1ミリも野球知らないけど初めてのランクマッチです
週末。
ついに、あたし達キューティガールズの初めてのランクマッチ。
VRBOでは、レートの近いチーム同士を自動でマッチングしてくれる"ランクマッチ"というシステムがある。
勝ったらポイントが増え、負けたらポイントが減る。
レートが2000を越えると、年末にプロとの入れ替え戦に挑戦できるらしい。
プロになるとスポンサー契約とか、CM契約とかでお給料がすごくたくさんもらえるのだ。
これ本当にゲーム?夢ありすぎじゃない?
「うおおおおおおおお!!!」
真夏さんが試合開始前から叫んでいた。
「初勝利に向かってレッツゴー!!!!」
翼は真夏さんに肩車されている。なんで?
「ちょっ、落ちたら危ないよ!?」
思わず注意する。
「わははー!オレの鍛え上げた筋力の前では翼など羽も同然だー!」
「わははははー!あたしは羽だー!」
楽しそうだからいっか。
「みんな元気だねぇ~」
花音さんがにこにこしながらふわりちゃんをおんぶしている。
「ふにゃ~」
ふわりさんは寝起きでログインしてきたらしい。かわいいなこの人。
「試合開始前からおもろい」
ぼそっとリノさんが呟く。
「「はぁ......」」
栞と涼香さんがシンクロしている。
「緊張するよぉー」
「ひかりなら大丈夫だよっ......! いっぱい練習したもん」
「のぞみー! だいすきー!」
「わぁ.....急に抱きつかないでよ.....もぉ......」
うっ、ひかりちゃんとのぞみちゃん、てぇてぇ。
そして試合開始の転送エフェクトが光った。
◇
球場に移動した瞬間。
相手チームが現れた。
「ヒャッハーーーー!!!」
「野球は暴力だァーーー!!!」
「汚物は三振だァーーー!!!」
「うお、びっくりした」
なんというか、全員すごくモヒカンです。
見た目が世紀末すぎる。
肩パッド。
トゲ。
モヒカン。
バットにチェーン巻いてる。
ルール的に大丈夫なのそれ。
「終わった……」
あたしは思った。
初心者同士のマッチってもっとこう、和気あいあいとした感じじゃないの!?
「キャハハハハ!! なんだぁその可愛いチームはァ!!」
「俺達“世紀末ボンバーズ”に勝てると思ってんのかァ!?」
「野球ってのを教えてやるぜェ~~~!!」
こわい。
でも。
「「うおおお!! なんか強そう!!」」
翼と真夏さんだけテンションが上がっていた。
なんで?
「翼怖くないの!?」
「え? だって絶対おもしろいじゃん!」
「翼ってほんとすごい」
すると相手チームの一人がこちらを指差した。
「ヒャハハ!! そっちのチビ! 泣いて帰るなら今のうちだぜェ!!」
「ん?」
翼が反応した。
まずい。
「誰がチビだコラァ!!!」
翼がベンチを飛び越えた。
「翼ちゃん!?!?」
「表出ろモヒカン!!!!」
「上等だァーー!!!」
なぜ試合前に乱闘が始まりそうなんだ。
すると審判AIが降ってきた。
《警告。試合前暴力行為を確認》
《次回接触時、両チーム退場処分》
「チッ……命拾いしたなァ!」
「それこっちのセリフだわ!!」
翼がぷんすこしながら戻ってきた。
栞が頭を抱えている。
「ツッコミが追い付かないよぉ……」
◇
そして試合開始。
先攻は世紀末ボンバーズ。
先頭打者。
モヒカン頭の男がバットを肩に乗せながら打席へ入る。
「オラァ! 女の球なんざ片手で打て――」
ビュゴォッ!!
白球が視界を裂いた。
「……へ?」
ズバァンッ!!
のぞみのミットが爆発みたいな音を立てる。
遅れて、審判の右手が上がった。
「ストライク!」
相手ベンチが静まる。
打者が目を見開いた。
「い、今の見え――」
二球目。
外角低め。
ギリギリを切り裂く直球。
「ストライクツー!」
「ひぇっ……」
三球目。
ひかりが小さく頷く。
のぞみも静かにミットを構えた。
そして放たれたボールは――
ズドン!!
