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1ミリも野球知らないけどダンジョンを攻略します

 平日の夜。


 チームルームには、あたし達三人しかいなかった。


 「珍しいね」


 あたし――百花はソファに座りながら言った。


 「暇だなー!」


 翼がソファの上で転がっている。


 「練習する?」


 「今日はなんかそういう気分じゃない!」


 「なんだその気分……」


 すると。


 栞がふと口を開いた。


 「……ダンジョン行ってみる?」


 「ダンジョン?」


 あたしと翼が同時に反応する。


 「VRBOのダンジョン機能。存在は知ってるでしょ?」


 「なんかあるらしいね!」


 「でも誰もやってないやつ」


 VRBOのダンジョンコンテンツ。


 存在自体は有名だった。


 けれどプレイヤー人気は低い。


 理由は単純。


 「経験値効率が終わってるから」


 栞が真顔で言った。


 「VRBOって基本的に、野球のプレイで経験値入る設計なの。ヒットとか守備成功とか」


 「ホームランいっぱい入る!」


 「そう。だから普通に試合した方が圧倒的に育つ」


 モンスターを何十匹倒すより、ヒット一本打つ方が経験値が多い。


 そんなゲームバランスだった。


 「じゃあダンジョンって何のためにあるんだ?」


 翼が首を傾げる。


 「運営の趣味って言われてる」


 「納得!」


 納得するな。


 「しかもダンジョンって一個しかないんだよね」


 栞が続ける。


 「え、そうなの?」


 「うん。サービス開始直後に実装されたまま放置されてる。だから誰も行かない」


 「かわいそう!」


 何が?


 「でも逆に、誰もやってないから未発見要素が結構あるんじゃないか、って噂はあるよ」


 栞は少し楽しそうだった。


 「宝探しってこと!?」


 「まあそんな感じ」


 「行こうぜ!!」


 そうして。


 あたし達三人は、VRBO唯一のダンジョンへ向かうことになった。


   ◇


 【灼熱の洞窟】。


 「うわ、暑っ……」


 中へ入った瞬間、熱気が襲ってきた。


 赤黒い岩肌。


 吹き出す蒸気。


 地面まで熱い。


 「おー! 冒険って感じ!」


 翼だけ元気だった。


 前方に、小鬼みたいなモンスターが現れる。


 【フレイムゴブリン Lv8】


 火炎ボールを投げてきた。


 「おっ」


 翼がひょいっと回避する。


 さらに二発。


 また避ける。


 「当たんねー!」


 ぴょんぴょん飛び回っていた。


 「翼ちゃん、倒しなよ……」


 「避けるの楽しい!」


 「この子、絶対ゲームの遊び方ズレてる……」


 栞が呆れていた。


 その時。


 別のゴブリンが投げた火炎ボールが、あたしへ飛んできた。


 反射的に。


 バットを振る。


 カキィィン!!


 綺麗な音。


 火炎ボールが、とんでもない勢いで打ち返された。


 次の瞬間。


 ドガァァァン!!


 洞窟の天井をぶち抜いて、火炎ボールが空の彼方へ消えていく。


 「百花がまたなんか壊した!!」


 翼が叫ぶ。


 「壊してないって!!」


 「いやどう見ても壊れてるよ!」


 栞が即ツッコミした。


 天井からパラパラと岩が落ちてくる。


 その直後。


 遥か上空から。


 ゴオオオオオオオオオッ!!!!


 地鳴りみたいな咆哮が響いた。


 「……え?」


 嫌な予感がした。


 次の瞬間。


 ドゴォォォォン!!


