1ミリも野球知らないけど走ってたら点が入りました
初心者マッチ開始から十分後。
「当たらない~~~~!!」
あたしの絶叫が球場に響く。
ブォン!!
ブォォォン!!
豪快なフルスイング。
なお全部空振り。
観客席の初心者プレイヤー達がざわついていた。
「あの人昨日の……」
「ジャイアンの人だ」
「窓ガラス割ったってマジ?」
「打球ログまだランキング載ってるぞ」
やめて。
その呼び方やめて。
「百花ー! がんばれー!」
一塁側ベンチで翼がぶんぶん手を振っている。
こいつは気楽でいいな。
実況ウィンドウが表示される。
『現在打席には百花選手!』
『打率は脅威の〇割〇分〇厘!』
『しかし最大飛距離は初心者サーバー歴代一位です!』
『意味が分かりませんね』
泣いていい?
シュッ。
ボールが飛んでくる。
ブォォォン!!!!
空振り。
『すごい風圧だァーーーー!!』
『キャッチャーの前髪が揺れています!!』
もう実況が野球の話してないじゃん。
結局あたしは三振した。
ベンチに戻ると、翼がしょんぼりしていた。
「百花のホームラン見たかったなぁ……」
「簡単に言わないでよ。全然当たんないんだから」
「じゃあ次、あたし頑張る!」
翼がぴょこんと立ち上がる。
そういえばこいつ、脚力全振りだったな。
でも野球って、足だけ速くても意味あるのかな。
そんなことを考えているうちに、翼の打席が回ってきた。
実況が少し困惑した声を出す。
『翼選手……ステータスが極端ですね』
『脚力101です』
『速すぎません?』
ピッチャーが投げる。
シュッ。
カンッ。
おお、当たった。
弱々しい内野ゴロ。
ショートが前に出る。
「あ、アウトだ」
誰もがそう思った瞬間だった。
ドンッ!!
地面が爆ぜた。
「え?」
翼が消えた。
いや違う。
速すぎて見えない。
次の瞬間には、一塁ベースを通り過ぎていた。
『速い速い速い速い速い!!』
実況が絶叫する。
『翼選手、一塁到達まで〇・八秒!!』
『初心者サーバー最速記録更新です!!』
守備側がパニックになっていた。
「え!? どこ投げるの!?」
「もう一塁いない!!」
「二塁行った!!」
「まだ走ってるーーーー!!」
翼は二塁を蹴って、なお加速していた。
「翼!? 止まって!!」
「え!? なんで!?」
なんでって。
なんでって言われても。
ふ、雰囲気?
ショートが慌ててボールを投げる。
バックホーム。
しかし。
翼はもうホームベースの後ろを走っていた。
『止まれないーーー!!』
『ブレーキ性能が足りていません!!』
そのままフェンスに激突。
ドゴォン!!
「いたぁい……」
翼がフェンスにめり込んでいる。
球場が静まり返った。
数秒後。
ピコン。
【ユニーク条件達成】
虹色ウィンドウが表示される。
【称号:《流星》を獲得しました】
【取得条件】
内野ゴロで本塁到達
【効果】
脚力+20
盗塁成功率上昇
急停止性能低下
「だからなんでデメリット付いてるの!?」
『なお翼選手、現在の脚力は121です』
『もう誰も追いつけませんね』
解説が諦めたように言った。
対戦相手チームがざわついている。
「なんだあの初心者二人……」
「片方ゴリラで片方チーターなんだけど……」
ひどくない?
次の回。
再びあたしの打席。
さっきの翼の暴走のせいで、相手チームが完全に混乱していた。
翼は、なぜか知らないけど二塁にいる。
ヒットの後に盗塁ってやつをしたらしい。
呪文多すぎだろ野球。
英語と日本語混じってるのなんなんだよ。
なんかよく分からないけど、ピッチャーが震えている。
シュッ。
ボールが来る。
お願いだから当たって!!
ブォォォォォン!!!!
カスッッ……。
「当たったーーーー!!」
白球が消し飛ぶ。
実況が叫ぶ。
『出たァーーーーーー!!』
『ジャイアン砲だァーーーーーー!!』
『かすっただけですよね!? どこまで飛んでいくんだ!?』
打球が遥か彼方へ飛んでいく。
その瞬間。
翼が走った。
「いっけぇぇぇぇぇ!!」
速い。
速すぎる。
打球が着弾する前に三塁を蹴っている。
外野手達はまだ空を見上げていた。
『速い速い速い!!』
『翼選手、打球を見ていません!!』
『感覚で走っています!!』
『やっと打球が着弾しました! フェンス直撃です!』
『しかしもう翼選手は悠々ホームイン!』
球場がどよめいた。
「え……点入ったの?」
「やったぁ!!」
翼が満面の笑みで飛びついてくる。
『初心者コンビ、とんでもない連携です!!』
『パワーとスピードだけで野球を破壊しています!!』
解説が頭を抱えていた。
でも。
なんか。
ちょっとだけ。
「……野球って楽しいかも」
「でしょ!?」
翼がにぱっと笑う。
その直後。
あたしはキャッチャーにタッチされた。
『アウトーッ! 百花選手、なぜか走っていません!』
「「え……?」」
『ゲームセット! まさかの結末! 百花選手、バッターボックスで仁王立ち!』
「打ったら走らないといけないの?」
「「「「そこから~~~!?!?!?!?」」」」
【初心者プレイヤー『百花』『翼』が注目選手に登録されました】
空中ウィンドウが、不穏な音を立てて輝いたのであった。
記録:センターゴロ。




