第三話 探偵卒業?
「あの〜すみません。今お時間よろしいですか?」
女の子2人は振り返りもせずにそのまま歩いて行く。
「ちょっと、ほんと少しで良いので!」
しかし、声掛け虚しく2人は遠くまで行ってしまった。
少し離れたところから、
「さっきの何?キモかったね。」
「ナンパじゃ無い?ありえないわ。」
そう聞こえた。
「ナンパじゃねぇよ!勘違いすんじゃねえ!ブス!」
俺はそう吐き捨てて再び聞き込みを再開した。
しかし、今のも含めて朝から3時間ほど粘っても有力な情報は得られなかった。
俺はダメだと分かりつつも、ビルとビルの間の裏路地に入りタバコに火をつける。
吐き出した煙が例の爆破事件の現場へと流れて行く。
ここは名古屋市栄町。例の現場の正面に位置する裏路地だ。
そんな場所で俺は今日、マッシュの彼女のペットの《ティアラちゃん》
トイプードルの捜索に当たっていた。
「はぁ。めんどくせぇ。」
タバコの煙を目で追いながらため息混じりにつぶやいた。
ふと事件現場の方に目が止まる。
悪い癖で、目に入ったものや気になった事を頭が支配してしまう。
(犯人は何故このコンビニを狙ったのか。目当ては店員か?いや、そもそもまだ、犯人がいるとも限らないか…。)
爆破事件のあったコンビニはまだブルーシートがかかっていた。
「いや、俺の考える事じゃねえな。犬探さねぇと。」
そうして俺はタバコの煙を吸い込み、深呼吸の様に吐き出して、火種を消し裏路地から出た。
その瞬間に2人の警察官に止められた。
「お兄さん?この辺で声掛けしてる人。」
若い警官と、少し歳をいった警官に捕まった。
「え?僕?何がですか?」
俺は聞いた。
「通報があってね。今少し時間良い?」
「はぁ。まぁ別に良いですけど。」
「この辺で何してたの?」
若い警官のタメ口が気になったが、いちいち突っ込むのも面倒だったので、そこには触れないでいた。
「いや、聞き込みです。僕、探偵やってるので。」
そうして名刺を取り出そうとしたが、普段あまり渡す機会もないので、名刺が切れている事に今気づいた。
「あれ、名刺切れてるわ。」
「名刺の無い探偵って。はっ。」
若い警官は鼻で笑う。
「名刺切らすことぐらい珍しくも無いですけどね。知らないんですか?」
俺はイラッとして言い返した。
「まぁ良いや、持ち物検査するから荷物出して。」
(謝罪も出来ないのかコイツは…。)
そう思いながら、俺は持ち物を出した。
携帯、財布、タバコにライター。帽子にマッチ棒。
車の鍵、犬の写真。
「この犬の写真は?」
年配の警察官が聞いてきた。
「調査の依頼でこの犬探してるんですよ。」
「ふーん。そう言うことね。」
写真を俺に返してきた。
「ライターあるのにマッチ棒?」
若い警官は突っ込めるところを突っ込みたいのだろう。疑う様な目を向けなが聞いてきた。
「これはBAR行った時に貰ったやつです。」
「稼いでるんだね。1人でやってるの?」
「まぁはい。バイトが1人居ますけど。」
「そ。」
自分から聞いてきたくせに素っ気ない態度で返してくる若い警官に少し腹が立つ。
(何だコイツ。さっきから態度デケェな。)
「許認可もらった時の証明書番号は?」
「会社の?携帯になら入ってますけど、それ見せてくれるなら言えますよ。」
「覚えてないの?怪しいな。」
「当たり前だろ!何桁あると思ってんだ!」
「何だ?その態度?」
「あんただってさっきからいちゃもん付けやがって。暇ならさっさと爆弾魔捕まえろよ!この税金泥棒が!」
俺は切れてしまった。
「署で話聞いても良いんだぞ?」
「行く訳ねぇだろ。職務質問に答えてやってんだ。身分証も渡しただろ!行く理由がねぇんだよ!」
そうして少し言い合いになったが年配の警察官がボディチェックをして、職務質問は何とか終わった。
「今回は良いけど、次から名刺とちゃんと持って歩いてね。」
若い警官は最後まで上から目線で腹が立つ。
「どうでも良いけど俺の荷物さっさと返せよ。」
そうして私物を受け取り、ポケットやカバンにしまう。
「じゃあな、暇人共!」
俺はイライラしながら、その場を去る。
警察官2人の間を乱暴にすり抜けようとした時に躓いて、咄嗟に若い警官の足を思いっきり踏みつけてしまった。
「いいっ!」
若い警官は声を上げた。
「え?あ、いや、今のは違うよ?ほんとに。わざとじゃ無いから。」
俺は弁解したが、
2人の警察官は俺を睨みつけている。
「公務執行妨害だな。」
「はぁ?いや、わざとじゃねぇって!見ただろ?躓いたんだよ!」
「署で話聞こうか。」
年配の警察官はカチャリと俺の手首に手錠をかけた。
「は?…………はぁあ!?嘘ぉ!?」
俺は2人に腕を掴まれながらパトカーに乗せられる。
「ちょっと待てって!ほんとに違うんだから!不当だろ!こんなの!?」
しかし、言い訳虚しくパトカーは俺を乗せて警察署に向かうのだった。
時刻は13時22分。
後部座席で弁解するも、全く意味がなく、パトカーは止まる気配がない。
今度こそ本当に終わりかもしれない。
短い探偵人生に別れを覚悟した。
今年36歳の中年不良《元》探偵になる日は今日かも知れない。




