3章 1話 王都一等地内の夜逃げした錬金術師の屋敷
ゴンザレスが見つける物件はだいたい酷い。
いや、酷いで済めばまだいい。下手に触れば死ぬ類のものが混じっていることも珍しくない。
今回も、その例に漏れなかった。
「宝の山がある物件じゃ」
ゴンザレスはそう言って分厚い胸を張る。
王国裁判所差押えの王都一等地の土地付き家屋。
期待と不安を半々にして見学に来てみれば、案の定、めくるめく、禁断の、足の踏み場のないゴミ屋敷だった。
もちろん、見た目も酷いが臭いも酷い。
物が腐った臭い。
カビた臭いに、埃の臭い。
元の持ち主、多分男だろう、その特有のすえた臭い。
それに長期間放置された得体の知れない薬品が発酵したような、鼻の奥を拳で殴ってくるような異臭。
思わず顔をしかめた拍子に、床のゴミがぬめりと動いた気がして、反射的に足を引いた。
王都の中心街に近い王都一等地ならば土地代だけでも、高額になるが、このゴミの撤去はなかなかの苦労ものだ。しかも、前の持ち主が錬金術師というのが、ホント、もう最悪なのだ。
「破産した錬金術師が夜逃げした物件じゃ。気軽に触れば指が溶けたり爆発したりする危険物がゴロゴロしとる」
錬金鍋を混ぜて爆発炎上する新米美少女錬金術師というのはこの世界の風物詩となっているほど、錬金術師の家の中のには危険物がゴロゴロしている。
その中で錬金術師は普通に寝泊まりしているんだから、あいつら絶対に頭のネジを母親のお腹に忘れて生まれてきた系の人間に違いねぇ。
不動産を扱う側からすれば、あいつらみんなテロリスト予備軍だ。あんな奴らが存在していて、社会がそれを許していることの方が狂っている。
「でも、面白いものが出てくると思うと……ちょっと興味のひく物件ね。清掃するより解体した方が安いだろうから、オークションも比較的安そうね」
ニーナはそう言って、汚臭も気にせずキラキラした目でゴミの山を見つめている。その姿は、ブティックの前のガラスの前で新作のバッグを見つめる少女みたいに見える。
改めて言うが、目の前はゴミ屋敷だ。
腐乱臭や謎の薬品臭などの漂うゴミ屋敷だ。
中に人の死体が転がっていても不思議じゃない。
俺はニーナに釘を刺す。
「宝探しは俺たちの生業じゃねぇぞ。本業で儲かるか儲からないかで決めよう。潜在価値があるんだか無いんだかわからない物件を買うのは俺らの商売らしくねえ」
「そうじゃな。でもここは一等地。本当に危険な建物なら、お前さんが内側に壁を押し込めて解体してしまえば解決じゃろ?」
ゴンザレスの言葉に、俺は頭の中で計算を始めるが、俺より先にニーナが答える。
「ここの相場で考えると土地代だけでも62万ゼニー。通常の清掃なら3万ゼニーだと思うけど、錬金術師の道具がそのまま残っていてそのまま素人が単純に取り外すとなるとあまりにも危険。他の錬金術師だって、誰が何を混ぜたか分からない謎の残り汁で死にたくないから、他人の道具の取り外しなんてやりたがらない。だから、普通なら解体しか選択肢がないでしょ? ざっくり見積もって防爆防壁を建てての解体、最低でも43万ゼニーはかかる」
「つまり……」
「私ドラゴン族としては宝探しをしたいし、その後の解体は原価無料でできるリファがいるからボロ儲けだと思うのよ!」
「宝探しがメインだろ」
「まあ、気持ちはね。でも、オークションで27万ゼニーくらいで落とせる確率が高いのと、この立地でこの広さの二階建ての貴族屋敷で売り出せば、90万ゼニーで売れるわ」
「そんなに広くないから、木材も少なめになるじゃろうし、予想の改築費用は10万ゼニーくらいじゃろ」
「53万ゼニーの儲けなら、リスクを取る価値はあるな。ニーナ、オークションの競りを頼む。俺は今のうちに、防護服の予備を調達しておく」
「きゃー! キタこれー!」
ニーナが、尻尾を振り回さんばかりの勢いで喜んでいる。
だがこの時の俺たちはまだ知らなかった。
ゴミの中に隠されているのが、単なる危険物だけではなく、精霊保護団体が騒ぎはじめるクソ面倒な仕事が隠れていることを。
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