第15章 役割の中の亀裂
第15章 役割の中の亀裂
一日はいつも通り始まった。
急ぎもなく、期待もない。
マークはすでにそのリズムに慣れていた。鍛冶場、短い指示、鉄、炎、そして習慣になる疲労。
だがこの日はどこか“間”のような感覚があった。
誰かが来る前触れのような静けさ。
そして、その通りになった。
ノック。
短く、ためらいがある音。
「どうぞ」
扉が開く。
三十歳ほどの男。
冒険者の装備だが、それは戦いで傷んだというより、長い圧力に擦り減ったようだった。
彼は入口で止まる。
「ここでいいのか?」と小さく聞く。
マークは頷く。
「座って」
男は慎重に座る。少しの動きさえ間違いになりそうなほどに。
「カイルだ」
カイル・ヴォーレン。
声は落ち着いているが、内側は空洞のようだった。
セッション開始
マークは静かに言う。
「何があった?」
カイルは少し笑う。
「見れば分かるだろ?」
間。
「俺は余り物だ」
マーク:
「どういう意味で?」
カイルは肩をすくめる。
「パーティの中で」
「戦いでも」
「全部」
視線をそらす。
「俺がいなくても回る」
間。
「むしろ、その方がいい」
マークは落ち着いて続ける。
「そう判断した理由は?」
カイルは即答する。
「そう言われたからだ」
声が少し強くなる。
「足を引っ張る」
「邪魔だ」
「遅いってな」
間。
「でも追い出されもしない」
短い笑い。
「便利だからだろうな」
マーク:
「そのグループでは何をされている?」
カイルは一瞬黙る。
「笑われる」
「からかわれる」
「時々、作戦を教えてもらえない」
間。
「“自分で考えろ”ってな」
声が少し下がる。
「試されてるんだとよ」
マーク:
「それでもそこにいる」
カイルは頷く。
「他に行き場がない」
間。
「弱いパーティにしか入れないって言われた」
乾いた笑い。
「都合のいい言葉だよな」
マークは静かに問う。
「抜けようとした?」
カイルは少し沈黙する。
「ある」
間。
「でも受け入れてもらえなかった」
声が重くなる。
「“お前はそこくらいがちょうどいい”ってな」
カイルは顔を上げる。
「正直に言えよ」
間。
「俺は弱いのか?」
マークはすぐには答えない。
そして静かに言う。
「“弱い”という言葉では説明できない」
間。
「今の状況はこうだ」
・ミスが強調される環境
・成果が評価されない構造
・役割が曖昧なまま放置されている状態
マークはカイルを見る。
「あなたが外されないのは価値があるからじゃない」
間。
「扱いやすいからだ」
カイルは体を強張らせる。
「つまり……道具か?」
マーク:
「今はそう扱われている」
間。
「でも、それがあなたの全てではない」
マークは続ける。
「重要なのは二つだ」
間。
「自分自身と、どう扱われているかは別だということ」
沈黙。
カイルは低く言う。
「じゃあどうすればいい?」
マーク:
「彼らの評価を唯一の現実にしないこと」
間。
「そして観察すること」
カイル:
「何を?」
マークは静かに答える。
「起きている事実だ」
「言われたことではなく」
カイルはゆっくり立ち上がる。
「やってみる」
確信はない。
だが壊れてもいない。
彼は出ていった。
部屋
再び静寂。
マークは植物を見る。
「弱いわけじゃない」
間。
「ただ、そう扱われる構造に入っているだけだ」




