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運び屋の手記より ~スワイライム~  作者: くろきほむら
第七章 カデラスとスワイライム
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第七章-3

 山の西側をゆったり下っていた溶岩の流れが、急に速くなった。

 凍っていた川の氷を溶かしその流れに乗ったためだ。

 その上空を漂っていたカデラスも同じように、辺りを灼熱に染めながら下ってきている。

 キジュが倒壊した家々の瓦礫を片付けていくため、その後に倒れている重傷人を治すため、自然、グローリはキジュの後を追うように村の中を動いていた。

 次はどこだと、上空のデーリッガを見るため顔を上げたグローリが、その異変に気付いた。


(……これ以上、治療をしていたら、取り返しのつかない事態になりかねんな……)


 デーリッガのいる場所にたどり着いた、グローリは決心した。


「グローリ、追いついたね」


 キジュが、ちょうど、家具を取り除き、倒れている老母を抱えて道に出てきたところだった。


「……ああ。だが、これで最後だ。俺は、もういかなければならん」


「そうか。とりあえず、こちらのお婆さんをお願いするよ」


 キジュの言葉に答えずに、傷だらけの老母の背中に、グローリが手をかざす。

 木や石の破片が突き刺さった背中だったが、それらが、皮膚からはじき出され、裂傷がみるみるうちに完治していく。

 老母は痛みが薄らぎ、安心し意識を失った。

 そんな老母を、地面に寝かせ家族に任せると、キジュはグローリにまた話しかけた。


「でも、ちょうどよかったよ。重傷者はもういないと思うから」


 キジュは、デーリッガと村中を周り、大きく崩れた家や防壁は全て取り除いたので、これで、目下のところは安心だった。


「……そうか」


「……で」


 キジュは、グローリを真っ直ぐ見た。

 センナには、ああはいったが、やはり、説得をしないわけには、納得が行かなかったからだ。キジュ自身も。


「君が力を貸してくれたら、今なら、皆無事に逃げ出すことが出来る。それでも、君は、カデラスを倒しに行くのかい」


「……逃げる必要ない。なぜなら、あの霊獣は俺が倒すからだ」


 先日、キジュはグローリの持論を聞いていたので、驚きはしなかった。

 物理的に倒せない点を見れば精霊であり、意思を持って動く点は生物である。

 その両方の性質を持つのは霊獣しかない。

 さらに、霊獣師の奥義として、時限的に霊獣を作成することが出来る術があり、グローリは過去にカデラスを作った霊獣師が、今に、また霊獣を発生させたとふんでいた。


「……なぜ、五百年後の今なのかは知らんがな」


 グローリは忌々しげに、迫りくるカデラスを睨みつける。


「確実に勝てるつもりならば、とめないけど、そうでないなら、君はこの村の脱出を手伝うべきだと思う」


「……誰にものをいっている。俺たちは、この日のために生きながらえてきたのだぞ」


 グローリの言葉に反応して、デーリッガが上空から降下してきて、そのまま、グローリの肩にとまった。


「……本当にレイクルを呼び出して勝てると」


 キジュは、その問いかけの答えに、もちろんだという言葉が返ってくると思っていた。

 しかし、グローリは意外な返事をした。


「……もちろんだ。だが、もし、俺がしくじったならば、村人を連れて逃げられるのはお前だけだ。頼んだぞ」


 浮き上がり始めたデーリッガとグローリに、キジュは慌てて聞き直す。


「何だって!?」


「……お前以外に適任はいない。お前は運び屋なのだろう?」


 いい返したいことは、いくらでもあった。

 今から逃げ出す方法を考えようとしているのに無理だとか、運び屋は人命だけは運ばないとか。

 しかし、グローリが人に頼むということがどれだけあろうか。

 数日の短い付き合いだが、キジュはそんなことは二度とないと思ったのだ。

 だから、答える。


「料金は高くなるよ!」


「……これで十分だろう」


 グローリは、一枚のカードを投げつけた。


「……これは、僕のじゃないか!」


「……広場には俺が武闘会でとってきた食料がある。それを持って行けばいい」


 デーリッガはレイクル山へと向けて飛翔を始めた。


(全く、出来ないことを知っている癖に……)


