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チョコレート帝国後継者戦争-5人の後継者候補と6番目の席-  作者: 牛熊


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6.権力争い-4

「ミックスバーの横流しだと?そんな不祥事は会社始まって以来だ...」


ケリーと工場長からこの報告を受けたクリーヴは唖然とした。


こんな問題が大々的に報じられれば、社長であるハーヴィーの責任を問う者が現れるのは間違いない。


隣に座る工場部門や管理部門の重役も同じ顔をし、彼らに至っては怒声やうめき声すら出てこなかった。



「ええ、私も最初聞いた時は耳を疑ったわ。でも、工員から話を聞いた限りではほぼ間違いないの」


「...そうか。なら、会社として対応しなければ。社長や他の重役も集めて―――」


「あの、その、申し訳ないんだけど...」


クリーヴの言葉を遮るように、ケリーはおずおずと片手を上げる。


その様子を見て、クリーヴと重役たちは背筋に走る嫌な予感に顔を歪めた。



「現場では既に調査が始まってる。というか、今晩犯行の現場を押さえようとする話が上がっていて―――」


ケリーの言葉に重役2人は慌て、悲鳴のような声を上げた。



「待て!既に現場が動いているのか!?上の指示も無しに!」


「独断専行にしても許されないレベルだぞ!」


「報告が遅れたことは謝ります!でも、気持ちは分かるけど時間がないの。その話は後にさせて!」


ケリーは2人の勢いに負けまいと大声を出したが、重役たちは止まらず喋り続ける。


クリーヴが重役の前に片手を出して制したことで、ようやく2人は大人しくなった。


クリーヴはそのままケリーをジッと見つめ、疑問を口にした。



「君が主導したのか?」


その疑いを含んだ鋭い眼光を見て、工場長が慌てて口を挟んだ。


「それは誤解です!ケリーさんは無関係です!現場が勝手にやったことなんです」


工場長は必死に説明するが、クリーヴの表情は変わらない。


その程度の弁明で納得する気配は無かった。



「証拠は?」


「工員に事情聴取して貰えれば分かります!彼女が話を知ったのは今日が初めてです」


「......どちらにせよ、この場では判断がつかんな。責任の所在は後日判断する。改めて状況を説明してくれ」


クリーヴはため息をついてそう宣言した。


彼の言葉に重役たちも不承不承ながら従う。



「じゃあ、事の経緯と差し迫った状況についてだけど...」


ケリーと工場長が状況を説明するにつれ、クリーヴたちの顔は次第にうつむいていった。


意図的な不良品の製造。


商品の横領。


勝手な調査に、おとり捜査の持ちかけ。


しかも、報告は後回し。



(どこが問題という話ではない。どこを見ても問題しかない...。この調子では他の工場も洗い直す必要がある)


クリーヴはキリキリと痛む胃を押さえながら思案する。


後継者レースが始まってから、HSサウス社の規模は日増しに膨れ上がっている。


今や新参者はかなりの割合に達し、これからも増え続けるだろう。


彼の知るHSサウス社の良さは失われつつあった。



(ケリーが現場を庇っていることくらい分かる。彼女が主導していないというのは事実だろう。だが、現場の工員は心のどこかで、彼女に頼れると甘えていたのではないか?)


人間は庇護者がいれば増長する。


工員は「彼女のために」と言いながら、その実は自分勝手にやった可能性がある。


似たような経験で痛い目を見たクリーヴだけではなく、重役たちもそう考えていた。



(彼女は工員たちの上司ではないし、監督責任はない。だが、彼女が派閥の中心になっているのは否定できない)


これは社内ルールの問題ではない。


社内政治の問題だった。



「状況は理解した。こうなってしまっては、おとり捜査なり何なりやるしかないだろう。だが、1つ確認したい」


「なに?」


クリーヴはケリーと目を合わせ、少し迷うように一拍置いた。


「なぜ社長を呼ばなかった」


今度はケリーがしばし無言になった。



「.....心労を増やしたくなかったのよ。疲れが顔に出ているし。それに、まずは実務担当のあなたたちに話をしておいた方がいいと思って」


ケリーの判断は父の健康を思いやってのことだった。


今でも定期的に医者を訪ねており、父の病状は依然として変わっていない。


しかし、何も知らないクリーヴたちからすると、ケリーの行動は社長を排除しているようにも見えた。



(こんな重大な話で社長を後回し?そんな馬鹿な話があるか)


(だが、前回とは違う。今回はグレーゾーンなのは事実だが、彼女の行動にルール上の問題はない)


(問題なのは、これが意図的かどうかだ。現場を裏から扇動したとすれば、見過ごすわけにはいかない)


クリーヴや重役たちは、ケリーの言葉が真実かどうかを必死に探ろうとする。


しかし、答えは見つからないまま、時間切れを迎えた。



「......状況は理解した。横流しの摘発まで猶予は無い。社長や各取締役への報告はこちらで行う。君たちは現場の対応を」


クリーヴはそう締めくくる。


同時に、ケリーの扱いについても腹を決めた。



(事ここに至っては、これ以上彼女を庇うことはできんな...)


クリーヴの気配を察したのか、重役たちの目も据わり始める。


そして、それはケリーや工場長にも違和感として伝搬した。



(話が良くない方向に転がり始めてる...)


ケリーは言葉にできない嫌な感覚に襲われながらも、対処する手段が思い浮かばない。


その場にいる誰もが複雑な感情を抱いたまま、それぞれの仕事へと向かった。



結局、おとり捜査により横流しの首謀者や関係する小売店は摘発できた。


また、ケリーらは今回の反省を活かし、生産と配送の一元管理を行い、問題発覚時に追跡調査できるようにした。


結果だけを見れば、HSサウス社は素早い初動により、不正撲滅に向けた一手を打ったことになる。


しかし、ケリーは現場から高い評価を受けると共に、重役たちからの強い不審を抱かれることとなった。


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