1ミリも野球知らないけど野球オタクに捕まりました
ゴールデンウィークが終わった。
つまり学校である。
つらい。
連休ってなんで終わるんだろう。
永遠でよくない?
あたし――桜庭百花は、机に突っ伏しながら死んだ魚みたいな目をしていた。
「百花、魂抜けてるよ?」
隣の席で、風見翼が苦笑する。
こいつは朝から元気だなぁ。
「だって休み終わったし……」
「でも楽しかったじゃん! 野球!」
「まあ……ちょっとだけ?」
実際、少し楽しかった。
ホームラン打てたし。
まあ、その後ルール知らなくてアウトになったけど。
「あれからもやってる?」
「やってるやってる!」
翼がぱっと顔を明るくする。
「昨日も盗塁いっぱい成功した!」
「盗塁ってそんな気軽にするもんなの?」
「よく分かんないけど、走ったらみんな嫌そうな顔してた!」
それたぶん褒められてない。
あたしはため息を吐く。
とはいえ、あたしも最近は結構ログインしていた。
主に素振りのために。
野球はよく分からない。
でも、遠くまで飛ばせば強い。
そこだけは理解している。
それに、なんかバットを振ってると精神が落ち着くんだよね。
悩みごと(主に学校の成績について)とか考えなくていいし。
だからログインしては延々と素振りしていた。
初心者練習場の隅っこで。
ひたすら。
ブォン。
ブォン。
ブォン。
おかげで最近、知らない称号が増えた。
【称号:《万本素振り》を獲得しました】
【筋力成長率が上昇します】
とか。
【称号:《バット依存症》を獲得しました】
【長時間バットを握らないと落ち着かなくなります】
とか。
なんか変なのも増えたけど。
「百花ってずっと素振りしてるんだね」
「だって落ち着くし……」
「なにこのひとこわい」
翼がドン引きする。
あなたも大概でしょうに。
その時だった。
ガタッ!!
教室の後ろから、ものすごい勢いで椅子が引かれる音がした。
クラス中の視線がそっちへ向く。
一人の女子生徒が立ち上がっていた。
肩まで伸びた黒髪。
丸メガネ。
そして異様に目が輝いている。
「今……野球って言った?」
「へ?」
その女子は、ずんずんこちらへ歩いてきた。
距離が近い。
近い近い。
「あ、あの野球!? VR BASEBALL ONLINEの!?」
「え、う、うん……」
「やってるの!?!?」
「まあ最近ちょっと……」
「女子で!?!?」
叫ぶな叫ぶな。
教室ざわついてるから。
女子は信じられないものを見る目で、あたし達を見つめていた。
「うそ……女子高で野球の話できる人がいるなんて……」
「え?」
「今まで誰に話しても『へー』で終わったのに……」
なんか急に空気が重くなった。
「私、中学の頃からずっとVR BASEBALL ONLINEやってるんだけど……」
女子は震える声で続ける。
「野球好きな女子、本当にいなくて……」
「お、おう」
「男子はめちゃくちゃいるんだけど、女子だと『ルール難しそう』とか『筋肉暑苦しい』とか言われて……」
「ちょっと分かる」
「だから学校でも基本ずっと一人で……」
「重い重い重い!!」
思わずツッコんでしまった。
すると女子はハッとした顔をした。
「ご、ごめん! 急にこんな……キモかったよね!?」
「そこまでは言ってない!」
「でも私、野球の話始めると止まらないってよく言われるし……」
「実際止まってないね!?」
翼が楽しそうに笑っている。
「わー! なんかオタクって感じ!」
「ぐふっ」
なんかダメージ入った。
女子は胸を押さえてふらついた後、慌てて姿勢を正した。
「わ、私は神崎栞!」
ぺこりと頭を下げる。
「桜庭百花。こっちは風見翼」
「よろしくね栞ちゃん!」
「う、うん……!」
栞は少し緊張したように頷く。
でも次の瞬間には、また目を輝かせていた。
「もしかして百花ちゃんと翼ちゃんって、最近現れたあのゴリラとチーターって噂の二人組なの!?」
「ゴリラ……」
「チーター……」
あたしと同じように翼もズーンという効果音が似合う表情をした。
「それで!? 二人ってどこのポジション使ってるの!?」
「ぽじしょん?」
「え?」
「え?」
沈黙。
栞が固まる。
「……まさかとは思うんだけど」
嫌な予感がした。
「ルール知らないでやってる?」
あたしと翼は顔を見合わせる。
そして。
「「うん」」
栞が天を仰いだ。
「なんでそれで注目プレイヤーになってるの~~~~!?」
教室に悲鳴が響き渡る。
周囲のクラスメイト達が何事かとこちらを見ていた。
その頃。
VR BASEBALL ONLINE公式掲示板では。
【速報】
初心者サーバーにヤバい新人が二人現れた
というスレッドが、とんでもない勢いで伸び始めていたのであった。
解説役兼、ツッコミ役として栞さんをドラフト指名しました。
一巡目はもちろんロマン砲の百花さんです。




