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第10章 第5話   神の最期

 巨大光球が迫る中、ジークはアーサーの胸を押して距離を取らせた。


「――ジーク!」


 一瞬の時が長く伸ばされ、後方へ倒れるアーサーへと、わずかに微笑むとジークは跳ぶ。


 光球に対し、小さすぎる白銀の剣。

 しかし彼は下から上へ、飛行のままに剣を振るう。

 吸収する術を光と引き、そのままジークは空中へ舞う。

 後方で、吸収しきれなかった術の一部が、瓦礫の山をさらに破壊し、同時に、剣を握る右手の甲には、柔らかな芽の感覚がある。


「小賢しい!」

 神の苛立ちを示すように、高火力の術が次々と翼の影を追いかけていく。

火球、氷柱、そして雷撃。

 しかし、そのいずれがもが高速で飛行する彼の姿を捉えきれない。


 焦燥に、ロキの顔が徐々に歪む。

 その視界で、『勝ち誇ったように』ジークが一瞬微笑んで見え、そして軌道を正面へと取る。


――勝機!


 真っ直ぐ向かってくるものほど、捉えやすい標的はない。

 一瞬にして放たれた光の球が彼を捉え、ロキの歓喜の声が上がる。


 しかし直後、ロキを襲うのは、胸を貫く剣の先と、背中をぶつける硬い感覚。

 剣を正面に、爆炎を突き抜けたジークが、神の胸へと剣を突き立てていた。


「――馬鹿、な――」


 ロキが上目遣いで背後を見る。

 黒い柱、世界樹の根。


 剣で神を磔にし、柄を両手で、頭をその胸の中へと埋めたまま、ジークは最後の言葉を紡ぐ。


「――解放せよ――」


 柄の中央、黒い宝石が一気に砕ける。

 翡翠色の葉が弾け、天を目指して伸び上がっていく。

 軋み、うねり、急速に、若い木の根を形成していく。


 やがて、わずかな軋みの音を残し、その変貌は静かに止まった。

 古い木の根を覆うように、若い木の根は形成され、その間には両手も体幹も飲み込まれたように、絡み取られた神があった。


「黒真珠の石――、世界樹の種子か。

 幾度となく与え続けた我の術が、目覚めのための水となったか。

 ――だがまさか、我を苗床に、世界樹の種子を芽吹かせようとは」


 神の表情は怒りではない。

 自身を飲み込み、伸び上がる世界樹を仰ぐその目には、むしろ笑みが宿って見え、その表情は諦念にも、歓喜のようにも感じられた。


「神の体だ。これ以上の苗床はなかろうよ」


 そして、神は正面に立つ銀の髪の剣士を見る。

 翼の先は黒く煤け、石の抜けた剣を下げて、しかし視線は真っ直ぐに、神の目線へ向けられている。


「だが、どうする気だ。

 例え目覚めようが、こんなものは入れ物に過ぎん。魂なき世界樹などに価値はないぞ」


 そこまで言って、神はジークの表情に気づく。

 感情などは一切ない。

 そこにあるのはただ、矜持――そして――


「――そうか、『真の世界樹』。

 はは、そういうことか――」


 頭の後ろを木の根へと預け、神は再び天を仰ぐ。


「――先に逝くぞ。せいぜいあとから追いついてくるがいい」


 神の両目が静かに閉じる。


 ――そして、神の作った偽りの世界が崩壊する。

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