妖精狩りが起きた原因
おらは水から出て来た妖精を名乗るお姉さんに聞いた。
「あなたは、人間ではないのですか?」
「人間として育っていました。
何故か小さい時から過酷な傭兵の訓練を受け続けて何度も死ぬ思いをしたのです。
けれども妖精の血が混ざっていたと後で知りました。
それでも人間として生きることを選んでいたのです。
そして人を傷つけることを避けて来ました。
けれども私が暴漢に襲われたとき、私の中の妖精の血が目覚め逆に相手を殺してしまったのです。
それから私は精霊と交わって統合すれば一人前の妖精になれると聞いてそれを行ったのです。
その結果私は魔気を扱えるようになりました。
その結果魔法攻撃を受けても魔気に変換して自分の体に吸収し、また元の魔法に戻して相手に返すという『魔法返し』さえもできるようになりました。
これは私独特の技のようで、統合を成し遂げた妖精が必ずしもできる訳ではないようです。
そして風魔法や水魔法を操ることもできるようになったのです。
水魔法と言っても周囲に白い霧を出して目くらましをするだけですが。
そして体が傷ついても回復するようになりました。
以前から傷ついても回復が速かったほうですが、それがさらに驚異的に速くなったのです。
それでも偶然出会って討伐した一角獣の所有を巡って冒険者集団と争い私は炎の魔法で燃やされて死にかけた所を樹木精霊のパゴに救われました。
結果私は擬態を覚えてより人であることから遠ざかったのです。
擬態と言うのは樹木と一体化して何日でもじっとしていれる技です。
さらに私は一角獣の肉や内臓を食べることで自由に若返ったり年齢を調節できるようになりました。
そして私は自分を生んでくれた人間の母親とも決別しました。
生きることに絶望した私は海の藻屑になるところを海底の精霊に助けられ、またしても不死に近い命を与えられました。
もはや体を自由に形を変えられるし水の中でも生きていけます。
そして新たな生を受けた私は自分を行方不明の息子だと思って引き取り育ててくれた一家に家族にされました。
そして再び人の子として育って行きながら私は空間魔術についての研究を行い、極めて行ったのです。
私の新しい家族は私にとても良くしてくれて学校にまで行かせてくれました。
けれどもその家族も皆殺しにされたのです。
何故だと思いますか?
人助けをしたからです。
助けた人の敵対勢力が私の家族を殺しました。
その後、私は家族を殺した者たちをすべて殺してここに来ました。
この沼に身を沈めて眠ることにしたのです。
けれども私はその気になれば世界中の様子を見たり聞いたりすることができるのです。
世界のどの場所にでも私は現れることができ、姿も自由に変えることができます。
でも気力がないのです。
この後私がどうして妖精の女王になったのか知りたいですか?」
おらは次から次へと喋るミレーヌさんに圧倒されてただ話を聞くしかなかった。
「私は他の者の魔気を読んでその人の人生を知ることができます。
私はあるとき素晴らしい歌声の持ち主に出会いました。
私はその人の魔気から学んで歌うことを覚えました。
歌には声量が必要ですが、私は自分の肺をいくらでも大きくすることができます。
歌には音域がありますが、私は自分の声帯を自由に変えて重低音から超高音まで出すことができます。巨大魔獣の咆哮から小鳥の囀りや虫の音まで出すことができるのです。
ですから私はその人の歌い方を学びながらその人を越える歌い方を身に着けてしまったのです。
私は山奥深くまたは森の奥深くで歌うだけでしたが、いつしか人々が妖精の歌声だというようになりました。
すると妖精の女王が私の前に現れて、人間の血が混ざっている雑種のくせに妖精を名乗るのはおこがましいと怒りました。
そして龍の谷へ行って最初に出会った龍に認められれば妖精を名乗っても良いと言われました。
龍の谷はこのピグマリオンの世界の最北の西の果ての海上に浮かぶドラゴンアイランドという島にあり、常人では行ける場所ではありませんが、私なら空間魔法を使って一瞬で行くことができます。
私は小さな子供の龍の前に現れるようにして、私の歌声と相手の咆哮がどちらが凄いか勝負しようと言いました。
そして私が勝ちました。
