり―――』」


「わりとハードな内容だね!?」

「その表紙でそれですか~~!?」


 ほぼ同時に反応する二人に、ライサスライガはため息をついた。


「私も散々聞かされたばかりだ。まあ、リコリネ君はそういう子だよ……」


「何を言うのですか、みなさんは感動しなかったというのですか!? いいですか、これは生を望む騎士が、生き恥を晒すくらいなら死に場所を間違うなという戒めを込めていてですね。私はあまりの感動に、店員の方に聞いてみたほどです。『そのだらしない体は隠れ蓑で、あなたはさぞや高名な騎士であらせられるのでしょう』と」


「結構失礼なこと聞いてるけど大丈夫だったの?」


 次からは別行動はやめた方がいいのかな…とユディはひっそりと思った。


「大丈夫も何も、笑ってすまされました。なんでも、寝ている間に降って湧いた言葉で、それを咄嗟に書き留めただけなのだ、という話でした。天啓というものなのでしょうね。ますます運命めいたものを感じます。私はこの書を規範として、肌身離さず持ち歩くことを決意しました」


「うん……。いい買い物ができたなら、それは純粋によかったなって思うよ…」


 ユディは控えめに感想を述べた。


「ユディ君の方はどうだったのかね?」


「あ、はい、ライサスさんのおかげで、僕も素敵な本に巡り合えました。今日の夜にでも、ギジーに読んであげようと思っています」


「ギジーに…? なんというか、君は本当に私に無い発想ばかりするのだね。賢者は多角的な発想力を持たねばならないというのに、君と話していると反省すら覚える。しかし、ギジーか。彼らが君という人材に触れたことで、今後どのような進化を遂げ、どんな世界を作っていくのか、実に楽しみではあるね。まあ、所詮疑似世界だからね、今後どう発展しようが、彼らにはあの水槽から出る方法はないのだが。なのでユディ君、あまり肩入れをしないようにしたまえ。思い入れは、かえって君の負担になることもある」


「そう…ですね。そうですよね、僕は、すぐにここを発つ身でした。でも、その間くらいは何かしてあげたくて。せっかくの縁ですしね」


 ライサスライガは、薄い紙で包まれたサンドイッチを手渡してきた。

 ベンチに座るように促され、ユディはリコリネと共に大人しく座り、お茶の入った紙コップも受け取る。

 いつも片手間の食事を好んでいるのだろう、ライサスライガは、食事をとりながら質問をしてきた。


「ここを発つということだが、そのモノノリュウとやらの居場所はわかっているのかね?」


「はい、なんとなく、こっちの方向に居るな、ということくらいですが」


 ユディが指し示す方角を見て、ライサスライガは、一瞬眉をひそめた。


「…この方角は、惑乱の大陸だね。リコリネ君、かつて君に説明をしたことがあるな。覚えているかね?」


「は。元は、果ての大陸、または最北の大陸と呼ばれていたと記憶しております。かつて命の大賢者パメルクルスが惑乱して生み出した、キョウキという生き物であふれた大陸だと教わりました。人と見れば襲い掛かってくる生物らしく、誰もその大陸に近づきはしない、と。そのため、この世界の主な大陸は、6大陸ではなく、5大陸となったとか」


「そう、満点だ。まあ、ここからはかなり遠い場所ではあるし、そもそもそのキョウキは海を越えてくることはないため、我々には無縁の話ではあるのだが。ユディ君、もし君の目的地がそこであるならば、そこまでの覚悟があるのか、私は聞いておかねばならないな」


「え……」


 あまりにも予想外の情報に、ユディは言葉を詰まらせた。


「物語などに出てくるマモノというファンタジックな生物は見かけたことはないが、強いて言えばキョウキがそれに当たるだろう。もちろん、どこにだって危険はある。この大陸にも、野生の獣や、食い詰めた挙句に盗賊というジョブに転職する者が一定数いる。そして、君の言うモノオモイとも戦う時はあるだろう。…ああ、そうだ、聞き忘れていた、この街にもモノオモイは居るのかね?」


「あ……いえ、今はいませんね。モノオモイの気配については、なんとなく、近くに居るなとか、そういうのがわかるんです。それが僕だけにわかるものなのか、モノガリの隠れ里の特性なのかは、わかりませんが」


「ふむ、なるほど。里の特性だと仮定すると、何らかの形でモノノリュウと繋がっている血筋なのかもしれないね。実に興味深い」


 そう言った後、ライサスライガは黙り込んだ。

 思索にふけっているわけではない、とユディにはなんとなくわかる。

 自分に、先程の問いに対する答えを考える時間を、与えてくれているのだ。


(僕には使命を果たす覚悟がある。いや、他には何もなくて、それしか持っていない、と言った方が正しい。だけど、リコリネとリルハープは……)


