↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/32

妖精の涙?

今回の話の題名は魔薬草で作ったポーションのことをある女性がそう呼んだことで使ってます。

ですから今話は魔薬草とポーションが主なテーマです。

ですが、途中で全くどうでも良い話が入り込みます。

どうでも良い話ですので、最初と最後のポーションがらみの部分だけ読んで後は飛ばして下さい。

 そして、おらはその草を見つけた。

 傷薬の薬草であるクゼゲセル草の魔薬草らしいものが見つかったのだ。

 三つ葉のクローバーに四葉や五つ葉があるように、それは確かにクゼゲセル草を土台として変化してできた魔薬草だった。

 


「で、それでポーションを作る時は普通の薬草と同じ作り方で良いのかい?」

 おらの質問にドーリー婆さんは少し空中を見つめるような顔をした。

「えーと、そうなんだけど。

 そうなんだけどね……魔薬草の魔気が人間の体の魔気に馴染まなければ薬効が体内に働きかけないんだよね。

 だから磨り潰すときに体の魔気を込めて同時に魔薬草の魔気を体内に取り入れて、えーと、あとなんだったっけなあ、とにかく体内の魔気と魔薬草の魔気を交互に交流させてすっかり混ぜることによって、体に馴染むポーションができるのさ。

 出来上がった時には、えーと、なんだったっけなぁ、色と泡が……駄目だ。

 なんて言ってたかな。

 思い出せない。

 なにしろ言葉だけの伝授だったから、そして相手は死にかけていたし」

「死にかけていた人から聞いたんですか?」

「というかその後すぐ死んでしまったんだよ。

 死ぬ前にこの秘伝を誰かに伝えたいってね。

 だけど私はそれから住んだ所はここだから魔薬草なんてどこにも生えていない。

 とうとう作ることはなかったのさ」

「ふぅーーん」




 傷薬の場合はただ磨り潰して水に溶かすだけだから、それに自分の魔気を混ぜてみれば分かる。

 でも肝心なのは魔薬草の魔気を自分の体内に取り入れそれをまた魔薬草の方に注ぎ込むということを繰り返すのだが、魔気を入れるというのは分かるが、吸い込むというのが分からない。

 そうやって試行錯誤して作った試作品のポーションを幾つも床に散らばしているのだが、仕上がりが満足にできず、魔薬草の魔気が人体の魔気と反発しあうため、普通の薬草で作ったポーションよりも効き目が悪い。

 というか殆ど効かない。

 その為魔薬草を使ってポーションを作ってみようと思いついた人がいたとしてもすぐに諦めたに違いない。

 その前に魔薬草と言う存在に気付く人がまずいないと思う。


 何日も魔薬草を磨り潰し、同時に神経を磨り潰し、魔気を出し尽くして、すっかりげっそりしてた。

 それでも毎日魔気の濃い森に魔薬草を採りに行き、ギルドには普通の薬草を適量納めて家に戻ったら魔薬草を磨り潰し、神経を磨り潰し、魔気を出し……というルーチンワークを繰り返す毎日だった。

 あるとき疲れて両手をだらんと下げて右手で魔気をだしていると、左手から魔薬草の魔気が入って来たっ。

 つまり魔気を吸い込むためには出さなければならないのだ。

 それで右手で魔気を注ぎ左手で吸い込んで行くと自然に左手から左腕そして左肩へ、さらに胸を通って右肩、右腕、右手から魔薬草へという循環になって行った。

 何故かこのとき『腕周天』という言葉が思い浮かんだので、この方法を腕周天と呼ぶことにした。

 

 そして出来あがったものは細かい泡のある青みがかった色のポーションだった。

 草の色なら緑になる筈だが、何故か青くなっていて、しかも濾(こ)していないのにもかかわらず、一切澱(おり)のような沈殿物がなかった。


 ところで魔気の強い森で採集をしているので魔獣がよく出没する。

 おらはゴブリンとかフォーレストウルフなどはいつも棍棒で殴り殺している。

 それだとあまり血が出ないから、血の匂いで他の魔獣が寄って来るということはない。

 そして薬草採取しに行ったのに魔獣や魔物を取って来るのも変なので、討伐証明を持ち帰ってお金を貰うのということはしていない。

 たまに他の冒険者がそこから毛皮を剥いだり、討伐証明の素材を切り取って来たという話を耳にしたことがある。

 おらはそれはそれで構わないと思ってる。

 そんな風で、おらは今では多分誰も知らないような魔薬草のポーションというのを作ることに成功した。

 えっ、効き目はどうかって?

