妖精ミレーヌ登場
令嬢様はおらに言った。
「私がこれからお前にしてやっても良い三つのことを言う。
一つ目はお前の口に私が接吻すること。
二つ目は私の乳房にある黒子を見せてあげること。
三つめはお前の靴の靴ひもを私が結びなおしてあげること。
さあ、よく聞くが良い。
この三つのうちで私がもっともしそうにないことを一つ選ぶのだ。
その一つを私はお前にしてやろう。
さあ、お前はどれを選ぶ?」
えっ、どうしたら良いんだ。
そんなことどれも選びたくない気がする。
でも断れない圧力を感じる。
どうしたら……?
そのときに耳元を見知らぬ女性の囁き声が聞こえた。
『困ってるな、ミッキー。
驚くなお前を助けてやる。
三番目を選ぶのだ。
一番目を選べばお前は毒薬を口移しで飲まされ、殺される。
二つ目を選べばお前は見てはいけないものを見たということで両目を潰され、見たことを誰にも話せないように舌を抜かれて放り出される。
どうして一番目と二番目が駄目で三番目を選んだのだと聞かれたらこう答えるのだ……』
おらは耳元で聞こえた謎の声の言う通りにすることにした。
「ご令嬢様、おらは三つ目が一番ご令嬢様がしそうにないことだと思います」
「ほう……なぜそう思うのだ?」
「昔ある貴い身分の聖女様が、道端に倒れていた孤児に薬を飲まそうと口移しで飲ませたとか。
ですから一番目のことは身分の高いご令嬢様でも絶対しそうにないこととは言えないと思います」
「驚いたな、聖女フランチェスカの逸話を知っていたとは驚きだ。
では二番目についてはどうだ?」
「身分の高い貴族の令嬢様は侍女に着替えをさせて入浴のときも体を洗わせます。
また昔ある国の王女は未婚でありながら少年の奴隷に着替えをさせたと言います。
その少年奴隷は王女のドレスや下着のデザインをして縫い上げるという天才だったらしいのですが。
ですから普段衣服に隠された肌を見せるという二番目の行為も必ずしも決してありえないことではないと」
「ますます驚いたな。
かの天才縫製師カルダンと王女クレシダの話は、古代史の記録に残っているあまり知られてない秘話なのだが。
それでは何故三つ目が決してありえないことなのだ?」
「かつてある王国の至宝と呼ばれた美しい王女様がおられました。
けれども反乱が起きて奴隷の身に落され、最初に命じられたことが反乱軍の大将の靴ひもを結びなおすことだったとか。
ですから高貴な人にとって最も屈辱的な行為として知られている三番目が、ご令嬢様が決してしそうにもないことなのです。
そして三番目をおらは選びましたが、そんなことをご令嬢様にして頂く訳にはいきませんのでご辞退させていただきます」
「かの……悲運の王女レクレシアの屈辱まで知っているとはお前は何者なのだ?