 ユディは、硬い表情で、隣のリコリネを見る。


「……ねえ、リコリネ」


「ついていきますよ。腕が鳴ります」


「リルちゃんも、危ない旅というのは今更の情報ですしね~~。情報が増えただけで、状況は何も変わっていません~~」


「でも、」


「ご安心ください、主。不安など覚えさせないくらいに活躍しますからね。なにせ私の命は、ハリエンジュと主に救ってもらった、重たい命なのです。有象無象にどうにかできるものではないことを、証明して見せます」


「ぼんやり属性のご主人サマを放っておくなど、妖精族の恥です~~!」


「ははは、君の負けだね、ユディ君。…しかし、ハリエンジュ君のことは敢えて聞かないでいたが、そういうことか。リコリネ君とは本当に仲が良かったのを知っているだけに、身につまされるよ。ユディ君、ここで心積もりを聞いたからには、土壇場で揺らぐことは無しだ。この話は、これきりにしたまえよ」


 まるでわざと退路を断つように、ライサスライガはそう断じた。

 ユディは、ちょっと困ったように彼を見る。


「ライサスさん、教え子が心配じゃないんですか?」


「勘違いをするものじゃないな、ユディ君。私は、私の未練を断つために今の質問をした。今現在の私は、君たちを助手として、この街に残るように説得をする未来がとても魅力的なものに感じているからね。その話に乗るわけにはいかないのだろう? ならば、私の指針はこの初期段階で決めておく必要があった。それだけだ」


 ユディは、少し驚いた。

 彼は背を押してきたのではなかった。

 背を押さざるを得ない状況に、自分を置いたのだ。

 自分の立ち位置を決めるというのは、こういうことなのか…と、少し新鮮に感じた。


 ライサスライガは、食べ終わった紙包みを丸めると、傍らに設置されたゴミ箱へと放り捨て、ベンチから立ち上がった。


「さて、買い出しへ向かおうか。今日は荷物持ちのリコリネ君が居るからね、大量に買い付けても大丈夫なのがありがたいよ」


 ライサスライガは、さっさと歩きだす。

 リコリネは、その後姿にちょっと笑った。


「…ふふ。先生は、照れ隠しをするときに、早口になります。主は、先生にかなり気に入られていたのですね」


「…『僕たち』だと思うよ」


 ユディも同じように笑い返す。




「いらっしゃい、いらっしゃい、大人気の『不思議な羽根ペン』だよ~!」


 その露店の人だかりの前で、ユディだけが、足を止めた。


「この精霊道具はなんと! その身に備わった精霊の奇跡の力を注げば、好きな色のインクがいくらでも出てくる、まさに奇跡の羽ペン!」


「………」


「主、どうされました?」


 少し先で、リコリネたちがユディを振り返った。


「……あ、ううん、なんでもない」


 ユディは慌てて追いかける。

 一度だけ、露店を振り返った。

 それだけだった。



-------------------------------------------



 そこから、初めて過ごす日常が始まった。


 リコリネは買い出し係で、ユディは料理や掃除、洗濯の係だ。

 料理については、初めての食材を見ても、体が覚えているような感覚で、さして苦も無く行うことができた。

 しかし、実際に食べてみても、懐かしい味だとは微塵も思わない。


 その点掃除は、体が覚えるも何もないので、違和感もない。

 ふわふわと部屋を漂う浮き菜との接し方にもすぐに慣れて、時々つついてみたりもする。


 お風呂は、足つきのバスタブ式だった。

 そこでユディは、初めて鏡に映る自分の顔を見た。

 こんな顔だっただろうか、という気にもなるし、とてもよく見知った顔のような気もする。

 不思議な感覚だったが、何かくっきりと思い出せる気配もない。

 些細な矛盾が、小さく降り積もっていく、という生活だった。



 隙間時間に、ライサスライガから、旅に役立つ情報や、常識的なことのレクチャーが入る。

 彼はいつも心なしか嬉しそうで、「中古で買った家だが、まさか誰かに合鍵を渡す日が来るとはね」と、感慨深そうに共同生活を送ってくれた。

 しかし彼は、自分以外のことに興味を向けることでいっぱいで、自分自身のことにはほとんど無頓着な人だった。

 そのため、油断をすると空腹や眠気を放置したがるので、ユディたちはそれとなく注意したり、敢えて目の前に食事を置いたりすることに専心した。


 しかしこの無精者は、世話をする以上に、色々な知識を与えてくれた。


「いいかねリコリネ君、君に依頼したいのは、この本の分析だ。まず、最初の10ページ中で出てくる文字らしき記号を、種類ごとにすべてこちらの紙に書きつけてくれ。そして、同じ記号が何度出てくるかもカウントしてほしい。この10ページの中で、記号の数が50以内ならばそれでいいが、51以上になったときは、次の10ページも同じようにした上で、似ている文字と似ていない文字を分けて欲しい」


