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3章 3話 丁寧な打ち合わせが肝心

 俺たちは一度作業を中断して、国の王国建築法を確認した。

 最近、法律で足をすくわれたからな。

 そこで、王国建築法に、精霊コンロの構造が指定されているのを確認した。


「精霊コンロは高火力であって、かつ、錬金術に使うものは周囲の被害を減少させるため、設置工房に耐爆壁、及び煙突は直上に設置しなければならない。これだ!」


「つまり、この法律って、高火力の精霊コンロでも錬金術に使わないなら、耐爆壁は不要で煙突を直上につけなくてもいい、ということよね?」


「そうじゃ。錬金術に使わなければいい。でも、安全のためにはこの法律に準じてリフォームした方がいい。問題は使用者の制限だ」


 王国建築法や精霊コンロに関する法律を調べても、使用者を錬金術師に限定する法律は見当たらない。

 つまり、


「精霊コンロ自体を誰が使っても違法じゃない。この見た目が暖炉のタイプを、そのまま暖炉として使っても問題ない」


ということだ。


「それなら、このままでもまた王国建築課とやり合うことはないということだな!」


「とりあえず、そもそも火の精霊がいるのか試してみよう」


***


「精霊の気配が気薄だ……。エルダートレントの端材は魔力が含まれているから栄養になるだろうからあげてみるか」


 暖炉の中にエルダートレントの端材を置く。

 すると真っ黒い煙が吹き出し、排気口からの換気が間に合わず、あたり一面が見えないほどの煙でいっぱいになる。


 俺は慌てて窓を開けようとするが、窓がそもそも開くのかわからない。

 仕方なく、壁の一部に穴を開ける。


「ゴホゴホ! ニーナ、すぐ横に穴を開けた! 風を送って換気してくれ!」


 ニーナのいるあたりから魔力が高まり放出される感覚があった。

 だんだんと黒い煙は薄くなっていく。


「酷い目に遭ったもんじゃ……ゴホゴホ。みんな大丈夫か?」


「大丈夫だけどよ、エルフの燻製になると思ったぜ」


「存在はしていたみたいだけど、よっぽど弱っていたみたいね」


 煙の晴れた部屋でニーナが顔を向けた先に、小さな種火が生まれていた。一度火が出来上がると、もう酷い煙はなかった。


***


 いずれにせよ、火の精霊は精霊コンロの中に存在している。

 無理に解体すれば、爆発したり大規模火災が発生する。最悪、火の精霊が怒り狂って街が火の海と化す。そんなものをよくゴミ屋敷にして放置できたよな、前の持ち主。


 暖炉として錬金術用暖炉型精霊コンロ付きの屋敷を売る方向で話にはなっているけれど、はっきり言って、俺からすればこんなコンロ、迷惑極まりない。建物を解体する際に困るからだ。

 だから、次にこの屋敷を持つ者が嫌がるのでは、と思った。

 それで、俺は精霊を追い出して精霊コンロを取り外した方が、最終的な販売価格は高くなるのでは、と二人に質問した。

 すると、二人は、


「解体することを前提に購入者がリフォーム物件を買うやつはいないじゃろ」


「中古物件として売る時には確かに困るかもしれない。でも、精霊コンロ自体が基本的には出回らないのよ。買うのは錬金術師で、精霊を契約して連れてくるのも錬金術師。手間とお金がかかるのよ。

 だから、付加価値としてみなされることが多いわ」


と言ってきた。まあ、死ぬまで住むと思って買うやつが解体のことなんて気にしないか。


 ニーナは精霊コンロに目を向ける。


「それに見て、この火の光」


 精霊コンロの火種はレインボー色に煌めく。


「この火の光が疲れた日の夜やちょっとした催し物の時に見れたら、貴族じゃなくても欲しがるわ」


 精霊コンロ特有の煌めく炎は、その奥に宝物が潜んでいるようなそんな気にさせる。その上、華美にはならず、優しいこの色合いは火の精霊でも上級の精霊だ。


「ウェスティア=フレイア。灯台と竈門を司る炎の乙女の精霊か。なんでこんなのがここにいるんだ……」


 金に物を言わせて訳もわからず契約したのだろう。出てくる物品も埃を被らせた高級品ばかり。

 宝の持ち腐れ野郎だ。

 そう思っていると、ニーナは俺にさも当然そうに俺に声をかけた。


「この精霊と対話はできるわよね?」


「俺、言葉遣い汚えからニーナやればいいんじゃね?」


「精霊との対話は訓練を受けた人か適性のある人しか無理なのよ。私は適性ないし、訓練もしたことないわ」


「ワシは木としか対話したことない」


 はあ? お前らそんなんで精霊コンロを取り扱おうとしてたのかよ。

 口にしようとして引っ込める。

 こんな言い方するとパーティの雰囲気が悪くなる。パワハラ訴訟待ったなし。

 引っ込めないのは勇者にだけだ。

 あいつはムカつくから言っていい。


「リファならできるでしょ?」


「エルフは精霊との適性が高いのは有名な話じゃろ」


 二人はそう言って俺に目を向ける。


 はあ!?