 手をちょっと切って傷口にかけたら傷が消えたから効き目はあると思う。



 半月後のこと。

 おらがギルドに行って通常の薬草を納めて銅貨を受け取るとナンシーさんがおらを奥の方に呼んだ。

 例の小さな会議室に行くと、おらは椅子に座るように勧められる。

「クリスさんのことだけど、エディと付き合い始めたみたいなの」

「えっ?」

「何か聞いてない?」

「いや、何も」

 おらは半月前にクリスさんが言った言葉があったから、そうはならないと思った。

 だから意外だった。

 男と女では考え方も事情も違うかもしれないけど、少なくてもあの時は他人に頼らず自分の地力をつけて行くと、クリスさんは考えていたと思う。

 それなのに何故?

「そうならない為に私はミッキー君につけたのに。

 おかしいなぁ。どこで計算が違ったんだろう?」

「正直、おらにもわかりません。

 でも機会があったら本人に聞いてみようと思います」

「うん、お願い。

 エディに関しては元々評判が落ちているけど、今はクリスさんがかなり周囲から失望されているというか……」

「ところでクリスさんも言ってたんですが、ダイアナと言う人は何故死んだんですか?」

「うーん、彼女はね、同じ村出身の男の子レックスとザイラーと一緒に『暁(あかつき)の剣(つるぎ)』というパーティを組んでいたの。

 ダイアナはリーダーのレックスと清い仲だったらしいけど、両想いだったって。

 でも『闇の殺戮者』と同じように無計画なところがあってね。

 冬になって何も蓄えがなかったことに気づき慌てだしたの。

 都内の雑役の仕事ならあったけど、冬のクエストは春夏秋のよりもきつくて大変なの。

 そして仕事も少ない。

 そのうち食べるものや泊まる場所にも困ったようになったって訳。

 そこへベテランの冒険者エディが声をかけて三人にお金を貸してくれたり安宿を紹介したり、食事を奢ってくれるようになったの。

 それと冬でも彼のような上級冒険者と一緒なら都外でもクエストがないことはない。

 そういう所にも連れて行ってくれて、僅かでも金を稼がせてくれもした。

 でもそれがエディの手口だったかもしれない。

 そのうち男の子二人を娼館に連れて行くようになって、そのときにレックスに聞いたらしいの。

 ダイアナを誘っても良いだろうかって。

 レックスは承諾したらしく、その後エディはダイアナを食事に誘って酒も勧め、その晩男と女の関係になってしまったの。

 でもその後ダイアナは矢毒に使う毒を飲んで死んだ。

 分かってるのはそういうこと。

 エディはもちろんダイアナのことは合意の上だって言ってたけど、それなら何故自殺するのよって話で、エディへの疑惑はいまだ晴れない。

 そういうことよ」

「エディ……という男はカスだとかクズだとか言われているようですけど、そんなに女癖が悪いんですか?」

「主に娼館に出入りしてるわね。

第一ダイアナのことがあってからは他の女冒険者も街の娘たちも警戒してるから、その点は被害がなかったの」

「クリスさんについては?」

 その時、ナンシーさんの目が少し泳いだような気がした。

 どうゆうことかな?

「おら、思うんだけど。クリスさんのことについてはなんかダイアナさんの時と違うような気がするんだ」

「な……なに? なにが?」

「どうしてそんなに驚くんですか?

 だってこの季節クリスさんもアルやダニーもお金に困って食べていけないって訳じゃなかった筈だよね。

 それとアルやダニーは幼馴染らしいけど、どちらかと両想いだったとかって聞いてないし。

 そしてエディ……さんもクリスさんが断ったら大人しく身を引いたのでしょう?

 そこだけを聞いたらアルやダニーがクリスさんを裏切って売り渡したとか、エディ…さんがクリスさんを手籠めにしようとしたとか、そんな話にはならないと思うんですけど。

 エディさんは娼館通いはしてるけど独身なんですよね?

