第55話 ゲーマーとして
ムルルの行動原理は、「推しが幸せなら、いくらでも他人を利用しても構わない」って心理だ。
他人が傷つこうが死のうが、推しのためなら「殉死」に値すると、ホンキで考えている。
コイツは最大の部下にして、最悪の仕掛け人だ。
今ここで倒さなければ、また多くの犠牲者が生まれる。
「ヒガンもどき。アンタもアタイのために死んで!」
デコった爪の攻撃が、本格化してきた。殺意の上に、ベリトへの信仰が上乗せされたかのような。
「人を殺るのが、そんなに楽しいか?」
「アタイたちにとって、人間なんて獲物でしかない。狩られるために存在する相手に、情も何もないさ」
虫を殺す感覚かよ。
二刀流にして、攻撃性を上げておいてよかった。
久しく忘れていたな。このギリギリの攻防は。
ヒガンのデータと戦ったときより、緊迫感がある。
露骨に殺意を向けられたのって、PVPがあるゲーム以来だな。あのときも、アンチを妨害するオレのプレイに不満を持ったプレイヤーが、攻撃してきたんだっけ。返り討ちにしたけど、処罰は運営に任せた。
今回は、オレが処理しなければならない。
「うお!?」
とはいえ、一人ではやっぱりキツいな。
「ゲッフ!?」
キックを受け損なって、側頭に蹴りを食らう。
「甘いんだよ!」
側転からのあびせ蹴りを、繰り出そうとした。
オレはスライディングで、軸となっている腕を蹴飛ばす。ムルルの腹に、ナイフを突き立てた。
だが、ナイフをさせた程度である。
「んなろう! 殺してやる!」
ムルルが、ナイフを握りつぶした。相手も、本気になったようだ。
こちらは武器を、一つ失った。ロングソードを逆手に持ち、もう一つの手で柄を握り込む。
『ミツルさん、応援を送りました。持ちこたえてください』
運営から、連絡が来た。冒険者ギルドにとっても、ムルルの存在は災害レベルの事項らしいな。
「結構だ! オレ一人でやる!」
ムルルの猛攻に耐えながら、オレはギルドに返答した。
『ミツル!? アンタだけの問題じゃないのよ!?』
「わかってるさ、マリエ!」
コイツのレベルは、ゲームで言うとラスボスの側近程度である。パーティを組んだほうが、効率はいいだろう。
しかし、それではベリトに手が届かない。
ここで一人で、コイツを倒せるレベルないと、ベリトには届かない気がするんだ。
なにもロニやオーゼ、キナ子を安心させたいってわけじゃない。
オレ一人が犠牲になればいいなんていう、崇高な動機でもなかった。
ただの、ゲーマーとしてのワガママである。
「どうやって倒すか」、今のオレは、それしか考えていない。
苦戦はしているが、それだけの相手でしかないってことだ。
志のない、他責思考の相手なんて、こんな評価である。




