1ミリも野球知らないけど4番バッターになりました
チーム結成から数日後。
あたし達は、キューティガールズのチームルームへ集まっていた。
広い。
ソファある。
モニターある。
なんか高そう。
トレーニングマシンも置いてある。
「おお~~~~!!」
翼が部屋の中を走り回っていた。
「チームルームすごーい!!」
「もう、翼ちゃん走らないで」
栞が疲れた声で言う。
「なんか壊したらどうするの」
「壊さないよー!」
ドゴッ。
翼が壁にぶつかった。
「あっ」
「ほらぁ!!」
でもVR空間だから壊れなかった。よかった。
「うおー!マシンいっぱいあるー!翼!これやろーぜこれ!」
「おー!あれ、全然動かない!」
「わはは!翼筋力1だもんなー!」
「そうだったー!!!」
翼と真夏はすっかり息ぴったりだ。
部屋の中央には、大きな戦術テーブルが展開されている。
空中に野球場の立体図まで浮かんでいた。
「……なんか本格的」
あたしが呟くと、涼香さんが頷く。
「チーム機能解放すると使えるんだって」
「戦術共有とかもできるらしいよ」
栞が説明を付け加えた。
完全に監督だった。
真夏さんは既にソファへ寝転がっている。
「うおー、なんかプロっぽいなー!」
「テンション上がるよね!」
翼が元気よく頷く。
双子もきらきらした目で部屋を見回していた。
「秘密基地みたいです!」
「かっこいい……」
一方その頃。
花音さんは、ふわりさんの頭をなでていた。
「ふわりちゃん眠そうだねぇ~」
「ねむい~」
平和だった。
そして。
栞がぱんっと手を叩く。
「はい! 今日は打順決めます!」
空中にスタメン表が表示された。
みんな少しだけ真剣な顔になる。
……いや。
二人ほど全然真剣じゃない。
翼と真夏さんだ。
「四番やりたい!!」
「分かる!!」
「却下」
栞と涼香さんが同時に言った。
「あうっ」
「なんでだよぉ~!」
真夏さんが不満そうにする。
するとリノさんが静かに口を開いた。
「四番は百花ちゃんしかないでしょ」
全員の視線があたしへ向く。
「え?」
「当たれば終わるし」
「当たればねぇ~」
花音さんがふわっと笑った。
当てるのが一番難しいんだよなあ。
栞が戦術ボードを操作する。
「まず一番は翼ちゃん」
「おー!」
翼が元気よく手を上げる。
「理由は?」
「速いから!」
「うん。そう」
栞が頷いた。
「足の速さはもちろんだけど、出塁率が段違いだしね」
「なるほど!」
真夏さんが勢いよく頷く。
「ぜんっぜん分かんねえけど1番ってかっけー!!」
「いーじゃんいーじゃん!」
翼も乗っかる。
「お願いだから理解してから返事して」
涼香が頭を抱えた。
続いて二番。
「二番はリノさんかな」
「私?」
「小技できるし、状況判断上手いし」
リノさんは少しだけ考えてから頷いた。
「……まあ、嫌いじゃない」
三番は真夏さん。
「うおっしゃぁ!!」
「強振で流れ変えられるからね」
涼香さんが言った。
「あとかわいいし」
「へへー!」
褒められて真夏さんが嬉しそうに笑う。
そして問題の四番。
「百花ちゃん」
「おー」
なんか四番ってすごい人がやるやつだよね。
「四番って何するの?」
「一振りで流れを変えたり、試合を決めたりする人」
「なるほど!」
リノさんが教えてくれたけどよく分からなかった。
いつも通りがんばればいっか。
五番は涼香さん。
六番は栞。
ここは二人でかなり真面目に決めていた。
「涼香さんは器用だからランナー返す役割と、ランナーいない時は一番バッターの役割を担う感じかな」
「それじゃあ六番は栞が適任ね」
なんか達人っぽい会話だ。すごい。
七番はのぞみ。
「バランスを考えるならのぞみちゃんはここかな」
「が、頑張ります……!」
ひかりが後ろから応援する。
「のぞみなら絶対できるよ!」
「ひかり……!」
仲良しだった。かわいい。
八番は花音さん。
「え~数字の中で8が一番好きだから嬉しいなぁ~」
「そういう基準?」
リノさんが首を傾げた。
最後。
九番。
「ふわりちゃんかな」
「きゅうばん~?」
「最後だよぉ~」
花音さんが説明する。
「さいごぉ~」
分かってなさそうだった。
でもかわいい。
そして。
最後に、栞が空中ウィンドウを閉じる。
【キューティガールズ】
1 中 風見翼
2 右 柊リノ
3 三 火野真夏
4 DH 桜庭百花
5 遊 雨宮涼香
6 二 神崎栞
7 捕 朝比奈のぞみ
8 一 白雪花音
9 左 小鳥遊ふわり
投 朝比奈ひかり
なんか。
ちゃんとチームっぽかった。
翼がぱぁっと笑う。
「よーし!!」
「じゃあ来週から、このメンバーでレートマッチいこー!!」
「おー!!」
真夏さんが拳を上げる。
双子も慌てて続いた。
「が、頑張ります!」
「いっぱい練習します……!」
花音さんは、ふわりさんをなでながらふわっと笑う。
「負けても楽しそうだねぇ~」
リノさんも小さく口元を緩めた。
「……まあ、面白い試合にはなりそう」
涼香さんも頷く。
「うん。絶対面白い試合になるね」
「どういうこと?」
翼が首を傾げた。
「まさか友達とチームを組んで試合ができる日が来るなんて……」
栞も嬉しそうに目を細めた。
その時。
ピコン。
全員の前に、新しいウィンドウが表示される。
【チームレートマッチ解放】
【現在レート:1000】
【初心者リーグ】
空気が少しだけ変わる。
遊びみたいだった時間が。
ほんの少しだけ、“勝負”になる。
でも。
翼はいつも通り、楽しそうに笑った。
「よーし!!」
「目指せ最強!!」
「球場は壊さないでね」
栞が真顔で言った。
「「善処します!」」
あたしと翼が同時に答えた。
他のメンバーが訝しげにあたしたちを見ていた。
な、なんで?