打者のバットを空振りさせ、そのままミットへ突き刺さる。
「ストラックアウト!!」
観客席から小さなどよめき。
ひかりは帽子のつばを押さえ、少しだけ照れくさそうに笑った。
その後も難なく相手打者を三振とショートゴロに打ち取り、みんながベンチに帰ってきた。
「ひかりすごーい! めっちゃ球速くなってるじゃん!」
翼がひかりをわしゃわしゃとなでる。
「はわわわわ」
「いっぱい練習したもんね......! あたしも褒めてほしいな翼さん......!」
「のぞみもナイスキャッチだよ~~! 絶対あたしじゃ取れない!すごい!」
「2人ともほんとすごかったー! プロみたいだったよー!」
あたしも2人に抱きつく。かっこよかったもん!
「涼香さんも守備うますぎ! なにあの動き!」
「完全に野球だったね!」
「いや、野球してるのよ」
「涼香は守備うめーからなー!わはは!」
「外野は暇だった」
「ふにゃ......」
「もっと走りたーい!」
「みんなお疲れ様~攻撃もがんばろ~えいえいお~!」
花音さんがふわっと気合を入れてくれた。癒されるなぁ~。
その後も試合はキューティガールズの流れだった。
翼はピッチャー前へ転がした打球で俊足内野安打。塁上で満面の笑み。
リノは鋭いライナーを右中間へ運び、颯爽と二塁へ到達。
「うおおおおおお!」
その間に翼はあっという間にホームに帰ってきていた。
ドゴォォォン!
そのままバックネットに激突していた。
「「翼さーん!!!!!」」
双子が悲鳴を上げている。
「翼......お前の犠牲は忘れねえぜ......!」
真夏さんが顔を隠して泣いている素振りをする。絶対笑ってる。
「い、生きてる......セーフ......」
色んな意味でセーフだった。よかった。
真夏さんは豪快なフルスイングでレフト線を破り、「っしゃああー!」と拳を突き上げた。
スコアは2-0。
そして四番、百花。
相手ピッチャーがニヤつく。
「細っこい嬢ちゃんじゃねえか――」
む、褒められた。うれしい。
でも。
あたしも打ちたい。
バットをぎゅっと握る。あっ、落ち着く。
バッターボックスに入り、相手の球をよく見る。
シュッ。
今だ!バットを思い切り振る。
グワァラゴワガキィーン!
次の瞬間。
打球が消えた。
いや、速すぎて見えなかった。
ピッチャーの顔のすぐ横。
耳元を裂くような轟音と共に白球が通過する。
「ひっ……」
ピッチャーの頬が風圧で引きつる。
そのまま一直線。
ドゴォォン!!
センター後方フェンスへ突き刺さった。
金網が大きく歪み、外野手が呆然と立ち尽くす。
「……え?」
ボールはフェンスにめり込んだまま。
審判が両手を広げる。
「ボールデッド! ツーベース!」
え、ボールが死んだの.....?
ボールさんごめんなさい......
とぼとぼとあたしは二塁に向かって歩いた。
「「「「「「「「「(えっぐ~~~~~~~~)」」」」」」」」」
その後もみんな大活躍だった。
涼香さんと栞さんはヒットを打ってくれた。
あたしの足が遅すぎるせいで点が入らなかったけど。
その後の花音さんがまたホームランを打ったのだ!
『花音選手グランドスラム!!!!!!!』
「わぁ~また入っちゃった~」
ふわりさんはふわっと三振していた。かわいい。
そして試合は進み、マウンドのひかり。
最後まで崩れなかった。
速球。
変化球。
丁寧なコントロール。
たまに大暴投。
初心者マッチとは思えない内容に、相手チームは最後には完全に静かになっていた。
試合終了。
13-0。
3回コールド勝ち?らしい。
そんな寒かったかな?むしろ暑かったんだけど。
大差でうちの勝ち。
ピコンッ!
頭上にアナウンスが表示される。
【チーム:キューティガールズのレートポイントが30上昇しました】
【現在のレートポイントは1030です】
翼が相手チームへ元気よく頭を下げる。
「ありがとうございましたー!!」
リノも静かに一礼。
真夏は汗を拭きながら笑う。
涼香は無言でバットケースを閉じ、ひかりは少し安心したように息を吐いた。
そして栞がぽつり。
「……なんか相手チーム、試合始まる前よりしおらしくなってなかった?」
「ヒャッハーって言わなくなってたねぇ」
花音がのんびり言った。
遠くで相手チームが整列していた。
「野球……たのしかったな……」
「うぅ……ちゃんと練習しようぜお前ら……」
なぜか少し更生していた。