それで口で報告しても分からないと思い、空間魔法で子供龍を妖精女王の前に出して証言させました。
すると、女王は言いました。
龍の王に認められてくれば妖精の女王の地位を譲ろうと。
私は子供龍と一緒に龍の谷に戻り龍王に勝負を申し込みました。
その勝負は何日も何日も続きました。
そして龍王は負けそうになると炎を吐いて私を焼き殺そうとしました。
私は魔法返しで応じましたが、最初はかなり体が焦げました。
そのうち炎を吐き返した後、残った龍気が体を巡り、体が龍化したりしてますます強力になりました。
ついに竜王は私を認めて、空間魔法で一緒に妖精女王の所に行きました。
始めは私だけが報告したのですが、信じなかったので竜王に顔出しをして貰いました。
でも妖精女王は言いました。
きっと竜王は老いぼれて息が続かなかったのだろうと難癖をつけたのです。
きっと妖精女王は竜王が身の程知らずの私を殺すと思って、女王の地位を譲ろうと思ってもいないことを言ったのです。
けれどもそうならなかったので、竜王の実力に難癖をつけて約束を有耶無耶にしようとしたのです。
龍王は妖精女王の言葉に怒り、たった一息で女王を燃やして灰にしてしまいました。
そして妖精たちを集めて、私が新しい妖精女王だと告げました。
異を唱えるものは自分が相手になると言い残して、自分の翼で飛んで帰って行きました。
私は別に妖精女王になりたい訳ではなかったのですが、行きがかり上そうなったのです。
これで私が何故妖精女王をやっているか理解して貰えたでしょうか?」
「はい、分かりました。
ところで妖精さんはどうしておらを助けてくれたんですか?」
「人助けをして問題を抱えてしまうお人好しというのが一つね」
「確かに人助けしなければあんな目には遭わなかったかもしれません。
ひとつということはまだあるんですか?」
「ミッキーさんがギルドについた嘘のお陰で妖精狩りが始まったのです。
だからそれをなんとかして貰いたくて呼びました」
「えっ、あの話はナンシーさんとギルド長にしか話してませんよ」
「その二人がこっそり話している所を盗み聞きした者がいて、それを情報屋に伝わったという訳ね。
そして情報屋から冒険者たちに伝わって、妖精を捕まえれば『妖精の涙』を手に入れることができるかもしれない、ということになったのです。
そして妖精の涙が手に入ればそれを売ってうまく行けば自分の家ぐらいは買えるということになったと思って下さい。
それで妖精たちが私に助けを求めて来たので、そもそもの原因を作ったミッキーさんに解決して貰おうと思ったのです」
「でもあなたはおらなんかよりずっとずっと力があるから、ミレーヌさんだけでも解決できるのではないですか?」
「人前に出て、場合によっては傷つけたり殺したりするのが嫌なのです。
でも冒険者さんたちだって、生活の為に金もうけをしたいのでしょう?
それを阻止しようとしても次から次に妖精たちを攫おうとする人が出て来ます。
同じ人間で、今回の原因を作ったミッキーさんがなんとかしてくれなくては、私も立場上困ります」
「もし断ったら?」
「そうですね。気が進みませんが。
あなたに責任を取って貰います。
あなたが『妖精の涙』の製作者であることを公表します。
もともと妖精たちには何の関係もないことですから」
「分かりました。
引き受けますが、知恵を貸してください。
あの令嬢様はまだおらを疑っています。
なんとかならないでしょうか?
それとどうしたら解決するか相談に乗って下さい」
「まず、あの令嬢ですね。
名前も地位も知っていますが、あなたは知らない方が良いでしょう。
どうして彼女が『妖精の涙』に拘るのか分かりますか?
実は彼女にはどうしても『妖精の涙』を飲ませたい相手がいるのです。
でも傷を治すあの薬では不十分です。
体の内側の病を治さなければならないのですから。
あなたが魔薬草を使っていることを知っています。
私にはかつてザックと言う名のポーション作りの名人を知っていました。
そして彼の魔気からその製薬法のノウハウも修得しています。
あなたの知識とわたしの知識を合わせれば、その人を治す特効薬のポーションを作れると思います。
それでは、まずそれをやってみますか?
