表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/31

第2章 召喚の失敗

第2章 召喚の失敗


意識は突然戻った。


徐々にではなく、まるで誰かが空っぽの部屋に一気に明かりを灯したように。


マーク・オルロフは息を吸い、目を開いた。


目の前には石造りの大広間があった。


高い天井、巨大な柱、床には魔法陣の円が描かれている。空気の中には青白い光がまだ揺らめいていて、空間そのものがつい先ほど引き裂かれたようだった。


周囲には人がいた。


ローブを着た二十の人影。


魔法使いたち。


そのうちの一人が前に出た。


— 儀式完了。召喚成功だ。


マークはゆっくりと立ち上がり、周囲を見回した。


まだパニックにはなっていない。


「ここは病院でも、診察室でもない。そして夢でもない…」


魔法使いが続ける。


— お前は異世界から召喚された選ばれし者だ。この世界は救いを求めている。


マークは黙って耳を傾けた。


— ここでお前は英雄となるのだ、と別の魔法使いが言った。— だがその前に…適性を確認する。


彼は手を上げた。


空中に光のパネルが浮かび上がる。


マークの周囲に数値と記号が現れていく。


筋力。耐久力。敏捷性。魔力。


すべての数値は平凡だった。


平均的。戦闘基準よりも低いものさえあった。


魔法使いたちは顔を見合わせた。


— ふむ…


— 異常なし。


— ただの一般人だな…


一人が前に身を乗り出した。


— 言え、召喚者よ。剣は扱えるか?


マークは落ち着いて答えた。


— いいえ。


— 魔法は?


— それもありません。


沈黙。


— では…戦闘の才能やスキルはあるのか?


マークは一瞬考えた。


— 私は心理学者です。


沈黙が落ちた。


一人が聞き返す。


— 何だと?


— 心理学者です。人の感情やストレス、心の問題を扱います。


魔法使いたちは顔を見合わせた。


— それは…職業ではない。


— 戦闘職でもない。


— 我々は職人を召喚した覚えはない。


マークは静かに付け加えた。


— 職人ではありません。


だが、その言葉はもう誰にもあまり聞かれていなかった。


年長の魔法使いがため息をついた。


— 無用だな。


それは感情のない、ただの事実として発せられた言葉だった。


— 連れて行け。


二人の衛兵が前に出た。


マークは抵抗しなかった。


彼は長い石造りの廊下へと連れられていく。壁には紋章と魔法の刻印が並んでいた。


背後で扉が閉まる。


重い音。


カチリ。


そして静寂。


召喚の間では、もう誰も彼を見ていなかった。


一人の魔法使いが苛立ったように手を振る。


— また失敗か…


年長の魔法使いは眉をひそめた。


— 我々に時間はない。次の準備をしろ。


別の魔法使いが魔法陣を見つめる。


— 真の英雄が必要だ。


間。


— この世界は、これ以上の失敗に耐えられない。


マークは城の巨大な門の前に立っていた。


石の壁は高くそびえ、冷たい空へと消えていく。背後には「無用」と告げられた部屋があった。


もう外だ。


重い門がきしむ。


衛兵が近づいてきた。


鎧を着た疲れた男だった。こういう場面を何度も見てきた顔をしている。


— ほらよ。


小さな袋を差し出す。


マークは受け取り、中を開けた。


銀貨が五枚。


— これは…?


— 王女の命令だ。召喚された者には最低限の金を渡す。


マークは少し眉をひそめた。


— なぜですか?


— 路上で死なないためだ。だが期待するな。数日分しかない。


マークはゆっくりと袋を握った。


— そうですか…ありがとう。


衛兵は背を向けかけたが、マークが呼び止めた。


— ひとついいですか。


振り返る。


マークは城と、その向こうの街を見た。


— 元の世界に戻る方法はありますか?


一瞬、衛兵は黙った。


その沈黙は答えより重かった。


— ない。


— 誰も召喚者を戻せない。


マークはすぐには返事をしなかった。


— 完全にですか?


— 完全にだ。お前はここで生きるしかない。早く受け入れろ。


衛兵は去っていった。


門が閉まる。


カチリ。


マークは石の道に一人残された。


手には五枚の銀貨。


頭の中には静寂。


彼はゆっくり息を吐いた。


— 永遠に…か。


前を見る。


知らない街。


知らない世界。


そして初めて、自分が専門家でも心理学者でもなく、


ただ異世界に放り出された一人の人間だと理解した。


マークは銀貨を強く握りしめ、一歩踏み出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