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運び屋の手記より ~スワイライム~  作者: くろきほむら
第七章 カデラスとスワイライム
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第七章-7

 スワイライムの村人たちは、みな打ちひしがれていた。

 頼みの綱のレイクルは、為す術もなくカデラスに倒され、茫然自失でカデラスを呆けて見ているものもいる。

 その中で語り部の父だけが、カデラスを尊いものを見るように見つめていた。


「二人が戻ってきたぞ!」


 入り口で見張りに立っていたドルトイが、大声で村人たちにいう。

 わずかながら体力の残っている者たちは、二人を出迎えた。


「キジュさん!」


 ジャナリーがキジュの前に現れて、手を握る。


「おかえりなさい。心配してたんです」


 ジャナリーの目にも涙が浮かんでいる。


「お礼をいう前に、亡くなられたのではないかと……」


 まだ、テムルのことのお礼も言ってはいなかった。

 それほど切迫していたこともあったが、それ以上にちゃんとお礼を言える機会がくると考えて、村人の看護に走り回っていたからでもあった。

 しかし、今はもうそれはもうはかない夢だと思えたからこそ、彼女はキジュに礼を伝えようとしていた。


「お礼って何? その言葉はまだ早いよ」


 ジャナリーの口に、キジュは指を当てる。

 砂だらけの手甲に守られた指だったが、ジャナリーは嫌な気はしなかった。

 不思議とほっとさえしていた。


「センナさん! センナさん!! センナさんはどこ!?」


 キジュは、声高らかに語り部の名を呼んだ。


「はい、私はここです」


 少女が、息を大きくすって答えた。

 人垣を押し分けて、キジュの前に出る。


「語り部全員の力が必要なんだよ、皆に協力を頼んでもらえないかな」


「あ……はい。では、皆を……」


「やめよ、見苦しい」


 センナの後から、弟子に支えられて、カノラークが出てくる。


「お師様……」


 センナは、師の言葉で動きを止めた。


「見苦しいだって?!」


 変わりに、キジュが声を荒げる。


「そうだ、もう勝負はついた。レイクルが敗れたからには、むやみやたらと騒ぐこともあるまい」


「何でそんなことわかるのさ!」


 キジュは、怒りがこみ上げてきた。


「炎球大精カデラスは、運命の精霊により使わされたものだ。いかに人智をつくしても、防ぎきれるものではない。その証に、見よ! レイクルも敗れ去ったではないか」


「昔からよくいうだろ。諦めなければ運命は、切り拓かれるって。それにね、あれの正体も知らないのに、全てが分かっているようなこといわないで。見せてあげるよ、あれの正体を僕が! 皆、お願い」


 師の後ろから、事の成り行きを見守っている語り部たちを見つけて、キジュは頼む。


「ならん。何をするのか知らぬが、娘たちよ、耳をかたむけてはならんぞ」


 カノラークは、キジュの言葉を遮る。

 しかし、センナは師の言いつけにはっきりと異を唱えた。


「お師様。この村が今あるのはキジュ様のおかげです。キジュ様が様々な考えをめぐらせたからこそ、こうして、無事でいられたのです。ですから、私は、キジュ様が何かを考えたというなら、それに、従ってみようと思うのです」


 センナが、あまりにもしっかりした口調でいうので、カノラークは言葉を失った。

 姉妹たちも、驚きを隠せないでいる。

 もちろん、言われた当人が、一番驚いていることは、いうまでもない。

 カノラークは、しばらくして、真っ直ぐ見つめてくるセンナに言った。


「無駄なことではあろうが、そなたの好きにするがよい」


 センナは、微笑んで答えた。


「大丈夫です、お師様。私は、この後、西に旅立つのですから、カデラスが西に進むはずがないではありませんか」


 カノラークは、センナの成長を嬉しく感じながらも、死に別れるのだという悲しさも混ざり、複雑な感情になって何もいえなかった。



 語り部たちが、急いで外壁の外に集められた。

 皆、自分たちに何が出来るのか分からず、ただキジュの頼みに応じ、投石器のある東壁の外へと付いてきたただけであった。

 その彼女らの目の前にグローリは立った。


「……こいつは、俺にこういった。レイクル山のようにやまびこを返す霊術はあるかと。又、声を大きくする霊術はないかと。その二つを俺は使える。しかし、策がうまくいくかどうかは、お前たちの真似の出来栄えしだいだ」


「真似? 今、真似といいましたか?」


 センナが自分の耳を疑って、グローリに聞き返した。


「そうだ、シルローの鳴き真似をしてくれればいい」


「本当にそんなもので勝てるとでもいうのか? よりにもよって、何故シルローの鳴き真似など……」


 カノラークは、呆れる。

 何かあるのかと期待してついてきた村人たちも、動揺する。


「あれはね、霊獣でも精霊でも巨大な魔物でもないんだよ。火炎蝶の集まりなの。何百万匹というね」


 グローリの隣にで、キジュが大声で説明を加える。


「そんな戯言、誰が信じる。見よあの天をも焦がす巨大な様を」


 カノラークにいわれるまでもなく、誰一人として、キジュの説明に納得するものはいない。

 カデラスは、こうしている間にも着々と進行していた。

 スワイライムから見るカデラスは、雄大なレイクル山を完全にさえぎるほどの大きさだった。


「僕を信じて。なんで、こんな北の村に、南に生息する火炎蝶の天敵であるシルローの鳴き真似を伝えているのか、考えてみてよ。今日、この日のために昔の語り部たちカデラスに対抗する術を繋いできたんだって考えれば、合点いくだろ」