その後で捕らえられた妖精たちを救う手立てと、これ以上被害が増えない方法を考えましょう」
その令嬢様はベッドに寝ていた。
子爵家の貴賓室に泊まっているのだろう。
すると目が覚めて上体を起こしキョロキョロし始めた。
ミレーヌさんはおらの方を見て言った。
「今、彼女の耳元に、ある言葉を囁きました。
大丈夫です。
間違いなく聞き取ったようですし、夢のお告げだと信じているようです」
令嬢様は透けて見えるようなネグリジェの上からコートを羽織って、急いで部屋を飛び出した。
おらの目はその令嬢の跡を追いかけるようにして背中をはっきり見ていた。
「彼女は夢のお告げに従って行動してるのです。
ほら厨房に飛び込んで行った」
令嬢様はバスケットの中から冷えて固くなったパンを掴むと、玄関を出てゲートウェイを門に向かって走った。
門は固く閉ざされていたが鉄格子の隙間から門の外に倒れている老人が見えた。
「あなたっ、そこのあなたっ。
お腹が空いているのでしょうっ?
これをお食べなさいっ」
令嬢様は門の鉄格子の間から固いパンを差し出す。
「ありがとうございます。
お嬢さん、これはほんのお礼です」
老人は起き上がってパンを受け取るとそれを齧りながら、ポケットからポーションの瓶を出した。
その瓶はミッキーがウォルナッツ村で使ってたような古いスタイルの瓶だった。
そして中には青い液体が細かな泡を含んでいるのが見えた。
「お礼に差し上げるものはこれしかないが、良かったら使って下さい」
「ありがとうっ、これは妖精の涙……」
令嬢様が顔をあげたときにはもうその老人の姿は消えていた。
たった今遠隔映像で見た老人がおらとミレーヌさんの前に現れた。
「ミレーヌさま」
「ごくろうさん、ニコラス。
もう商会に戻って良いわよ」
「はっ」
するともう老人の姿は消えていた。
「そんなに驚かなくても良いわ。
ニコラスは私が亜空間を使って瞬間移動させているだけよ。
あなたが見た映像も亜空間を利用したモニターをあなたの目に繋いだだけ。
今の貴族令嬢はたぶん今日中に帝都に戻って自分の母親にあのポーションを飲ませるに違いない。
あれだけミッキーさんのポーションを欲しがったのは、母親の病気を治したかったからなのだよ。
もしそれで治ったなら、ミッキーさんはもう彼女に追い廻されることはないわ」
妖精ミレーヌさんはそう言うとにっこり笑った。
おらは早速妖精たちが捕らえられている場所をミレーヌさんから聞いた。
ミレーヌさんは確かに自分で妖精たちを助けることができる筈だ。
空間魔法があれば誰にも気づかれずに救い出すことができる筈なんだ。
でもおらは違う。最低冒険者たちを倒さないと妖精たちを助けることができない。
しかも顔を見られたらおらはただで済まなくなる。
妖精狩りはギルドで禁止している訳ではないからだ。
だからおらは彼らを殺さなければならない。
それがミレーヌさんの狙いなのだろう。
妖精に手を出せば命はないぞという警告になるからだ。
ミレーヌさんも傭兵の技術を持っている筈だが、どうも自分で殺したくないらしい。
汚れ仕事をおらがしなければならないのは、おらが付いた嘘に対する責任の取り方なんだろう。
けれど、冒険者を殺したくない。
どうしようと悩んでいると、ミレーヌさんが変な仮面を見せてくれた。
「これは獣人たちの祭りに使う『狂戦士』と言う仮面です。
いまはいないザックが被っていたものです。
これなら相手を殺さなくても妖精たちを助けることができます。
でも気絶させるだけでは見せしめにならないので、二度と妖精に手を出したくなくなるようなことをして下さい。
良いですね?」
おらは考えた。
どうしたら、良いのか?
それでおらはミレーヌさんに質問した。
「妖精の悪戯にはどんなものがありますか?」
続きます、きっと。




