1ミリも野球知らないけど普通に点を取られました
『プレイボール!!』
――そして数分後。
「うわぁぁぁぁ!!」
ひかりの悲鳴が球場へ響いていた。
「だ、大丈夫だよっ! ナイスボール......!」
のぞみが声をかけながらボールを返球する。
現在。
1アウトランナーなし。
バッターは柊リノ。
実況が興奮気味に叫ぶ。
『柊選手、驚異の粘りです!!』
『これで八球目!!』
そう。
リノさん、めちゃくちゃ粘る。
カット。
カット。
またカット。
ひかりの球を延々とバットに当て続けていた。
「なんで当たるの!?」
「いや普通は当てるの!」
栞がセカンドから叫ぶ。
そ、そうなんだ。
ベンチに向かってツッコミ、大変だなあ。
あたしはそう思いながらベンチに置いてあったスポドリをゴクゴク飲んだ。
リノさんが小さく息を吐く。
「……よく見れば、球速自体はそこまでじゃない」
カキィン!!
またファウル。
「うわぁぁぁ!!」
ひかりが半泣きだった。
のぞみが落ち着いた声で言う。
「ひかり、深呼吸」
「う、うん……!」
でも。
次の球。
シュッ。
ボールはわずかに外れた。
『ボール!! フォアボールです!!』
「あっ……」
ひかりが固まる。
「だ、大丈夫だよ!」
翼がセンターからぶんぶん手を振る。
「まだ一点も入ってないし!」
その瞬間。
リノさんが二塁に走った。
「えっ」
速い。
「のぞみちゃん!こっち投げて!」
栞の声を聞き、のぞみが慌てて送球する。
でも。
『セーフ!! 相手の隙を突いて二塁を陥れました!!』
「うそぉ!?」
ひかりが叫ぶ。
栞がハッとする。
「リノさん、走塁慣れてる……!」
リノさんは二塁ベースの上で、小さくピースした。
「油断大敵......」
次のバッター。
火野真夏。
バットをぶんぶんと振り回している。
「よぉーし!! 打ーつッ!!」
元気だなぁ。
ひかりが投げる。
シュッ。
カキィィン!!
「あっ」
打球がレフト線へ飛んだ。
打球が速い。
外野を抜ける。
『ツーベースヒットォォォ!!』
歓声。
リノさんがホームへ滑り込む。
『先制点!!』
「やったぁぁぁ!!」
真夏さんがセカンドベース上でガッツポーズした。
「一点取ったーーー!!」
観客席も盛り上がっている。
でも。
ひかりは完全に動揺していた。
「ど、どうしよう……」
「落ち着いて」
のぞみが声をかける。
次のバッター。
白雪花音。
ふわふわしてる。
絶対癒し系。
なのに。
栞が小さく呟いた。
「……なんか嫌な予感する」
花音さんが、ほんわか笑う。
「よろしくねぇ~」
ひかりが投げる。
先ほどの動揺からかど真ん中に甘く入った。
その瞬間。
カキィィィィィン!!
「えっ」
打球が、高く。
高く。
空へ舞い上がる。
実況が叫ぶ。
『入ったァァァァァ!!』
『白雪選手、ツーランホームランです!!』
歓声。
スタンドがどよめく。
花音さん本人が一番びっくりしていた。
「えぇぇぇ!? 入っちゃったぁ!?」
真夏さんが飛びつく。
「花音すごーーーい!!」
「わ、私やっちゃった……!」
初心者っぽい。
でも。
スコアは。
3-0。
負けてる。
ひかりが完全にしょんぼりしていた。
「うぅ……三点も取られちゃった……」
「大丈夫」
のぞみが静かに背中をさする。
「まだ始まったばっかりだから」
その言葉通り。
まだ試合開始10分程度だ。
野球が何分やるのかちょっと分からないけど。
多分まだまだ時間はあるだろう。
次のバッター、小鳥遊ふわりは。
「えへへ~。がんばる~」
なんかゆるかった。
ひかりが投げる。
シュッ。
ブォン。
空振り。
もう一球。
ブォン。
空振り。
最後。
ブォン。
くるっと一回転した。
『三振ーーー!!』
「あれぇ~?」
ふわりさんが首を傾げる。
「バット当たらなかった~」
「ふわりはまず構え方からだね」
リノさんがツッコんだ。
そして次のバッター。
打席へ入ったヘロヘロ君2号が。
『ガンバリマス』
ブォン。
空振り。
ブォン。
空振り。
ブォン。
空振り。
『三振!! スリーアウトチェンジです!!』
「ヘロヘロ君よわっ」
翼が素直な感想を言った。
『なおヘロヘロ君は初心者救済用NPCです』
『あまり責めないであげてください』
実況にフォローされていた。
ひかりは少ししょんぼりしていた。
「うぅ……」
「でも最後ちゃんとストライク入ってたよ」
のぞみが静かにフォローする。
栞も頷いた。
「うん。途中からかなり良くなってた」
すると翼が、ぱんっとひかりの肩を叩いた。
「次はあたし達がいっぱい点取るから大丈夫!」
「翼さん……!」
なんか青春っぽい。
そして。
実況が声を張り上げた。
『さぁ後攻!!』
『ついに来ます!!』
『初心者サーバー最注目コンビ!!』
観客席がざわつく。
翼がバットをぶんっと振り回した。
「よーし! 走るぞー!」
「野球って走るゲームだっけ……?」
あたしが首を傾げると。
栞が疲れた顔で言った。
「ツッコミすぎて喉が枯れちゃう……」




