表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
65/70

第10章 第2話   絶望

「――愚かな。創造神に楯突こうなど。貴様らは舞台に上がる資格すらない」


 空洞になった石の山を冷たい風が吹き抜けていく。

 先程まで残っていた壁もこの一撃で破壊尽くされ、世界樹の根と、頑丈な柱の数本だけが白い荒野に残っている。


「――逃げていたか」

ロキの視線が空に浮く白い翼の影を捉える。


「たかが羽虫が――」

 掌を下に、伸ばした右手が振り下ろされ、鈍い音とともに白い塊が、一気に大地に墜落する。


「――ッ!」

 腕の中にアーサーを抱え、肩から叩きつけた全身には激しい痛みが宿っている。

 さらにその背の片方の翼は、いびつな形で、背後に向かってねじ曲がっていた。


「――ふざけるな」

 言葉を吐くだけで、肩から胸まで痛みが貫く。

 それでもジークは顔を上げ、ロキを正面からまっすぐ見据える。


「貴様のやったことは、創造などではない。世界樹の作ったこの世界に、魂の眠るこの世界に、天上を夢見た自分の幻想を描いただけだ」

「――ほう」

ロキは両目を大きくする。


「世界樹からその記憶を得たか。哀れな駒よ。

 貴様も気づけ。貴様らも所詮世界樹に、そして天上の神に利用されているだけだということに」

「――哀れなのはお前だ。世界樹を枯らそうとも、世界を崩壊させようとも、天上の神はお前を相手にしたりはしない。

 生命を弄び続けたお前は、もはや神でもなんでもない」

「――小賢しい!」


 ジークが悲鳴とともに肩を抑える。

「こちらの翼も折る。根元からだ!」


 触れられていない。

 しかし翼を掴み引きちぎるような力に、それでも全身をバネと使い、ジークは跳ぶ。


 剣を抜き、振り下ろされる攻撃に、ロキは動じず、印のない術を彼へと放つ。


 一撃、二撃。

 ジークの剣が術を切り裂き、吸収する。

 そしてロキへと肉薄し、しかし神はただ拳で、先に打ち付けたジークの肩を、力任せに殴りつけた。


 悲鳴にもならない、潰れるような声とともにジークは飛ばされ、彼の名を呼ぶ声が残る。

「ジーク!」

 アーサーの振った視線の先、術を構えるロキが映り、彼はとっさに印を描くとともに友へと駆け寄る。


 韻は間に合わない。

 それでもわずかながら勢いを殺せた術が彼らを飲み込み、ばらばらに飛ばされた二人が、それぞれ大地に打ち付けられる。


「――脆い」

 ロキの声が冷たく響く。


「脆い。脆い、脆い」

 アーサーが屈辱を込めた目でロキを見上げる。


「これなら、あの『紅い死神』一人のほうがよほど恐ろしかったぞ」

「『死神』――シアルヴィ――? 嘘だろ、あいつ、こんな奴と?」

 再び神がにたりと笑い、振った右手に合わせるように、衝撃波が再び二人を飛ばす。


 魔力の波が瓦礫を巻き込み、崩落した壁と重なったアーサーが、どうにかジークを視界に捉える。

「ジーク――」

 うつ伏せに倒れたその背中では、力なく、羽毛が風に揺らされている。

「待ってろ、今、回復魔法を――」


 しかし、友へと伸ばした彼の右手は突如として神の足へと踏みつけられる。


「ああッ!」

 指骨に感じる軋みと痛みに、アーサーの口から悲鳴が漏れる。

 ロキが嘲りに似た笑みを浮かべ、しかし直後、感じた気配に振り返った、神の背後に剣が迫る。


「邪魔だ!」

 神の右手で剣を逸らされ、それでも指を振ったジークの魔法が、神の足元に蔦を生み出す。


「無駄だ!」

 魔法は薄氷のように容易に割れ、だが振り下ろされた神の足は、直後立ち上がった厚い氷に覆われていく。

 アーサーの右手には氷の印。


 ロキの肩が一瞬跳ね、しかし足元のアーサーを掴み上げると、神はそのまま、体勢の崩れたジークへ向かって投げつけていた。


 互いにぶつかり、弾かれ、数度転がったジークが先に顔を上げる。

「――アーサー!」


 友に迫る巨大火球。

 折れた翼。


 間に合わない、そんな可能性は最初からなかった。


「――ジーク!」


 アーサーの叫びが悲痛に上がる。

 火球は、アーサーの目の前で友を飲み込み、彼を柱へ叩きつけた。

 そのまま床へと落ちたジークの背からは翼が消え、そして全く動かなくなる。


「――ジーク、嘘だろ?」


 アーサーの声が虚しく響く。


「――さあ」

 背後からかかるのはロキの声だった。


「あとは、お前だけだ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