ウェンディの物語
突然ですが、ここでウェンディという少女が登場します。
後のほうでミッキーも出てきますが、あらかじめお断りしておきます。
ウェンディは『暁の風』というクランの本拠地にやって来た。
蜂蜜とミルクを届けるためである。
腕にドラゴンのタトゥーを彫った男が椅子の上に足を投げ出してその姿勢のままウェンディに言った。
「奥のドアの部屋に鳥籠に入った生き物がいる。
そいつらにその蜂蜜とミルクをやってくれ」
「えっ、でも私は配達するだけなので」
「それも込みで頼んだ積りだがな。
いやならもう注文しないぞ」
「分かりました。奥の部屋ですね」
ウェンディが奥の部屋に入ると大きなテーブルの上に何十もの鳥籠が置いてあり、その一つ一つの中に不思議な生き物が入ってました。
それはどれもみんな同じ。
身長十センチくらいの女の子で背中に蝶のような羽が生えているのです。
「もしかして……妖精?」
でも困りました。五十個くらいの鳥籠の中にそれぞれ一人ずつ妖精が入れられているのですが、どうやってミルクと蜂蜜をあげれば良いというのでしょう。
そこでウェンディは妖精たちに話しかけました。
「妖精さんたち、あなたたちの食事を持って来たわ。
でも鳥籠の一つ一つを開けてその中の餌箱に蜂蜜やミルクを入れて歩くのはとても時間がかかりそう。
だからどうかしら?
みんな鳥籠から出てここに来て一緒に食べるのはどうかな?
その代わり食べ終わったら、必ず籠の中に戻ってくれるって約束してほしいの。
どうかな?」
「「「約束するよ」」」
それを聞いてウェンディは籠の出入り口を全部開けて廻り、テーブルの真ん中に置いた器に蜂蜜とミルクを注ぎ込んだ。
妖精たちは籠から飛び出し部屋の中を飛び回ったが、やがて器の周りに集まると蜂蜜入りミルクを思い思いに飲み始めた。
ウェンディはその中に怪我をしていたり、体が弱っている妖精を見つけたので、ポーチから傷薬や体力回復薬を出して与えた。
「あなたたちはどうして捕まってしまったの?」
「妖精の涙が欲しいんだって」
「「「欲しいんだって」」」
「それはなに?」
「どんな病気でも治す薬らしいよ」
「「「らしいよ」」」
「あなたたちは知らないの?」
「「「うん知らない」」」
「それじゃあ、そのことを言って逃がしてもらえないの?」
「「「信じてもらえない」」」
「妖精は嘘をつけない筈だよね」
「「「うん、嘘はつけない」」」
「それなのに信じてもらえないの?」
「「「うん」」」
「でも妖精の涙が手に入らないってことが分かったら、逃がしてくれるんじゃないかな?」
「「「駄目、逃がしてくれない」」」
「どうして?」
「私たちの羽を集めればお金になる」
「「「お金になる」」」
「羽を取られたら困るでしょ」
「羽を取られたら生きていけない」
「「「生きていけない」」」
「それは大変。なんとかしなきゃ」
「どうにもならない」
「「「どうにもならない」」」
確かにウェンディには妖精たちを逃がしてやることはできない。
そんな力はないのだ。
それからというもの、ウェンディは毎日ミルクと蜂蜜を配達しながら妖精たちの話を聞いてやり、ほかに必要なものがあったら自腹を切って持って行ってあげたりした。
ある日のこと、妖精たちの部屋に入りいつものように蜂蜜とミルクを与えながらお話をしているとドアの外で激しい音がした。
その日は『暁の風』のクランのメンバーが全員集まってなにやら相談してた筈だった。
それがほんの数秒間地震のような揺れと怒号のような叫び声と物音がした後、静かになった。
次の瞬間ドアが開け放たれて入り口に恐ろしい顔の面を被った怪人物が現れた。
ウェンディの記憶はそこで途切れた。
目が覚めると妖精たちはいなくなっていて残っているのは空の籠ばかりだった。
ドアから外に出るとあちこちに『暁の風』のクランのメンバーが倒れていて、男は全員上半身裸でその胸に黒い顔料で『|NEVERMORE≪二度目はない≫』と書いてあった。
そして女性メンバーには服を脱がさない代わりに額や頬に同じ言葉が殴り書きされていた。
驚いてウェンディは自分の顔を鏡に映してみたが何も書いてなかった。
怖くなってウェンディはそこから逃げ出した。
けれども間もなく『暁の風』のメンバーがウェンディのところにやって来て彼女を彼らの本拠地に連行した。
「お前は妖精たちと仲良くしていたから、逃がす手引きをしたのだろうっ」
「ふん、あんただけ顔に何も書かれてなかったじゃないか。
それに気絶してたとか何とか言って、私たちより早く動けていたようだね」
「俺たちは全身痺れる毒にやられたんだ。
だからお前が出てきて俺たちを見てたとき、俺たち全員は意識があったんだ」
「妖精たちが飛んで部屋から出て行った後、いくらもしないうちにお前が出てきた。
示し合わせていたに違いない」
「いつも奥の部屋で話し声が聞こえていた。
妖精と仲良く話しているお前が逃がしたくなってあの怪物を手引きしたんだろう」
怪物とはあの恐ろしい面を被った怪人物のことだろうか。
何を聞かれても身に覚えがないのでウェンディは否定し続けたが、やがて拷問が始まった。
天井から吊るされ、グルグル回しながら四人の男たちが棒で叩くのだ。
「貴様のせいでクランは解散になったんだ。
殆どのメンバーが妖精を恐れてクランを抜けていった」
