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18/21

1ミリも野球知らないけど初めてのランクマッチです

 週末。


 ついに、あたし達キューティガールズの初めてのランクマッチ。


 VRBOでは、レートの近いチーム同士を自動でマッチングしてくれる"ランクマッチ"というシステムがある。


 勝ったらポイントが増え、負けたらポイントが減る。


 レートが2000を越えると、年末にプロとの入れ替え戦に挑戦できるらしい。


 プロになるとスポンサー契約とか、CM契約とかでお給料がすごくたくさんもらえるのだ。


 これ本当にゲーム?夢ありすぎじゃない?


 「うおおおおおおおお!!!」


 真夏さんが試合開始前から叫んでいた。


 「初勝利に向かってレッツゴー!!!!」


 翼は真夏さんに肩車されている。なんで?


 「ちょっ、落ちたら危ないよ!?」


 思わず注意する。


 「わははー!オレの鍛え上げた筋力の前では翼など羽も同然だー!」


 「わははははー!あたしは羽だー!」


 楽しそうだからいっか。


 「みんな元気だねぇ~」


 花音さんがにこにこしながらふわりちゃんをおんぶしている。


 「ふにゃ~」


 ふわりさんは寝起きでログインしてきたらしい。かわいいなこの人。


 「試合開始前からおもろい」


 ぼそっとリノさんが呟く。


 「「はぁ......」」


 栞と涼香さんがシンクロしている。


 「緊張するよぉー」


 「ひかりなら大丈夫だよっ......! いっぱい練習したもん」


 「のぞみー! だいすきー!」


 「わぁ.....急に抱きつかないでよ.....もぉ......」


 うっ、ひかりちゃんとのぞみちゃん、てぇてぇ。


 そして試合開始の転送エフェクトが光った。


 ◇


 球場に移動した瞬間。


 相手チームが現れた。


 「ヒャッハーーーー!!!」


 「野球は暴力だァーーー!!!」


 「汚物は三振だァーーー!!!」


 「うお、びっくりした」


 なんというか、全員すごくモヒカンです。


 見た目が世紀末すぎる。


 肩パッド。


 トゲ。


 モヒカン。


 バットにチェーン巻いてる。


 ルール的に大丈夫なのそれ。


 「終わった……」


 あたしは思った。


 初心者同士のマッチってもっとこう、和気あいあいとした感じじゃないの!?


 「キャハハハハ!! なんだぁその可愛いチームはァ!!」


 「俺達“世紀末ボンバーズ”に勝てると思ってんのかァ!?」


 「野球ってのを教えてやるぜェ~~~!!」


 こわい。


 でも。


 「「うおおお!! なんか強そう!!」」


 翼と真夏さんだけテンションが上がっていた。


 なんで?


 「翼怖くないの!?」


 「え? だって絶対おもしろいじゃん!」


 「翼ってほんとすごい」


 すると相手チームの一人がこちらを指差した。


 「ヒャハハ!! そっちのチビ! 泣いて帰るなら今のうちだぜェ!!」


 「ん?」


 翼が反応した。


 まずい。


 「誰がチビだコラァ!!!」


 翼がベンチを飛び越えた。


 「翼ちゃん!?!?」


 「表出ろモヒカン!!!!」


 「上等だァーー!!!」


 なぜ試合前に乱闘が始まりそうなんだ。


 すると審判AIが降ってきた。


 《警告。試合前暴力行為を確認》


 《次回接触時、両チーム退場処分》


 「チッ……命拾いしたなァ!」


 「それこっちのセリフだわ!!」


 翼がぷんすこしながら戻ってきた。


 栞が頭を抱えている。


 「ツッコミが追い付かないよぉ……」 


 ◇


 そして試合開始。


 先攻は世紀末ボンバーズ。


 先頭打者。


 モヒカン頭の男がバットを肩に乗せながら打席へ入る。


 「オラァ! 女の球なんざ片手で打て――」


 ビュゴォッ!!


 白球が視界を裂いた。


 「……へ?」


 ズバァンッ!!


 のぞみのミットが爆発みたいな音を立てる。


 遅れて、審判の右手が上がった。


 「ストライク!」


 相手ベンチが静まる。


 打者が目を見開いた。


 「い、今の見え――」


 二球目。


 外角低め。


 ギリギリを切り裂く直球。


 「ストライクツー!」


 「ひぇっ……」


 三球目。


 ひかりが小さく頷く。


 のぞみも静かにミットを構えた。


 そして放たれたボールは――


 ズドン!!