 そりゃダイアナさんの件があるから、限りなく黒いといえば黒いかもしれませんけど、クリスさんの件に関してはダイアナさんのときと明らかに事情が違うような気がします」

「あっ、そうだ。『暁(あかつき)の剣(つるぎ)』のレックスがザイラーと一緒に酒場で飲んでいるみたいだから、ダイアナの件について聞いてみたら?」

「おらが? ……どうして?」

「エディのことについて知りたいようだから、彼らならよく知ってるわよ。

 私は仕事に戻らなきゃいけないから。

 それとクリスに会ったらそれとなく聞いてみてね。

 じゃあね、私急いでいるから」

 ナンシーさんは、なにか誤魔化しているような感じだった。

 自分から呼んでおいて、忙しいからって逃げて行った。

 変だな?



「レックスさんですか?

 おらはGランカーの新米のミッキーって言います」

 おらはそう言ってザイラーさんの分の飲み物とつまみの干し肉も二人が座っているテーブルに差し出した。

「ミッキーか。

 確か都内雑役をずっとやってて、臆病者とか言われてる新人だな。

 なにか俺に用か?」

「レックスさんの評判はあまり良くないけれど、本当のところ何があったか聞きたくて」

「なんだ? ダイアナのことか?

 評判通りだよ、悪かったな」

「すみません。実はあのときエディさんが何をしたか知りたくて、知り合いが彼と付き合ってるみたいなので」

「クリスだろう? 