 それでも、村人は半信半疑だった。


「キジュ様、大丈夫です。皆が信じてくれなくても、私たちが真似れば問題はないのでしょう。時間がありません」


 センナが、一段と大きくなってカデラスを指差していった。


「そうだね。とりあえず、大音量の鳴き声を五枚取らせて。それから説明するよ」


 キジュは、気持ちを切り替えた。

 グローリの霊術によって、大音量となって十数回も繰り返されるシルローの鳴き真似が、五枚のカードの中に封印される。

 そして、二枚ずつカードを左右の手甲にしまうと、一つ一つ投石機に乗せた。

 それから、キジュは、説明のため手甲の切れ目からカードに触れながら、話した。


「中に入っているものを思い浮かべて合言葉をいうと、素早く中のものが出てきてくれるけど、間違ったものを思い浮かべると、すぐには出てきてくれない。だいたい十数えるくらいして中のものがでてくる」


 キジュの説明を聞きながら、語り部たちは数日前のセンナの姿を思い出して笑う。

 その笑いにつられ、少しだけ、村人たちの緊張もやわらぐ。

 センナは、姉たちを拗ねたように見つめるが、それ以上は抗議をしなかった。


「今回、この性質を利用する。わざと、間違って投げ飛ばすんだ。僕も間違って、さっきやってしまったから、この方法でもうまくいくのは間違いない」


 グローリにたどり着くために使った、最後の一枚の起こした状況を、キジュは説明をする。

 最後の一枚から放たれた、センナのシルローの鳴き真似は、カデラスの動きを止め、それを発したキジュを警戒し、遠巻きに彼女を囲んだことを。

 さらに、シルローが上空にもいるのではないかという警戒から、飛行高度を下げ、地面よりに飛び続けたことを。


「でもカード単体だと、遠くに飛ばすのは無理がある。それで手甲に入れて飛ばす。瓦礫だとあの状態のカデラスの前では内部に到達する前に燃え尽きてしまうけど、この手甲は燃えない。もちろん、カードも燃えないのも確認している」


 キジュは、一息ついて周りを見回す。

 キジュの話が分かっているものは少ないが、皆やる気は十分だった。


「そうしたら、鳴き声でカデラスは火炎蝶の固体となり、一匹一匹ばらけて散り始める。それも、さっきはじけそうになるとこを確認したから大丈夫。ばらけたら、今までのように全てを溶かす高熱は維持できない。そこで、投石者で瓦礫を投げ続けて欲しい。そうすれば、カデラスを一気に倒せる」


 そこで人々がどよめいた。


「それじゃ、皆は瓦礫の用意を頼むよ」


 まだ疑うものもあったが、ほとんどのものは最後の希望にすがるように、投石器の周りに集まりだす。

 その人たちから遠ざかるように、キジュはグローリを引っ張り出し、壊れた胸壁の影まで来ると、今の今まで気になっていたことを問いただした。


「グローリ、デーリッガは戻ってきてないの? きっとここに帰っていると思ったんだけど」


 皆には説明していなかったが、最後の作戦の要であるデーリッガを、キジュは探していた。

 必ずいると思っていたデーリッガが居ないと分かると、作戦のこと以上に、デーリッガの安否が気になりだしてもいた。


「……あれの力を当てにしていたのか?」


「いや、それもあるけど、君の相棒だよ、気にならないの?」


「……今は、すべきことがある。それより、残りの一枚は何に使うのだ、あれと関係することなのか」


 グローリは、キジュの手元にある一枚をさしていた。

 何故グローリが、どうしてそこまで割り切れるのか腑に落ちないながらも、キジュは説明する。


「これは……、僕がデーリッガに頼んでカデラスの上空までつれていってもらい、そこから落として使うつもりだったんだけどね」


「……俺がいけば済む話だろ」


「それはだめだよ。君は、この村でこの後も語り部たちに鳴き真似をしてもらって、その声を大きくしてもらいたいんだ」


「……では、お前の策は、デーリッガがいなくなったために、中途半端なものになるということか?」


「そう……とも限らないさ……きっと、あの四枚だけで十分だよ」


 あの巨大なカデラスに、十分という備えがあるとは、キジュは思っていない。

 しかし、デーリガがいないのならば、仕方がないとキジュは割り切るしかなかった。


「……ならば、お前に空を飛ぶ力を与えてやる。あれが策の失敗の原因になったと聞いたら、うかばれんからな……」


「うかばれないって……」


 キジュは、やはりと思ってうつむく。

 そんな感傷に目もくれずに、グローリは瞳を閉じた。


「……さあ、いくがいい」


 再びグローリが瞳を開けると、キジュの背からキジュよりも大きい竜の翼がはえていた。


「……翼など見えなくとも飛べるが、初心者用につけといてやった。これで飛ぶ姿が描きやすいだろう」


 それに応じるようにキジュは翼を羽ばたかせ、空へとのぼっていく。

 キジュは、もう何もいわなかった。

 上空で二、三回、慣れるなれるために旋回し、それから、キジュはカデラスの頂上へと飛んでいった。


(一緒にいこう! デーリッガ)

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