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運び屋の手記より ~スワイライム~  作者: くろきほむら
第六章 在りし日とスワイライム
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第六章-4

 キジュのいる東の壁の騒動が一息ついたところで、今度は、南門でときの声が上がる。

 街道へ出るための門があるため、壁だけのこの場所よりも、守りにくい場所ではあるが、それを見越して多くの村人を残してはいた。

 さらに、ピアグラストのことから、シュジュの大森林に近い東壁に魔物を連れてくる可能性が高いと見て、キジュは東壁の守りについた。

 それは間違いなかった。

 現にこうして、野盗は魔物を放ってきたのだから。


 しかし、今の声を聞いて、キジュは、南門が気になりだした。

 キジュは、壁の上にいる村人に聞いてみたが、建物の陰に隠れて南門の様子はよくわからないといわれただけだった。

 ざっとみまわして、もうこの辺には脅威は残ってない。

 ブラドベリューを率いてきた、野盗もこの場にはいなかった。

 南門に回ったのだろうと、キジュは考える。


「ごめん、皆。僕はこれから南門にいくから、ここは頼んだよ」


 壁の上の村人五人にそう告げて、キジュは走り出そうとした。


「待ってください、私もいきます、キジュ様」


 センナが、壁の上を歩き出す。

 そもそも、キジュにはこの臆病な語り部が、他の語り部と同じようにカノラークの家で隠れず、この場に来たいといったのか分からなかった。

 センナに理由を聞いても口ごもるだけだったので、仕方なく、一番安全な、自分のそばに居るようにいった。

 しかし、今からは危険度がこれまでの比ではなくなる。

 それを、更についてこようとしている。

 キジュにとって、止めない理由はなかった。


「いや、危ないから、君は残っていて」


 センナにとって、キジュについていくことは、それは死ぬよりも怖いことだったのだが、それでも、キジュの姿を焼き付けていたいという、語り部としての衝動が彼女を動かしていた。

 だから、すぐに、返事をする。


「でも、私は、キジュ様の……」


 センナにとって、こんなにも強く語りついでいきたいと思うことは、初めてであったのだ。

 しかし、センナの言葉を聴くこともなく、キジュは走り出していた。

 南門へ。



 ルンクスは、牢の屋上へ壁についている梯子でのぼると、屋上から、牢の中へはいる扉を開けようとする。

 鍵がかかっていた。


「ちっ!」


 だが、それをはずすことなど、盗賊にとっては赤子の手をひねるようなものだ。

 すぐに鍵を開けると、急いで三階へとおりた。

 牢の中を丹念に探しながら先へ進む。

 四つ目の部屋、五つ目の部屋と確認しながら、曲がり角まで来た。

 といても、中は仲間だらけで牢番の逃げ込めそうなところは無かった。


「ここに、ガキがあがってこなかったか!?」


 ルンクスは回りに問いかけるが、返事は自分の目で確認したのと一緒だ。

 もう、用はないとばかり、二階に駆け下りる。


「ルンクス遅かったな」


 二階の真ん中の部屋で、ルンクスに気付き、ナズセが呼び止める。


「頭か。ちょっと、北門から忍び込むのに、手間取っちまった。それより、話が違うじゃねぇか、俺が来るまでに脱獄してて、一緒に村の中央に攻め入る予定だっただろ」


「ガキが急に尻込みしやがってな」


 その答えに、ルンクスは額に手を当てて愚痴る。


「何でそんな奴、仲間に入れたんだ……」


「なに、用が済めば始末する予定だったんだ。まぁ、すんでしまったものはしかたねぇ、とりあえず、こっちには来ていない。大方一階に隠れているんだろう、片付けてきてくれ」