さらに私の名誉を汚さぬように気遣ったその発言……完全に私の負けだ。
お前の靴ひもを結びなおそうではないか」
「えっ……それは、あまりにもっ……」
令嬢様はおらのまえに屈んでおらの靴ひもを一度解いてから、不思議な結び方をした。
「この結び方はゴルディオンの結び目というのだ。
一度結んだら何者も解くことができないという。
レクレシア王女が反乱軍の大将の靴紐をこの結び方で結んだのだ。
この紐の解き方を知っているか?」
「何者にも解けない結び目…ですか?」
おらが当惑してると、また例の声が答えを囁いた。
それを聞いておらは答えた。
「何者にも解けないのなら、ナイフで切るしかありませんね」
「ふふふふ、それこそ反乱軍の大将がしたことだ。
風呂に入るのに靴が脱げずにナイフで紐を切ったとか。
やはり知っておったか。
だが試すのはこれからだ。
私と魔法契約を結ぶ前にこの真実の水晶に手を当てて、私に関することは決して誰にも漏らさないと心から誓ってみよ。
その心が本気ならこの水晶は白く光る筈だ」
おらは水晶の球に手を置いて、言われた通りに誓った。
すると水晶球は白い光で輝いた。
「ほう……本当に心から守ろうとしているのだな。
そうか……じゃあ、この後魔法契約をしよう。
この契約書に今の誓いを言葉に出して言ってから血を一滴垂らすのだ」
おらはそのときまた謎の人物から助言を貰った。
おらはその助言に従って誓いの言葉を言った。
「おらはここでお会いした上位貴族のご令嬢さまに関することを一切他の者に漏らさないことを誓います。
この誓いを破った時はおらは直ちに死を賜り永久の眠りにつくことを望みます。
ネバーランド領ウォルナッツ村のミッキー」
そして血を垂らした。
今の口述や動作を流れるように行ったので魔法契約は成立して羊皮紙の契約書に今言った文言が浮かびあがった。
そして再度魔法契約書は光輝くとその光が縮まってミッキーの胸の中に入り込んだ。
契約書は跡形もなく消えていた。
「やれやれ文言の訂正をさせようとしたがもう契約は完成してしまったか。
今の契約では破った時に普通に死ぬだけでもっと恐ろしい死に方にせねばならぬと思うのだがしかたあるまい。
ところで、肝心なことを聞くのを忘れた。
折角ここに真実の水晶があるのだから、二つのことについてお前に誓ってもらおう。
一つはあのとき渡したポーションはお前が作ったのではないという誓い。
もう一つはコボルトビースト三匹を殺した者をお前は知らないという誓い。
一つずつやってみせてくれ」
おらは絶体絶命だと思った。
だけどまた例の囁きがおらの耳元で聞こえた。
おらは水晶球に手を置いて朗々と叫んだ。
「おらは『妖精の涙』という名のポーションを作ってませんっ」
すると真実の水晶球は白く輝いた。
「おらはコボルトビーストを倒した者の姿を見てませんっ」
水晶球は再び輝いた。
これには裏がある。
まずおらは自分が作った魔薬草のポーションに『妖精の涙』と言う名前を付けた覚えがない。
製作者がつけた覚えのない名前のポーションを作ったとは言いようがない。
そしておらはコボルトビーストを倒したのが自分だと知っているが、その姿を見てない。
倒すときはその魔物の姿を見てはいるが、自分の姿は見ていないのだ。
こじつけかもしれないし、屁理屈かもしれない。
でも真実の水晶は自分は嘘を言ってないという気持ちで誓えば白く輝くのだ。
令嬢様は何故か肩を落としてがっかりしたようだった。
そして急に優しい言葉遣いになった。
「ミッキー、お前のことを疑って悪かった。
長い間大切にしていたポーションを手放し私の騎士を救ってくれたことを改めて感謝する。
またあのポーションは国宝級のもので、その損失を埋めるなどは私の財力をもってしても不可能だ。
それ故、ポーションの代金ということではなく、騎士三人の命を助けてくれたという命の値段に直して謝礼をする。
誰かっ」
令嬢付きの侍女が現れなにやら指示を受けると一度退室し、お金を詰めた袋らしきものを三つ持って戻って来た。
「騎士の命は武器と鎧と馬だ。
それと同価値の金貨を私がお前に払おう。
受け取るが良い」
「ありがとうございますっ」
三つも袋があったので、さすがに重かったがバックパックに詰めて背中に背負った。
今度はどこに埋めようか?
その時だ。
『領都から出て、私に会いに来て下さい、ミッキーさん』
例の謎の女性の声が耳元で聞こえた。
やって来たのはあまり来たことがない森の一角だった。
そこには見知らぬ沼があった。
水面は鏡のように静かで波紋もないが底が知れない深さを感じさせた。
そこで待っていると水面が波立ち何かが浮かんで現れて来た。
それは最初は透明なゼリーのような塊だったが、次第に形を取り人の形になって行ったのだ。
そして最後はミッキーと同じくらいの年齢の少女に姿を変えた。
少女は素っ裸だった。
けれども空中から服を出すと白いドレスを着た。
見たところ人間のようだが、どこか人間離れした美しさの少女だった。
「ようこそミッキー、私は妖精のミレーヌだ」
その声はミッキーの耳元で助言をして助けてくれた声と同じだった。
続きます。




