3章 2話 汚部屋の大掃除と宝探し
オークションのセリは、ニーナが勝ち、25万5000ゼニーで買い取った。
予想価格より2万5000ゼニー安く入手できたのは、やはり、この物件の土地よりも解体費用や新たに建てる建物の費用が高くつくことで敬遠されたのだろう。
「ふふん、いい買い物ができたわ」
ニーナは上機嫌だが、最悪の場合の解体や整地は俺の土魔法でどうにでもなる。俺たちの強みを活かせば、この汚屋敷は化ける。おまけに目利きの鋭い彼女がお宝を見つけてくれれば、パーティの運営予算は一気に潤うはずだ。
***
早速権利書を手に入れた俺たちは、買い取った錬金術師の汚屋敷に辿り着く。
玄関を開けた瞬間、鼻を突くのは酸っぱい薬品臭と腐敗臭の混ざった悪臭だ。
俺とゴンザレスは耐爆用の防護作業着を着た。ニーナはドラゴン族なので、勇者の一撃や同族のドラゴンブレスでも直撃しない限り傷一つつかないのでいつものチャイナドレスを着て入っていく。
「ニーナ、せめてそのチャイナドレス、もう少し汚れてもいいやつにしろよ」
「平気よ。これ、お古だし。それより早くお宝を掘り出すわよ」
念のためトラップがないか建物の壁にアクセスして調べるが、設置されたトラップは見つからない。
後は、爆発したり溶けたりする液体、猛毒の薬品などに気をつけてゴミを片付けながらのお宝探しだ。
俺やゴンザレスがガラクタの山に悪戦苦闘する一方で、ニーナは鼻歌交じりに次々とお値打ち品を拾い上げていく。
世界樹の枝で作られた杖
乾燥した世界樹の葉
マンドラゴラの根の粉末
人魚の涙の入ったフラスコ
見ただけでどうやってわかるんだよ。
「おお、これは逸品ものだ。ドワーフの特級金属加工士の錬金鍋専用のかき混ぜ杖……ヒヒロガネ製だ」
ゴンザレスがゴミの塊をひっくり返したところからただの金属の棒にしか見えないものを取り出した。
高温や薬品にも溶けにくいヒヒロガネは高級な錬金道具に使われる。ヒヒロガネだけでも2万ゼニーはありそうだ。多分新品で買えば10万ゼニーはしただろう。
ふと、壁の隙間にエルフの金髪の毛の束が落ちているのが見えた。なんでエルフとわかるかって、ボロボロの鑑定札に『エルフ』と書いていたからだ。エルフの髪は魔法触媒として高値で取引される代物だが……。
「待てよ、これ……俺が昔、金に困って売った髪じゃねえか?」
よもやの再会だが、あまり感動はない。だけど、もう一回売れば2度美味しい、そう思って手を伸ばした。その瞬間、壁の隙間から透明な触手が伸び、俺の上半身と腰まわりを縛り上げた。
間髪入れず、全身を粘り気のある膜が包み込む。
スライムだ。
このまま溶解液の中に引きずり込まれれば、骨まで溶かされる。
俺の異変にニーナが気付き、雄叫びをあげる。
雄叫びによる衝撃波でスライムが俺からはぎ取られ、壁にべちゃりと張り付く。そこをゴンザレスのハンマーが的確に核を砕いた。
「げっほげっほ、サンキュー! 助かったよ」
二人はこちらを見て、ブフッと息を吐いて笑う。
「リファ、あなたの姿、痴女よ」
「さすがにひでぇ」
自分の体に着込んだ防護作業着が溶けかかり、胸の部分や臀部の部分に至ってはほとんど溶けて無くなっていた。
「あの変態スライムめ!」
俺はバールを取り出して構えるが、
「顔真っ赤に怒ったって無駄よ。ゴンザレスがもう潰して殺したんだから」
知った顔のメンバーだから恥ずかしいわけでは無いが、屈辱だった。
予備がないし、家に面倒なので今日はこのままだ、ちくしょー!
***
ゴミの山を片付け、お値打ちもの探しを続けていく。
錬金工房だったと思われる部屋の端のゴミ溜めをゴンザレスが片付けると、
「……おい、最悪じゃ。2人とも来てくれ」
その声のトーンが、宝を見つけた時とは明らかに違う。低く、嫌な汗をかいているような響きだ。俺とニーナは顔を見合わせ、足元の割れたフラスコを避けながらゴンザレスに近づく。
そこには、煤けながらも精緻な彫刻が施されたレンガ造りの暖炉のようなものがあった。
「高そうな暖炉だな。これに何か問題でもあんのか?」
「ああ、正確には暖炉じゃねぇんだ。錬金鍋を焚べるコンロ。その中でも購入費用が高い錬金鍋用精霊コンロだ」
ゴンザレスが忌々しそうに吐き捨て、コンロの側面を指さした。そこには、建物の外壁へと向かって真横に伸びる排気口があった。
「火の精霊が宿っているやつで……横から排気か?」
「そうだ。で、こいつは横から排気される形状になっているが、これは10年前くらいに禁止となっていて、直上に煙突を付けるように法改正されているんじゃ」
「爆発した時の力を上に逃して、横の家に被害が被らないように、が理由だったかな」
「そうだ。新米錬金術師の風物詩による被害削減のためだ」
ゴンザレスが腕を組んでため息を吐く。
静まり返った室内で、精霊コンロだけが不気味に熱を帯びている気がする。
「とりあえず、撤去すればいいんだろ?」
「精霊コンロは力ずくで撤去すると精霊が暴走して、半径100メートルをペンペン草も生えないようなクレーターを使った上に、近くにいる精霊が同調して狂い周囲を燃やして回る。
おまえさんの防壁がどんなに優秀でも、こんな一等地のど真ん中で試したくねえぞ。
精霊を説得して、出て行かせないといけないけれど、これも失敗すると爆発する。
安全なのは元々の所有者やこのコンロの制作者に撤去させることなんだが……」
「元の所有者は夜逃げ、コンロの製作者もわかるものはない」
ニーナの言葉に、ゴンザレスが渋い顔で頷く。
「そうじゃ。こんなところで問題物件をつかまされるとは……」
ニーナが呆れたようにため息をつき、俺たちは三者三様に沈黙した。
せっかく安く手に入れた物件が、一瞬でいつ爆発するか分からない事故物件に成り下がった空気が場を満たす。
でも、この高級な精霊コンロ、使い道がないとか、もったいないよな。
俺はふと思いつく。
「待てよ。この精霊コンロは錬金術を使うと違法なんだろ? 排気口を上に付け替えたら違法じゃないし、ただの暖炉として使うなら錬金術師以外でもいいんじゃね?」