 キジュは、苦笑しながらそれを見送った。



「キジュ殿! ここにいたのか、探したぞ」


 グローリを見送ったその場で考えていたキジュをみつけ、レドニアは呼びかけてきた。


「投石車があるから、そなたを連れてきてくれとセンナにいわれて探していたのだ。あれに利く以前に、運べるかどうかも疑問なのだがな」


「投石車だって? そんなものがあるの?」


「三台ほどな。話は後だ、無駄だとは思うが付いてきてくれ」


「何で、もっと前から教えないのさ。それがあったら、野盗ともっと楽に戦えたのに!」


 案内を始めるレドニアに、キジュは大声で抗議する。


「だから、外に運べるとは思えんのだ。これはわしだけではなく、カノラークもそう思っている。それがセンナは、お主を連れてくれば何とかなるからといって聞かんのでな。だが、どうしてお主なら何とかなるかと聞いても理由はいわぬのだ」


 レドニアが納得いかなさそうにているが、センナの頼みを聞いてこうやって伝言係をしているのを見ると、この人も生き残るのに必死なのだなと、キジュは思い直し、強い語気をあらためた。

 それにしても、センナが直接こないのだろうと不思議に思っていたキジュだが、語り部の家の中に入ってその理由が分かった。

 家は頑丈な造りで壊れてはいなかったが、家具が倒れ部屋の中は荒れ放題だった。

 その中で、両腕を骨折したカノラークに包帯を巻きながら語り部たちは、師を励ましていた。

 カノラークの脇で、悲しそうに師を見守っていたセンナだが、キジュが部屋に入ってくると立ち上がり、キジュを部屋の奥へ連れて行った。


「この下に投石器が置かれているのだ」


 センナより先にレドニアが、下へ降りる床にある小さな隠し扉を開けながらいう。


「どうにもならんと思うから、わしは先に広場に戻るぞ」


 時間の無駄といわんばかりに、レドニアは扉を開け終わると立ち上がる。


「確かに、カデラスに利くかどうかは謎だけど、投石車があるなら運び出すよ。僕は運び屋だからね」


「期待せずに待っておるよ。では」


 レドニアは、外へ向けて歩き出した。


「レドニアさん、案内ありがとう。お礼ついでに、一つお願いがあるんだけど、避難をしたい人がいるなら、広場に集めといてくれないかな」


「お主に言われなくとも、村人を導くのはわしらの仕事だ」


 むっとした表情でそういいながらも、避難の準備をしようとしているレドニアにキジュは、再度、礼をして階段を下っていった。


「私も先ほど、お師様に聞いてここに投石車があることを知ったのですが……」


 階段を下りながらセンナは、キジュに説明をする。


「カデラスが現れた五百数十年前に、これらの投石車を使ってカデラスと戦ったということです。そして、この投石車自体も語り部たちは伝えていくことを誓い、これらを地下にしまい、その上に自分たちの家を建てたということでした」


 階段を降りきると、キジュには見えた。

 センナの持つろうそくの明かりに映し出されて、三台の投石車が保存されているのを。


「……こんなものがあるなら、本当に、もっと早く教えて欲しかったよ」


 キジュは、心底がっかりした。

 野盗との戦いにはこれほど有益になるものはなかっただろう。

 だが、相手がカデラスなら時すでに遅しだ。

 宝の持ち腐れとはこのことをいうのだなと、キジュはため息をつく。


「仕方たありませんよ。キジュ様のカードのことはお師様にも教えてませんでしたし、逆にお師様も、自分が死ぬと思う直前まで、このことを、私たちに伝える気はなかったみたいですので」


「なるほど……って、カノラークさん大丈夫なの!?」


「はい、それは大丈夫です。怪我はひどいですが、何とか歩けます。グローリ様に見てもらうのは、もっと重症人を先にとおっしゃっておられましたので。ただ、怪我を負って、いつ、急に亡くなってもおかしくないと思い直して、先ほど私たちに、投石車のことを教えてくれたのです」


 なるほどねと、再度頷きながら、キジュはカードを取り出していた。

 なんの役に立つかはわからないし、立たない可能性のほうが高いだろうが、ここで無駄に眠らせているよりはいいだろうと、キジュは、投石車を外に運ぶことにしたのだった。

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