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モノガリのユディ  作者: ササユリ ナツナ
第三章 ろくにん
105/137

24酵母の村

 そこからの旅路は順調で、明日には酵母の村に辿り着きそうな流れとなった。

 いつものように野営の見張りは、前半はユディで、後半はリコリネだ。


 ユディが岩に凭れるようにして眠っていると、何か…妙な圧を感じて、ふと目を覚ます。

 目の前に、リコリネのフルフェイスがあった。


「……うわびっくりした」


 寝起きの半分眠ったような頭で、ぼんやりとそう言った。

 どうやら、じっと見られていたようだ。

 リコリネは、驚いたようにあわあわしている。


「す、すみません主、起こしてしまいましたか…!」


「ん……いや、どっちにしろ、もうすぐ夜明けだろうし、起きるところだったよ…」


 ふあ、と欠伸をする。


「あの、これは、違うのです。そういえば今まで、主の寝顔をじっくりと見たことがなかったなと思いまして…!」


 よほど恥ずかしかったのだろう、特に追及していないのに、リコリネは自分から喋り出す。

 ユディは思わず、意地悪く笑った。


「今まで僕に興味がなかったんだ?」


「なっ、そ、そのような言い方…!! 主は意地が悪いですね!」


「さあ、どうだろう。断りもなく勝手に人の寝顔を見る人と、どっちが悪いかなあ…」


 ほとんど世間話の延長のように言いながら、んーっと伸びをする。

 リコリネは言い返せずに、むむむと俯いている。

 ユディはその様子を見て、笑ってしまう。


「ほらほら冗談だよ、君のお眼鏡にかなったんだったら光栄だ。何か発見とかあった?」


「知りませんっ。あっても教えません」


「ええ…? 君が怒るんだ?」


「怒っていません」


「じゃあ、拗ねてる?」


「それは…、まあ、はい」


「君って噓つきだっていう割に、変なところで素直だよね?」


「む……」


 黙り込んでしまったリコリネに、ユディはますます笑みを深めた。


「ごめんごめん、意地悪し過ぎたよ、お詫びに何でも言うこと聞くから」


「…本当ですか?」


 リコリネは、ぱっと顔を上げる。

 ユディは驚いたように瞬きをした。


「意外だな、何かあるんだ?」


「はい。主、お願いが一つだけあります」


「うん、聞くよ」


「……モノノリュウに、負けないでください。勝たなくてもいいんです。負けないでください」


「…リコリネ…?」


 遠くの空が明るくなってきた。

 夜明けが近い。

 リコリネはそこから何も言わずに、ユディを見つめ続けた。


「……わかった。負けないよ」


 ユディはそう答えて、空を見上げる。

 シャラシャラと、天からの贈り物が降り始めた。

 惑乱の大陸でも、この贈り物は降るのだろうかと、ぼんやりと考えながら、朝のひとときを静かに過ごした。



-------------------------------------------



「遅エよ」


 酵母の村に辿り着くと、驚いたことに、村の入り口で出迎えたのは、不機嫌そうなシュレイザだった。


「シュレイザ!? 何時着いたの!?」


 目を丸くするユディに、シュレイザは表情を変えずに答える。


「操船の説明を一通り聞いた。試運転もした。それらができるくらい前だ」


「え、じゃあ…」


 ユディは、言葉に窮した。

 マトナの話を聞こうかどうか、悩んでしまう。

 シュレイザは、そんなユディの気持ちを見透かしたように、空の遠くを見上げた。


「マトナはおれと違っていい子だったからな。大精霊が手元に置きたがったんだろう。それだけの話だ。マトナは風呂が好きだった。テメエらのおかげで最後は丁寧に綺麗にしてやれた。礼を言う」