 お前について汚れ仕事やきつい仕事三か月やったんだってな。

 まあ、座れ。

 好きなのか?」

「三か月面倒見たので、一応心配してるってとこです」

「お前が噂通りの臆病者じゃないってことは、さすがの俺たちにだってそのくらいは分かる。

 だからこの酒とつまみはありがたく奢って貰うぜ。

 そうだな、何が知りたいんだ?」

「ダイアナさんとエディ…さんが関係を結んだ時のこと……言いづらいかもしれませんが。

 大事なことなので」

「全く言いづらいことを聞いてくれるぜ。俺たちはあの頃金欠病でピーピー言ってたのよ。

 だがエディは兄貴分みたいな感じで三人ともよく面倒みてくれた。

 今思えばダイアナに気があったんだな。

 だがダイアナは俺のことが好きだった。

 今更だが、俺もだ。

 とは言ってもザイラーもいたしそこはリーダーとしてパーティ内のチームワークを保つ意味でも、べたべたしたりはしなかったんだ」

「ああ、本当だ。そこはレックスもダイアナも気を使ってたな。

 節度を保つってやつだった」

 ザイラーも相槌を打った。

「けどやっぱり俺たちは男だし、女の体には興味があった。

 だからエディの誘いに乗ってしまった。

 しかも金はエディが全部持つって話だから飛びつかない訳にはいかないだろう。

 エディは言った。

 まさか同じパーティの女を相手にする訳にはいかんだろうって。

 それはパーティを大事にするためには越えちゃいけない一線だとも。

 実際その通りだし、その分娼館で発散するのは正当なことだとすっかり乗せられた。

 というか俺たちも乗りたかったんだな。

 で、それぞれ女も選んで、さあお楽しみって段になって、エディが何気なく軽い感じで言ったんだ。

『俺、ダイアナに告白しても構わないだろうか』ってな。

 だから俺も軽く『してみれば』と笑って言ったんだ。

 ダイアナが俺のこと好きだって知ってるし、いくら気前よく奢ってくれたりする先輩だってあんなおっさんが告白しても『ごめんなさい』で終わると思ってたからなんだ」

「それは俺も聞いてたから、そんな風に思ってた。

 ダイアナはエディのことなんとも思ってなかったからな。

 だからレックスのその返事は裏切りでもなんでもないって、今でも思ってる」

 ザイラーはまた合いの手を入れた。

「その後でエディが娼館をすぐに出てダイアナに会いに行き食事に誘ったらしいんだ。

 二人はホテルの個室で飲み食いしてその時になるようになってしまった。

 翌日ダイアナは宿に戻って自分の部屋で服毒自殺だ。

 自分が使う矢毒を使って死んだんだ。

 俺の分かることはそれだけだ。

 エディにはあの後会ってないし口も利いてない。

 だから俺はエディに無理やり手籠めにされたと思って、いつか復讐しようと思ってたんだが、違う噂を聞いたんだ。

 ダイアナが俺に裏切られたと思って死んだとか。

 腹いせにエディと寝たとか、そんな話だ。

 それだとダイアナは俺に裏切られたと思ってエディと寝たけれど、その後酔いが醒(さ)めて引き返せないことをしたと後悔して死んだのかもしれない。

 そう思ったら、分からなくなってしまったんだ。

 こうとも考えられる。

 俺が娼館に行ったことが既にダイアナに対する裏切りで、エディが自分に告白することを了解したことで二重の裏切りになったと。

 俺の心が離れたと思ってそのことで自殺したのではないかってな。

 そうしたら俺もクズでカスだということになる。

 だから周りで色々言っても俺は否定しないし、したくない。

 ダイアナを死なせてしまった責任は俺にあるんだから、言い訳はみっともないだろう。

 そういうことだ」

 おらはレックスさんに話をしてくれた礼を言ってそこを立ち上がった。

 そして酒場のお姉さんにお金を払って追加の酒をテーブルに届けるように頼んだ。

 

 おらは都内の顔見知りのところでエディさんの情報を拾った。

 そしてクリスさんとエディさんをレストランの個室に呼び出した。


「俺たちのことをナンシーから頼まれたのか?

 それで探っているって訳か?」

「エディさんがダイアナさんと何があったか教えて欲しくて。

 それとクリスさんと今どうなってるかも知りたくてお呼びしました」

「私から話すわ。

 不思議でしょう?

 ダイアナのようにじゃなくてもっとしっかりと生きるとか言ってた私が、よりによってエディさんと付き合ってるようだから」

「うん、どうしてなのか教えてくれるかな?