 打者のバットを空振りさせ、そのままミットへ突き刺さる。


 「ストラックアウト!!」


 観客席から小さなどよめき。


 ひかりは帽子のつばを押さえ、少しだけ照れくさそうに笑った。


 その後も難なく相手打者を三振とショートゴロに打ち取り、みんながベンチに帰ってきた。


 「ひかりすごーい! めっちゃ球速くなってるじゃん!」


 翼がひかりをわしゃわしゃとなでる。


 「はわわわわ」


 「いっぱい練習したもんね......! あたしも褒めてほしいな翼さん......!」


 「のぞみもナイスキャッチだよ~~! 絶対あたしじゃ取れない!すごい!」


 「2人ともほんとすごかったー! プロみたいだったよー!」


 あたしも2人に抱きつく。かっこよかったもん!


 「涼香さんも守備うますぎ! なにあの動き!」


 「完全に野球だったね!」


 「いや、野球してるのよ」


 「涼香は守備うめーからなー!わはは!」


 「外野は暇だった」


 「ふにゃ......」


 「もっと走りたーい!」


 「みんなお疲れ様~攻撃もがんばろ~えいえいお~!」


 花音さんがふわっと気合を入れてくれた。癒されるなぁ~。


 その後も試合はキューティガールズの流れだった。


 翼はピッチャー前へ転がした打球で俊足内野安打。塁上で満面の笑み。


 リノは鋭いライナーを右中間へ運び、颯爽と二塁へ到達。


 「うおおおおおお!」


 その間に翼はあっという間にホームに帰ってきていた。


 ドゴォォォン!


 そのままバックネットに激突していた。


 「「翼さーん!!!!!」」


 双子が悲鳴を上げている。


 「翼......お前の犠牲は忘れねえぜ......!」


 真夏さんが顔を隠して泣いている素振りをする。絶対笑ってる。


 「い、生きてる......セーフ......」


 色んな意味でセーフだった。よかった。


 真夏さんは豪快なフルスイングでレフト線を破り、「っしゃああー!」と拳を突き上げた。


 スコアは2-0。


 そして四番、百花。


 相手ピッチャーがニヤつく。


 「細っこい嬢ちゃんじゃねえか――」


 む、褒められた。うれしい。


 でも。


 あたしも打ちたい。

 バットをぎゅっと握る。あっ、落ち着く。


 バッターボックスに入り、相手の球をよく見る。


 シュッ。


 今だ!バットを思い切り振る。


 グワァラゴワガキィーン!


 次の瞬間。


 打球が消えた。


 いや、速すぎて見えなかった。


 ピッチャーの顔のすぐ横。


 耳元を裂くような轟音と共に白球が通過する。


 「ひっ……」


 ピッチャーの頬が風圧で引きつる。


 そのまま一直線。


 ドゴォォン!!


 センター後方フェンスへ突き刺さった。


 金網が大きく歪み、外野手が呆然と立ち尽くす。


 「……え?」


 ボールはフェンスにめり込んだまま。


 審判が両手を広げる。


 「ボールデッド! ツーベース!」


 え、ボールが死んだの.....?

 

 ボールさんごめんなさい......


 とぼとぼとあたしは二塁に向かって歩いた。


 「「「「「「「「「(えっぐ~~~~~~~~)」」」」」」」」」


 その後もみんな大活躍だった。


 涼香さんと栞さんはヒットを打ってくれた。


 あたしの足が遅すぎるせいで点が入らなかったけど。


 その後の花音さんがまたホームランを打ったのだ!


『花音選手グランドスラム!!!!!!!』


 「わぁ~また入っちゃった~」


 ふわりさんはふわっと三振していた。かわいい。


 そして試合は進み、マウンドのひかり。


 最後まで崩れなかった。


 速球。


 変化球。


 丁寧なコントロール。


 たまに大暴投。


 初心者マッチとは思えない内容に、相手チームは最後には完全に静かになっていた。


 試合終了。


 13-0。


 3回コールド勝ち?らしい。


 そんな寒かったかな?むしろ暑かったんだけど。


 大差でうちの勝ち。


 ピコンッ!


 頭上にアナウンスが表示される。


 【チーム:キューティガールズのレートポイントが30上昇しました】


 【現在のレートポイントは1030です】


 翼が相手チームへ元気よく頭を下げる。


 「ありがとうございましたー!!」


 リノも静かに一礼。


 真夏は汗を拭きながら笑う。


 涼香は無言でバットケースを閉じ、ひかりは少し安心したように息を吐いた。


 そして栞がぽつり。


 「……なんか相手チーム、試合始まる前よりしおらしくなってなかった?」


 「ヒャッハーって言わなくなってたねぇ」


 花音がのんびり言った。


 遠くで相手チームが整列していた。


 「野球……たのしかったな……」


 「うぅ……ちゃんと練習しようぜお前ら……」


 なぜか少し更生していた。

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