「……、そっか……」


 ユディは、唇を噛んだ。


「テメエはマトナの尻が好きだったな。持ってきてやりたかったが……」


「それは要らない気づかいかな!!?」


「冗談だ」


 シュレイザは、目つきの悪い目を細めた。

 思ったよりもシュレイザが元気そうで、ユディはほっとした。


「…シュレイザって、そんな感じだったっけ?」


「…? どういう意味だ」


「いや、なんだか大人の男の人だなあって、今更だけどさ。ちょっと前まではずっと一緒に居たから、こうして離れてみると、変化がわかるなあ…って」


 シュレイザは変な顔をする。


「テメエは変わってねエな。どこをちんたらほっつき歩いてこんなに遅くなったんだ」


「…あ、ひょっとしてさっきから不機嫌なのって、心配してくれてたんだ?」


 シュレイザはますます嫌そうな顔をして、埒が明かないとばかりにリコリネの方に目を向けた。


「おい。数日前からテメエ目当ての使者が待っている」


 ユディとシュレイザのやり取りをほのぼのと見守っていたリコリネは、気を引き締めるように背筋を伸ばした。


「む。そうですか、何か予定の変更があったのかもしれませんね。シュレイザ殿、案内を頼めますか?」


「ああ。こっちだ」


 すぐに背を向けて歩き出すシュレイザに、ユディとリコリネは急いでついていく。

 ちらほらと村人の姿が見えるが、みんなシュレイザを怖がっている様子はない。

 それどころか、にこにこ笑顔だ。


 そうなんだよなあ、とユディは思う。

 結構な年数を一緒に過ごしてわかったのだが、シュレイザは面倒見が凄くいい。

 たぶんこの村でも、シュレイザは「いいから貸せ」とか「おれがやったほうが早い」とか言いながら、色々と手伝ったんだろう。

 なんにしろ、シュレイザが不必要に怖がられない環境みたいなので、ユディは嬉しくなった。


 一方でリコリネはいつものように淡々としており、村を見渡しながらも、シュレイザに話しかけている。


「確か、ガッディーロが借りている区画があるという話でした。そちらでしょうか?」


「ああ。区画というより家だな。おれもそこで寝泊まりしている。見張りからテメエらがやって来るのが見えたという話を聞いているはずだ。今頃待っているだろう」


 向かう先に、大きすぎず小さすぎずの家が見えてきた。

 シュレイザの言う通り、家の入り口の前に、二人の人影が立っている。

 片方は、真面目そうな印象の若い女性で、もう片方は、その女性の後ろに隠れるようにしている、小さな女の子だ。


「ミレアノット、どうしましたか?」


 リコリネが、少し驚いたようにその二人に寄っていく。

 ミレアノットと呼ばれた女性は、きっちりと頭を下げた。


「リコリネ様、お待ちしておりました。少々ご報告したいことがありまして、直接はせ参じた次第です」


 リコリネは、戸惑ったように、ミレアノットが連れてきた女の子に目をやった。


「……わかりました。では主、私は中で少し話をしてまいります」


「ああ、うん、じゃあ僕はここで待ってるよ」


「おれは村長にテメエらの到着の報告をして来よう」


 シュレイザは、ユディと二人きりになるのを避けるように、さっさと去って行った。

 リルハープは眠っているし、一人でどう時間を潰すかと考え始めた時、ユディのお腹にどすんと衝撃が来た。


「わっ」


 リコリネとミレアノットが家の中に入ろうとしたと同時に、女の子がユディにしがみついてきたのだ。

 ミレアノットは、慌ててユディの前に戻って来る。


「! 申し訳ありません、ユディ様…! さあ、こちらへ…」


 ミレアノットは、優しく女の子の肩を抱いて移動を促すが、女の子はいやいやと首を振って、ユディにしがみついたままだ。

 ユディは少し驚きながら、ミレアノットの方を見る。


「あの、よければ僕がこの子を見ていますよ……、―――?」


 ふと、ユディは首を傾げる。

 ミレアノットは、じっとユディの方を見ていた。

 何か…既視感のようなものが来る。


「…あの。ミレアノット…さん? ひょっとして、どこかで、お会いしたことがありますか?」


 ユディの質問に、ミレアノットは息をのむほど驚いていた。

 そして、慌てるように言葉を被せてくる。