 ルンクスは、頷くと通路の奥までいき、階段を下りた。

 一階へ降りて、すぐに扉がある。

 この向こうが見張り小屋だということは、すぐに分かる。

 ルンクスは、振り返って扉の前から伸びている通路を進む。

 すぐに牢屋があり、見慣れぬ男が二人入れられていた。

 おそらく村人だろうと、ルンクスはあたりをつける。


「お前たちは?」


「俺たちは、この村の者だ。だが、脱獄したらあんたらの仲間に入れてもらう約束を親分としてある」


「そうか」


 扉越しに聞こえた男の声ではなかったので、二人に用はなかった。

 鼻で笑いながら、ルンクスは先に進む。

 ナズセの性格からして、使うだけ使ったら始末するのだろうなと思ったからだ。

 先にの右手には人の居ない牢があり、左手には普通の扉がある。

 扉の向こうが押収した物などを保管する部屋で、先日野盗が道沿いの壁を破壊していった場所だ。

 今は、部屋自体が瓦礫で埋まり、この扉が開くことがないことは、外から入ってきたルンクスには分かっていた。


「となると……」


 ルンクスは最奥の牢屋にたどり着き、右手に、人が入っているのを確認した。


「テムル様……」


「大丈夫。僕の後ろに隠れているんだ」


 テムルは、ジャナリーの前に座った。


「おっと、女がいたんのか。それで変節したってわけだ」


 鉄格子越しにテムルの正面にたち、ルンクスはテムルを威圧する。


「その女は見逃してやるから、鍵を出しな」


「そんな嘘にはだまされないぞ。ジャナリーみたいな器量よしを君らが放っておくなんてことは無いだろう」


「しのごのいわず、でてきやがれ!」


 ならばと、男は鉄格子を開けようとするが、扉はびくともしない。


「開かないよ……鍵をかけたからね」


 テムルは、手の上の鍵束を見せる。

 さすがの盗賊でも、先ほどの屋上の扉のように、鍵を解除するのは難しい。


「このやろう、なめやがって」


 ルンクスは憤り剣を抜くも、狭い通路と低い天井のせいで思うようにふりまわせない。

 鉄格子の間から剣を突き入れるが、テムルまで届かない。

 テムルは、目をつぶってじっとしていた。

 後ろでは、ジャナリーも縮こまっている。


「攻撃できないと思って、いい気になるなよ」


 ルンクスは、服の中から短剣を取り出す。


「いいか、三つ数える、その間に鍵を渡さなければ、お前の喉元に投げるぞ」


 その言葉でテムルが震えだしたことに、背中をつかんでいたジャナリーには分かった。

 野盗が三つ数え終わった時、彼の首横をわずかにすりぬけ、短剣が壁に突き刺さる。

 ジャナリーの青く長い髪が、ハラハラと床に落ちた。


「今のは、最後の警告だ。はずれたんじゃないぞ、わざとはずしたんだ……」


 野盗の言葉が終わる前に、テムルは震える口を開いた。


「お……お前は……ここを……あけられない! 僕は鍵を……渡さない。……鍵はこの中だから無理だ!」


「お前を殺して、後ろの女にもってこさせるさ。それとも腹いせに女も殺してやろうか?」


 ルンクスは、残忍に笑う。


「ジャナリーは死んでも守る。僕が盾になる」


 後ろでジャナリーは、ギュッと服をつかむ。


(……テムル様が死んだら、ついていきます……)


 ルンクスは、思わせぶりに懐の短剣を取り出す。

 そして、本当に喉元に狙いをつけた。


「テムル様!」


 ジャナリーは背中を支える。


「女。こいつが死ぬのを見たくなければ鍵を持ってくるんだな」


「……いいんだ、ジャナリー。僕は、もっと早くこうならなければいけなかったんだから。 ……皆を守らなければいけない時、僕は逃げた。僕は死んでも当然だったのに助かった。 ……でも、又、君が来なかったら同じことをしようとしていた。だから僕は、皆を助ける以上に君を助けたい。君の事が好きでいられる資格を持たないまま、死んでしまわないように」


 テムルは、鍵の束をまとめている金具をはずすと、それをルンクスに投げつけた。

 ルンクスは逆上し、テムルをしとめようと短剣をふりかぶった。

 テムルは、恐怖から目を閉じた。

 一歩もその場を動かなかったが。


 ガンと鈍い音が響いた。

 テムルは、その音に脅え表情をこわばらせる。

 次に襲ってくる死に耐えるために。

 しかし、いつまでたっても、その痛みは訪れない。

 テムルは、不思議に思い目を開けた。


「ターロン! シュッハ!」


 二人の男が、前に倒れ気絶したルンクスの服の中から武器を探していた。

 テムルは、すぐに理解した。

 二人が、ルンクスが自分に気をたられている間に、後ろから近づいて、気絶させてくれたことに。


「何だその顔は? 俺たちだってお前がそんなに頑張っていれば、少しは反省もする」


 ターロンは立ち上がりルンクスの両足を持ち、シュッハは両肩を持った。

 牢にルンクスを閉じ込める。

 それをみて、テムルは二人に鍵を投げた。

 ターロンがルンクスをいれた牢の鉄格子を閉め鍵をかけると、それをテムルに放り返す。

 テムルは、鍵を受け止めると気が抜けたのか、後ろに倒れこんだ。

 それをジャナリーは、しっかりと支えゆっくりと座らせた。


「それにしても、なんで、俺たちを助けてくれたんだ?」


 二人とも床に座りこんで、テムルに向かっていう。

 しかし、テムルの返事が無い。


「……テムル様、気を失ってらっしゃいます」


 二人は、顔を見合わせて噴出す。


「でも、テムル様の気持ちは分かる気がします。ここから脱獄した後、野盗についていったら、あなた方も殺されていたかもしれませんから。例え仲間になるって約束があったとしても、そんなことはご破算にするのが当然の人たちでしょうから。ですから、隙を見て逃げ出すようにと鍵を開けたのです」


 ターロンとシュッハはその言葉を聞き、確かにと震えおののきあった。

 そんな二人をみて、ジャナリーは小さく安堵のため息をついた。

 この精一杯頑張った、主人のために涙を流しがら。

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