1ミリも野球知らないけど試合が始まりました
『プレイボール!!』
実況の声と同時に、球場へ歓声が響き渡った。
……いや。
待って。
なんか人多くない?
あたしは思わず観客席を見上げる。
初心者球場のはずなのに、スタンドにそこそこ人が入っていた。
ざわざわしてる。
明らかに初心者マッチの空気じゃない。
「あの……初心者マッチですよね?」
のぞみが不安そうに呟く。
栞が遠い目をした。
「たぶん掲示板」
「あっ」
そういえばいたな。
ゴリラとか言ってた人達。
実況ウィンドウが表示される。
『さぁ本日も始まりました初心者マッチ!!』
『しかし観客数が初心者帯の数字ではありません!!』
『現在観戦人数、534人を記録しています!!』
「多っ!?」
ひかりが叫ぶ。
『初心者マッチとしては異例の注目度です!!』
『おそらくお目当ては例の二人でしょう!!』
『初心者サーバーのゴリラ&チーターコンビです!!』
やめて。
ほんとやめて。
観客席から歓声が飛ぶ。
「ジャイアン砲きたー!!」
「チーター見に来た!」
「今日は何壊すんだ!?」
壊す前提なの?
すると相手チームの涼香さんが、引きつった笑みを浮かべた。
「……有名人?」
「いやぁ、まあちょっと……」
「初心者帯で観客500人集める“ちょっと”って何」
ほんとそれ。やめてほしい。
その時。
空中にスタメン表示が現れた。
【桜庭チーム】
1番 センター 風見翼
2番 DH 桜庭百花
3番 セカンド 神崎栞
4番 キャッチャー 朝比奈のぞみ
5番以降
野球ロボット《ヘロヘロ君》
「ヘロヘロ君!?」
思わずが叫ぶ。
ベンチの後ろを見る。
そこには。
初心者補充用NPC。
なんかちょっと曲がったロボット達が並んでいた。
カクカクしてる。
弱そう。
「人数足りないからNPC補充したの」
栞が説明する。
「初心者マッチって五人から申請できるんだよ」
「へぇー……」
ヘロヘロ君1号がぎこちなく敬礼した。
『ヨロシクオネガイシマス』
なんかかわいい。
すると今度は、相手側のスタメンも表示された。
【雨宮チーム】
1番 ショート 雨宮涼香
2番 ライト 柊リノ
3番 サード 火野真夏
4番 ファースト 白雪花音
5番 レフト 小鳥遊ふわり
6番以降
野球ロボット《ヘロヘロ君》
「向こうはDHいないんだ」
あたしが思わず呟く。
野球感ある。
すると真夏さんが胸を張った。
「ふふーん! うちはちゃんと練習してるからね!」
「真夏、フラグ立てない」
リノさんが冷静にツッコむ。
なんか仲良さそうだなこの人達。
ふわりさんはのんびり手を振ってきた。
「よろしくね~」
「よろしくお願いしまーす」
花音さんは、ほんわかした笑顔を浮かべる。
「初心者同士、楽しもうねぇ~」
……いい人そう。
でも。
涼香さんだけは、ちらちらとこちらを見ていた。
特に。
翼と、あたしを。
なんか警戒されてる?
その時。
実況が盛り上がった。
『なお本日の注目選手はこちらァ!!』
空中へ、でかでかと表示される。
【注目選手】
桜庭百花
風見翼
「やめてぇ……」
恥ずかしい。
観客席から歓声が飛ぶ。
「ジャイアン砲だー!!」
「今日は場外ある!?」
「チーター走れー!!」
翼が嬉しそうにぶんぶん手を振った。
「人気者だねぇ!」
「全然嬉しくないんだけど」
すると。
涼香さんが、小さく息を吐いた。
「……なるほど」
「?」
「君たち2人は要注意だね」
その目は、完全に警戒モードだった。
そして。
試合開始。
先攻は相手チームだった。
ひかりがマウンドへ向かう。
その背中は、ちょっと緊張していた。
「だ、大丈夫かなぁ……」
「ひかりなら大丈夫」
のぞみが静かに言う。
するとひかりが、ぱっと笑った。
「うん!!」
かわいいなこの双子。
実況が盛り上がる。
『さぁ注目の第一球!!』
『ゴリラチームの先発は新人ピッチャー朝比奈ひかり選手です!!』
「ゴリラチーム言うなぁ!!」
あたしの抗議は無視された。
ひかりが振りかぶる。
投げる。
ドゴォッ!!
「速っ!?」
バッターボックスの涼香さんが叫ぶ。
でも。
ボールは大きく逸れてバックネットへ突き刺さった。
ドガァン!!
『大暴投ォーーーー!!』
「あーーーーーっ!!」
ひかりが頭を抱える。
「ご、ごめんなさいっ!!」
「落ち着いて。次いこ」
のぞみが静かに返す。
すると。
ひかりが深呼吸した。
次の球。
シュッ。
今度はストライクゾーンへ飛ぶ。
カキィン!!
打たれた。
センター前。
……のはずだった。
ドンッ!!
翼が消えた。
「え?」
次の瞬間。
翼がボールの落下地点へ突っ込んでいた。
パァン!!
弾いた。
「あっ」
捕球失敗。
でも。
翼はそのまま跳んだ。
パシッ。
さらに弾く。
パシッ。
また弾く。
「えっ」
観客席がざわつく。
翼は走りながらボールをお手玉し――
最後。
ぎゅっ。
胸元で抱え込んだ。
『取ったァァァァァ!!アウトォォォ!』
実況が絶叫する。
『なんですか今の守備ぇぇぇぇぇ!!』
『捕球判定失敗後に身体能力で無理やり成立させました!!』
「アリなのそれ!?」
涼香さんが叫ぶ。
栞が頭を抱えた。
「翼ちゃんだから……」
翼は笑顔でボールを掲げる。
「取れたー!」
『なお捕球判定は失敗しています』
『システムが困惑しています』
観客席が大爆笑していた。
地面に落ちなければいいのだ。