「はじめましてユディ様、私はライサス先生の弟子の、ミレアノットと申します。ミレアとお呼びください」


「…えっ、先生の?」


「はい。ユディ様は、兄弟子ということになるのでしょうか。お会いできて光栄に思います」


 ミレアノットは真面目な顔でそう言った後、女の子の方に視線を落とす。


「…ユディ様のお手を煩わせるのは心苦しいですが、お言葉に甘えさせてもらいますね。その子をお願いできますか?」


「あ、はい、もちろんです。ミレアさんも、リコリネをよろしくお願いしますね」


 そう言ってユディが微笑むと、ミレアノットは、見間違いかと思うほどの小さな一瞬、泣きそうな顔をしたように見えた。


「では行きましょう、ミレア」


 リコリネがそう言うと、ミレアノットは、「失礼します」と呟くように言いながら、急いで家の中へと入って行った。

 ユディが不思議に思う暇もなく、しがみついている女の子が、ゆっくりと顔を上げる。

 紫紺色の髪色に、褐色の肌、そして、紫水晶のような瞳。

 瞳には、涙が溜まっていて、ユディは少し慌てた。


「どうしたの、どこか痛い?」


 女の子は小さく首を振ると、たどたどしく話し始めた。


「ユディさま。おアいしたかった。タイコのムカシから、ずっと、ずっと…!」


「ええ…?」


 びっくりするユディに、女の子は必死に話を続ける。


「わたしたち、ずっと、このトキを、マちノゾんでいました…!」


 冗談めいた内容だが、女の子は真剣そのものだ。

 なんだろう、と思考を巡らせる。


 たぶん、この子はガッディーロの孤児院の子だろう。

 昔から、僕とリコリネの話を聞いて育ってきたのかな?

 それで、会えて嬉しいと言ってくれているのだろう、と解釈する。


 ユディは微笑みながら、女の子の頭を撫でた。


「ありがとう、わざわざこんな遠くまで来てくれるなんて。君の髪の色は、夜の色合いなんだね」


「はい…! わたしたちはヨルとともにソダちました。ヨルはわたしたちにシみこんで、もはやコスってもトれません。きっと、ホネのオクまで、このイロをしているでしょう」


 見た目よりも大人っぽい喋り方だ…とユディは思う。

 それでも、頭を撫でる手は止めなかった。

 女の子は、ぽろぽろとますます涙を流して、ユディにぎゅっとしがみつく。


「ユディさま。おアいしたかった。ずっと、ずっと…!」


 同じ言葉を繰り返す女の子に、ユディは困ったように笑う。


「…小さいのに、喋るの上手だね」


「はい、たくさんレンシュウしました。もう、セイレイのシュクフクのチカラもシヨウできます。わたしたちは、おヤクにタちます、ユディさま…!」


「ええ…? いいんだよ、役に立つとか立たないとかなんて考えなくても。小さい子が何の心配もなく、きちんと笑って生きていける世界が、一番うれしい世界なんだから」


 そんなことを話していると、リコリネたちが思ったよりも早く、家の中から出てきた。


「あれっ、リコリネ、もういいの?」


「……はい。報告を受けただけですので…」


 そう言いながら、リコリネは何らかの感慨を持って、ユディにしがみついている女の子を見ている。

 ミレアノットは、先程と同じように、女の子の肩に手をやって、優しくユディから引きはがす。


「ほらほら、あまりユディ様を困らせてはいけませんよ。ユディ様、ありがとうございました。幼子の言うことなので、何か言われたとしても、どうかお気になさらず」


「え…はい…。ミレアさん、今日はこの村に滞在を?」


「いいえ。用事は済みましたので、これにて失礼させていただきます。一応鳥車で来ていますので、道中のことはお気になさらず」


 どこかよそよそしく、ミレアノットはそう告げた。

 今度は、ユディと視線を合わせようとはしてこない。


「ミレアさん、でしたら一つ、お願いをしてもいいですか? 実は近いうちにモノノリュウが目覚めるかもしれないので、各大陸の動物が怯えて暴れてしまわないかが心配なんです。不確定要素なので、忠告とまで行くのは難しいのですが、一応、各地の騎士団に、モノガリからそういう情報が入ったという一報を入れて貰えないでしょうか。やっぱり前情報はあったほうがいいと思いますので」