 天井を突き破って、巨大な影が落下してきた。


 目の前に墜落したのは――ドラゴンだった。


 真紅の鱗。


 巨大な翼。


 そして額には、火炎ボールがめり込んでいた。


 【灼熱竜ヴァルグレイヴ Lv72】


 「なんで!?」


 「百花、対空ホームランした!?」


 「知らないよ!!」


 ドラゴンは痙攣したあと、そのまま動かなくなった。


 沈黙。


 \ピロン♪/


 【称号ドラゴンスレイヤーを獲得しました】


 【筋力+50】


 「…………は?」


 あたしは固まった。


 栞も固まった。


 でも次の瞬間。


 「えっ、ちょっと待って!?」


 栞がものすごい勢いでメニューを開いていた。


 「筋力+50!? 強すぎない!?」


 「そんなに?」


 「あたし3年くらいやってて20しか筋力上がってないんだよ!?」


 さらにワールドアナウンス。


 【プレイヤー《百花》が灼熱竜ヴァルグレイヴを討伐しました】


 【史上初:《ドラゴンスレイヤー》獲得】


 チャット欄が爆速で流れ始める。


 『まだダンジョンやってる奴いたのか』


 『あのコンテンツ更新されてたんだ』


 『筋力+50!?』


 『ドラゴンなんて見たことなくて草』


 『効率勢、涙目』


 「うわ、ワルチャも荒れてる……」


 栞が引いていた。


 「『今からダンジョン潜ります』ってみんな言ってる……」


   ◇


 一方その頃。


 翼はまだゴブリンに囲まれていた。


 火炎ボール。


 槍。


 こん棒。


 全部避ける。


 ぴょん。


 ひらり。


 くるっ。


 「おもしれー!」


 【連続回避:124】


 【連続回避:278】


 【連続回避:531】


 「えっ」


 栞が気づいた。


 「ちょっと待って翼ちゃん、それまだ続いてるの!?」


 「なんかいっぱい来る!」


 洞窟の奥から、追加のゴブリンまで集まってきていた。


 火炎ボールの嵐。


 でも翼は全部避ける。


 「当たらねー!」


 「いや、なんで当たらないの……?」


 栞がドン引きしていた。


 【連続回避:743】


 【連続回避:892】


 【連続回避:999】


 「うそでしょ」


 次の瞬間。


 【連続回避:1000】


 \ピロン♪/


 【称号スレイプニルを獲得しました】


 【敏捷+50】


 【回避補正(特大)を獲得】


 「…………」


 「おおー!」


 翼だけ嬉しそうだった。


 栞は震える手で検索を開く。


 「情報……なし……」


 「また未発見?」


 「1000回連続回避とか、普通そこまで行く前に敵いなくなるから!!」


 チャット欄。


 『またダンジョンで変なの出てる』


 『暇人コンテンツから最強称号出るのやめろ』


 『運営バランス調整しろ』


 『でも経験値クソまずいから許す』


 『検証勢、今ダンジョンに大移動してて草』


 その直後。


 翼は石ころを踏んで転んだ。


 ゴブリンのこん棒が頭に直撃した。


 「ぎゃふん!」


 翼のHPがゼロになる。


 そして身体が、さらさらと光の粒子になって消え始めた。


 「あっ……」


 翼は薄れていく身体を見つめながら、静かに笑った。


 「百花……」


 「つ、翼……!」


 「いままで……たのしかった……」


 あたしは思わず手を伸ばす。


 でも指先は、光の粒子をすり抜けた。


 「ありがとう……百花……」


 「翼ぁぁぁぁぁ!!!」


 翼の姿が、完全に消える。


 静寂。


 あたしは振り向いて言った。


 「で、翼はどこに行ったの?」


 「死んだら広場に転送されるんだよ」


 栞は真顔で答えた。


 「おっかしーなー、ウケると思ったんだけどなー……」


 数秒後。


 チームチャット。


 『腹減ったから肉まん買ってくる!』


 翼から元気なメッセージが届いた。


 あたしもお腹が減ったので、肉まんを買いに行くためにログアウトした。


 次の日から、ダンジョンには人が溢れることになった。


 でも、ドラゴンに会えた人はまだ誰もいないらしい。


 あたし達、運よかったんだなあ。


 肉まんもおいしかったし、いい一日だった!

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