彼らはリーダーの男のほか四天王と呼ばれる男三人女一人の四人だけが残って、リベンジをしようとしているのだ。
そして最初に血祭りに上げる獲物にウェンディを選んだのだ。
ウェンディが妖精を逃がすのに手を貸したかどうかはどうでもよく、自分たちが恥をかかされた恨みを彼女で晴らそうとしているのが分かった。
何故ならウェンディが妖精と仲良くしていたのを知っていたからだった。
ウェンディは辛抱強い子だったが、武術もなにもしていないごく普通の少女だ。
それが男たちによって集って棒で叩かれたのだから、全身の骨が折れて体中内出血で紫色になった。
そして最後のとどめに女魔術師がウェンディの体に向けて大きな火の玉を放った。
「きゃぁぁぁぁああああああああ」
その時に吊るされた縄が切れて彼女の体は固い床に落ちた。
その後は覚えていない。
どれだけ長い間眠っていたのだろうか。
その間いろいろな夢を見たような気がする。
自分の体が木の中に入って地中の根から水分や栄養分を吸い上げている夢。
沼地に高速度で飛び回るスライムが何者かに核を壊され、それが自分の体に入り込む夢。
海底深く自分の体が沈み、自分の体がクラゲのような形になったり、鰓で呼吸したりする夢。
そしていつも誰かが自分に話しかけている。
「目が覚めたかい?」
目の前に私と同い年くらいの少女がいて、皿の上に乗ったおいしそうな肉を進めてくれる。
三種類の肉が乗っていて、おいしそうな匂いにつられて勧められるままそれを食べた。
「今のは一角獣の三種類の肉だよ。 胸肉を食べると三年肉体が若返り、腿肉を食べると五年、肩肉を食べると十年若返るの。
でもそれをすると合計十八年若返ることになって、今十四才のあなたは生まれる前に戻って消えてしまうことになる。
だから一角獣の内臓や脳も事前に食べさせておいたよ。
そうするとあなたは不死身に近い体になった。
水の中でも呼吸できるし体を怪我してもすぐ治ってしまう。
年齢も自由に変えられるし、性別も変えられる。
そして指先から雷光を出して危害を加えようとする者を退けることもできる。
あなたはもう元の生活に戻ることはできないよ。
あなたは暁の風のリーダーたちに拷問で殺されたことになっているからね。
実際に死ぬ寸前だった。ひどいことをするね。
彼らはあなたを拷問して火あぶりにした後、妖精を殺そうと私たちのエリアにやって来たの。
でも私は彼らに警告した筈。
|NEVERMORE≪二度目はない≫ってね。
あなたがあそこで出会った仮面の男に殺されました。
殺したくはなかったけれど妖精女王の私の警告を無視したのだから仕方ないのです」
「私は人間に戻れないならどうすれば良いのですか?」
「あなたは私の後を継いで新しい妖精女王になってもらいます」
「えっ、あなたはどうするのですか?」
「私は妖精太女王ということになるけれど、実質は引退して旅に出ます。
でも心配ないですよ。
いつでも私はあなたを見守っているので、困ったときは相談に乗ってあげられます。
あなたにはできないですが、私は空を飛ぶことも一瞬で地の果てから果てに移動することもできますから。
私の名前は妖精太女王ミレーヌ、そしてあなたはたった今から妖精女王のウェンディです」
ウェンディはただただ驚いていた。
ついこの間までは雑貨屋の店員として働いていたのに、今は人間ですらなく妖精女王だと言われた。
するとあちこちから羽音を立てて妖精たちが集まって来た。
「「「おめでとう、妖精女王ウェンディ」」」
「「「おめでとう」」」
光り輝く羽の妖精たちがウェンディの周りに集まって祝福してくれる。
彼女は大好きな妖精たちに囲まれて幸せな気持ちいっぱいになった。
おらはミレーヌに聞いた妖精の悪戯で一番良いのは衣服を剥ぎ取ったり、顔や体に落書きをすることだと思った。
それで俺は秘伝の痺れ薬を使って、クランの彼ら全員に軽く傷をつけて戦闘不能にした。
そして男どもの上半身を裸にして胸に|NEVERMORE≪二度目はない≫の警告を書いた。
但し女性のメンバーもいたので、除外しようと思ったがミレーヌは必要だというので、顔に警告を書くことにした。
事前の調査でウェンディという雑貨屋の店員の少女が妖精たちにやさしく接していることを聞いていたので、彼女には当身を当てて気絶してもらった。
それだけでも妖精たちはおらに文句を言ったが、ミレーヌの命令だと言って黙らせそこから脱出させたのだ。
さて戻ってから少したって、ミレーヌからウェンディという少女が拷問で死にそうだと聞く。
そしてクランの残党の五人が妖精たちを殺そうとして向かっているとも。
ウェンディはミレーヌに任せておらは警告を無視した五人を処刑しに行った。
この五人は話し合いが通じないとミレーヌから言われ、強硬手段で死んでもらったのだ。
そしておらの前にはおらと同じくらいの年齢の美少年が立っていた。
「誰?」
「ミレーヌの男バージョンだからミレーと呼んでくれて良いよ」
「ミレーヌか。本当の男の子に見えるぞ」
「何なら脱いで見せようか。隅々まで男だぞっ」
「馬鹿っ。ところでそんな姿で何をやろうって言うんだ?」
「うん、これからミッキー君と一緒に旅に出るのさ」
何を言い出すかと思ったら……。
おらはミレー少年の顔をまじまじと見てしまった。
続きます。