「ああ、なるほど。確かにそれは必要ですね。さすがユディ様です。では各大陸に速達を送っておきましょう。相手にするもしないも、各地の騎士団が判断するでしょう。ご依頼、しかと承りました」


 ミレアノットはしっかりと頷き、ユディは安心する。

 女の子は、名残惜しげにユディに手を伸ばしていたが、やがて諦めたように、ミレアノットに大人しく抱き上げられる。

 ミレアノットは、「それでは」と告げながら、それ以上の余計な言葉を重ねずに去って行った。

 リコリネと一緒に、ミレアノットたちの背を見送る。


「……主。この酵母の村の名産は、酒類やパン、チーズなどです」


「え?」


 いきなり、前に聞いた話と同じことをリコリネが話し始める。


「酵母には土壌を育てる効果もありまして、海沿いにしては農作物も豊富に育つのですよ。塩害をものともしないというのは、なかなかの強みだと思いませんか? 特に、そちらをご覧ください。青々とした茂りが村中に見受けられるでしょう。あれはヨクジツの葉と言いまして、その日に摘んでも次の日にはまた葉が生え始める程に生命力にあふれた葉なのです」


 すらすらと観光案内を始めるリコリネの手首を、ユディは思わず握りしめた。

 リコリネは驚いたように、ユディにフルフェイスを向ける。


「…リコリネ。リコリネ、何かあった?」


 フルフェイスを覗き込んでくるユディを、リコリネは呆けたように眺めた。


「……、……いいえ、なにも…」


「リコリネ。君が何でもないというなら、僕はそれを信じるしかないんだ。でも、もし一人で背負おうとしているものがあるんだったら、ちゃんと言ってほしい。僕だって君と一緒に背負いたいんだ」


 リコリネは、うつむいた。


「…いいえ。私は、一人ではありませんので」


「おい。どうした」


 横合いから、戻ってきたシュレイザの声がかかる。

 リコリネは安堵の息を吐くと、何事もなかったかのように、シュレイザに向き直る。


「シュレイザ殿。今、主にこの村の観光案内をしておりました」


「…? そうか。何もないように見えて名産が多い村という印象だ」


 ユディは、仕方なく二人の話に乗る。


「…本当だね」


「おい。村長が歓迎の食事を用意したという話だ。少し早いが晩飯にしろ」


 シュレイザは、機嫌が悪そうにそう言った。

 しかし何年かを共にしたユディには、これは心配をしている時や、こちらを元気づけようとしている時の態度だとわかる。

 リコリネは、嬉しそうに頷いた。


「主、私と食レポ勝負をする時が来ましたね!」


「ええ? そういえばそんな話してたっけ…!」


「またテメエらは馬鹿なことをやる気か……」


「何を言うのですかシュレイザ殿、本気でやれば、どんなことでも素晴らしい思い出になるのですよ! さあ行きましょう!」


 リコリネがやる気を出しながら歩き出し、ユディもシュレイザも不安そうについていく。




 珍しいことに、村長は女性だった。

 実利だけを追い求めるタイプの人のようで、領主の娘であるリコリネに対してもおべっかは全く使わず、早くも船に物資を積み込み始めたことや、出立の日取りの調整をまずは口にする。