 おらは少し混乱しているみたいだから教えて貰えれば助かる」

「私は彼の話を聞いた。自分の耳で聞いて自分の頭で考えたかったから。

 どうしてかというと、師匠のことを臆病者とアルたちが言ったとき、自分の頭で考えてなかったから。

 でも三か月師匠と過ごして、あまりにも他人に対して軽率な判断をしていたと反省した。

 それで思ったの。師匠にしたように、エディさんにも同じことをしてないと言い切れるかってね。

 エディさんがロクでなしでカスでクズならそれでも構わない。

 でもそう決めつけるのは私の頭で考えた後でそう決めたいと思ったの。

 主に私がエディさんを判断する材料はダイアナさんに関することだけ。

 でも何があったかははっきりしない。

 分かってることはダイアナさんにはレックスという好きな人がいたってこと。

 エディさんは三人に一緒にクエストに連れて行ったり、食事を奢ったりお金を貸したり宿を紹介したりしたこと。

男の子たちに娼館に連れて行って金を払ってやったこと。

そしてダイアナさんを食事に誘いお酒も勧め最後に関係を持ったこと。

そしてダイアナさんが次の日に自殺したこと。

わかってるのはこれだけ。

 そしてエディさんは二人のことは合意の上だと言っていた。

 それで直接エディさんに何があったか聞いてみた。

 彼の言い分を聞いた後で、私はエディさんが周りが言っているほど悪かったのかって疑問に思った。

 そういうことです。

 後は本人に直接聞いてください」

「エディさん、教えてくれますか?」

「ああ、良いとも。

 けれど俺はきっと悪いと思うよ。

 ダイアナは俺が好きだった幼馴染のレイラって子に似てたんだ。

 その子はまだ若いうちに死んじゃったがね。

 俺はそれで三人に近づいたんだ。

 つまりダイアナを狙っていた。

 けれど自分の物にしたらその後ぽいと捨てるとかそんな積りはない。

 一緒になって家庭を持ちたかったんだ。

 好きな相手がいる女の子を狙うのが悪いと言うなら俺は悪いとはっきり認めよう。

 十数年も年下の女の子を好きになるのが汚らわしいというなら、俺は確かに汚らわしい奴さ。

 確かに俺は卑怯だった。

 無計画な彼らを見て冬になったら困るということを忠告しなかった。

 案の定奴らは金欠病になって、俺が伸ばした救いの手を掴んで来たんだ。

 そこで俺は親切に金も無利子で貸してやったし、宿も世話した。

 食事もおごってやったし、三人のランクでは行けないクエストにも連れて行って稼がしてやった。

 ダイアナが目当てだってことは気づかれないように公平に目をかけてやった。

 そしてあの日俺はレックスとザイラーの二人を娼館に連れて行ったんだ。

 奴らは若いから当然関心がある。

 好きな女がいても男はそれとは別に性欲があるし好奇心があるんだ。

 おれは言った。

 パーティメンバーに女がいるからこそ、そこで間違いを起こせばパーティが壊れる。

 それなら娼館で発散させれば、メンバーの女の子にも害は及ばない。

 俺はそう言って二人に気に入った女を選ばせた。

 特にレックスには少し高めの女を紹介した。

 俺の相手は馴染の年増で決まったんだ。

 そのときに俺はレックスに言ったんだ。

 わざと冗談ぽく実は本心を言ったのさ。

「俺、ダイアナに告白してみようかな。どう思う?」

 レックスも目の前の女に気を取られていたから、軽く『してみれば』と返したと思う。

 あいつは自信があったからそう言ったんだと思う。

 だってダイアナは俺には関心がないってことは俺も含めて三人とも分かっていたから、『たぶん玉砕だろうけどな』ということを含めて言ったんだと思う。

 これは俺の待ってた言葉だ。

 そのとき『ダイアナは絶対駄目だよ』とか言ったら俺もその時は諦めていたろう。

 けれど『してみれば』と言う言葉は俺が一番聞きたかった言葉だったんだ。

 ああ、分かってる。俺は卑怯者だよ。

 その後二人がお楽しみの最中に俺は馴染の娼婦に謝って金だけ置いて抜けて来たんだ。

 そしてダイアナを食事に誘った。

 ダイアナは始め警戒したが、ほかの二人がどこにいるか知ってる、とても良いところにいるんだというと話を聞こうと食いついて来た。

 俺はレストランの個室を予約しておいてそこに招いて食事をさせた。

 二人がうんと楽しんでいるから、君もうんと楽しめ。

 そう言って高級な料理を頼んで食べさせた。

 その頃はダイアナもなんとなく予想をしていたと思う。

『もしかして娼館?』って聞いたから俺は黙って頷いた。

 そしたらダイアナは注いだまま飲んでなかった酒に口をつけた。

『私がエディさんと食事していることを?』って聞くから。もちろん知ってると答えた。

 そこで飲み足りないなら俺の泊まってるホテルに行けば酒も御馳走も用意してるって言ったらさすがに酔っていても彼女は躊躇った。

 そこで俺はダイアナが好きで告白しようと思うってレックスに聞いたらしても良いって許可を貰ったんだと言ったんだ。

 するとダイアナははじめは怒ってその後泣き出した。

 俺は慰める振りをしてホテルに連れて行き、またそこで飲んだんだ。

 その先を聞くか?

 強いていえばあいつらだけ他の女と楽しんでる。

 俺は遊びじゃない。真剣にお前に惚れてるっていって、あとはご存じの通りだ。

 良いかって何度も念を押したけどダイアナは泣きながら頷いていたんだ。

 もちろん俺のやったことは狡いやりかただ。

 だけどこんなおっさんが若い女を貰いたいと思ったら搦め手を使うくらい勘弁して欲しい。

 だから翌日宿に帰ってから自殺したのは俺の計算違いだったんだ。

 荷物を取りに戻るって俺には言ったから待ってたんだよ。

 ずっとずっと俺は待ってたんだよ。

 もしかして二人に俺と一緒になるって打ち明けて、反対されて話がこじれてるのかとも思ったんだけど、レックスの方から人を介してダイアナが部屋で毒を飲んで死んだって聞いて驚いたんだ。

