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1ミリも野球知らないけどプロの試合を観戦することになりました

 ある日の昼休み。


 栞が机にバンッ!!と何かを叩きつけた。


 「みんな!! 今度の日曜空いてる!?」


 「うわびっくりした」


 あたしは肩を跳ねさせる。


 机の上に浮かんでいたのは、キラキラしたホログラムチケットだった。

 PVRに差し込むやつだ。音楽フェスでも似たようなチケットを使ったなあ。


【VRBOプロリーグ】

東京アストレアズ VS 大阪バイソンズ


 「プロリーグ?」


 「そう!!」


 栞が勢いよく頷く。


 「VR BASEBALL ONLINEのプロの試合!」


 「へぇー」


 百花はぽけーっとチケットを見る。


 「そんな人気なんだ」


 その瞬間。


 栞の動きが止まった。


 「……そんな?」


 まずい。


 この顔は長くなる。


 「そんな!? 人気どころじゃないよ!? 日本シリーズなんて毎年視聴者数億超えるし、世界大会なんて国同士で大騒ぎだし、トップ選手なんて年俸五億とか普通に――」


 「始まった」


 翼がこそこそ言った。


 「始まったね」


 百花も頷く。


 栞の早口オタクトークである。


 「とにかく! せっかくチケット取れたから一緒に見ようよ!」


 「いいよー!」


 翼が即答する。


 「あたしも見る」


 正直ちょっと気になる。


 野球ってそんなすごいんだ。


 すると翼がふと思い出したように言った。


 「あ、ひかりちゃん達も誘う?」


 「「行きます!!」」


 いつの間にか後ろにいた。


 怖。


 朝比奈姉妹はキラキラした目でこちらを見ていた。


 「風見先輩と一緒にVR!」


 「楽しみです……!」


 「二人ともVRBO買ったんだっけ?」


 「はい!」


 ひかりが元気よく頷く。


 「チュートリアルだけ終わらせました!」


 「まだ全然慣れてないですけど……」


 のぞみも少し緊張したように言った。


 すると栞がニヤリと笑う。


 「ならちょうどいいよ」


 「?」


 「最高のVR体験、させてあげる」


 なんかラスボスみたいな顔してる。


 そして日曜日。


 あたし達は、それぞれ自宅でPVRを装着していた。


 もらったチケットを忘れずにPVRにセットする。


 ベッドへ寝転がる。


 視界が暗転。


 ログイン処理が始まる。


 次の瞬間。


 轟音が全身を揺らした。


 「うわっ!?」


 思わず声が漏れる。


 目の前に広がっていたのは、巨大なスタジアムだった。


 青々とした芝生。


 夜空を照らす照明。


 空中を飛び回る広告ドローン。


 肌を撫でる風。


 観客達の熱気。


 そして。


 耳を震わせる大歓声。


 全部、本物みたいだった。


 いや。


 本物と区別がつかない。


 「すごぉぉぉぉい!!」


 ひかりが叫ぶ。


 「ほんとに球場にいるみたい……!」


 のぞみも呆然としていた。


 翼が楽しそうに笑う。


 「ね? すごいでしょー!」


 「これ本当に家なんですよね……?」


 「そうだよー」


 現実の身体は今もベッドの上だ。


 でも感覚だけなら、完全に球場だった。


 栞はもう限界だった。


 「これが……プロリーグ……!」


 「栞ちゃん前も見たことあるでしょ?」


 「生観戦は別なの!!」


 食い気味だった。


 今日はVRBOプロリーグ。


 東京アストレアズ対大阪バイソンズ。


 首位決戦らしい。


 栞がずっと興奮している。


 「しかも今日の先発、世界大会日本代表の――」


 「始まった」


 「始まったね」


 百花と翼がひそひそ話す。


 すると。


 スタジアム全体が暗転した。


 『WELCOME TO VRBO PROFESSIONAL LEAGUE!!』


 爆音。


 光。


 炎。


 観客の大歓声。


 空中へ選手達の巨大ホログラムが映し出される。


 「うわぁぁぁ……!」


 双子が完全に圧倒されていた。


 選手達が入場してくる。


 ユニフォームが格好いい。


 観客席も熱狂している。


 なんかアイドルライブみたいだ。


 「ねえ栞ちゃん」


 「なに!?」


 「どっちが強いの?」


 「東京は超攻撃型! 大阪は守備と機動力重視!」


 早口だ。


 「あとあの四番の人! 去年ホームラン王!」


 「おおー」


 「センターの人は盗塁王!」


 「翼みたい」


 「いや翼ちゃんの方が速い」


 栞が真顔で言った。


 「え」


 「え」


 双子が固まる。


 試合開始。


 ピッチャーが振りかぶる。


 ドゴォォォォッ!!


 「うわっ!?」


 百花が肩を跳ねさせた。


 空気が震えた。


 歓声が揺れる。


 実況が叫ぶ。


『球速182キロォォォォォ!!』


 「速っ!?」


 すると。


 カキィィィィン!!


 打った。


 白球が夜空へ突き刺さる。


 観客が総立ちになった。


 外野手が跳ぶ。


 さらに跳ぶ。


 人間とは思えない高さだった。


 「すご……」


 百花は思わず呟く。


 翼も双子も目を輝かせていた。


 栞だけは解説が止まらない。


 「今のは身体強化スキルとジャンプ補助アビリティの組み合わせで――」


 「栞ちゃん落ち着いて」


 試合は、とんでもなかった。


 超高速の打球。


 レーザービームみたいな送球。


 空を飛ぶような守備。


 現実じゃありえない野球。


 それが、この世界では当たり前だった。


 そして。


 ホームラン。


 打球が遥か彼方へ飛んでいく。


 スタジアムが揺れるほどの歓声。


 「うおぉぉぉ……!」


 百花も思わず立ち上がった。


 すごい。


 すごいけど。


 「……あれ?」


 「?」


 栞が振り向く。


 「飛距離だけなら、あたしの方が飛んでない?」


 栞が固まった。


 「……」


 「栞ちゃん?」


 「百花ちゃん」


 栞が真顔で言う。


 「試合で当てるのが一番難しいの」


 「あっ」


 そういえば。


 あたし、あんまり当たらなかった。


 「あとルール覚えようね」


 「はい」


 素直に頷いてしまった。


 その時だった。


 『おおっと!?』


 実況が叫ぶ。


『センター前ヒットォ!!』


 選手が走る。


 二塁へ。


 三塁へ。


 ものすごいスピードだった。


 でも。


 百花はぽつりと呟く。


 「……翼の方が速そう」


 「いや実際速いと思う」


 栞が遠い目をした。


 「えぇ……」


 双子が引いていた。


 試合終了後。


 VR空間のロビーへ戻った双子は、完全に目を輝かせていた。


 「すごかったぁ……!」


 「VRBOってあんなゲームなんですね……!」


 「私も試合してみたい!」


 その言葉を聞いた瞬間。


 栞がガシッ!!と双子の手を掴んだ。


 「ようこそ!!」


 「うわっ」


 「VRBOの世界へ!!!!」


 「圧が強い!!」


 こうして。


 また少しだけ、野球人口が増えたのであった。

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