「ま、ゆっくりしてってくれとは思うんだけどね、急ぎの旅みたいじゃないか。明日出立と思って準備しているんだけど、どうだい?」


「主がそれでよろしいのならば、私としては構いません」


「あ、じゃあ、それでお願いします。シュレイザはどう?」


「おれは準備万端だ」


 パパっと決まった。

 村長は、ニっと笑う。


「そんじゃ、念のため今夜は船に見張りを立たせとくかい! さ、料理も仕上がったところだし、ちゃちゃっと食べていきな!」


 奥の部屋に案内されると、既に食事が並んでいた。

 村長は、「旅の疲れもあるだろうから」と気をきかせて席を外す。

 リコリネは意気揚々と席に着き、ユディとシュレイザも同席する。

 チーズやソーセージが並ぶ中で、パンケーキが湯気を上げていた。


「わあ、パンケーキだ。キレイに焼けてるなあ。まんまるにするのって、結構難しいのに」


 丸く、キツネ色のパンケーキが数枚積み上がった皿を見て、ユディは感心する。


「む、主、早速先制パンチですね? 負けませんよ!」


 なぜかリコリネが既に勝負に乗り出していた。

 シュレイザは今にもしょうもないという感想を述べそうだ。


 リコリネは、カシャリとフルフェイスの口元を上げ、ナイフとフォークを優雅に動かして、シロップのかかったパンケーキを口に運んでいく。

 もぐもぐしながら一生懸命考えていたのか、それともお腹が空いていたのか、一切喋ることなく瞬く間に平らげた。

 そして、フルフェイスの口元を下ろす。


「これは…白乳と卵と粉が上手にまじりあっていますね。素材の味が活き抜いて、ぴちぴちしています」


「食い終わってから言うのか……」


 シュレイザがそっと突っ込む。

 しかしリコリネは気にせずに話し続ける。


「この粘性を帯びた液体の甘さが、粉を引き立てているようです。焼き加減や味わいも実にちょうどよく、特に不味くもなく美味しくもありませんね」


「そこは美味いって言えよ……村長が悲しむだろうが」


「いかがですかシュレイザ殿、今のは何点でしょう」


「10点」


 リコリネは満足げに「ふふ」と笑ってユディに目を向ける。

 ユディは仕方なくパンケーキを口に運んだ。


「ええと…すごく美味しいなあ!」


「100点」


「シュレイザ殿、10点満点ではないのですか!?」


「いつ誰がそう言ったんだ。つかテメエのその自信はどっから来た…?」


「待って僕おいしいしか言ってないけど!?」


 結局リコリネはおかわりをしに行って、村長さんはとても嬉しそうだった。



-------------------------------------------



 その夜。

 海沿いに簡単に作られた、天井だけが覆われた雨除けの建物が、酵母の村の船着き場だ。

 そこでは、明日を出港に控えた中型船が、ぷかぷかと浮いている。

 見張りはかがり火の明かりの中で、大あくびをした。

 まだ若い見張りは、心の中で愚痴をこぼす。


 こんな平和な村で、しかも惑乱の大陸に向かう船を、誰が盗もうというのか。

 本当に見張りの必要があるのか…と。


 チャプンと背後で、波音とは違う水音が聞こえた気がした。

 しかし、眠さと戦い続ける彼には、それに気を配る余裕はない。


 結果的には、その中型船の船底に溜め込まれた食料物資の箱の一つが空っぽになった。

 代わりのように、人間大の何かが中に潜む。

 そして、誰もそれに気づくことはなかった。



-------------------------------------------



「うわあ、思ったより大きい船だね!」


 翌朝。

 船着場に案内されたユディが、驚きながら船を見上げる。

 リコリネは、静かに頷いた。


「はい。念のため、数日を過ごせる仕様にすると、こうなりました。船室や風呂トイレなど、簡単な設備は必要ですからね。少し小さめの船に慣れたシュレイザ殿には、大変かもしれませんが」


「舐めんな。操船方法が聞ければこっちのモンだ。帆を張るにはテメエの力を借りるがな」


「なるほど。協力は惜しみません。この力、いくらでもお使いください」


 リコリネがぐっと拳を握る。

 ユディは自分を指さしながら、シュレイザを見た。


「シュレイザ、僕は何すればいい?」


「テメエはその辺で妖精と一緒にカワイクしてろ」


「そうです、主には戦に備えて温存していただかないと」


 いきなり戦力外通知をされたユディは、ぽいっと船室に放り込まれた。


「………」


 むすっとする。


「まあまあご主人サマ、リルちゃんが居てあげますから~~!」


 妖精はいつものようにきゃらきゃらと笑いながらその辺を飛び回り、ユディは結局、出航の見送りに来た村長さんたちに手も振れなかったのだった。

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