「は。かしこまりました」


「それで何かわかるんですか?」


 ユディは興味深げに、その解読依頼をされたという本を覗き込む。


「50文字以内であれば、文字の組み合わせで単語を作っていく文化圏である可能性が高い。さらには、文字記号の頻出度合いが高ければ高いほど、その記号が母音である、と仮定することができる。上位5個くらいが怪しいね。逆に、出てくる文字が100を超えるようであれば、何通りかの、種別が異なる文体を交えて文章を構成しているものと仮定される」


「へええ、面白いですね…!」


 そしてリコリネは、ライサスライガが称した通りに、言われたことを着実に、言われるままやり遂げていく人物だとわかった。

 リルハープなら1ページも経たないうちに文句を垂れ流すだろう作業を、黙々とこなしていく。

 しかし全身鎧を着た騎士が机に向かう姿というのは、慣れるまでに少しだけ時間がかかった。

 慣れてみると、とても愛らしく見えるから不思議だ。



 もうひとつ面白かったのが、ライサスライガとリルハープの関係性だ。


「リルハープ君、そろそろ妖精族の話を聞かせて貰ってもいい頃合いじゃないかね?」


「つ~~んっ」


「リルハープ君、君は妖精にしては人間のことに詳しいよね?」


「博識なだけです~~っ」


 大の大人が、小さな妖精ににべもなくあしらわれていく姿は、若干可愛らしくも見えた。

 しかしライサスライガもめげない性分らしく、飴玉を用意しては、毎日のようにこのやり取りを繰り返している。

 リルハープは、ちゃっかり飴玉だけ貰っていた。


 だけど、なんだかんだでリルハープは、ライサスライガの周辺をパタパタと飛び回る回数が増えたような気がする。

 …実は気に入っているのだろうか?

 本人にそれを言ったら怒るのは間違いないので、黙っておいた。



 そしてユディは、物語本を読むということに、どっぷりとはまっていた。

 とりわけ気に入ったのは、フェンネル英雄譚という物語だ。

 夕食の席になると、嬉しげにみんなに読んだ内容を報告するのが日課になっていた。


「聞いてよリコリネ、フェンネルがね、すごくかっこいいんだ」

「…ふふ、私もその勇者とやらに負けてはいられませんね」


「リルハープ、今日はディルっていう子が仲間になってね、君みたいに背中に翼があるんだよ!」

「リルちゃんのは羽です~~っ。鳥の翼よりも綺麗なんですから~~!」


「ライサスさん、ネタバレは無しですからね! ああ、読み終わるのが勿体ないような、それでも先を読みたいような…」

「わかるともユディ君。君が自分の中の思考と嗜好を明確にしていくのを見るのは、私も楽しいよ。そういったものは、人格形成に必要な要素だからね。ハッキリと思い出せない記憶よりも、きっとステキなもので満たしていけるよ」


 頬を紅潮させながら語るユディを、3人は微笑ましく見守っていた。

 しかし数日後、ユディはうつむいたまま、一言も発さなくなった。


「主、どうされましたか…?」


「リコリネ…。ディルが、フェンネルを庇って死んでしまったんだ…。僕は全然気が付かなかったんだけど、ディルはフェンネルのことが好きだったんだって、満足そうに微笑んでた…」


「ご主人サマはそういう方面でもぼんやりさんなんですね~~…」


 リルハープは、どう声をかけたものかと、少しおろおろしているように見える。

 ユディは、ぽつりと質問をする。


「ライサスさん、どうして悲しい話というものがあるのでしょうか? 架空の話なら、幸せなものばかりでもいいんじゃないですか?」


 ライサスライガはその議題に、とても真剣な顔をして取り組み始める。


「ふむ…。ただの個人的な意見として、断言をすることはできないが。相対的な幸福感を得るため、というのが、理由の一つに挙げられるだろうね。悪夢と同じだよ。とんでもない悪夢を見た後、目が覚めて現実に戻った時、『ああ、アレが夢でよかった』と大半の者は思うだろう。それと同じで、辛く厳しい世界を架空の世界として覗き込んだ我々は、現実の平和を噛み締めることができる」