 俺ができること前提の話だったのかよ!?


 適材適所だからいいんだけどさ……ていうか、みんなそれくらい出来ると思っていたから、違和感しかない。

 俺が実は精霊との対話なんてできませんなんて言ったらどうなっていたんだ。


「あのさ、まず、パーティの中で意思疎通しよう。

 建物買う前に、これできるのか、あれできるのか、とか、今回なら精霊コンロある可能性があるけど精霊と対話できるかとかさ。

 パーティの誰かは、やっていること見たことないけれど、多分できるはず、というのは後で出来なかった時に業者に高い金を取られる」

 

 不意に後ろを歩いてくる音が聞こえて振り向く。

 修道服の上にフード付きの白いカーディガンを被った女性が立っていた。


「呼ばれたかな、と思って来ちゃった」


 押しかけてくる面倒な彼女みたいなこといいやがって……まあ、俺の前世に彼女なんていないけどな!


 こいつは福音のカーテンという特殊作業会社所属のシスタールナだ。主に貴族を専門の客に見据え、堕胎だとか避妊とかの処理がメインの業者だ。その他にも、呪いの解除や精霊の対話もできる。秘密厳守だし、技能は高いし質もいい。ただ、料金がクソ高い。


「お呼びじゃ無い。早く帰りな」


 白いフードを被っているけれど顔はしっかりと見えていた。

 それなのに、顔を認識できない。でも、この顔、どこかで見たような、そんな気にさせる顔だ。


「そんなこと言って、リファさん、そんな不埒な格好しているから私が必要なのかな、と思ってきたのに。すえた男性の臭いもしますから、ますます必要かなと」


 ルナは見た目に反してどぎつい性の話題を振ってくる。相手にすればするほど食いついてくるのであしらうようにしているのだけれど、やつの口車にどうしても乗ってしまう。

 マジで不思議な女だ。


「そりゃ、この臭いは元の持ち主が男だったんだろ。それに俺のこの格好は……多分、前の持ち主の実験用のスライムにやられただけだ」


「あら、スライム責め?」


 ルナは顔を赤らめて、両方の手を頬に当てて腰をくねらせた。


「違うわい!」


「スライム責めによる体の損傷の治療なら、一万ゼニーで……」


 俺の話を聞かずに話を進めるからイライラして声を荒げる。


「だから、違うって言ってんだろ! ていうか高えだろ!」


「高い理由は膜をしっかり復元する自信があってのこのおねだ……」


「何もされてないし、膜も無事だって言ってんだろ!」


「あら、その男まさりな感じなのに未経験なのかしら?」


 心底楽しそうにルナは声を上げる。

 もういい加減にしてくれよ。

 でも、腕はいいし、ここぞという時に世話になるのでむげにはできない。


「ホント、誰だよこんな面倒なやつ連れてきたの……」


「私はリファさんが必要な頃かな、と思って来ただけよ」


 嗅覚が鋭すぎるだろ。


「ところで、お前に精霊との対話を頼んだらいくらだ?」


「話は一応全部聞いていたから話すけれど、この精霊コンロから契約されたままのウェスティア=フレイア、火の上級精霊を移動させる説得なら15万ゼニーはふっかけるかな?」


「やっぱり、クソ高いじゃねえか!」


「失敗すると街が大火災になるのよ? 安いじゃない。リファさんがお客なら、10万ゼニーでいいよ。代わりにやりましょうか?」


「やめろ、俺ができるからやらなくていい。まあこんな風に、業者に頼むと高いんだよ。

 わかっていて、予算の範囲内でできるなら問題ないけれど、予算を大幅に上回るならタダ働きになっちまう。

 俺もそうだけど、パーティで大きな損失を作らないようお互いに気をつけよう」


「あー、そこまで考えてなかったわ。ごめんね、リファ」


「ワシもそこまで考えていなかったワイ……リファ、お前さん、仕事に責任が出てきたな」


「普通のことだろ」


「昔の、俺が壁を直せば予算なんて関係ない、全部ボロ儲けだ、みたいなこと言っていた頃が懐かしいわい」


「言うな! 俺だって反省しているんだよ!」


 シスタールナがニコニコとこちらを見ていた。

 お前は俺の母親か、なんかか!

 読んでいただきありがとう。

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