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20/21

1ミリも野球知らないけどホームラン競争に出ようと思います

 放課後。


 チームルーム。


 「お金がない」


 涼香さんが真顔で言った。


 「ないねぇ……」


 あたしもソファに沈みながら頷く。


 「ないですねぇ……」


 いつもふわふわしている花音さんまでしょんぼりしていた。


 原因は単純。


 チームルーム。


 トレーニング設備。


 大型モニター。


 バッティング解析システム。


 勢いで色々買いすぎた。


 その結果。


 「装備更新するお金が消えました!!」


 涼香さんが机を叩く。


 「うおー!!」


 翼も一緒に叫んでいた。


 いや翼は買ってないよね?


 「花音さんのバット、まだ初期装備だし……」


 栞が言う。


 「百花ちゃんのバットも耐久値ギリギリだよね」


 「そうなんだよね……」


 修理費すら地味に痛い。


 今まで修理せずにボキボキ折っていたのは内緒だ。


 すると。


 涼香さんがイベント画面を開いた。


 「あ、これ」


 【初心者レート限定ホームランダービー】


 【優勝賞金:100万BP】


 「100万!?」


 真夏さんが立ち上がる。


 「装備買い放題じゃん!!」


 「二位でも50万BPですね」


 栞が画面を覗き込む。


 「レート制限も問題なし。今の私達なら出れるよ」


 「ホームラン数勝負かぁ……」


 涼香さんが静かに呟いた。


 「百花ちゃんといえばホームランだよね」


 「えぇ……」


 なんか嫌な予感がする。


 「オレも出る!!!!」


 真夏さんは即決だった。


 「花音さんも出ますよねぇ?」


 「いいよぉ~打てるか自信ないけどぉ~」


 花音さんがふわっと笑う。


 その時。


 ソファの端でぽやぽやしていたふわりちゃんが、ゆっくり顔を上げた。


 「……花音ちゃん、でるの……?」


 「出ますよぉ〜」


 「……ふわりも、でる……」


 「えっ」


 あたし達は固まった。


 「ふわりちゃんホームラン打てるの!?」


 ひかりちゃんがびっくりしていた。


 ふわりちゃんは数秒考えてから、


 「……たぶん……?」


 と言った。


 不安しかない。


   ◇


 大会当日。


 会場はかなり盛り上がっていた。


 大型モニター。


 実況席。


 観客席。


 普通に大規模イベントみたいだった。


 「うおー! 人いっぱい!」


 翼がはしゃいでいる。


 「ホームランダービーって人気あるんですねぇ」


 のぞみちゃんが周囲を見回す。


 「見てて分かりやすいからね」


 栞が言った。


 「あと、普段見れない打球見れるし」


 涼香さんが付け足す。


 「特に百花ちゃんとか」


 「なんでそこであたし見るの?」


   ◇


 開会アナウンスが響いた。


 【第一参加者、小鳥遊ふわり選手】


 「ふわりちゃーん!!」


 「がんばれー!!」


 「かわいいー!!」


 観客席が一気に沸いた。


 「人気すご……」


 あたしはちょっと引いた。


 ふわりちゃんは、ぽやぽやした顔のまま、ふらふらバッターボックスへ向かう。


 「……花音ちゃん、みてる……?」


 「見てますよぉ〜」


 花音さんが、にこにこ手を振っていた。


 その瞬間。


 観客席。


 「花音さんとふわりちゃんセットだぁぁぁ!!」


 「助かる……」


 「尊い……」


 なんか変な歓声が上がっていた。


 そして。


 ふわりちゃんがバットを構える。


 眠そう。


 すごく眠そう。


 一球目。


 ブンッ。


 空振り。


 「きゃー!!」


 なぜか歓声。


 二球目。


 ブンッ。


 空振り。


 「かわいいー!!」


 三球目。


 ブンッ。


 空振り。


 「守りたいこの生き物!!」


 「存在がホームラン!!」


 意味が分からない。


 そのまま。


 十球全部空振りだった。


 結果。


 【ホームラン:0本】


 でも。


 会場はなぜか拍手喝采だった。


 ふわりちゃんは、ぽやーっとした顔のまま首を傾げる。


 「……バット、おもい……」


 「かわいい……」


 真夏さんが呟く。


 「かわいいですねぇ……」


 花音さんが幸せそうに微笑む。


 「ふわりちゃん今日もかわいいです……」


 のぞみちゃんまで頷いていた。


 「うん……かわいい……」


 あたしもぶんぶん頷いた。


 ふわりちゃんはかわいい。


 それは世界の真理なのだ。


   ◇


 次はあたしだ。


 緊張するなぁ~。


 「百花ー!!」


 翼が観客席から両手を振る。


 「百花さんがんばってくださいー!」


 ひかりちゃん。


 「百花さんなら絶対打てます!」


 のぞみちゃん。


 応援の圧がすごい。


 嬉しいけど恥ずかしい。


 バッターボックスへ立つ。


 ピッチングマシンが動いた。


 一球目。


 ブォン!


 空振り。


 二球目。


 ブォン!


 空振り。


 「百花ちゃん力みすぎ!」


 栞が叫ぶ。


 三球目。


 ブォン!


