第25章 称えられる者
第25章 称えられる者
首都への帰路は数日かかった。
だが一行は速かった。
速すぎるほどに。
英雄は先頭を歩いていた。
いつも通り。
— もっと速く。
振り返りもせずに言う。
声は大きくない。
ただ、それを拒否される可能性を想定していないだけだった。
誰も反論しない。
もう慣れていた。
彼は止まることを好まない。
静けさも好まない。
思考が入り込む隙間を嫌う。
移動だけがすべてだった。
後方に部隊が続く。
強く、統制されている。
しかし常に「後ろ」だった。
そしてそれを変えようとする者はいない。
首都
都市に入った瞬間、空気が変わった。
そして速度も変わる。
英雄は歩みを緩めた。
そして、久しぶりに——笑った。
それは本当の笑顔ではない。
習慣としての表情。
鎧のように身につけたもの。
— あれが……
— 本当に?
— 英雄だ……
人々が見ている。
ささやく。
— 彼が救うのだ……
— 最強の存在だ……
— 彼だけが闇を止められる……
彼はそれを聞いていた。
無視していない。
吸収していた。
空気のように。
背筋がわずかに伸びる。
歩幅が少しだけ整う。
“見られるための動き”。
セレナ・ヴェイロスは少し後ろを歩いていた。
そして彼を見ていた。
賞賛でもなく、苛立ちでもなく。
観察として。
彼女は気づいていた。
街に入るたびに、彼は別人になる。
城
謁見の間は明るかった。
戦争を語るには明るすぎるほどに。
王アーデンヴァルは玉座に座っている。
落ち着いた姿勢。
形式的な温かさ。
— 予定より早い帰還だな。
— そして成果もある。
英雄は軽く頭を下げた。
— 想定通りです。
王妃がわずかに身を乗り出す。
— 報告を。
彼は短く説明した。
— 地域の浄化完了。
— 民間被害なし。
— 脅威は拡大前に排除。
王は頷いた。
— よくやった。
やがて報酬が運ばれてくる。
金貨、装備、刻印された魔道具。
彼はほとんど見ないまま言う。
— これで十分です。
ただ一瞬だけ、装備に目を止めた。
力ではない。
“効率”。
王妃が言う。
— もう一つだけ。
— 明日まで首都に残ってほしいの。
英雄はすぐに反応した。
— 理由は?
王は静かに答える。
— 凱旋祭だ。
— 民に姿を見せる必要がある。
王妃は柔らかく言う。
— これは国にとって重要です。
英雄は短く息を吐く。
— 一日なら。
— 了解だ。
大広間
以前よりも広く感じる空間。
柱、白い石、魔力を帯びた光。
貴族たちが整列している。
完全に揃った視線。
ライデン・クロスが前へ出る。
完璧な歩き方。
訓練された姿勢。
— アルド王国の英雄……異界から召喚された守護者……
名が響く。
彼は軽く頭を下げた。
— この世界に仕えることを光栄に思う。
揺れない声。
迷いのない言葉。
“理想的な英雄”。
貴族たちはささやく。
— 予想以上だ……
— 本物だ……
— 伝説の存在……
ライデンはそれを感じていた。
視線の重さ。
評価。
比較。
そして確信。
“正しく見られている”。
王が立ち上がる。
— 彼はこの国の危機を終わらせる存在だ。
— 我々は勝利の目前にいる。
空気が変わる。
王妃が続ける。
— 勇気と力、そして決意。
— それが希望となる。
拍手。
静かだが、確かな肯定。
ライデンは表情を変えない。
だが内側で何かが動く。
“勝利”。
“近い未来”。
その言葉が自分に重なっていく。
セレナは少し離れた場所に立っていた。
そして観察していた。
彼は謙虚に見える。
理想的な英雄に見える。
だが彼女には分かる。
彼は拒んでいない。
称賛を。
静かに受け入れている。
そしてそれを力に変えている。
まるで——
信じられるほど強くなることを知っている者のように。




