魔薬草
おらは基本的にジャイアントスパイダーの鎧を着てギルドに現れたことはなかった。
だからその姿を見たときナンシー嬢が目を見張った。
「ちょっちょっと、ミッキーさんその姿はなに?」
「うん、これから都市の外に出てクエストするのに、万が一のことがあると困るからこれを着てるんだよ」
「それは材料はなんでできているの」
「ジャイアントスパイダーの皮にその金剛糸を使って金属板を縫い込んだ手製のアーマージャケットなんだけど」
「へええ、すごいね。どこで作って貰ったの?
同じように手甲にも肘当てにも膝当てにも使ってるよね。
高かったでしょう?」
「いやいや、これは村の人に教えて貰って、自分で作ったんだけど」
「手製っ、手造りなのっ?
でも素材がよくあったね」
「素材はおらが用意できたから」
「高かったでしょう?」
「いやいや自分で討伐したから」
「……」
なんだかなかなか話がかみ合わなかった。
「それじゃあ、ミッキーさんってジャイアントスパイダーを倒す実力があるってことだよね。
しかも単独で?」
「まあ二人がかりだったんだけど、たまたまおらの攻撃が当たって仕留めることができたっていうか……」
「それなら十分強いじゃないっ。
そんな子が都内の雑役をずっとやってたなんてっ……
それに背中のは大人用の弓だよね。
それ、ミッキーさんが引くのですか?」
「うんまあ。こっちに来るときまでには引けるようになっていたから」
「腰に差した棍棒は?
その辺に落ちているような品物じゃないわね」
「ゴブリンの親分みたいのが持っていたのを取り上げたんだけど、良いものらしいからいざと言う時に使おうかと思って」
「ゴブリンの上位種から取ったって、倒したのね?」
「ええ、まあ。たまたま」
「それなのにまだGランカーなのって」
「でも登録する前のことだから」
「確かに。こっちに来てから雑役しかやってないけれどね。
でも驚いたなあ。
あっ、すみません。ついつい地を出して素で話してしまいました」
「いえ、別に良いよ。今まで一緒に住んでいたようなものだったし」
「しーっ、それ言わないで下さい。
他の冒険者に聞こえたら誤解されるから」
「わかったよ。じゃあ、これ」
「えっ、薬草採取だけ?
魔獣討伐は?」
「出会ったらやっておくけど、薬草は少し研究したいからしばらく続ける積りだよ」
「そ……そうだよね。
もうポーション作れるんだものね。
じゃあ、このクエスト受けるということで確認しました。
でもこれ常時クエストですから期限はないので、ゆっくりどうぞ」
「それじゃあ」
「あっ、待って下さい」
「えっ?」
「クリスさんとは、もう?」
「はい、頼まれたのは三か月ですから」
「一緒にやる積りは?」
「一緒にやって貰いたいのですか? でも方向性が違うし、彼女は弓士なので、おらと被るんですよ」
「そうよね、そうだったわ。
それに都外まで一緒にとなると頼りすぎることになるし、彼女の為にもならないわね。
うん、わかった。それじゃあね」
「はい」
おらは正直クリスさんとこれ以上組んでも意味がないと思ったから、そう答えておいた。
彼女にも同じことを伝えて分かって貰ってる。
一人でというかおらから離れてやってみる方が色々勉強になるってそう思うし。
でも、彼女は闇の殺戮者に戻る気持ちは全然ないらしい。
『あの子たちは幼馴染だけど、今考えて見ると何の根拠もない自信だけ一人前にあって、中身は空っぽなの。
実力って積み重ねて行く物だし、勢いだけで付くものじゃないって分かったから、その辺が分からない限りあの子たちと一緒にはやれないと思う。
というか私もあの子たちと同じだったから、少し一人で考えたい。
ミッキー君と一緒にやるってのも魅力だけど、あの子たちが私を盗られたと思って何かして来るかもしれないし、それも迷惑かなって。
それにナンシーさんに聞いたよ、ダイアナと言う子のこと。
仲間の男の子に売られてエディという冒険者に喰われてしまったって、それで死んだってね。
アルもダニーも同じことやろうとしたんだよ。
私は断ったけど、あの時が冬でお金に困って生活できなくなっていたときならどうなってたかわからなかった。
それを考えると恐ろしいとおもったよ。
だから今のうちに色々なことを考えてみる。
そんな時間がほしいかなって。
ミッキー君、それを気づかせてくれたのはあなた。
師匠のあなただよ。
ありがとう、本当にね」
「いや、恥ずかしいから。感謝されるようなことしてないから」
「してるよ。
わたしよりずっと年下なのに、師匠はずっと年上のような気がするよ」
いやいやおらは前世の記憶はないし、この年齢だけしか生きてないのと同じだから。
おらは今森にいる。
これは領都に来る途中も中に入ったことのある森で、一部魔気の流れが濃い所があるから、魔獣もでるし、魔薬草も生えているのだ。
魔薬草というのは、獣が魔気に長い間さらされると魔獣になるように、薬草が魔気によって変化したものを言う。
けれどもゴブリンやドラゴンのように元々魔物であったり魔獣種であったものがあるように、始めから魔薬草または魔草であったものもある。
たとえばマンドラゴなどはその代表例だと思う。
けれども割と知られてないのは魔気によって魔薬草になったものである。
魔獣に上位種があるように魔薬草にも上位種がある。
けれどもそれはベンジャミンさんの薬草図鑑にも載っていなかったし、それを使ったポーションのレシピもなかったようだった。
けれどもドーリー婆さんには一度だけその魔薬草について聞いたことがある。
「魔薬草ってのは、いったい何の薬草から変化したのかを見破らなければ役に立てることができないんだよ。
そうでなきゃただの魔気に汚染された雑草と片付けられて見過ごされてしまうのさ。
実際そういう魔気によって変質した草は一般に魔草として知られているだけだよ。
さあ、お前は見わけができるかい?
必ず元の薬草の特徴を残していて上位種になるほど薬効のある部位の変形が大きくなる。
この辺りでは実物を見せてやることができないのが残念だがね。
魔獣が住む森なら必ず生えているのを見ることができるんだ」
「その効能はどうなの?」
おらがそう聞くと、ドーリー婆さんは、こう言った。
「元の薬草の効き目が一とすると、麻薬草は二、四、八……と言った具合に上位種になるにしたがって倍増して行くのさ」
おらはそのことを思い出し、魔薬草を捜そうと思ったんだ。
続きます。




