第六章-5
スワイライムは、いびつな三角形のような形をしている村だ。
頂点にあたる部分が西門であり、昔は砂漠に向けて道が続いていたが、今は硬く閉じられている。
底辺の外周が東壁に当たり、そこをキジュは走り続け、ようやく角を曲がる。
キジュの視界に、南門が飛び込んできた。
(……ブラドベリュー!!)
銀色の殻が木の門を砕き、門の内側に作ってあった瓦礫の山さえ崩しつつあった。
(……さっきの声は、門が壊れたことによる野盗の勝どきみたいなものか……)
ブラドベリューの後ろを取り囲むように、二十人の野盗が、壁の上の村人に矢を射ている。
ブラドベリューが、後ろに興味を示さないのは、東壁と同じ事を南門にもしたのだろう。
不幸中の幸とでもいうべきか、ブラドベリューの意識は門にだけ釘付けになっているため、村人へ向けての針による攻撃はされていないようだった。
その村人は、野盗の攻撃に耐えながらも、ブラドベリューに矢を射ているが、矢が当たってはいるものの、全く、傷を与えてはいなかった。
「皆、魔物はいいから、狙いは、野盗に絞って!」
キジュの声に気付いてた、壁の上の視線が一旦こっちを向く。
キジュは一回止まり、もう一度大声で叫んだ。
「野盗を狙って!」
その声に答えて、村人の矢は、野盗に向けて放たれる。
野盗は舌打ちをして、後退をはじめ、陣形を立て直す。
それをみて、再びキジュは走り出した。
野盗は、キジュが走りこんでくるのを見て、標的をキジュに変える。
まずは目の前の敵であり、かつ、目下最大の障害であるこの女を片付けてしまおうという腹だ。
二十人の弓矢の一斉射撃がキジュへ向けられる。
だが、ブラドベリューが至近距離で飛ばしてきた針でさえ凌ぎ切ったキジュにとっては、遠方から来る矢など、しゃぼん玉のようなものだ。
軽々と間合いをつめる。
野盗の全員が一射目を終え、二射目の矢をつがえる。
もう、キジュはそこまできていた。
慌てて放つ矢が、的を大きく外れた。
そして、三射目を放つ準備をしようとした前列の一人が、キジュの小盾で殴られ、地面に倒される。
残りの野盗は弓を諦め、投げ捨てると、キジュを取り囲んだ。
壁の上から、逃げろと村人が叫んでいるが、キジュには余裕があった。
「よし、覚悟はいい? 荒っぽくいくからね」
二十人で囲んだところで、訓練した統制の取れた動きでもなければ、一斉に切りかかれるわけもない。
もちろん、訓練をしているかもしれないが、傍目にはそうは見えない。
ならばと、キジュは、敵の力量を試そうと目の前の男に、切りかかる。
周りのものも目の前の男も反応を示すどころか、キジュの動きに全く付いてこれていなかった。
剣の軌道を変えて、柄でみぞおちを叩く。
相手は、くの字となってその場に倒れ始める。
終わりを待つ道理もなく、そのまま飛び跳ねて、右隣の男の延髄に、キジュは回し蹴りをいれる。
最後に、着地すると、大仰に振り返り、芝居気たっぷりに周りを見まわした。
あっという間に、二人倒され、野盗は戦意を喪失しかけていた。
「張り合いがないな。君たちそれでも悪人かい」
普段は、こんな分かりやすい挑発などしないキジュだが、相手に逃げられないように、あえて小馬鹿にした。
そのキジュの挑発に憤り、三人ほど切りかかってくる。
軽くいなし、一、二、三と一撃を加え、地べたに這いずらせる。
まるで、道場で稽古をつけている師範のようだった。
この状況になって、野盗もとてもかなわないと悟り、逃げ出そうと後ずさりをする。
その隙に踏み込み、さらに一人、キジュは、敵を気絶させた。
それが契機となって、野盗は背を向けて逃げ出した。
キジュはそれを追う。
一人、二人、三人、四人、五人……。
先頭に追いつくまでに、七人ほど打ち倒し、彼らの前へ躍り出る。
残った野盗は、驚き足を止めた。
「悪いけど、逃がすつもりはないよ。しっかり牢屋で、今までの行いを反省してもらうからね」
その頃、デーリッガは、レクディアリウから、ようやくスワイライム上空へと戻ってきた。
村を俯瞰すると、どこで、何が起きているか一目瞭然だった。
東側では、魔物の体が五体転がっている。
壁の上で、男が五人、林の方へ顔を向けて警戒をしている。
その壁の上を南門に向かって、よく知る少女が走っていく。
その先の南門では、一体の魔物が、門を破り、瓦礫を散らしながら村の中に進入しようとしていた。
門の外側では、一緒に見張りをしていた少女が、野盗を倒し終わったところだ。
さらに、西門では、人のいない隙に、七人の野盗が村へと侵入していた。
野盗はそのまま、北門のほうへ向かっている。
どうやら、牢に向かっているのだろう。
その北門には、見張りが住人立っていて、問題はなさそうだ。
デーリッガは、自分の行くべき先を決めた。
東の壁すれすれで、警戒している村人の頭すれすれを飛びつつ、一声なき、そのまま、牢の前へと向かう。
気付いてくれればいいけどと、デーリッガは思う。
村の中に、人の影は無い。
村人は外壁か、家の中に閉じこもっているのかのどちらかだからだ。
デーリッガが牢の前にたどりつくと、ほどなく、七人の野盗もその場にへあらわれた。
「ちっ、あんなところで待ち構えてやがる」
駆けて来た彼らは、止まる。
デーリッガは、動こうとしない。
間合いにはいったら、火の玉で攻撃するつもりだからだ。
デーリッガは余裕を持って一人、二人…とそれぞれの顔を見定めた。
「おい、こんなところで睨み合っていてどうするんだ。この人数でかかれば、コードリアスといえども負けはしないだろう」
散々痛い目を見てきた彼らとしては、戦いたくない相手だった。
しかし、及び腰になりながらも、デーリッガを中心に半円を作り囲いだした。
一気に囲いを狭める。
デーリッガは、上空へと飛翔し火球を吐き出した。
この火球の弱点は、玉の大きさ、つまり、火力に相反して速度が遅くなる点だ。
デーリッガの吐いた火球は、いつものそれよりも大きい。
野盗たちは簡単にその場を離れた。
火球は、そのまま牢の壁に当たり壁を半壊させる。
崩れた建物の壁とともに梯子も形をなくした。
デーリッガは、そのまま上空で小さな火球を連射する。
壁に目をうばわれていた野盗の半数が、交わす間もなくそれで倒れた。
そうなると、後はたいした手間もかからない。
わずかの間に、残り三人も地面にうつぶしていたのだった。
すみません、風邪のためあまりかけませんでした……。




