第13章 セッション1「彼はただ前へ進む」
第13章 セッション1「彼はただ前へ進む」
部屋の静けさは続いていた。
少女は少し前かがみになり、指を強く握っていた。内側に何かを押し込めているように。
「彼は……別の人です」
マークは遮らない。
「最初から話してくれ。まだ普通だった頃からだ」
彼女は頷いた。
「彼は……一週間前に召喚されました」
「王都ソルテリスでの儀式で」
「すぐに“英雄”と認定されました」
少し間。
「とても強いです」
「……強すぎるくらい」
マークは軽く首を傾げる。
「“強すぎる”とは?」
「学習が異常に早いんです」
「そして……恐れがない」
マークが聞く。
「一度も迷わない?」
彼女は首を振る。
「見たことがありません」
「彼は教えられる立場でした」
「私と、あと二人」
少し迷い。
「エルリック・ハルトマン……戦術担当です」
「もう一人はギルドの人間」
「彼の名前はライデン・クロス」
マークは頷く。
「最初は?」
「普通でした」
「質問もして、冗談も言っていました」
「でも数日で変わりました」
「自分の方が強いと理解してからです」
間。
「それから彼は止まりません」
「私たちの説明より先に進む」
「計画より先に動く」
「止められないんです」
マークは淡々と問う。
「結果は?」
「……巻き込まれます」
「本来避けられた攻撃に」
部屋が静かになる。
「彼はそれを理解している?」
「はい」
「でも止まりません」
マークは少し考える。
「彼は後ろを見ますか?」
「見ます」
「評価します」
「でも戻りません」
少女は小さく息を吐く。
「彼の周りには余白がありません」
マークは頷いた。
「今日はここまでだ」
第2セッション「彼の代償」
彼女は前より早く来た。
だが表情は違っていた。
座る前に部屋を歩く。
そして座る。
「前回の続きです」
マークは頷く。
「地下ダンジョンに行きました」
「彼の判断です」
「私たちは反対しました」
「まだ準備不足だと」
「でも彼は進みました」
「英雄だからです」
「行けば、従うしかない」
マークは問う。
「内部は?」
「最初はいつも通り」
「彼が先頭」
「私たちは後ろ」
「でも彼が離れました」
「深くまで」
「追いつこうとした時……」
少女は止まる。
「囲まれました」
「彼のせいで集中が分散していた」
「その間に」
「一人が間に合わなかった」
沈黙。
「彼は戻ってきて言いました」
「“もっと早く動くべきだった”」
部屋が冷える。
少女は続ける。
「私は……分からなくなりました」
「彼は正しいのか、それとも違うのか」
マークは問う。
「あなたはどう感じた?」
少女は答える。
「これは……違うと思います」
「でも彼は確かに強い」
「世界を救うかもしれない」
「だから……私たちが追いつけないだけかもしれない」
マークは静かに言う。
「それは彼の正当化か」
少女は止まる。
長い沈黙。
「……正当化です」
マークは頷く。
「では分けよう」
「目的と代償だ」
「あなたはその代償を見ている」
少女は唇を噛む。
「彼と共にいるか、離れるか」
マークは続ける。
「どちらも代償がある」
少女は小さく言う。
「私は残ります」
「彼を止める人が必要だから」
マークは静かに頷く。
「では次の問題だ」
「どう生き残るか」
続き:彼との距離
マークは続ける。
「彼は止まらない」
「だから止めるのではなく戻す必要がある」
少女は聞く。
「どうやって?」
「言葉だ」
「直接」
「“あなたの判断で人が失われた”と」
少女は息をのむ。
「それは……厳しすぎます」
マークは即答する。
「だが事実だ」
「曖昧な言葉では彼には届かない」
少女はゆっくり頷く。
「私は……それを伝えます」
立ち上がる。
扉の前で止まる。
「また来ます」
マークは頷く。
「扉は開いている」
少女は小さく息を吐いた。
そして去った。
マークは静かに呟く。
「彼は進み続ける」
「問題は……周りがどこまで壊れるかだ」




