66 また、私が仲間外れ?
「そう、言うのであれば」
隣の魔王様はそう言って仮面に手をかける。一瞬、止めようかと思ったけど、本人がそうしたいのなら、私はなにも言うことはない。
黒色に赤色の隈取の模様が入った仮面がテーブルの上に置かれた。私は紅茶を一口飲む。その音とユエの引きつった悲鳴が重なり、ユエはギギギと音がなりそうなぐらいぎごちなく私の方を見た。
「リーゼ様!こ「ユエ」」
私はそれ以上ユエが言葉を発しないように、呼びかける。
「そろそろ、ユエも準備をしたほうがいいのでは?皆は居なくなってしまったけど?」
食堂を見渡せば、もう、私達しかここには居なかった。皆は第5波に向けて動いているのだ。
「あ、は······はい。ですが「ユエ、私が先程言った意味が理解できたよね」はい」
私は言っていた。『人が隠していることを無理に知ろうとはしてはいけない』と。引きつった顔のままユエは席を立ち、食堂を出ていく。
「やはり、受け入れ難いか」
そう言いながら、魔王様はスープに手を出している。今日の日替わりスープはコンソメスープだ。コッコのひき肉と野菜の出汁がはいったスープに、野菜とベーコンがたっぷりはいっているので、手軽に栄養を取れて、お腹が満たされるスープだ。
「呪いですよね。私はなんとなく分かっていましたが、ユエさんがあの様な態度を取るなんて珍しいものですね」
ギルスはシュークリームを食べ終わって、紅茶を飲みながら、不思議そうに言う。ギルスの普通の目ではない魔眼石の目には隣の魔王様の呪いが見えていたのだろう。
ギルスは始めから分かっており、彼のことはそういう者と受け入れたのだろう。しかし、普通はそうはいかない。
「普通は呪いなんてものは受け入れられないもの。ユエの態度は一般的ね」
「リーゼ様は······普通じゃなかったですね?」
おお、ギルスにそのような事を言われるなんて。まぁ本当の事だからそこは否定しないけれど。
「おい、その言い方はないだろう」
お隣の魔王様から低い声が響いてきた。しかし、私の向かい側にいるギルスの態度は変わらず、紅茶を飲んでいる。
お面を斜め上に被り、長めの金髪の隙間から引きつった皮膚と赤い魔眼石が見える。
隣には赤い髪の隙間から濁った目をギルスに向け、皮膚には相変わらず鱗の紋様が蠢いている。
······また、私が仲間外れ?
「リーゼ様が普通の方なら、私のような者など、見殺しにするでしょう。魔物に襲われている村に残された足手まといの者など」
そう、周辺の町や村に退避勧告され、誰も居ないと思っていた村に置き去りにされた、顔が爛れ目が見えぬ少年。その姿を見た私は憤りを感じた。
己の子なら背負ってでも連れて行けよと。
いや、村人の心情はわからなくもない。足手まといで、働くこともできない者を連れて行くなど無駄でしかない。魔物が殺してくれるのであれば、ありがたいという心情もあったのかもしれない。
こういうものは、世界が違っても変わりはしないのだと感じてしまった。生まれてきた子供を育てられないと言って口減らしにするとか、働けない老人を山に置き去りにするだとか、歴史が語っていた。
「お前はその姿で生き続けなければならないことに、助けたアリアを恨んでいないのか」
あ、そういう考え方もあるのか。あのときは、あまりにも腹が立ったので有無を言わさず連れ帰ってしまった。私はギルスの言葉をドキドキしながら聞き耳を立てる。
「恨むなど、とんでもない。私に世界が見える物を与えてくださり、私でも働ける場所を与えてくださったのです。容姿など誰しも違っていて当たり前だと、気になるのであれば仮面でもつければいいと、この仮面を用意してくださいました」
そう言ってギルスは白い狐のお面をつける。見慣れた狐のお面姿のギルスとなった。生きていることに絶望を感じていないのであれば、良かった。
「容姿など人は違っていて当たり前か」
隣からギルスの言葉を繰り返すように降ってきた。彼も色々思う事があるのだろう。
「アリアは」
ん?
「アリアは何故、俺に普通に接してくれるんだ?一度聞いてみたかったのだ。これは彼のような、姿かたちだけのモノではないだろう?」
おふっ。こっちに矛先が向けられてしまった。
こちらの世界の人は皮膚に皮膚以外の色が在ることに否定的な考え方を持っている。私からすれば、先天的な痣だったり、後天的なホクロだったりだが、そんなものですら忌避的なのだ。
ある令嬢など腕にホクロができてしまい、そこをえぐり取ろうとしていたぐらいだった。えぐり取った後は治癒魔術の使える医師に治してもらう予定だったようだが、その時の取り乱しようは手がつけられない程だった。
そんな人々が暮らす世界で、彼のような鱗紋様の痣があり、それも動いているとすれば、発狂ものだろう。ユエが大声で悲鳴を上げなかったのは、それなりに我慢したということだ。
しかし、おしゃれで眉に入れ墨を入れたり、タトゥーを入れている人を見かける日常を過ごしてきた私としては、異世界なら痣も動くのもありかもしれないと思っていただけだ。
それに、幼い頃から祖父母と一緒にお奉行様である金さんが入れ墨をしている姿を時代劇で見ているだ。それもお奉行様は決め台詞に合わせて入れ墨を見せつけるのだ。『この紋所が·····』あ、違った。
「別にその呪いは貴方が死なない限り、外に撒き散らされないということは理解している。それに、故意に呪いの力を使えば、外に漏れるということも理解してる。あと、妖精の祝福もあるから無闇に恐れる必要はない。」
ティーカップの残りを煽るように飲み干す。そろそろ私も動かなければならない。
カップを置き立ち上がろうとすれば、横に引っ張られてしまった。バランスを崩し彼の方に倒れ込む。
なぜ、私は彼に抱かれているのだろう。
誤字脱字報告ありがとうございます。




