1ミリも野球知らないけど初心者マッチに行くことになりました
次の日曜日。
あたし達五人は、VR空間のロビーへ集まっていた。
観戦の日以来、双子もかなりVRBOにハマっているらしい。
特にひかり。
「今日は絶対三振取ります!!」
やる気がすごい。
「まずストライク入れようね……」
のぞみが真顔で言った。
「うっ」
ひかりが申し訳なさそうに頭を下げる。
「だって気合い入ると力んじゃうんだもん!」
元気系ピッチャーだった。
すると翼が、ぱんっと手を叩く。
「じゃあ今日はみんなで初心者マッチ行こー!」
「おー」
なんとなく返事する。
すると栞が空中ウィンドウを開いた。
「その前に、改めてステータス確認しよっか」
「またやるの?」
「大事なの!」
栞は完全に監督モードだった。
まず翼。
【風見翼】
ポジション:センター
筋力:1
脚力:158
ミート:12
守備:18
捕球:4
称号:
《流星》
ひかりが固まる。
「脚力158!?」
「いっぱい走った!」
「「翼さんはすごいなあ~!」」
「だめだこの双子」
栞が遠い目をした。
次。
【桜庭百花】
ポジション:DH
筋力:172
脚力:1
ミート:6
守備:1
捕球:1
称号:
《ジャイアン》
《万本素振り》
《バット依存症》
双子がそっと距離を取った。
「なんで離れるの」
「いや怖いですって!?」
「筋力172ってなんですか!?」
「野球は遠くまで飛ばせば偉いから」
「怖いよぉ……」
のぞみが半泣きだった。
ちなみに《万本素振り》は、一回のログインで一万回以上スイングすると取得できる称号らしい。
思わずあたしは頭を抱える。
「なんでこのゲーム、普通に遊んでるだけで変な称号取るの……」
「普通……?」
翼が首を傾げた。
次。
【神崎栞】
ポジション:セカンド
筋力:32
脚力:52
ミート:63
守備:62
捕球:70
称号:
《器用貧乏》
「おおー! ちゃんと人間してる!」
「どういう意味!?」
でも安心感はある。
数値が人類だった。
すると栞が少し苦笑した。
「でも私、まだ初心者帯なんだよね」
「えっ」
あたしは目を丸くする。
「あんな詳しいのに?」
「知識とプレイは別だから……」
栞は小さく肩をすくめた。
「私のステータスって、味方がちゃんとしてないと活きにくいんだよね。ソロだとなかなか勝てなくて」
なるほど。
言われてみれば、栞って支援型だ。
一人で試合壊すタイプじゃない。
あたしは壊す。
物理的に。
「じゃあ次! ひかりちゃん!」
【朝比奈ひかり】
ポジション:ピッチャー
球速:61
制球:28
変化:12
スタミナ:44
称号:
《以心伝心》
【効果】
同一対象との連携時、
全ステータス成長率上昇
「おおー!」
翼が目を輝かせる。
「なんか主人公っぽい!」
「えへへ……!」
ひかりが嬉しそうに笑った。
しかし。
栞は固まっていた。
「……え?」
「?」
「《以心伝心》ってなにこれ」
空中ウィンドウを何度も開き直す。
でも。
取得条件の欄だけが、???で伏せられていた。
「条件非公開ユニーク称号……?」
栞の声が震える。
「こんなの初めて見た……」
最後。
【朝比奈のぞみ】
ポジション:キャッチャー
筋力:24
脚力:21
ミート:31
守備:58
捕球:67
称号:
《以心伝心》
【効果】
同一対象との連携時、
全ステータス成長率上昇
「二人とも持ってる……」
栞が完全に混乱していた。
「えっと……レアなんですか?」
「レアっていうか、存在自体知らなかった……」
栞が頭を抱える。
「二人、何してたの?」
双子は顔を見合わせた。
「普通にピッチング練習です!」
「ずっと二人で?」
「はい!」
のぞみもこくりと頷く。
「ひかりの球、最初ぜんぜん捕れなかったので……」
「だからいっぱい練習しました!」
「どれくらい?」
「「たぶん百時間くらい?」」
沈黙。
栞が勢いよく立ち上がった。
「全然チュートリアル終わっただけじゃないじゃない!!」
「えぇ!?」
「初心者の練習量じゃないよそれ!!」
ひかりとのぞみがびくっと肩を跳ねさせる。
でも。
なんかちょっと分かる。
このゲームって、気付いたら時間溶けるんだよね。
素振りとか。
走り込みとか。
気付いたらずっとやってる。
落ち着くよね。
『初心者マッチングを開始します』
システム音声が響く。
次の瞬間。
視界が光に包まれた。
転送。
そして。
あたし達は、初心者球場のベンチへ降り立っていた。
青空。
芝生。
初心者サーバー特有のゆるいBGM。
そして。
向かいのベンチには、五人組の女子チームがいた。
みんなあたしと同じ初心者用のユニフォームだ。
「あ」
目が合う。
相手側もこちらに気付いたらしい。
ショートカットの女子が、小さく会釈した。
礼儀正しい。
「対戦よろしくお願いします」
「あ、よろしくお願いします」
あたし達も慌てて頭を下げる。
するとポニーテールの元気そうな子が、ぐっと拳を握った。
「絶対勝つからね!」
「真夏、最初から喧嘩腰やめて」
真夏さんの隣にいた女子が呆れたように言う。
その子はどこか冷静そうな雰囲気だった。
「私は雨宮涼香。ショートやってます」
「火野真夏! サード!」
「白雪花音です~。ファーストやってます~」
「柊リノ。ライト」
「小鳥遊ふわりだよ~。レフト~」
おお。
ちゃんとチームだ。
なんか野球っぽい。
「桜庭百花! でぃ、DHです!」
「風見翼! センター!」
「神崎栞、セカンドです!」
「朝比奈ひかりです! ピッチャーやります!」
「朝比奈のぞみ、キャッチャーです……」
自己紹介が終わる。
そして。
試合開始のアナウンスが響いた。
『プレイボール!!』
初心者マッチが始まった。
【ユニーク称号:《以心伝心》】
取得条件:
同一バッテリーで累計100時間連続練習
※別プレイヤーとバッテリーを組んだ時点でリセット
同じ相手と延々練習でバッテリーを組み続ける必要があるので、普通のプレイヤーは取得できるはずがなかった称号です。
双子ちゃんも憧れの先輩に近づいたね(ニッコリ