 だがレックスの伝言は『二度と俺たちの前に姿を現すな。二度と口を利かない』だった。

 だから俺は後でダイアナが埋められているという場所に行って謝ったんだ。

 悪かったな、俺がお前たちの仲を裂くようなことをしなければってね。

 自殺した人間の墓だから墓碑銘には『自死せる者の墓』しか書いてないんだ。

 可哀そうなことをしたって思ってる。

 そんな積りはなかったんだって」

 エディはちょっと目を擦った。

 おらは知ってる。エディが花屋で花を買って毎月その墓を訪れているってことを。

 花屋も墓場の墓守もおらとは顔なじみなんだ。

「それでクリスさんにもエディさんにも聞きたいんだけど、お互いのことどう思ってるの?」

「私は……エディさんは冒険者としてはベテランだし、十分尊敬できると思う。

 だからミッキー師匠に見捨てられた後で、新しい師匠になってもらう積りで近づいたの。

 一度言い寄られて断った関係だけど、今度は曇りなき目で見てこれからどうお付き合いして行くか考えたいと思ってる」

「エディさんは?」

「ああ、俺は前回断られたときよりもクリスさんは雰囲気が変わった。

 前よりも更に好感が持てる感じになったから、ますます離れたくないが、ダイアナのこともあるから節度ある感じで付き合って行く積りだ。

 そこで俺たちはこのネバーランド領を出ようと思ってる。

 というのはここでは俺の悪名が広がり過ぎて、この先二人の関係がどっちに転んだとしても一緒に行動している限り彼女に被害が及ぶってことだ。

 そういうことだ。

 ナンシーさんにもよろしく伝えてくれ」

 



 ナンシーさんはおらに銀貨を何枚かくれた。

「これは調査資金ね。

 で、どうだった?」

「二人はこの領内を出て行きます」

「えっ、いきなり何?

 途中の経過説明が抜けてるんですけど」

「おらと三か月行動を共にしたクリスさんは噂だけで人を判断しちゃいけないってことを学んだそうです。

 だからエディさんには交際を申し込まれ一度断ったけれど、もう一度冷静な目で先入観を取り除いて見極めて行くために付き合い続けるそうです」

「エディは? エディはなんて言ってるの?」

「最近のクリスさんは以前に申し込んだときよりも更に良い感じなのでできれば節度を保ちつつお付き合いしていきたいと」

「えっ、ええっ、どうしてそうなるの?

 ミッキーさんはそれで良いと思う?

  おかしいよね、絶対変だよね」

「わかりません。どうしてそう思うのかわからないです」

「だってあいつにくっついて行ったら食われて飽きられてポイッて捨てられるに決まってるじゃない」

「そんな前例があるんですか?」

「ダイアナがそうじゃない。

 食われて、その後自殺したんだよ」

「でもエディさんがダイアナさんを捨てた訳じゃないですよね。

 エディさんはダイアナさんが好きだったんでしょう?」

「彼がダイアナを?

 ただ彼女の体が目的だったのよ」

「そうだったんですか?

 じゃあ、好きでもなんでもなかったから体だけ弄んだということですか?」

「ミッキーさん子供のくせに随分突っ込んだ質問ね。

 それを感じたからこそダイアナは死んだのよ。

 愛もない者に体を汚されたって」

「エディさんには愛がなかったということですか?」

「もうやめようよ。あいつは愛がなくても女を抱ける人間なの」

「そう決めたのは何故ですか」

「でもエディはわざとクリスに言い寄ったんだから「えっ?」あっ、いや」

つい口を滑らせたナンシーさんはこの後おらに白状した。

 ダイアナの二の舞をさせないために、クリスをアルたちから引き離す為にエディに一芝居打ってもらったことを。

「それじゃあ、エディは別にクリスのことを好きなわけじゃなかったんですか?」

「それは分からないわ。でもクリスがエディのことをすきでなかったことは分かってたわけでしょう。

 どうして付き合うようになったか、まだよく分からないわ」

「うーん、策士策に溺れるって感じですね」

「なにその言葉?」

「いえ、なんでもありません。

 なぜかぽっと浮かんだ言葉で意味も分かりません」

 おらは多分今の言葉は前世の記憶のかけらだと思った。



 エディとクリスさんはその後領都からいつの間にか姿を消していた。




 それから地味に薬草採取とポーション作り、たまに魔獣の撲殺の毎日を繰り返していた。

  

