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運び屋の手記より ~スワイライム~  作者: くろきほむら
第七章 カデラスとスワイライム
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第七章-2

 瓦礫の中でかたまり、魔物は動く気配がなかった。

 まるで、そこがついの棲家であるかのように、寝ているようにさえ感じる。


(冗談じゃないぞ……何とか動いてもらわないと)


 センナが広場に向かってから、状況は全く進展していなかった。

 ブラドベリューは瓦礫の中に埋もれていたし、仮に瓦礫がなかったとしても、鋼のような硬い針に覆われたブラドベリューの背中を、正面から叩き壊すことは、キジュの腕をもってしても不可能だった。

 奥義交差竜破ならば、その体を斬ることもできるだろうが、名の交差が示す通り、相手が襲ってくる力を交わしながら攻撃を仕掛けることこそが、この奥義の要であり、全く動かないブラドベリューには奥義を打ち込みようがなかった。

 何か打開策をとキジュは、ブラドベリューの観察を続けていた。

 そして、一つのことに気付いた。


(……おそらく、ブラドベリューの下敷きになっている門が、原因かな。あれに、ブラドベリューを呼び寄せた緑色の液体が染み付いているんだとしたら、全て納得がいく)


 ブラドベリューの腹の下からわずかに見えている門の上端が、キジュの考えを肯定しているかのようだった。

 ただし、それが分かったからといって、事態が好転するかといえばそうではない。

 ブラドベリューを動かすには、下敷きになっている門を動かしてやればいい。

 しかし、その門を動かすには、ブラドベリューが邪魔で、ブラドベリューを動かすしかないのである。

 ブラドベリューを動かすには、下敷きになっている門を動かしてやればいい。

 結局、どうどう巡りをして、打開策にはならない。


(門をどければ何とかなる……門をどける、壊す……)


 キジュの頭の中で、言葉遊びのように、述語がくるくるとかわっていく。

 物を考えるときに、キジュは頭の中でこれを高速で繰り返すのが癖だった。


(門を……回収する!)


 述語の回転が止まった。

 キジュの中で一つの奇策が思い浮かぶ。


「そうだよ! 門を回収する」


 喜び勇みながら、キジュは、リストバンドからカードを一枚取り出した。

 先ほど、ブラドベリューに風の刃を放った一枚を掲げる。

 村を見張っていたときに見ていた南門の様子を思い出し、叫ぶ。


「イン!」


 ブラドベリューの腹の下から見えていたそれは、カードの光とともに、消えた。

 それが、端だけでないことは、ブラドベリューの様子を見れば一目瞭然だった。

 うっすらと閉じていた目を開き、瞳を緑色にして、今までが嘘だったかのように、一気に体を起こす。

 その動作で、ブラドベリューの上にあった瓦礫が、雪崩のように地面に落ちていく。

 しかし、思惑通りになったのはここまでで、ブラドベリューはなくなった門を探すように、門のあった内側から胸壁に体当たりを始めた。

 数度の体当たりで、胸壁は崩落する。


(……まずい、目標をこっちに向けさせないと、余計な被害が出ちゃう)


「ハツ!」


 先ほどしまい込んだ門を、自分の後ろ側に放出する。

 ブラドベリューはそれに気付き、キジュに向かって走り出した。


「……アーレス流奥義、交差竜破!」



 デーリッガがキジュの元に飛んできたときには、すでに全てが終わった後だった。

 真っ二つになった魔物を背に、キジュが広場へと駆け出そうとしていた。

 デーリッガは、そのキジュの目の前に降り、空中で静止する。


「デーリッガ、レイクルから戻ってきたんだね」


 しばらく見かけなかった、デーリッガが姿を現したことに、キジュは、少し、安堵を覚え足を止める。


「でも、野盗どころじゃなくなったよ。早く、この村から逃げ出さないと。カデラスにのみ込まれてしまう、とりあえず、中央広場に行こう」


 デーリッガに話したところで、意思の疎通が出来るわけでもないが、同じく村を守ってきたものとして、それを伝えなければとキジュは思ったのだ。

 そこへもう一人、中央広場からかけてきた少女が、通りの向こうから声をかけてきた。


「キジュ様! グローリ様が……グローリ様が戻ってこられました」


 大声で叫びながらこちらに走ってくるセンナに、キジュも急いで走り寄る。

 どうやってココヤスから、こんな短時間で戻ってきたんだなどとは、今更、思わなかった。

 グローリならそれ位するかもしれないと、キジュは何でもないことのように、あっさりと受け入れる。


「グローリ様が、治療や瓦礫の除去をしてくれるそうです。力を温存するために、大きい瓦礫や重症の人だけだそうですが……」


 キジュに支えられながら、ここまで一気に言うと、センナはその場に座り込んだ。

 広場からここまで休みなしで走ってきたため、心臓が壊れそうだったのだ。


「そう……」


 今は逃げるほうがいいとは思っても、カデラスと戦うためにこの村にきた、グローリの気持ちを変えることは出来ないだろうと、キジュは思った。


「カデラスと戦うのは無謀だと、私は思うんです。皆で逃げたほうが。……キジュ様なら説得できるかもと思って……」


 センナも同じことを考え、グローリをキジュに説得をしてもらうためにここまできたことを知る。

 しかし、キジュは、首を横に振った。


「僕が説得してもどうにもならないと思うよ。彼のここにいる理由そのものなんだから」


「……でも」


 センナもそうだろうとは、思ってはいたのだ。

 村長が説得しなければ、あとは説得できそうな人物がキジュ位しか思い浮かばなかっただけで、それさえ、望みは薄いだろうと。

 しかし、グローリの力さえあれば、カデラスを避け逃げ出すことは容易なのにと、センナは涙ぐむ。


「仕方ないよ。自分の力じゃないもの。グローリの力はグローリ自身のもので、今日のためだけに鍛えてきたのだから、僕らがそれを当てにするってのは、間違いなんだよ、きっと」


 キジュは、そういって、センナを起こす。


「僕らは、僕らの出来ることをしよう。センナは村長さんのところに行って、瓦礫の除去はグローリじゃなくて僕のところに回すように伝えて」


「キジュ様に?」


「うん。瓦礫をとりのぞくのなら、グローリより僕のほうがうまく出来る自信があるからね」


 センナにカードを見せて、冗談めかして笑う。


「わかりました」


 センナは、つられて明るく返事を返した。


「グローリの力は、怪我人とカデラスに使ってもらおう。とりあえず、僕はそこらを見て手当たり次第に救助にしているから、センナさんも頼むよ」


「はい!」


 センナは返事とともに、また、広場に戻ろうとする。

 それを待っていたかのように、しばらくおとなしくしていたデーリッガが、キジュの背中に回り、キジュの肩をつかむと上空に飛び上がる。


「ちょっと! 何、どうしたの!?」


 キジュの問いかけに、デーリッガはキュルーと一声いななく。


「建物が崩れたところに案内してくれるみたいですよ、キジュ様」


「本当に!?」


「いえ、なんとなくです。でも、村長様にはデーリッガが飛んでるところにキジュ様がいると伝えておきます」


 センナは、今度こそと広場へと駆け出し、デーリガもそれを見て空中で旋回していたのを止め、東方面へと飛翔しだした。

 キジュの目には、大きく屋根が崩れ落ちている一帯が飛び込んできていた。

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