「そんな…。踏み台のための不幸ということですか?」


「多くの者にとっての、絶対的な幸福が確立されていないために起こる現象の一つと考えられる。例えば富を例に取ってもそうだ。国中がすべて貧困層で構成された国は、絶対的な貧困国と言うことができる。が、ほとんどの国は、国を構成する一部に富裕層が存在し、相対的な貧困が発生している状態が多い。『富裕層よりも、うちは貧乏だから、不幸なのだ』と、ある程度暮らしていける富を持った中間層ですら、幸福を感じにくくなっている場合が多いね。だからこそ、君の言う踏み台のための不幸というものには、一定数の需要があるのだよ」


「ライサスは難しく言うのがお好きですよね~~っ」


 リルハープが、つまらなさそうに足を組んだ。

 ライサスライガは、考え込むように顎に手を当てる。


「ふむ…。それでは話を変えて、少し平易な話をしてみようか。ユディ君。小説の中の登場人物は、生きていると思うかね? それとも、人形のように、与えられた使命をこなすだけの存在だと思うかね?」


「え……?」


 ユディは、考え始めた。

 リコリネも、フルフェイスの中でちょっと唸っているところを見ると、一緒に考えてくれているらしい。

 決して短くない間黙り込むと、やがて、ユディの中で結論が出た。


「生きていると思います」


 ライサスライガは頷いた。


「そう、私も同じ結論だ。何故なら我々は、ディルと出会っていないフェンネルを、想像することができる。ディルが死なない『もしも』を考えることができる。我々が見たのは、たまたま勇者が有翼の少女と出会った場面だっただけで、彼らが出会わなければ、別の物語が発生したと思うことができる。なぜなら、彼らは生きているからだ。ディルと出会わなかった、という予定外の出来事が発生した瞬間に、フリーズして1ミリも動けなくなる人形など、少なくとも私たちの頭の中には居ない」


「はい」


 ユディは、力強く頷き返す。


「リコリネ君。君の大事なハリエンジュのことを、ユディ君が悲しんで供養してくれたら、どう思うかね」


「それは…もちろん嬉しいです。供養する者が多ければ多いほど、死後の御霊を精霊に見つけていただきやすくなりますからね。それがなかったとしても、嬉しいです。ハリエンジュのことは、私一人が知っているには惜しいくらい、いい子でしたから」


「そうだろうね…。同じだよ、ユディ君。どこかの世界で生きている勇者フェンネルは、君がディルの死を悲しんでくれたことを知れば、きっと喜んでくれるだろう。彼はそういう心根の男だ。ユディ君、君のその悲しみは、無駄ではないのだよ」


「悲しいは、無駄じゃない……」


 ユディは、呆けたように、その言葉を繰り返した。

 リコリネは、複雑そうに唸り声をあげる。


「私は複雑です。主を悲しませる存在は、敵です。そういう意味で、勇者フェンネルは、ただの本に登場するだけの人形であってほしい。悲しみが減りますからね。ですがこのところ、主は我が事のように、嬉しそうにフェンネルの活躍を語っていました。彼が主の良き友人であることは間違いありません。そういう意味では、やはり体温のある存在で居て欲しいです」


「リコリネ……ありがとう。その気持ちだけで、僕も嬉しいよ」


 ユディははにかんだ。


「まったく、ご主人サマは純真すぎます~~っ。田舎出のお子様なんですから~~! そんな感じで世の中渡って行けるのですか~~? リルちゃんは今から心配です~~!」


「待って、田舎の部分は今言う必要なかったよね? 本当に君って口が悪いよね、リルハープ」


 ユディは、拗ねたように口を尖らせる。


 リコリネもライサスライガも、二人の様子に笑い声をあげた。



-------------------------------------------



 その日の夜、ごちゃごちゃと考え込んでしまって、ユディはなかなか寝付けなかった。


 隣を見ると、水槽がある。


 ふわふわと、暗闇の中で色とりどりの発光をしながら漂う、小さな疑似生命体たち。


 眠れないついでに、小さな音でオカリナでも吹こうかと思って、起き上がった時だ。


   ちりちり、ちりしゃら…


「え?」


 細い、鈴のような音が聞こえた。

 耳を澄ませてみる。

 気のせいかと思った頃に、また聞こえる。


「…ひょっとして、ギジー?」


   ちりりり、ちりしゃら…


「…ギジー、言葉を覚えたんだね!」


 水槽の中では、本当に小さく、子供のような笑い声が聞こえた。


「ギジーも、生きているんだものね。言葉があって、当たり前だよね」


 ユディは、胸がいっぱいになって、そこからずっと、水槽を眺めていた。

 触れても居ないのに、自分ではない生き物が傍に居るというだけで、暖かみを感じる。

 ささやくように発光する、色とりどりの淡い光たち。

 ずっと眺めていても、飽きることはなかった。

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