 都内雑役のときもそうだけれど、おらはこういう単調な繰り返しに結構強いみたいだ。

 とにかく繰り返して行くことによって気持ちが安定して来るのだ。

 

 その日も最近ずっと続いている同じ毎日の連続の一コマの筈だった。


 けれどもその日はいつもと違う日みたいだった。

 なにか森に沿った街道で騒ぎが起きていて、そっと覗くと変な生き物が……馬車を襲っていた。

 人型の魔物だがゴブリンではない。

 話に聞くオークでもないようだ。

 灰色の体に大きな耳、尖った歯が並ぶ大きな口と小さな目殆ど鼻の孔だけの平たい鼻。

 そして手が大きく指先が鋭い爪になっていた。

 そして尻尾が長い。

 そいつらは剣を爪で受けて平気でいる。

 周囲にいるのは騎士のようだ。

 でも鎧の紋章はネバーランド子爵家の紋章ではない。

 違う所から来た貴族が馬車に乗っているのだろう。

 騎士はすでに三人ほど傷を負って倒れている。

 残りの騎士は五人ほど。

 怪物の数は三匹だが一匹も怪我をしていない。

 何の武器も持たず爪だけで剣を持った騎士に対抗しているのだ。

 おらは走った。倒れている騎士の持っていた槍を拾ってそれを怪物の胸に突き刺した。

 そのとき一匹目の延長上に二匹目の体があるように位置取りをしていたので二匹を串刺しすることを狙った。

 一匹目の胸を貫通して背中から飛び出た槍をそのまま軌道を変えずに柄を持って次のターゲットまで導く。

 そして二匹目の胸も貫いて、背中から出た槍の柄を握った。

 そこからやや強引に回転を与えてUターンを行った。

 串刺しのような軌道を変えない方法は慣性の法則に逆らわないから力はいらない。

 だが方向転換にはそれなりの覚悟が必要なくらい、大きなエネルギーがいるのだ。そして残りの一匹を背中から血のりだらけの槍を突き刺して飛び出た槍を立木の幹に向かって飛んで行くままにした。

 驚いたことに高速で飛んで行った槍は幹を貫通したっ。

 おらはそのまま立ち去り姿をそこから消した。

 きっと槍が勝手に飛んで行って怪物を殺したように見えたに違いない。

 

「スミスッ、ドレイクッ、サミエルッ、しっかりしてっ」

 なんだか女性の声が聞こえる。

 よく見ると十四五才の綺麗なお姉さんが素敵なドレスを着て、泣きそうな声を出しているのだ。

 騎士がついているから他領の貴族令嬢だろうか?

「ねえ、ポーションはないのですか?」

「先ほど使い果たしてしまいました。

けれども傷は相当深く…」

「ああ、神様。私の騎士たちを助けて下さい」

 おらはその祈りの声を聞いて、神さまではないけどポーションを分けてあげることにした。

 ツナモ草とクゼゲセル草の魔薬草を混ぜて作った血止め傷薬のポーションが三本持っていたのでそれを持ってギクシャクした格好で歩く。

 わざとではない。

 緊張してるのだ。

「何者っ? あっ、子供か。

 子供の冒険者なのか?」

 騎士の一人がおらのことを警戒して声を荒げる。

 ちょっと怖い。

「えーーーっと、通りすがりの冒険者ですす。

 あっ、怪我をしてますね。

 ちょうど賞味期限切れのポーションが三つ余ってたので、これでも良かったら使って下さい」

 警戒していた騎士がおらの棒読みのセリフに呆れながらポーションを受け取る。

「結構いいものらしいので、効くとおもいますす。

 では立ち去りますす」

 おらはそのまま通り過ぎようとする。

「まあ、なんて綺麗なポーションの色だこと。

 まるで妖精の涙みたい。

 こんなの初めてです。

 早くかけてさしあげて。

 きっと効き目がありますよ」

「シュワァァァァ」

 発砲ワインのような音がしたのとなにか凄い歓声と驚きの声が聞こえたような気がするがおらはいち早くその場から消えることにした。

 そしておらはまた同じことの繰り返しの平和で長閑な日常に戻るのであった。(棒読み) 

続きます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。