第22章 再び扉が空ではなくなる時
第22章 再び扉が空ではなくなる時
カイルが去ってからの数日は奇妙だった。
つらいわけではない。
むしろ……空白だった。
マルク・オルロフは、自分の中のリズムが崩れたことに気づいていた。
会話が減る。
部屋に入ってくる足音が減る。
頭の中で保持する他人の物語が減る。
彼はそれを、すでに受け入れかけていた。
鍛冶場が再び主要な収入源になっていた。
エドワード・マルクロウは、マルクが普段より長く鍛冶場に残っていてもただ頷くだけだった。
— そういうことか。
それだけ言って、それ以上は聞かなかった。
マルクの思考
「この世界では、安定は長く続かない。」
彼はほぼ順応していた。
ほぼ。
しかし、それはすぐに変わった。
最初は一人。
次に二人。
やがて、また扉が自然に軋み始める。
英雄でもない。
重い過去を抱えた冒険者でもない。
普通の人々だった。
手工業地区の女性。
ライラ・ベント。
指を常に強く握りしめている。
— 眠れません。
彼女は言った。
— 怖いからじゃなくて……
間。
— 頭が止まらないんです。
泣いてはいない。
ただ、長く休んでいない人間の顔だった。
マルクの観察
「認知過負荷+反芻思考の持続」
彼は単純な手順を提示した。
・刺激の制限
・睡眠前の固定ルーチン
・注意の“錨”
魔法ではない。
解決でもない。
ただ方向だけ。
次の患者
若い職人見習い。
タレン・ヴィル。
— 何をしていても足りない気がします。
— 終わっているのに。
間。
— 止まったら、全部崩れる気がする。
マルク
— それは休息ではなく、制御の喪失への恐怖だ。
間。
— 同じものではない。
彼は提案する。
短い作業サイクルと「説明のない休憩」。
マルクは気づき始めていた。
これは戦争の傷ではない。
英雄の崩壊でもない。
ただの構造だった。
不安。
過負荷。
社会的圧力。
「失敗できない」という恐怖。
そして共通していたのは一つだった。
——自分は全てを制御しなければならない。
彼は患者が減ると思っていた。
しかし増えた。
それは名声ではない。
噂だった。
「ここは魔法で治す場所じゃない。壊れない方法を教える場所だ」
誤った解釈
静かな日だった。
静かすぎて、逆にマルクは違和感を覚えた。
そこへ扉が開く。
男が入ってくる。
レイン・カルドル。
彼は壊れているようには見えなかった。
だが、目には見覚えのある緊張があった。
— ギルドのやつから聞いた。
彼は挨拶もなく言った。
— お前、あいつを助けたらしいな。
マルクは頷く。
— 同じようにしてほしい。
彼は座る。
緊張したまま。
— パーティーを変えたい。
— 俺は軽く見られてる。
— 足りてない。
早口だった。
恐れているように。
— 何をされている?
— 圧がある。
— 俺だけ仕事が多い。
— 休ませてもらえない。
— 例を。
レインは少し考え、話し始める。
— 同じ動作を何度もやらされる。
— 重りをつけて走らされる。
— 遅れたら待たない。
— 戦場では待たないと言われる。
マルクはわずかに前傾する。
— 侮辱はあるか?
— ない。
— ただ厳しい。
— 彼らはお前を強くしたいのか?
間。
— ああ。
不確かだった。
マルク
— それは破壊ではない可能性が高い。
レインは強くなる。
— でもきついんだ!
— それは否定していない。
間。
— 理由が違うかもしれないと言っている。
マルクは続ける。
— 彼らに優しくしてほしいか?
— ああ。
— だが彼らはその余裕があるか?
レインは沈黙する。
— もし速度を落とせば、全員が弱くなる。
間。
— そして全員が危険になる。
レインは視線を落とす。
— 嫌われていると思った。
— 受け入れている可能性はある。
間。
— ただ、基準を下げられないだけだ。
レインは立ち上がる。
すぐには出ていかない。
— つまり……俺が間違っているわけじゃない。
マルク
— 必ずしもそうではない。
レインは頷く。
— 考える。
そして出て行った。
部屋は再び静かになった。
マルクは目を閉じる。
「苦しんでいる者が、必ずしも被害者とは限らない。」
「ただ、その場所が合っていないだけのこともある。」