 空振り。


 「あぁー……」


 会場も微妙な空気だった。


 でも。


 十球目。


 最後の球。


 「せいっ!!」


 グワァラゴワガキィーン!!!!!


 ボールから聞こえちゃいけない音が出た。


 打球が一直線に空へ飛んでいく。


 ぐんぐん伸びる。


 伸びる。


 まだ伸びる。


 会場のフェンスを越える。


 場外へ消える。


 ――だけじゃ止まらない。


 「えっ」


 実況が固まった。


 打球は、そのまま遥か上空へ。


 青空へと突っ込んでいく。


 次の瞬間。


 バキィィィン!!


 空にヒビが入った。


 「!?」


 観客席が静まり返る。


 空の背景テクスチャが、ガラスみたいに割れていた。


 そのまま。


 打球は彼方へ消滅。


 そして。


 モニター表示。


 【ホームラン:1本】


 【最大飛距離:ERROR】


 【計測不能】


【フィールド外への打球を確認】


【空テクスチャ損壊判定】


【ユニークアクション達成】


 「......嫌な予感がする」


 ウィンドウが虹色に輝く。


【称号≪天空の覇者≫を獲得しました】


【取得条件】


ホームランダービーで飛距離:計測不能を達成する


【効果】


筋力+20


威圧感+10


『出ました!計測不能です!!』


『そしてまたもや謎の称号をGETだ! もはやデバッガーです!』


 実況が絶叫した。


 会場が大パニックになる。


 「空壊れたぞ!?」


 「またジャイアン砲だ!!」


 「運営呼べ!!」


 「初心者帯にいていい打球じゃねぇ!!」


 「また見たことねえ称号だ!!!!!」


 「ゴリラこええ!」


 「森へお帰り」


 大騒ぎだった。


 「百花ちゃんまたゲーム壊してる……」


 栞が頭を抱える。


 「普通に遊んでるだけなんだってばあああ......」


 「いや普通に遊んでたら空壊れないから」


 涼香さんが冷静にツッコんだ。


 その横で。


 リノちゃんが肩を震わせていた。


 「……空壊すとか、規格外すぎるでしょ」


 くすくす笑っている。


 恥ずかしいよぉ~......


   ◇


 次は真夏さん。


 「よっしゃあああああ!!」


 気合がすごい。


 一球目。


 ホームラン。


 二球目。


 ホームラン。


 三球目。


 ホームラン。


 会場が盛り上がる。


 普通に強い。


 でも。


 五球目あたりから。


 真夏さんの様子がおかしくなった。


 「百花の場外より飛ばしてやるぜぇぇぇ!!」


 ブンッ!!


 空振り。


 「うおっ!?」


 さらに。


 ブンッ!!


 ファウル。


 ブンッ!!


 空振り。


 「力みすぎです真夏さん!」


 栞が叫ぶ。


 結果。


 【ホームラン:5本】


 【最大飛距離:143m】


 「くっそぉぉぉ!!」


 真夏さんが悔しがる。


 「百花のせいだ!」


 「なんで!?」


   ◇


 そして花音さん。


 会場の空気が少し変わる。


 静か。


 でも鋭い。


 花音さんは、ふわっと構えた。


 一球目。


 カキィン。


 ホームラン。


 二球目。


 ホームラン。


 三球目。


 ホームラン。


 ざわつく会場。


 「え、うま……」


 「フォーム綺麗……」


 観客席から声が漏れる。


 花音さんは表情を変えない。


 ただ淡々と打つ。


 四球目。


 ホームラン。


 五球目。


 ホームラン。


 六球目。


 ホームラン。


 七球目。


 ホームラン。


 八球目。


 ホームラン。


 九球目。


 ホームラン。


 「うわぁぁぁぁぁ!!」


 大歓声。


 最後の十球目だけ、惜しくもフェンス直撃。


 結果。


 【ホームラン:9本】


 【最大飛距離:132m】


 「すご……」


 あたしは素直に感動していた。


 「花音さん安定感おかしくない?」


 「えへへぇ……」


 花音さんは困ったように笑っていた。


   ◇


 そして。


 最後の参加者。


 初心者帯最強チーム――


 【ブラックドッグス】の四番。


 大柄な男子プレイヤーだった。


 観客席がざわつく。


 「ブラックドッグスだ」


 「もうすぐ中級帯のチームじゃん」


 男は、百花達の方をちらりと見た。


 特に。


 花音さんとあたしを見る目が鋭い。


 え、なんであたしも?


 そして開始。


 圧倒的だった。


 ホームラン。


 またホームラン。


 さらにホームラン。


 打球音が違う。


 飛距離も安定している。


 結果。


 【ホームラン:10本】


 【最大飛距離:148m】


 会場がどよめいた。


 完全優勝。


 実況も興奮している。


 でも男は、トロフィーより先に花音さんとあたしを見た。


 「……次は負けねえ」


 ぼそっと呟く。


 「?」


 花音さんは、きょとんとしていた。


 完全にライバル認定されていた。


 あたしは必死で目をそらしていた。


 や、やめてぇ~!

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