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たくさんのおみやげ  作者: 朝山 みどり


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06 温泉旅行

温泉宿の暖簾をくぐると、湯気の柔らかい匂いが迎えてくれた。

「ほら、お前も温泉旅行だぞ」

隣にいる犬は、鼻をひくひく動かしながら足元を確かめるように歩いていた。

慣れない場所に少し戸惑いながらも、楽しみがないわけではないという顔をしている。

受付では、すでに何組かの犬連れがいた。

「ここの温泉、うちの子お気に入りなんですよ」

楽しそうに話す飼い主の足元で、小型犬が尻尾をぱたぱたと振っている。

その隣では、どっしりと座る秋田犬が、穏やかな目で主人を見上げていた。

透はふっと笑う。

「お前も、気に入るかもな」

部屋に案内されると、犬は窓際に向かった。

外をじっと眺めながら、時折鼻先を動かしている。


準備してすぐに温泉へ向かった。

ミッキーも一緒に、湯の暖簾をくぐる。

湯気が立ち込める中、すでに何組かの客が湯に浸かっていた。

パンフレットにあったように犬と飼い主が二人で入れる浴槽が並んでいた。


俺は空いてる浴槽のそばに行くとミッキーに少し湯をかけた。

風呂に入っている二人連れ?一人と一匹連れって言うのか?とミッキーは不思議そうに見ていたが、俺がお湯をかけるとなんとなくやろうとしていることがわかった風だった。心なしか嬉しそうだった。


ミッキーを抱えてお湯に入るとミッキーは力を抜いておっさんくさい顔になった。


「犬と温泉旅行なんて、いい時代ですよね」

隣の浴槽の夫婦が微笑みながら声をかけてきた。

「本当に」と俺は答えた。ミッキーもなんとなく隣りの夫婦と隣りの子に挨拶をしているようだった。

隣りの子は乾いていると豪華なんだろうが、ぺっちゃんこで貧弱だ。

やはりミッキーの可愛さは郡を抜いている。


部屋へ戻ると、夕食の膳が整えられていた。

ミッキーの食事も並んでいた。

「旅館でお前と飯を食うなんて、面白いな」

ミッキーはすっかり慣れた様子で、ゆっくりと食事を楽しんでいた。

そして、食後。

俺はもう一度暖簾をくぐった。

「さて、二度目の温泉だ」

ミッキーはすっかり慣れたようで、浴槽で泳いでいた。


ここへの旅行は俺たちの年中行事になった。



今日は墓参りだ。


昔平気だった坂道が苦になる。

「ミッキー、ゆっくり行こうな」

横を見ると、ミッキーも同じように歩調を落としていた。


あの尻尾を弾ませながら駆け上がっていたのに。

今は、俺と同じようにゆっくりと歩いている。

墓地にたどり着くと、ミッキーは俺のそばに座った。


そしていつものように、なにもない所を見て尻尾を振っている。

来ているのか?来ているなら、俺にも姿を見せてくれ。


だが、家族のやつ、ミッキーを贔屓している。


「ミッキー。俺も尻尾を振った方がいいかって、あいつらに聞いてくれ!」


風が優しく頬を撫でるように吹いた。これが返事なのか?



墓石に刻まれた名前をなぞる。なぞりながら話す。


「こいつがな、最近坂道を嫌がるんだ」

ミッキーはちらりと俺を見て、鼻先を動かした。

「俺も、坂がちょっとこたえる。ほんとにちょっとだけどな」

墓石を撫でながら、思わず笑ってしまう。


ここで話すのはミッキーのことだ。


少し食が細くなったこと。散歩は今でも好きなこと。今度、温泉に行くこと。

ペットフードが老犬用になったこと。新しい首輪のこと。


俺は墓石の名前をもう一度撫でて、静かに目を閉じた。




誤字、脱字を教えていただきありがとうございます。

とても助かっております。


いつも読んでいただきありがとうございます!

楽しんでいただけましたら、ブックマーク・★★★★★をよろしくお願いします。

それからもう一つ、ページの下部にあります、「ポイントを入れて作者を応援しよう」より、ポイントを入れていただけると嬉しいです。


どうぞよろしくお願いいたします。



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